「……二階、か」
苗木は頭を押さえながら呟く。
思い出すのはマスクを被った謎の………というか、黒幕に殴られた記憶。
「苗木君?」
「ああ、ごめん。ボクらも探索に行こうか」
世界が広がったと言うのは、学園の索敵範囲が広がったという事。
前回のルートでは、モノクマの言っていた通り学級裁判の後に広がっていたが………。
「最初はどこを見ます?」
「………プール。浮き輪ドーナツを捨てておく」
苗木はそう言って、電子生徒手帳を使い更衣室を開ける。さすがに二人とも、男子更衣室の中まではついてこなかった。
「……うん。前回と同じ」
ちゃんとしたプールだった。
苗木は一度自室に戻り、舞園と江ノ島に手伝ってもらいながら、浮き輪ドーナツを運ぶ。
「何ここ天国!?」
と、最後の浮き輪ドーナツをプールに放ると、そのタイミングで朝日奈が入ってきた。
プールに浮いた大量の浮き輪ドーナツを見て、朝日奈は目を輝かせる。そういえば彼女は、ドーナツが好きだったな。今朝も、ドーナツの匂いに釣られて、苗木に噛みついてきたわけだし。
「ね!ね!苗木!これ苗木の!?」
「いらないから上げるよ」
「本当!?ありがとー!苗木大好き!」
朝日奈はよっぽど嬉しいのか、苗木に抱きついてくる。その際彼女の豊満な胸が、苗木の背中に押し当てられ形を変える。
「「……………」」
それを見た舞園と江ノ島は自分の胸を見下ろし、再び朝日奈の胸を見て悔しそうな顔をする。が、苗木は思ったより頬を赤らめていない。
まあ前回散々味わっているから、それこそ今より成長した状態も。
「じゃ、ボクは他の場所も見てくるよ」
「うん。ふぁいふぁ~い」
朝日奈はモゴモゴと浮き輪ドーナツを食べながら、苗木達を手を振って見送った。
次に訪れたのは、図書室。
前回より来るのが遅れたためか、誰もいない。
「………お、あったあった」
苗木は、ジェノサイダー翔の資料を見つける。
前回と同じだ。この学園に潜んだ〝殺人鬼〟についての資料。まあジェノサイダー翔はどうでも良いか。
次に苗木が探したのは、手紙。
内容は、希望ヶ峰学園廃止について。
「……廃止?あれ?でも私たち……」
「深く気にしなくても良いんじゃない?」
そう言えば、自分達はこの学園にとどまっていたはずだが、誰も図書室を利用しなかったのだろうか?
まあ、確かに本の内容が変わるわけでもないが………。
「……さて、そろそろ食堂に向かおうか?」
苗木は手紙をポケットに入れ歩き出した。
「と、その前にトイレ………」
苗木はそう言って男子トイレに入ると、《隠し部屋》の中に入る。
ここの資料を持って行くことは簡単だが…………。
「メモだけで良いか………」
どうせ何時かは彼女が見つける筈だ。
そして彼女自身、それを誰かに話すようなことはしなかった。黒幕がどう動くかわからなかったからだ……。
まあ、見張りに2人を男子トイレの前に立たせておけば大丈夫だろうが……。
というか、学園生活の記憶を取り戻している苗木には、ここで手に入れられる情報にそれほど価値を感じない。
「いきなり頭叩かれるのは勘弁だしね……」
「諸君ッ!調査お疲れ様だったな!!どうだった?新しい発見はあったか?」
石丸の問いかけを筆頭に、二階に図書室とプールがあったことを説明し、石丸も大浴場と倉庫が解放されていたことを話す。
「ボク等はこんなものを見つけたよ」
苗木はそう言って、手紙とメモを机におく。
全員の視線が集まる中、石丸が代表して手紙とメモを取り読み始める。
「な、なんと!?希望ヶ峰学園が『閉鎖』しているだと!?」
「「「!?」」」
石丸の発言に、全員が驚愕の表情を浮かべる。
「な、苗木くん。これをどこで!?」
「図書室……」
「……ああ、あの埃まみれの。憶測だが、一年は放置されていたようだったぞ」
苗木の返答を十神が補足すると、今度は十神に視線が集まる。
「ど、どういうことぉ?だって、ボクたち………」
「つい最近スカウトされたばっか………だよな?」
「「「………………」」」
不二咲と大和田の困惑に、全員が無言の肯定を示す。その顔はどこか暗い。
それはそうだろう。つい最近、希望ヶ峰学園に来るように言われ、それなのに希望ヶ峰学園が閉鎖など理解できない。
「それに……この『此処から出てはいけない』と言うメモは一体……?」
「ど、どうせモノクマが用意したんでしょ………あたしたちを混乱させるために、そうに決まってるわ!」
「失礼な!」
「で、でたー!?」
「なにさ、何なのさ。人を幽霊みたいに!ん?この場合はクマを幽霊みたいに?」
「普通クマも幽霊も出たら『でたー!?』って叫びそうなもんだけど」
「…………それもそうだね」
ガーッ!と両手を振り上げ怒るモノクマだが、苗木の言葉に落ち着いたのか背を向ける。
テトテト歩きながら、モノクマは机の上に立つ。
「それでさ、ボクが混乱させるために用意したなんて言うけどね……失礼クマー!」
「………クマ?」
「熊野権現に誓って、ボクの用意したものじゃありません……」
「く、熊野権現は……クマの神じゃないわよ…」
「…………まあ、そんなことどうでも良いじゃん。とにかく、それはボクの仕業じゃない」
それは本当のことだろう。
彼女達が、此処から出てはいけないなど言うはずもない。
「じゃ、じゃあ誰が用意したっていうのよ!?」
「そりゃあ、オマエラの中の誰かじゃない?」
「はあ!?何で私たちがここから出ちゃいけないなんて書くのよ!?」
「さあ?それはオマエラの誰かに聞きなよ。答えが聞けたらだけどね。うぷぷぷ…」
モノクマは意味深な言葉を残し、姿を消した。
「……と、取り敢えず。今日は解散にしよう」
石丸の締めで、探索結果の報告会はお開きになった。
苗木達も立ち上がり自室に帰る。例にならって苗木は扉に鍵を掛けずに眠る。最近では、鍵を掛けたら次の日には扉に切り傷がついていそうだが。
「………ッ!?」
夜時間になり眠っていると、殺気を感じ、枕下に隠したナイフを手に取る。
「動かないで」
「……霧切……さん?」
殺気に反応できようと、超高校級達と二年間過ごしていようと、所詮苗木は元一般人。
二年間の差があっても、超高校級には及ばず押さえつけられる。
「……三人目」
「…え?」
「……何でもないよ。それで、何か用?」
「あなたには幾つか聞きたいことがあるのよ。抵抗しないでくれると約束するなら退くわ」
「……………霧切さん相手に抵抗なんてしないよ」
「………そう」
苗木の返答を聞き、霧切は苗木の上から退く。
苗木は握られた手首を解しながら、上体を起こす。
「単刀直入に訊くわ。苗木誠、あなたは何者?」