救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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スコアガール⑥

 未来機関を抜ける。

 現状、元超高校級の家政婦・雪染ちさの『絶望化』の証拠は七海の証言だけ。苗木の協力者を名乗っている柊なら、或いは証拠を掴んでいるだろうが、柊は宗方が絶望する可能性がある作戦は実行しないだろう。

 となると、未来機関で雪染ちさを捕らえることは不可能に近い。苗木はもとよりこの事実を知った者達も、未来機関に従うには不安が残る。

 

『その、出る必要はあるのですか?会長に相談すれば……』

「未来機関同士で〝潰し合い〟になるだろうね」

『……………』

 

 グレート・ゴズが恐る恐る挙手したが、苗木の言葉に黙り込む。否定する者は1人もいない、皆、予想が付いたからだ。

 

「無理強いはしない。でも、一考はして欲しい。今の未来機関は宗方さんが仕切っているようで、その実雪染さんに誘導されて動いている。……このままじゃいずれ、破滅する」

『………未来機関を抜けるのは別に良いんだけどね』

『黄桜さん?』

 

 苗木の言葉に黄桜がポツリと呟く。

 

『具体的な行動方針を教えてくんない?組織には目的が必要でしょ?』

「基本的には絶望の保護。そして洗脳された超高校級の洗脳解除を目的とし、同時に文明の復旧です……」

『文明の復旧ったてねぇ、ようするに?』

「電気、ガス、水道の復活、住居の建築ですかね?」

『………うん、合格。いいよ。親友との《約束》を果たすためにもそっちにいた方が良いし、俺は苗木君につこう』

 

 黄桜はチラリと霧切の移るディスプレイを見て呟く。1人が同意したことにより、場が揺れる。

 

『………「あたちは構いまちぇん。どの道未来機関に所属したままじゃ、〝出来ないこと〟もありまちゅから」』

 

 月光ヶ原も苗木と共に来るようだ。まあ、宗方について行けば妹を殺すことになるかもしれないと言われたのだから。当然といえば当然だろう。

 

「私は少年について行くよ。少年には〝恩〟があるからね」

 

 花美はそういうと微笑んだ。彼女は彼女で元々、未来機関に思うところはあったのかもしれない。少なくとも当初から戦刃を受け入れていたのだし、宗方のやり方に納得していなかった可能性もある。

 

『……わ、私は………宗方さんに恩が、ある……でも、あの子を……『薬師寺』を殺すことになるなら………あの子も、洗脳されているなら、私は救いたいから……だから、未来機関から、抜ける。それに、雪染さんを元に戻す方法がわかれば、恩返しになると思う』

 

 と、忌村。彼女もまた、助けたい人物がいて、それが未来機関に所属したままではできないのだ。ここまでは苗木の予想通りのメンツ、残るはグレート・ゴズ1人。

 

『………私は………すいません、やはり未来機関から離れることは出来ません。でも、出来る限り皆さんをサポートしたいと思っています』

「………わかりました。では、会議はこれぐらいしておきましょう」

 

 苗木の言葉に一同頷く。苗木はそれを確認すると通信を切った。

 

 

 

 

 

 苗木の寝室。そこには現在2つの影があった。苗木と、シロクマだ。

 ベッドに俯せになった苗木の背にシロクマが乗りマッサージをしていた。

 

「概ね予定通り?」

「まあね~………あ、シロクマ。もう少し上」

「でもこれからどうするの?引っ越しの準備とかしなきゃ。ボク、手伝うよ!」

「ねえシロクマ……」

 

 意気揚々と叫んだシロクマに、苗木は平坦な声を返す。

 

「ようやく方針の決まった状態でさ、ボクがいなくなったら、それって絶望的だよね?」

「まあ、万人が想像する絶望的な状況ではあると思うけど……苗木クンは超高校級の希望だし……」

「そ、万人受けする絶望………だから、やっぱり『彼女』が来るよね」

 

 苗木は気配を感じ立ち上がる。背中に乗っていたシロクマがポス、と布団の上に落ち、赤外線センサーの付いた目を扉の向こうに向ける。

 

「五名来てるよ……」

「そ、じゃあ自然に出るから、演技の補佐よろしく~」

 

 苗木はそういうと眠そうな顔作る。これからトイレ行こうとしていたと言われても信じられるだろう。

 そして翌日、苗木誠が〝姿を消した〟。




ニューダンガンロンパV3 『嘘』予告



 最原、春川、夢野の3人は瓦礫の中をひたすら歩く。もう一週間も歩き続けて、未だ人っ子1人あっていない。

「……これ、どういうこと?」

 春川は何度目かになる言葉をつぶやく。彼等彼女等はとある殺し合いゲームの生き残りだ。テレビ企画という、ふざけた理由のゲームの……。

「この荒廃した世界………これではまるで……」
「ダンガンロンパの外の世界……でもあれはゲームのはず」

 夢野の言葉を最原が続ける。夢野も「なのじゃ」と同意し春川も目を細めて無言の肯定をした。

「まあ実際そうだしね、まだまだ復旧途中だし……」
「「「ッ!?」」」

 唐突に聞こえてきた声に3人は同時に振り返る。そこには1人の青年が立っていた。先程まで、誰も居なかった場所に。
 だが3人がそれ以上に彼に目を奪われた。その容姿が余りに現実味がないからだ。

「………苗木、誠……」
「ま、またコスプレじゃろ?」
「失礼だな、僕は正真正銘苗木誠だよ……」

 そう言って白銀のコスプレより成長した姿をした苗木誠(?)はケラケラ笑った。荒廃した世界で、和やかに笑う彼の姿は死体の前で平然とゲームをやるような、そこだけ現実から切り離されたような異物感を覚える。

「本物の…──」
「『本物の筈ないだろ、初代ダンガンロンパはゲームなんだから』かな?」

 思考を先読みしたような発言に最原は言葉を詰まらせる。いや、実際先読みされたわけだが。

「君達、自分の記憶が書き換えられた事実を知ったばかりなのによく信じられるね、そんなこと……」
「………どういう意味?」

 この中で唯一の戦闘員である春川は二人を庇うように前に出て苗木誠(?)を睨む。殺気混じりのその視線を彼はあっさりと受け流し歩み寄ってくる。

「………ダンガンロンパの世界観が、『嘘』だと言うことがそもそも『嘘』?」
「正解!さすが紛いなりにも探偵の才能を持つだけはあるね。はい、希望キャンディあげる」
「ど、どうも……」

 最原は飴玉を受けると取りあえず口に含んでみる。林檎味だった。

「んあー、つまり白銀の言った事は嘘で、ダンガンロンパというゲームであったことは本当に現実であったことなのか?」
「んー、プレイした感じ余計な邪魔が入らなければこうなっていたであろう未来になってるね。こっちじゃみんな生き残ってるし」
「じゃあ、あんたは本当に苗木誠?」
「だからそう言っているじゃん」

 春川の言葉に苗木はやれやれと呆れたように首を振った。

「まあ白銀つむぎ自身、嘘を言ったつもりはないんだろうけどね」
「ん?どういうことじゃ?」
「君達が過去の自分を知らず今の自分を自分である、としているように白銀つむぎも自分の本当の過去を知らないんだよ」
「………え、それってまさか、白銀さんも黒幕に利用されたってこと?本当の記憶を失って……」
「「!?」」
「またまた正解」

 最原の発言に、黒幕として死んだことに対して認めたくないが愉悦感を覚えていた2人は顔を青くする。

「彼女は51番目の江ノ島盾子役に選ばれた、探せばその辺にいる少しイヤらしい体つきをした女の子さ」
「ま、まって!それが本当なら、あなたは何でそれを知っているの!?」
「これで51回目だから、『江ノ島盾子育成計画』が行われるの」
「江ノ島盾子育成計画?」
「そ、超高校級の才能を植え付けた者同士で殺し合わせ、本物の江ノ島盾子に近いスペックを持った絶望を作ろう!っていう絶望の残党の計画。まあ毎回ダメダメだけどね~………あ、今回は良い線いってたかも、でもやっぱ江ノ島さんにするには力不足かな」

 白銀つむぎは自分達と同じ被害者だった。その事実は3人の思考を固めるには十分すぎた。しかし、探偵の才能を持った………持たされてしまった最原は直ぐに再起動する。

「その発言、君は……僕達が殺し合いしていたのを、見てたの?」
「うん。見てたよ……」
「っ!」

 苗木の言葉に春川が復活し、襟をつかみナイフを突きつける。

「ならなんで助けに来なかった!?助けに来てくれれば、百田は!」
「百田君かぁ、てっきり桑田君枠かと思ってたけどいい子だったよねぇ」
「ふざけてないで答えろ!何で助けに来なかったの!」
「だって君達が自分の意志で参加したんじゃないか。記憶を失ってたからやっぱ助けって言うのは、少しおかしくない?」
「………え?」

 苗木の言葉に襟を掴む手が緩む。苗木はその手をどけると襟を戻し最原をみる。その目は無言にこう語りかける『意味はわかるかな?』と………。

「………ダンガンロンパの世界が物語だって言うのが『嘘』で、超高校級が実在しても……僕等に何の才能もない、これは真実だと思う」
「うんうん」
「そして………」

 最原は青くなった顔で、言いたくないというような表情でその言葉を吐く……。

「僕等が自分の意志で参加した、これも………真実……」
「その通り。じゃあ何で記憶を失う前の君たちはそんなことしたと思う?」
「…………僕等が、『絶望の残党』だから」
「んな!」
「………嘘?」

 最原の言葉に夢野と春川は苗木を見る。心のどこかで不正解と言って欲しいと思いながら。

「正解。良くできたね最原君………つまりそう言うこと。だから助けなかった。どの道百田君だって、本当は健康体で寧ろ毒を川に流して病気を発症させるのが日課な子だったよ?絶望の残党の中でも働き屋だったね」
「嘘………嘘よそんなの」
「残念ながら事実なんだなぁ」

 春川はその場で膝を突き虚ろな目で虚空を見つめる。苗木はそれに特に興味も示さない。

「もちろん僕達は君達を保護するよ。でもごめんね、江ノ島盾子育成計画は僕や一部の者しか知らない計画だから、絶望の残党の保護という形を取るんだけどこれがまた面倒でねぇ。絶望に堕ちてるなら長いカウンセリングで直すけど正常な精神状態で殺し合いを体験した人だとねぇ………僕や日向君が全員生存させちゃったからそれが当たり前だとでも思われちゃったのかな?暫くは娑婆に戻れないよ」
「………全員、生存………」

 目の前の相手は同じ様な状況で、全員を生存させのか、それに比べて自分達は、と三人は情けなくなり俯く。

「………ねえ、赤松さんに会いたい?」
「!」
「百田君と話したい?」
「………」
「夜長さん達に、また慰められたい?」
「……………」

 苗木の言葉に3人は顔を上げる。それは、肯定に他ならない。苗木はニッコリ笑い



 春川を撃ち殺した。

「……え?」
「……は?」
「まあこれは賭なんだけど、うまく言ってくれると良いなぁ、ぐらいの……」

 そう言って今度は夢野を撃ち殺す。

「な、何を………」
「最原君、うまく言ったらモノクマガチャをやってみな。忍び込ませておいた景品が、運が良ければあたるだろうから」

 そう言って、最後の引き金を引いた。





「………あ、れ?」

 最原は目を覚ますと暗く、狭い場所にいた。

「ッ!うわぁ!」

 そして直前の記憶を思い出し暴れ、そこから出る。どうやら自分は教室にいて、ロッカーの中に閉じ込められていたようだ。

「………ロッカー?」
「………あ、あの……大丈夫?」

 ロッカーや教室にデジャヴを感じていると、聞き覚えのある聞こえるはずのない声が聞こえてくる。

「………赤松さん?」
「え?あ、はい赤松です。あれ?何で知ってるの?あ!もしかして、私のファン!?うわぁ、嬉しいなぁ。あの、私が弾いた曲で何が好き!?」

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