救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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機械少女は希望の夢を見るか⑩

「うわぉ、流石ぁ……」

 

 まさしく『死屍累々』という言葉が相応しい。苗木は積まれた絶望の残党の上に座りながら、見渡す限り横たわった絶望の残党を見下ろす。

 

「っく……仲間達がやられて、何も出来ずあまつさえ椅子にされるなんて……なんて絶望的なんだ」

「さて、それじゃあ中に入ろっか。別の場所から絶望が中に入ったかもしれないし……」

 

 苗木は座っていた絶望の残党達をキッチリ気絶させた後歩き出す。と、そこで気絶したフリをしていた絶望の残党が立ち上がり、〝ナイフ〟を片手に突っ込んでくる。

 

「!」

『させませ──』

「いいよいいよ。聖原クンともだいぶ仲良くなれて、こういうのも覚えられたし」

 

 聖原と希望ヶ峰がとっさに苗木を庇おうとするが、苗木は2人より一歩前に出て、何時の間にか握っていた〝ナイフ〟を光らせる。

 

「超バラバラ殺人」

「が!?………っあ………!」

 

 苗木の腕がぶれた瞬間絶望の残党の足がバラバラに、それこそサイコロステーキのように細かく切れる。

 勢いを落とす足もなくなり地面を転がる絶望の残党は、不幸なことに苗木の足下まで来てしまった。

 

「ひっ!?」

「ん、どうしたの?笑えよ、キミは絶望なんだろ?キミ達にとって神に匹敵する江ノ島盾子に誰よりも愛され、そのくせ江ノ島盾子を殺したボクが恨めしくて羨ましくて仕方ないんだろ?そのボクに、何も出来ず殺される。それって絶望的な事だよね?なら、喜べよ。絶望を受け入れろよ。それがキミ達『絶望』なんだからさ」

「い、いやだ!」

「…………」

「いやだ、いやだいやだ!死にたくない!消えたくない!お、俺は……周りに合わせてただけだ!た、頼む!助けて!」

 

 苗木ははぁ、と頭を掻くと無言で歩き出した。別に助けたわけではない。第13支部の内部に入る前にクルリと振り向く。

 

「人を殺す絶望が味わいたいわけでも、復讐で殺される絶望を味わいたいわけでも無く、〝周りに合わせるため〟だけに殺してきた。そのくせ『助かりたい』って……キミ……ま、運が良ければ誰かに助けられるでしょ。運が悪ければ、まあ失血死かな……」

 

 苗木はそう言って、絶望した男を置いて建物の中に入った。

 

 

 

 建物の中に侵入した絶望の残党は居るにはいたが少しだけ。聖原の『殺人鬼レーダー』で発見した人殺しを殺し、今回の絶望の残党が集まっている場所を見つけ、扉を破ろうとしている絶望の残党達を気絶させた。

 

「聖原クン、他に人を殺した奴の反応は?」

「………ありませんね」

「そ、じゃあとっとと開けよっか……」

「ふむ。ワシに任せなさい」

「うわ!?」

 

 何時の間にか苗木の後ろに立っていた、元超高校級の軍人『日本尊』がピッキング用と思われる道具を持っていた。そして近くには〝ダンボール〟が落ちている。あれに隠れていたと?まあ、実際は気配を周囲に同化させて移動していただけで、ダンボールを使うのはおふざけなのだろうが。

 

「ダンボールはな、万能なんじゃよ……」

「本人は自覚無しか。これも天才故の勘違いなのかな?」

「体を隠せば潜伏アイテム、顔にかぶれば変装道具。集めれば布団や家になるし、小腹が空けばいざとなっても食える」

 

 そういえばこの老人は『元フェンリル所属』だった。なるほど、あの2人に匹敵するほどの残念さだ。

 と、その時カチリと音が鳴った。

 

「開いたぞい。では、先方はワシが……」

 

 日本はそう言って扉を開け中に入る。と、その時──

 

「天殺竜神拳!」

「ぐわっぱ!」

 

 中にいた〝女性〟が、日本にアッパーを食らわせる。敵の気配がなかったから油断していたのだろう、見事に決まった。日本の体が浮かび上がり2、3メートルほど宙を舞い落下した。

 

「私の支部の人間に、手を出さないで」

「………先輩?」

 

 はたして天殺竜神拳なる技を使った人物は、苗木の記憶より身長が高く、色素の薄い髪も長く伸び、紺色の猫耳パーカーを着た【七海千秋】だった。

 

「……ん?あれ?……苗木くんだ。ひさしぶりだね」

 

 苗木に気づいた七海は苗木の頭を撫で始める。そして、あれ?苗木くんと一緒にいたなら今の人は……と七海が呟きながら振り返ると、日本は顎を擦りながら立ち上がっていた。

 

「あ、日本おじいちゃん!ごめんなさい!」

「よいよい、相変わらず元気だね七海や」

「………77期生は全滅したんじゃ?」

「そう思われていたが、彼女は生きておった……死んでもおかしくない傷を〝完璧に治療されて〟な」

 

 苗木の疑問に日本が答えたが、苗木は更なる疑問を覚えた。死んでもおかしくない傷を治療できるなど、それこそどこかのつぎはぎ医者のような名医か、或いは超高校級の医学者である薬師寺や保険委員であるとある先輩のような存在だと思われる。なら、その中の誰かが治療したのか……?

 

(……いや、後一人いるか)

 

 全ての才能を持つ『カムクライズル』。彼なら目の前の七海が死にかけていても、生きてさえいれば救えるだろう。

 

「そーだ苗木くん。髪の長い、赤い目をした根暗そうな人知らない?」

 

 絶対彼女の生存にはカムクラが関わっている。間違いない。とはいえどう答えたものかと迷っていると、〝電子生徒手帳〟がふるえる。見れば昨日登録したカムクラの名が。

 

『彼女に僕のことは黙っていてください。まだ、時ではない』

「……知りませんね」

「そっか、知らないなら仕方ないね」

 

 苗木の返答を聞き、七海は残念そうにため息を吐く。

 

「おお、そうだ七海よ。内部に侵入した絶望の残党および、外に攻めてきた絶望の残党の鎮圧は終わったぞい」

「………殺したの?」

「何名かは。すまんの……」

「ううん。わがまま言ってごめんなさい………」

 

 2人のやりとりを見て、苗木は七海が現状どう言った立場なのか理解する。わざわざ報告されるとは、つまりそういうことなのだろう。

 

「あ、そうだ苗木くん。改めて自己紹介。元超高校級のゲーマー・七海千秋、よろしくね。それと、私がここの『支部長』だって事は、ここにいる皆の秘密。……ね?」




機械少女は希望の夢を見るか編終了

ダンガンロンパ3でなかなか正体が明らかにならない第13支部の支部長が七海であることを切望して結局明らかにならなかったので登場させちゃった。反省も後悔もしていない。

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