救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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閑話①

『本当の絆』

 

 

「置いていくことになっちゃってごめんね。でも、必ず迎えに行くからね。待ってて」

 

 そう言って去っていたあの人は、世界が終わるその日まで帰ってくることは無かった。

 

 

『笑うな、静かにしてろ』

『育ててやってるんだ、感謝しろ』

『さっさと次の企画書を出さんか、役立たず』

 

 目を閉じると声が聞こえる。

 

『なんだその目は』

『恩義を感じていないのか?』

『役立たずの分際で、従わんと言うならいよいよ捨てるぞ』

 

 耳から離れない、悪意の声が。

 

『何で俺の言うことをきかねーんだ!』

 

 きく必要なんて本来無いからじゃないですかね?

 

『同じ姉妹で何でこうも違う』

 

 種が悪かったんでじゃない?

 

『何時まで時間をかける、役立たずが!』

 

 じゃあ自分でやれって話ですよ。

 

 

 

「嫌になっちゃあなぁ……」

「どうかしましたの、モナカちゃん」

「……………」

 

 話しかけてくる友達を見ると不安そうな顔で見てくる。他の男子達もそうだ。

 

「んー、家族について考えてたのじゃー」

「「「「───ッ!」」」」

 

 何気なく発した『家族』という単語に面白いほど怯える四人。震えて、震えて、自分達が世界で一番不幸って顔をしている。

 この程度の不幸、溢れている。だから、やめろ。同情するな、哀れむな、憐れむな、あわれむな。

 そんな、下らない共通点で仲間意識を持つな。

 

「みんなー、おはよう。ん、どうしたの?」

「苗木兄ちゃん!」

「苗木お兄ちゃん!」

「おはようございます!」

「おはよう、ございます……」

「うん。大門くん、煙くん、空木ちゃん新月くんおはよう」

 

 と、その時やってきた一人の男に周りにいた四人は一斉に駆け出す。

 ああ、また変なのが来た。数日前から、臨時の先生としてやってきた男。まだ大人にもならない子供ともいえない中間の男。

 そいつは此方に気づくと笑みを浮かべてきた。

 

「おはようモナカちゃん」

 

 普通の笑みだ。足を動かせないふりをしている自分に幾多も向けられたら憐れみの籠もった笑みとは全く別の。

 そいつは一人一人頭を撫でていき、最後に自分の頭を撫でてきた。

 

(……あ、この感じ………)

『モナカ……』

 

 アイツも良く撫でてくれたっけ。自分の名を呼びながら…………あれ、そういえば。

 

「彼奴って、どんな声してたっけ?」

 

 

 

 

「将来の夢、ねぇ……皆何か決まったー?モナカに教えて欲しいのじゃー」

「へっへーん!オレっちは勿論勇者だーい!悪い奴らからこの世界を守るんだーい!」

「ボクは、取り敢えず希望ヶ峰学園本校に入学することかな」

「私はきゃわいいお人形をたっくさん作れる店を開くことですわ!」

「あ、ぼ、ボクちんは──」

「モナカちゃんはなんですの?」

 

 と、瞳をキラキラさせて見てくるクラスメート達。将来の夢……夢、叶って欲しい事……。

 

「優しい、家族が欲しい………あ」

 

 うっかり漏らした本音にやはり面白いほど過剰に怯えるクラスメート。モナカは即座に取り繕う。

 

「冗談冗談、冗談なりー。わざとじゃないの、ごめんね」

「ひっ……あ、冗談……ですよね。モナカちゃんが、本気でそんな酷いこと言うはずありませんもんね、だって………」

 

 

「「「「モナカちゃんは私/オレっち/ボクちん/ボク達の大切な友達だもんね」」」」

 

 お互いがお互い憐れみで自分の傷を隠そうとして、傷を舐めあうでもない歪な形で形成された絆の仲間達は、唯一歪みに気づく少女を中心に絡みつく。有刺鉄線のように締め付ける少女を傷つけることに気づけもせず。気づいけたとしても、その絆を逃さないために話すこともなく。

 

「………将来の、夢ねぇ…………」

 

 

 

『本当の絆が欲しい』

 

 

 

 

 

オマケ『ハロウィン』

 

「トリックオアトリートなのじゃー!」

「「「「おー!」」」」

 

 ハロウィンと言うこともあり仮装をする超小学生級達。新月はフランケンシュタインの怪物、大門は狼男、蛇太郎はミイラ、空木はフェアリー。

 そしてモナカは──

 

「と、ところでモナカちゃん……それ、どうやってますの?」

「秘密!」

 

 デュラハンだった。膝の上に置かれたモナカの顔がニッコリ笑う。

 

「それじゃあ出発ー!」

 

 

 

 

 ハロウィン、十神の場合。

 

「菓子だと?貴様等にくれてやる菓子などない。犬の餌でも食っていろ」

「…………………」

「おいやめろ!無言で卵を投げてくるな!」

 

 

 ハロウィン、腐川の場合。

 

「…………行こっか」

「何か言いなさいよ!」

 

 

 ハロウィン、朝日奈の場合。

 

「ん、ハロウィンかぁ……プロテインバー(一本130Kcal)でいっか?」

「みんなー、一斉射撃!」

「何で!?」

 

 

 ハロウィン、音無の場合。

 

「ハロウィン……?んーっと、クッキーで良い?」

「……ちぇ。悪戯出来ないじゃん」

 

 

 ハロウィン、月光ヶ原の場合。

 

「…………………」

「…………………」

「な、なあ、さっきからモナカちゃんとあの姉ちゃんの間に妙な空気が流れてねーか?」

「この小説ではあのお二人は姉妹という設定ですものねぇ、いろいろ複雑な事情があるんでしょう」

「……ふん、せっかくの番外編なのに、少しは仲良くしようとも思えないの?本当に残念なお姉ちゃん……略して残姉だよね!」

「……あ……ま……」

「行こ、皆」

 

 

 ハロウィン、召使いの場合。

 

「ごめんね、お菓子は用意してないんだ。希望の戦士である君達を喜ばせられないなんてボクはなんて駄目な奴なんだ!ああ、でも悪戯によって君達の気が晴れるというなら好きなように………あれ、どこ行くの皆?」

 

 

 ハロウィン、こまるの場合。

 

「悪戯?いいよ。どんなのするの?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……痛いの怖い暗いの怖い怖い怖い怖い怖い」

「だ、大門くんの様子が変だよ!?あ、ごめんボクちんの方が変だよね……」

「や、やだ……酷いのいやぁ……優しくしてください、助けてくださいぃ……」

「言子ちゃんまで!?ど、どうしよう新月くん!」

「ち、違う……違う違うボクは出来るボクは出来るボクはボクはボクは……」

「あー、これあれだね。こまるお姉ちゃんにトラウマ植え付けられた後の皆だね~」

「あれ、悪戯は?しないの?」

 

 ハロウィン、モノクマブラックの場合。

 

 

「……どうぞ」

「うめー!」

「本当ですわ……最高級品でも此処までおいしいのなんてありませんわよ」

「この人、何者なんだろう……」

「モナカは知ってるよー」

「す、すごいねモナカちゃんは…」

「予想通りの反応ばかりだ。ツマラナイ」

 

 

 ハロウィン、モノクマ仮面の場合

 

「トリックオアトリート!ジャンクモノクマの大行進なのだー!」

「ぎゃあああ!」

「お、置いてかないでー!」

「ニャッハハー!追え追え!」

「モナカちゃん!?何時の間に!」

「そ、それより早く逃げるぞ!」


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