救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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地獄の中心で愛を叫ぶマモノ③

 地下鉄『日ノ出橋駅』に向かったがシャッターが降り、鍵までかかっている。

 

「こ、これじゃあ中に入れねー…………」

「鍵を探せばいいじゃない……!」

「鍵なんて探さなくて良いんじゃない?月光ヶ原さんのハイテク車椅子があるし」

『任せてくだちゃーい!』

 

 車椅子から放たれた小型のミサイルがシャッターを破壊して穴があく。朝日奈達が唖然とする中こまると月光ヶ原は空いた穴から中に入った。

 

「なんか……凄いな苗木さんは」

「ん?」

「こんな絶望的な状況なのに取り乱さずにしっかり考えてるだろ?凄いよ、実際」

「そりゃあねー。だってまだ生きてるし、少なくとも家族も残ってるし」

「家族、か……オレも姉貴達に早くあいたいな」

「………生きてさえ入れば直ぐかなうわよ、その願い」

 

 と、腐川が呟き朝日奈はそうだな、サンキューと笑う。

 

「朝日奈くーん、腐川さんは私の親友なんだからね?とったら生まれてきたこと後悔させちゃうんだから」

「き、肝に銘じます……」

 

 

 

 

 落書きだらけの階段を下り扉を開けると暗い地下に入る。

 

「何でこんなに暗いよぉ……暗いのは苦手って行ってるじゃない」

『安心してくだちゃい!照明機能もついてまちゅから』

 

 と、月光ヶ原の車椅子のディスプレイに映るウサミが懐中電灯を取り出しつけようとすると、いきなりライトアップされる。

 

「す、凄いね月光ヶ原さん………」

『こ、これ……わたしじゃありましぇん……』

「え?」

 

 音無が疑問の声を出すと同時に何やら歓声のような声が聞こえてくる。辺り一面からだ。周りを見ればそこはまさに漫画でよく見る地下格技場。観客席には幾つものモノクマキッズ達が犇めいていた。

 

「な!?罠!?」

「そりゃ地下鉄とかわかりやすい逃げ道に罠を張らないわけないでしょ」

「な、なら何で……!」

「だって私の目的は島から出る事じゃなくて、バカガキ共にお仕置きすることだもん。でもさー、それって止められそうじゃない?だから外に出たがってる人のため、っていう言い訳を作ったの」

 

 つまり朝日奈を利用した。確かにこまるが突然希望の戦士と戦いたいと言ったところで、音無達は間違いなく止めるだろう。しかし朝日奈を逃がすため、という嘘を使えば出口になるかもしれない、つまり罠が張られている可能性の高い場所に向かう動機となる。

 

「一度でも倒せば許可は下りると思うんだ。そのために利用しちゃった。でも、罠がなくて本当にでれる可能性も、まああった……だから私は悪くない」

 

 と、こまるが言い切ると何処からかモノクマキッズ達とは違う子供な声が聞こえてきた。

 

『やーいやーい!ひっかかっなー!地下鉄に逃げ込めると思ったんだろ?でも残念でしたー!オレッチはそれぐらいお見通しだーい!』

 

 どうやらこまる達の会話は聞いていなかったらしい。とう!と言う掛け声をあげ現れた赤い髪の少年、大門大がクルクル回転しながら落下して見事に着地すると両手を広げる。

 スポットライトが辺り、モノクマキッズの内四人が各々10点のプレートを掲げた。

 

「オレッチは希望の戦士の超絶リーダー『超小学生級の体育の時間』こと、“勇者”大門大だーい!」

 

 大門大はそういってニヤリと子供らしい笑みを浮かべた。

 

「やいやーい!もう逃がさねーぞ、魔物どもーっ!」

「な、なんなの…?あの…やたら頭の悪そうなガキは…」

「あ、アイツ……オレに腕輪を付けたガキの1人です……」

「1人なんてザコ扱いすんなー!オレっちは希望の戦士のリーダーなんだゾ!」

「そうだよ朝日奈君。ジャンケンに超強いリーダーに失礼だよ」

「えへへへ、照れるぜ……そうそうオレっちは威張ってばっかで隠れてるだけのオトナ共のリーダーぶった連中とはちげーんだよ」

 

 こまるの言葉に照れたように頭をかく大門。そのままえっへんと胸を張る。

 

「誰よりも勇敢に最前線に立って、後に続く仲間と手下を引っ張る最高のリーダー…それが、“勇者”大門大さまなんだーい!!」

 

 ワーキャー!と騒ぎ出すモノクマキッズ達。大門は再び照れて鼻の下を指でする。

 

「やい、いきなりリーダーが出てきてビビったか!?ヒビってんだろー!?情けねーなぁ!やっぱ、チンチ○付いてない奴は弱虫だ!ん?1人は付いてんな……ならあれだ……えっと………たま?が小さい!」

「チ、チ○チン!?」

「タマが小さいだとー!?」

『落ちちゅきましちぇんと二人とも!敵と前でちゅよ!』

 

 チン○ンという単語とたまが小さいという単語に反応する二人を諫める月光ヶ原。音無は慌ててハッキング銃を構える。

 

「よっしゃー!じゃあ覚悟しろよ、魔物どもー!今更、犬みたいに、腹を出して服従のポーズをしてもダメだかんなー!」

「私達が、お腹を出して犬のポーズ……?発禁物になっちゃいそう…」

「こ、こまるちゃん今はそんな場合じゃ……」

 

 こまるが此処にいる女子全員が服をめくり腹を出し犬の服従のポーズをしたのを想像して呟き、音無が呆れる。朝日奈は想像したのか少し赤くなっていた。

 

「お、おい!お前等、何でこんな事をするんだ!」

「決まってんだろ!お前等魔物達を皆殺しにして、子供の楽園を作るんだよ!」

「ふーん、で、楽園創設計画の進み具合は?」

「……………」

「?」

 

 こまるの言葉に苦々しく顔を歪める大門を見てこまるは大門の立つステージの下を見る。てっきりあそこに大量の死体があると思ったのだが……。

 

「モノクマ仮面さんかな?」

 

 今回自分は特にそれに関する影響を受けそうなことをしていない。となればもうイレギュラーの彼が何らかの行動をとったと見るべきだろう。

 

「何が子供の楽園よ、貴方達だって……何時か大人になるじゃない」

「大人になんかならねーよッ!!」

 

 音無の言葉に大門は叫ぶ。

 

「オレっちは希望の戦士の皆と約束したんだ…モナカちゃんと約束したんだ…汚くて醜くて臭い魔物になるぐらいなら、子供のまま死ぬんだって!」

 

 その言葉に再び騒ぎ始めるモノクマキッズ達。気持ち悪いほどに彼等の動きがピッタリだ。当然だが。

 

「ほら…聞こえるだろ?みんな…オレっちに感謝してくれてるんだ…オレっちは皆の“勇者”だからな……オレっちが、一匹残らず魔物を狩りつくせば…もう…誰も怯えないんで済むんだ……」

「誰も?誰にも、じゃないの大門君……」

「……あ………は?」

 

 顔を青くして、震えながら言う大門にこまるは問う。

 

「こわーいこわーい大人に誰よりも怯える大門君は、大人が居なくなれば安心できるんだよね?怯えなくて済むから」

「こ、怖がってる……だと?オレっち……が?」

「うん。だって震えてるよ?」

 

 こまるの指摘通り、大門の腕は振るえていた。顔はますます青くなり大門は突然自分の腕を叩き出した。

 

「なんだよこれ……くそ!止まれ!止まれよぉ!止まれ止まれ止まれって!怖くない、オレっちは何も怖くないんだ!だって、オレっちは勇者なんだぞ!痛いのも暗いのも怖いのも酒臭いのも痛いのも!何も、何も怖くないんだ……死ぬのも、殺すのも……止まれ、止まれよぉ!」

「お、おい!止めろよ!」

「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!」

 

 朝日奈の静止を無視して大門は腕が青く、ついには紫になるまで殴り続ける。とうとう床に叩きつけ始め、やがて腕の震えが収まる。

 

「へ、へへ……へへへはははは……や、やっと…言う事聞きやがった…は、はは……あははは…っ!」

「もう、やめて……止めてよ。私達は貴方に何もしないから」

「音無さーん、無理だよそれは。壊れた人間に何を言っても、他人の言葉なんて届かな………い……よ?」

 

 音無が悲痛そうに言うがこまるがそれを止めようとして、止まる。音無は俯きながら、震えながら、笑っていた。涎を垂らすほど興奮して。

 

「……あ、あれ……なに、これ……あれ……えへへ……えへへあはははは!何だろ、止まんない!あの子を見てると、胸の奥がキュンって疼くの!」

 

 自分の体を抱きしめながら叫ぶ音無の瞳は何時の間にか赤から青に変わっていた。ちょうどジェノサイダーが腐川と入れ替わっているかのように。

 

「あれ……?おかしいな、思い出せない……なんだっけ?なんだっけなんだっけなんだっけなんだっけなんだっけ……?何か大切な、私を、()()()()()を……()()たらしめていた何か……!」

「ちょ、ちょっと!こっちまでなんなのよ!」

 

 敵ばかりか味方でも奇行を行う者が現れ腐川が叫ぶが答える者はいない。答えられる者はいない。

 

「お前達も、何時か魔物になるんだ……皆を傷つける、魔物!だから、その前にオレっちが退治してやるんだーい!」

 

 大門が叫び、指を鳴らすとどこからともなく二本のレバーが付いた子供向けアニメのロボットの操縦機のような物が飛んでくる。大門はその紐を掴むと首にかけスイッチを押す。そしてレバーを引くと地面が揺れ始めた。

 

「な、なんだ!?」

『地震でちゅかー!?』

「こ、このタイミングでただの地震が起こるわけないでしょ!」

 

 戸惑う一同の前で、地面が盛り上がりドリルが飛び出してくる。いや、ドリルだけではない。ドリルの下の腕、頭、さらに本体、モノクママークを持った子供向けロボットアニメの見た目をしたロボットが飛び出してきた。

 その名も、勇者ロボマークガイバー。

 

「な、なんだありゃあ!」

「あ、あんなの聞いてない!反則よ」

「あーっはっはっは!これはあれだよね……なんとか的状況………なんだっけ、肝心なところが思い出せない」

「そ、そんなこと言ってる場合か!逃げるぞ!」

『あわ、あわわ……』

 

 動揺する一同を見て大門は片手を降りながらモノクマキッズ達に向けて叫ぶ。

 

「みんなー!見ててくれよな、今から希望の戦士のリーダーであるオレっちが、勇者であるオレっちが、この魔物どもをバチっと退治してやるからなー!」

「な、苗木さん……どうする!?」

 

 逃げるぞなどと言ってみたがそもそも出口は塞がれている。逃げ場はない。

 

『相手は機械でちゅ!希望ヶ峰のハッキング銃ならあるいは……』

『こんな時こそ、僕を使って!』

「皆はそれ使うんだ。へー……なら、私はこれ……」

 

 こまるは喋り出すハッキング銃の言葉を無視して懐から黒光りする何かを取り出す。

 

「な、何よそれ……」

「さっき交番でくすねてきた銃……型式は……ごめん、わかんない。リボルバー式の片手銃」

「へっへーん!そんなの勇者ロボマークカイバーに効くかよ!」

「うん。ロボットには効かないだろうね………ロボットには……」

「………へ?」

 

 こまるが銃を向けた先はマークカイバーではなく、大門。大門が目を見開く中、引き金が引かれた。


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