救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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スコアガール①

「……あ、また負けた」

「うーん、苗木くんやるね。勝つのが難しくなってきたよ」

 

 支部長の私室……の奥の『隠し部屋』でゲームをする2人の影。後ろではゲームが積まれた棚の隙間に嵌まる影。

 苗木と七海、そして聖原だ。

 

「良いんですか七海先輩。宗方さん、あなたに会いたがってましたよ?」

「私じゃなくて支部長、だよ。私個人ではなく、しっかり保護した人物にも箝口令を敷けてる手腕に興味があるんでしょ?」

 

 だからその支部長は七海先輩じゃないか、と思ったが口に出さないでおく。

 どうせ支部長って立場の人間にしか興味がないんだよ、とか言ってくる。

 

「なら、大文字さんに任せると?」

「ううん。別の人……『姫咲(きさき)ちゃん』。苗木くんにとって新キャラだね!」

「ランクにすると?」

「……〝C〟かな……使えるような、使えないような……そんな人。でも、元超高校級の御令嬢だからプライドが高くて、偉い立場の人には見えるんじゃないかな………あ、次はこれやろ?」

 

 と、七海は《モンスター・ハンティング》。通称モンハンのカセットをゲーム機にセットし起動する。

 

「そういえば七海先輩って……」

「ん~……待ってて、今クエスト選んでるから………これでいっか。で、何だっけ?」

「七海先輩って死んだんじゃ……江ノ島さんの日記に無駄に精巧な絵で描かれてたよ?」

「…………〝助けてもらった〟んだ」

「それって……カムクライズル?」

 

 一応日記にも彼がそこにいたことは書かれていた。と、不意に七海が苗木の頬をつねった。振り向けば、む~と頬を膨らませていた。

 

「カムクライズルじゃないよ。『日向創くん』だもん!」

「………日向先輩に助けてもらったんですね」

「多分」

「多分?」

「気づいたらご飯とゲームが用意された部屋に居て。怪我が治って外に出てみたらびっくりだよ……」

 

 苗木のサポートがあるとはいえ、片手で操作しながらモンスターを圧倒していく七海。苗木も観察しながら技術を覚えていく。

 

「よく日向先輩に助けてもらったってわかりましたね?」

「少しだけ覚えてるんだ。ベッドに寝かせられた時、私を抱えてたあの腕は、日向くんだよ」

 

 にへら~とだらしない笑みを浮かべる七海。苗木は好意を寄せてくる女子がこの程度だったら平和なのに、と思いながらモンスターの尻尾からアイテムを剥ぎ取る。

 

「ん?なら何で、七海先輩は雪染さんの秘密教えないの?」

「それも江ノ島さんの日記?じゃあ苗木くんも教えてないじゃん」

「……………」

「ま、教えてあげるよ。えっとね……日記に書いてあると思うんだけど……雪染先生達って、洗脳されたんだ…」

「…穏やかじゃないね」

 

 苗木がモンスターに大樽ボムを投げつけ生じた隙に七海が斬りつける。

 

「だから、洗脳が解く事が絶対に出来ないって解るまで秘密にしておくの」

「雪染先生のために?もし出来ないって解ったら?」

「やれば何とかなるって奴だよ!」

 

 とどめを刺しふんす、と叫ぶ七海。つまり、諦める気は無いと言うことだろう。

 

「だから苗木くん、秘密にしてくれるよね?ね?」

「ま、ボクが困ることでもないからいいけど………」

「うんうん。苗木くんはテレビで怖くなってたけど、やっぱり良い子だね……よしよし」

 

 苗木の頭を撫でながら満足げな顔をする七海は、ふと苗木の頭頂部に聳えるアンテナに目がいく。

 

「………日向くんもだけど、これどうなってるんだろう?」

 

 プス

 

「………………」

「…どうしました?」

「苗木くんのコレって………風間くんの髪の毛みたいなんだね。他の髪は普通なのに」

 

 七海は掌を擦りながら新たなクエストを選択する。今度はクエストのランクがかなり高くなった。腕を慣らしていたのだろう。

 

「七海先輩、よく支部長になれましたね」

「日本おじいちゃんと天願さんに頼んだんだ。保護されたことを秘密にしたいって……そしたら、誰の命令も聞かなくて済む支部長に……」

「なるほど」

 

 実質的支配者の宗方でも、あくまで第二支部支部長。七海と立場は同等だ。天願には逆らえない。今回わざわざ来たのは、天願が執拗なまでに秘匿する第十三支部支部長の正体を見ようとしたのだろう。

 

「私なんて、大したこと無いのにな」

 

 ヤマクイという巨大なモンスターの手足を斬り落としながらため息を吐く七海。苗木も手足を躱しながら、周りによってくる虫を切り裂く。

 

「嫌になっちゃうよ。江ノ島さんも、何で私を選ぶかなぁ…………」

「人気者だからでしょ?」

「私は雪染先生がいなくなったクラスを纏めようと頑張っただけだもん。本当はやることが終わったら、毎日放課後は日向くんとゲームしたかったのに………ちさ先生と日向くんのバカ!」

 

 ヤマクイがもの凄い勢いで斬り刻まれていく。プログラムとはいえ哀れ……。

 倒してもスッキリしないのか、七海は死骸をズバズバ斬っていく。苗木は巻き込まれないようにアイテムを剥ぎ取った。

 

「実はボク、未来機関抜けようと思うんですよね」

「へえ………あ、じゃあ私もついて行っていいかな?未来機関も手出しできなくなれば、雪染先生も私を殺しにこないだろうし」

「いいよ」

 

 ゲームをしながら、全く緊張感が無い様子で新たな組織の発足を伝える苗木とあっさり入る七海。

 

「あ、でも姫咲ちゃんは誘わない方がいいかも………彼女、苗木くんの事嫌ってるから」

「そんな!ボクみたいな人畜無害の羊のような人間に、嫌われる要素が!?」

「その羊の背中にはファスナーがついてるんだろうね。中にいるのは狼どころか狼男だね」


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