救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

111 / 125
小説家になろうで連載してた話が一区切り付いたので一話投稿します。これからも救えなかった苗木の逆行物語をよろしくお願いします


スコアガール⑤

 苗木は並べられたテーブルの上に、ノートパソコンを一つ一つ置いていく。

 上座に座るのは七海千秋。何やら緊張しているようにも見える。

 

「あ、あの、苗木くん……やらなきゃダメかな?」

「はい」

「私より苗木くんの方が発言力高いんじゃ?」

「そしたらボクが会長にならなきゃいけないから却下で……」

「………それって、会長の座を押し付けようとしてない?」

 

 七海がむー、と睨むが、苗木は何処吹く風で受け流し最後のパソコンを起動する。時刻は既に十時近く。と、そこへ佐々苗と花美もやってくる。

 

「お待たせ。…おや、そちらの子は?」

「何で苗木先輩を睨んでるんですか?」

 

 彼女達は初めて見る七海に不思議そうな視線を向ける。七海も二人の視線に気づくと、さすがに苗木を睨むのをやめて二人に向き合う。

 

「あ、えっと……未来機関第13支部真支部長、七海千秋です」

「これはご丁寧に。未来機関第14支部支部長、花美桜下だ。と、なると……ご令嬢は偽物だったということか」

「才能は本物だけどね」

「へ?えっと……この人が第13支部支部長なんですか?」

 

 佐々苗は驚いたように七海を見る。花美は元から姫咲が支部長じゃないと予想していたのか、大して驚いた様子はない。

 

「………と、そろそろ時間だね」

 

 苗木が時計を確認してつぶやくと、ノートパソコンの画面が一斉に切り替わった。

 

「こんばんは、皆さん」

 

 画面に映った面々に、苗木はにこやかに微笑む。花美はほぅ、と感心したように画面を見つめ、佐々苗は驚愕で固まっている。

 そこに映っているのは、全員でこそ無いものの、〝未来機関の幹部達〟だからだ。

 

『よー、苗木君。いきなりメールが来るから何事かと思ったけど、実際何事?』

『黄桜さん、お酒は控えてください』

 

 惚けた様子で黄桜が笑い、グレード・ゴズがそんな黄桜を窘める。とはいえ、互いに画面のそのまた向こうの画面越しだ。物理的に止めることは出来ないので、黄桜は知らぬ存ぜぬと酒を呷る。

 

『苗木君!早く帰ってきてくださいね』

『…待ってるよ…』

『どけビチクソ共!あら苗木君、ごきげんよう』

『三人とも、マテ。……石丸君、男子の代表で来てくれるかしら。女子は……大神さんか朝日奈さんにおねがいするわ』

『待て、何故石丸なんだ?ここは俺だろう』

『霧切よ、我では務まらぬ。お主に任せたい』

『うんうん。戦刃ちゃん達に言うこと聞かせられるの、霧切ちゃんだけだもんね!』

『…………そう。お待たせしたわね苗木君。78期生、代表は男子石丸君、女子は私になったわ』

 

 別の画面では、78期生達のやり取りが。気のせいか霧切の目の下に隈が出来ている気がする。彼女もどうやらお疲れのようだ。

 

『…………………』

「あれ、月光ヶ原さんどうしました?赤くなって唇押さえて」

『何でも……「何でもありまちぇん!」』

 

 赤くなった顔で見つめていた月光ヶ原は、苗木の呼びかけにさらに赤くなる。途中声を出そうとしたのだが、断念してしまって残念だ。

 

『それで、何で私達を集めたの?』

 

 忌村はカメラを通して見た会議室の中で並べられているノートパソコンを見て、苗木に尋ねる。

 

「うん。詳しい話は〝彼女〟から」

「こんばんは。未来機関第13支部本当の支部長の七海千秋です。えっと……77期生の、元超高校級のゲーマーです」

 

 名乗った七海にざわつく一同。特に黄桜など、酒を飲む手を止め目を見開いて、七海の顔をまじまじ見つめる。

 

「………本人、みたいだがどういうことだ?………雪染ちゃんの話じゃ、77期生の雪染ちゃんのクラスは全滅したって………」

「えっと……話が長くなるけど、聞いてくれる?」

 

 七海はそう呟くと画面を見回す。誰も反論することはない、すぅ、と息を吸い七海は、一年前の人類史上最大最悪の絶望的事件の【始まり】を語る。

 

 

 

『………洗脳技術により絶望化した超高校級の才能持ち達による世界の破壊、ですか……』

「にわかには信じがたいけど、それなら『例の都市伝説』が事実だったということになるね」

 

 ゴズが顎に手を当て呟き、花美も根も葉もない噂話を思い出す。所詮は都市伝説……しかし事実として、高い才能を持つ者が関与しなければなし得ない出来事もある。大気汚染装置、謎の伝染病、毒があると解っていても食べるのをやめられない中毒性の料理、他とは比べ物にならないほど組織力を持った絶望の集団、etc.etc.etc.

 

『あの子達だけじゃなく、雪染ちゃんもかぁ………世界ってのは残酷だな』

 

 黄桜は酒を飲むのをやめ帽子を深くかぶる。彼はこの中で七海を除き、唯一77期生全員と雪染にも関わっていた男だ。思うところがあるのだろう。

 

『………けど、宗方さんはその話を信じないと思う』

「だろうね。なにせ雪染先生が巻き込まれちゃってるんだもん」

『しかし、だからこそ絶望の殲滅ではなく、保護に乗り出すように頼めるのでは?』

「ゴズさんはさ、人を〝好き〟になったことってある?」

『………はい?』

 

 忌村と苗木のやり取りに、穏健派であるゴズがおそらく多くの者がするであろう理想的な提案を出すと、苗木はスゥ、と目を細め話す。

 

「人を心の底から愛するとね、その人の命より意志を尊重するんだ。その人を殺してもその人の望みを叶えてやりたいってね……」

『実際、苗木君も江ノ島盾子を殺しているものね…』

『その節は済まない苗木くん!僕等全員が背負うべき咎だったのに……』

「気にしなくていいよ石丸クン」

 

 ていうかあの場の全員が江ノ島さん殺しの咎を背負おうものなら、たとえ皆殺しにしても独占したと思うし、と最近自分の独占欲の強さを自覚し始めた苗木は笑う。

 

『……それで、どうすんだい?宗方君は実質的未来機関の支配者だ………逆らえば未来機関に居られれなくなる』

「うん。だからいっそ辞めようかなぁ、と………」

『『『『『は?』』』』』

「えっとね………苗木くんと話したんだけど、未来機関を抜けて《新しい組織》を立ち上げようかなぁ……って」

 

 七海がおずおず挙手をすると一同が完全に固まり、苗木が耳をふさぐ。と、次の瞬間驚愕の叫び声が会議室内に響き渡った。




オマケ

霧切響子の日常


 霧切は基本有能なので支部長代理を任されていた。本来なら副支部長の観能の仕事だが彼女も彼女で忙しいので仕方ない。十神もスペック的には有能ではあるはずなのだが何故か無能のような気がして任せられないそうだ。

「霧切さん、大変です!」
「何かしら?」
「舞園さやかが苗木誠様の部屋の扉をこじ開けようと……」
「禁断症状ね………苗木君の寝顔写真を与えなさい」

 写真を一枚渡すと、霧切は再び書類整理に戻る。

「霧切さん、やばいです!」
「今度は何かしら?」
「戦刃むくろと舞園さやかが写真の奪い合いをして乱闘!包丁とナイフとは思えない切れ味で壁や天井が切られてます!」
「戦刃さんに舌を噛んで涙目になった苗木君の写真を与えなさい」

 霧切は再び写真を渡すの書類整理を続ける。そして、また暫くして……

「霧切さん!べーっす!がちべーっす!」
「……………何かしら?」
「やすひ………セレスティア・ルーデンベルクさんが二人に無理やり写真を賭けて勝負を挑もうとして喧嘩になってます!」
「…………この汗を拭く苗木君の写真を与えておいて」

 霧切は頭を抱えながら写真を一枚渡して、今度こそ書類整理を終わらせた。




「それであなた達、言いたいことはあるかしら?」
「「「苗木君成分が足りなくて」」」

 三人の言葉に霧切ははぁ、とため息をはいて、懐から写真を撮りだす。それは苗木誠(女装ver)の写真だった。

「「「!!」」」
「マテ」

 三人が素早く動いたが霧切が写真を破こうとすると固まる。セレスが僅かに動き、戦刃が一歩前に出るのを確認すると霧切は舞園に写真を渡す。

「きちんと待っていたわね偉いわ。次に、朝着替え苗木君写真。欲しい人は、お手」

 一番の運動神経をほこる戦刃が霧切の手の上に手を置く。霧切はそれを確認すると戦刃に写真を与えた。

「………苗木君が帰ってくるまで、私がしっかりしなきゃ」

 苗木と長い間離すと何をするかわからない三人組に霧切は頭を抱えながらため息を再びついたのだった。


とある未来機関構成員達の会話

「霧切さんのおかげで最近あの三人も大人しいな」

「夜見ると怖いからな、包丁持って徘徊してんだぜ」

「最近はなりを潜めたからなぁ」

「これも霧切さんのお陰だな…」

「…………………」

「ん?どうした?」

「あ、いや…………そもそも何で霧切さんあんな写真持ってんの?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。