救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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週刊少年ゼツボウマガジン(非)日常②

「……二階、か」

 

 苗木は頭を押さえながら呟く。

 思い出すのはマスクを被った謎の………というか、黒幕に殴られた記憶。

 

「苗木君?」

「ああ、ごめん。ボクらも探索に行こうか」

 

 世界が広がったと言うのは、学園の索敵範囲が広がったという事。

 前回のルートでは、モノクマの言っていた通り学級裁判の後に広がっていたが………。

 

「最初はどこを見ます?」

「………プール。浮き輪ドーナツを捨てておく」

 

 苗木はそう言って、電子生徒手帳を使い更衣室を開ける。さすがに二人とも、男子更衣室の中まではついてこなかった。

 

「……うん。前回と同じ」

 

 ちゃんとしたプールだった。

 苗木は一度自室に戻り、舞園と江ノ島に手伝ってもらいながら、浮き輪ドーナツを運ぶ。

 

「何ここ天国!?」

 

 と、最後の浮き輪ドーナツをプールに放ると、そのタイミングで朝日奈が入ってきた。

 プールに浮いた大量の浮き輪ドーナツを見て、朝日奈は目を輝かせる。そういえば彼女は、ドーナツが好きだったな。今朝も、ドーナツの匂いに釣られて、苗木に噛みついてきたわけだし。

 

「ね!ね!苗木!これ苗木の!?」

「いらないから上げるよ」

「本当!?ありがとー!苗木大好き!」

 

 朝日奈はよっぽど嬉しいのか、苗木に抱きついてくる。その際彼女の豊満な胸が、苗木の背中に押し当てられ形を変える。

 

「「……………」」

 

 それを見た舞園と江ノ島は自分の胸を見下ろし、再び朝日奈の胸を見て悔しそうな顔をする。が、苗木は思ったより頬を赤らめていない。

 まあ前回散々味わっているから、それこそ今より成長した状態も。

 

「じゃ、ボクは他の場所も見てくるよ」

「うん。ふぁいふぁ~い」

 

 朝日奈はモゴモゴと浮き輪ドーナツを食べながら、苗木達を手を振って見送った。

 次に訪れたのは、図書室。

 前回より来るのが遅れたためか、誰もいない。

 

「………お、あったあった」

 

 苗木は、ジェノサイダー翔の資料を見つける。

 前回と同じだ。この学園に潜んだ〝殺人鬼〟についての資料。まあジェノサイダー翔はどうでも良いか。

 次に苗木が探したのは、手紙。

 内容は、希望ヶ峰学園廃止について。

 

「……廃止?あれ?でも私たち……」

「深く気にしなくても良いんじゃない?」

 

 そう言えば、自分達はこの学園にとどまっていたはずだが、誰も図書室を利用しなかったのだろうか?

 まあ、確かに本の内容が変わるわけでもないが………。

 

「……さて、そろそろ食堂に向かおうか?」

 

 苗木は手紙をポケットに入れ歩き出した。

 

「と、その前にトイレ………」

 

 苗木はそう言って男子トイレに入ると、《隠し部屋》の中に入る。

 ここの資料を持って行くことは簡単だが…………。

 

「メモだけで良いか………」

 

 どうせ何時かは彼女が見つける筈だ。

 そして彼女自身、それを誰かに話すようなことはしなかった。黒幕がどう動くかわからなかったからだ……。

 まあ、見張りに2人を男子トイレの前に立たせておけば大丈夫だろうが……。

 というか、学園生活の記憶を取り戻している苗木には、ここで手に入れられる情報にそれほど価値を感じない。

 

「いきなり頭叩かれるのは勘弁だしね……」

 

 

 

 

「諸君ッ!調査お疲れ様だったな!!どうだった?新しい発見はあったか?」

 

 石丸の問いかけを筆頭に、二階に図書室とプールがあったことを説明し、石丸も大浴場と倉庫が解放されていたことを話す。

 

「ボク等はこんなものを見つけたよ」

 

 苗木はそう言って、手紙とメモを机におく。

 全員の視線が集まる中、石丸が代表して手紙とメモを取り読み始める。

 

「な、なんと!?希望ヶ峰学園が『閉鎖』しているだと!?」

「「「!?」」」

 

 石丸の発言に、全員が驚愕の表情を浮かべる。

 

「な、苗木くん。これをどこで!?」

「図書室……」

「……ああ、あの埃まみれの。憶測だが、一年は放置されていたようだったぞ」

 

 苗木の返答を十神が補足すると、今度は十神に視線が集まる。

 

「ど、どういうことぉ?だって、ボクたち………」

「つい最近スカウトされたばっか………だよな?」

「「「………………」」」

 

 不二咲と大和田の困惑に、全員が無言の肯定を示す。その顔はどこか暗い。

 それはそうだろう。つい最近、希望ヶ峰学園に来るように言われ、それなのに希望ヶ峰学園が閉鎖など理解できない。

 

「それに……この『此処から出てはいけない』と言うメモは一体……?」

「ど、どうせモノクマが用意したんでしょ………あたしたちを混乱させるために、そうに決まってるわ!」

「失礼な!」

「で、でたー!?」

「なにさ、何なのさ。人を幽霊みたいに!ん?この場合はクマを幽霊みたいに?」

「普通クマも幽霊も出たら『でたー!?』って叫びそうなもんだけど」

「…………それもそうだね」

 

 ガーッ!と両手を振り上げ怒るモノクマだが、苗木の言葉に落ち着いたのか背を向ける。

 テトテト歩きながら、モノクマは机の上に立つ。

 

「それでさ、ボクが混乱させるために用意したなんて言うけどね……失礼クマー!」

「………クマ?」

「熊野権現に誓って、ボクの用意したものじゃありません……」

「く、熊野権現は……クマの神じゃないわよ…」

「…………まあ、そんなことどうでも良いじゃん。とにかく、それはボクの仕業じゃない」

 

 それは本当のことだろう。

 彼女達が、此処から出てはいけないなど言うはずもない。

 

「じゃ、じゃあ誰が用意したっていうのよ!?」

「そりゃあ、オマエラの中の誰かじゃない?」

「はあ!?何で私たちがここから出ちゃいけないなんて書くのよ!?」

「さあ?それはオマエラの誰かに聞きなよ。答えが聞けたらだけどね。うぷぷぷ…」

 

 モノクマは意味深な言葉を残し、姿を消した。

 

「……と、取り敢えず。今日は解散にしよう」

 

 石丸の締めで、探索結果の報告会はお開きになった。

 苗木達も立ち上がり自室に帰る。例にならって苗木は扉に鍵を掛けずに眠る。最近では、鍵を掛けたら次の日には扉に切り傷がついていそうだが。

 

「………ッ!?」

 

 夜時間になり眠っていると、殺気を感じ、枕下に隠したナイフを手に取る。

 

「動かないで」

「……霧切……さん?」

 

 殺気に反応できようと、超高校級達と二年間過ごしていようと、所詮苗木は元一般人。

 二年間の差があっても、超高校級には及ばず押さえつけられる。

 

「……三人目」

「…え?」

「……何でもないよ。それで、何か用?」

「あなたには幾つか聞きたいことがあるのよ。抵抗しないでくれると約束するなら退くわ」

「……………霧切さん相手に抵抗なんてしないよ」

「………そう」

 

 苗木の返答を聞き、霧切は苗木の上から退く。

 苗木は握られた手首を解しながら、上体を起こす。

 

「単刀直入に訊くわ。苗木誠、あなたは何者?」


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