救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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週刊少年ゼツボウマガジン(非)日常⑩

──苗木クンは今!部屋に《脱出スイッチ》を置いているのです!──

 

 モノクマのその発言に、ざわついていた体育館が静まり返り、苗木に視線が集まる。懐疑、不安、驚愕、様々な視線に晒され、苗木は頭を掻きながらため息を吐く。

 

「苗木、説明してもらおうか」

「ま、待ちたまえ!苗木くんはきっと探索中に見つけて、言い出すタイミングを見計らっていただけだ!」

「あら?モノクマさんが動機として苗木君の持つ脱出スイッチとやらを選んだのなら、最低でも1日以上前に手に入れたのに、話さなかったことになりますが?」

「………脱出スイッチなら確かに持ってるよ。欲しいなら上げる」

 

 苗木ははぁ、とため息を吐いて歩き出す。舞園と江ノ島、大和田達が慌てて後を追い、十神達も顔を見合わせた後、苗木の部屋に向かう。

 

 

 

「えっと……あったあった。……はい」

 

 苗木は、引き出しから取り出した脱出スイッチを、十神に投げ渡す。

 

「……わかりやすい脱出スイッチですわね」

「ガチャガチャの『景品』だしね」

「苗木君、ふざけてますの?」

「………お~い、モノクマ」

「はいはい」

 

 セレスの反応に、そりゃ当然そうなるよな、と思いながら苗木がモノクマを呼ぶと、モノクマがヌッと姿を現す。

 

「モノクマの言ってる《脱出スイッチ》って、これだよね?」

「そうだよ?苗木クンが〝モノモノマシーン〟で引き当てたくせに、使ってくれないんだよね」

「モノモノマシーン?ああ、購買の……では本当に、ガチャガチャの景品なのですね」

「でもそれは《脱出スイッチ》ですよ」

 

 モノクマの肯定にセレスが呆れたように呟く。モノクマはそんなセレスに、押し売りセールスマンのように絡んでくる。

 

「……おい、苗木。お前に聞きたい事がある」

「………何?」

「『ガチャガチャ』とは何だ?」

「……………」

 

 まあ、御曹司には馴染みのないものか。

 ガチャガチャやってる御曹司なんて見たことない。むしろ中身すべてを買いそうだ。

 

「ところでモノクマ……」

「なぁに?」

「訊かれたことだけに答えてほしいんだけどさ」

「いいよ」

「この脱出スイッチを使ったら、外に出れるの?」

「………………そんな訳ないじゃーん。ボクはそんなに甘くありません!」

 

 苗木の質問に、モノクマは苗木を数秒見つめた後、何時もの調子で答える。だと思った、と苗木は呟き、十神もフンと鼻を鳴らす。

 

「でも付け足すなら──」

「モノクマ…」

「ん?」

「訊かれたことだけに答えてってば。キミ、いつも余計なこと言うから」

「………ショボーン」

 

 モノクマは、トボトボと歩きながら消えた。

 

「はあ、成る程。確かにその玩具に脱出スイッチと名前をつければ、苗木君は脱出スイッチを持っていることになるわね」

「完全に遊ばれましたわ…」

「ここで苗木に注意を集めるメリットがわからんが、取り敢えず気に食わん奴だ」

「僕は君を信じていたぞ、苗木くん!」

「えっと、疑っちゃってごめんね苗木!」

「むむ、見える。見えるべ。モノクマの群れと戦う黒髪ショートが見えるべ!」

「オメー何言ってんだ?」

「ったくモノクマのヤロー」

「苗木誠殿は、モノクマに嫌われておるようですな。夜中は気をつけた方が良いですぞ?」

「大丈夫です。私が苗木君に手出しさせませんから!」

「……万が一の時は、モノクマを原形とどめないレベルで破壊する」

「えっと、やめた方がいいよぉ……校則違反で殺されちゃうってぇ…」

「……ッチ、くだらん」

「あ、あたしの『秘密』はどうでも良いの?どうでも良いのね!」

「そういえばモノクマ、気になること言ってなかったか?」

 

 と、不意に桑田が思い出したように聞く。苗木は何で余計なこというかな、と腐川を見ると、他の面々も腐川を見る。

 

「そういえば言っていたな、お前。自分の中には〝殺人鬼〟がいると」

「で、でででもあたしはアイツをキチンと抑えて……そ、そしたらつき合ってくれるって……」

「そんなこと言うはずないだろう。妄想も大概にしろ」

「………な、なあそれって、『ジェノサイダー翔』の事だよな?」

 

 と、桑田の問いに、全員の視線が腐川に向く。その殆どが恐怖を滲ませた視線で。

 

「な、なな、何でそんな目で見るのよぉぉ!あ、あたしはアイツの好きにさせる気なんか………へぶし!」

 

 頭をぶんぶん降った腐川の三つ編みの先端が、鼻先をかする。

 証明の手間が省けたのは、苗木の幸運だろうか?

 

「パンパカパーン!根暗の裏には朗らかさ、何時も元気な『ジェノサイダー』で~す♪」

「ふ、腐川ちゃん?」

「ま、マジか!?」

「あららん?何この反応?ちょっちひどくなーい?皆揃って、お前なんか会ったことないっていじめかしらん?それはそれで興奮──できるわきゃねえだろいじめカッコ悪いわ!」

「だ、だめだ!何言ってるか全然わからないよ!」

 

 ジェノサイダーにはやはり、二年間の記憶があるようだ。

 ジェノサイダーは密閉空間である学園に一年過ごしても殺人を行わなかったという実績があるのだが、皆はそれを知らない。

 

「ねえ、ジェノサイダー…」

「あらん?まーくんがアタシに話しかけてくるなんて、明日はグングニルの槍でも降るの?」

「──キミは人を殺したい?」

「アタシとしては是非萌えるアートを造りてえが、あのオヤジと約束しちまったんだよねぇ……そういやオジサマはどこ?てか、何でこんな狭い部屋に集まってんの?」

「……えっと、取り敢えず人は殺さないって事で良いのかな?」

 

 と、苗木が聞いた瞬間、右目の眼前に銀色に光る鋏が止まる。

 

「アタシはぁ、ホントはんな約束したくはなかったんだ。信頼できねえとか言い出すんなら……まーくんが最初に殺されてみるかしら!?」

「「「!」」」

 

 ジェノサイダーの殺気に江ノ島、舞園、大和田、石丸、大神などが反応したが、苗木が片手をあげ止める。

 

「信じるよ。ボクは………」

「………ゲラゲラゲラ!アンタ誰よ!?まーくんってそんなに〝素敵な笑み〟作れたっけ?」

 

 素敵な、の部分に若干皮肉を感じたが、ジェノサイダーは鋏をしまった。

 

「ま、残念ながら約束だからね。我慢の限界が来るまでは殺さねーよ………えくし!──あ、あれ?」

「………って言ってたけど、どうする?」

「苗木君はどうするんですか?」

「ボクは信じて良いと思うけど……ここで誰かを閉じこめて、一度そうすることで疑わしきは罰するなんて空気になるのは嫌だしね。それに、ジェノサイダーが不穏ならコショウをもって歩けば良いんじゃない?くしゃみがキーみたいだし」

「苗木くんの意見に賛成だ!」

「ま、兄弟が言うなら」

「……俺は……ま、いっか。コショウ持ち歩けば」

 

 と、思いの外皆、腐川を閉じ込めるなどの意見を出すことが無かった。

 半数以上の肯定が出たため、否定組は意見を飲み込んだ。


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