救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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機械少女は希望の夢を見るか⑨

 早めに寝たら早めに起きるのは当然で、苗木は気分良く目が覚めた。今日は良い日になりそうだ……ったのだが──

 

「邪魔するぜ!」

「最悪な日になりそうだなぁ」

 

 扉が開け……壊され、元超高校級のボクサー『逆蔵十三』が入ってくる。鉄製の扉は歪んで二度と使い物にならないだろう。

 昨日カムクラが早く寝ろと言ったのはこれが理由だろう。分析能力に置いて、カムクラと苗木では持っている情報量が違うし、苗木は慣らすために時折使っているのに対し、カムクラは常時分析している。先読みはカムクラの方が上だったようだ。

 だが助かった。もし眠っていたら、殺気を隠そうともしない逆蔵に蹴り起こされるか殴り起こされるかしていただろう。

 

「何ぐずぐずしてやがる。さっさとついてこい」

 

 何も言っていないくせに固まっている苗木に文句を言って腕を掴もうとしてきた逆蔵だったが、その腕は苗木以外の者に掴まれる。〝希望ヶ峰〟だ。彼女は逆蔵の手首を掴んで逆蔵を睨む。

 

「あ?……てめえ、ポンコツロボ……なんで動いてやがる?」

『ポンコツロボではありません。《希望ヶ峰魅例》です。マスターに如何なる理由があって危害を加えようとしたのでしょうか?』

「……昨日迷った時たまたま隠し通路を見つけて、彼女を発見した時、希望ヶ峰学園から持ってきた本に彼女について書かれているのがあったのを思い出しまして」

「はん、大した幸運だな……って、んなこたぁどーでも良いんだよ。早くしろ」

 

 突然やって来たくせに何を言っているんだろうこの男は、ついていくけど。

 

 

 

 あれよあれよと言う間に苗木達はヘリの中に居た。ついてきた聖原と希望ヶ峰を左右に座らせ、向かい側には逆蔵、宗方、柊が座っている。

 

「で、これはいったい何です?」

「逆蔵から聞いてないのか?」

「何一つ……」

 

 苗木の返答に宗方がはぁ、と長いため息をつき、ジロリと逆蔵を睨む。逆蔵は捨てられそうな犬のような目をしていたが、そのまま数秒睨んでいると顔を赤くして目をそらした。

 

「怒るな。お前の失態だろ……」

 

 怒っているのではないと思うが黙っとこう。おもしろいし……。

 

「苗木誠。お前は絶望も救いたいと言ったな」

「全てではありませんが、言いましたね」

「それはお前が絶望を知らないから言えることだ。見せてやる。お前が救おうとしている者達が、どれだけ害悪となるか」

「…………………」

 

 

 

 

 未来機関第13支部。主な活動は『復興の遅れている地域への食料物資の供給』。そこを攻められれば多くの餓死者が出るだろう。故に狙われた。

 沢山のモノクママスクをかぶった老若男女が第13支部に進入しようとしていた。

 

「死を!恐怖を!江ノ島盾子に捧げる絶望を!」

「絶望を!絶望を!」

 

 死してなお……いや、死んだ後だからこそ神格化された江ノ島盾子に多くの贄を捧げようとする一部の絶望達は、未来機関に打撃を与え尚且つ多くの死者が出る方法を選んだ。

 絶望達に躊躇いはない。人を殺すことに、人を不幸にすることに、何せ他の人間もやっているのだ、自分達だって良いはずだ。そういう、洗脳に近い民意。だが民意は大勢の中の一人という安心感があるから意味をなす。半数以上が止まれば当然全員が止まる。

 

「おっとと……」

「「「!?」」」

 

 グシャリと音が鳴り前の方にいた絶望の数人が、上から降ってきた〝少年〟に踏みつぶされた。ぐしゃぐしゃに歪めば当然骨が飛び出るのだが、上に降りた少年には欠片も骨は刺さっていない。

 

「……ふう、びっくりした……素人がいるヘリのハッチを開けるかな、普通」

 

 上を見れば三階程の高さにヘリが滞空していた。

 そしてすぐ上から降ってきた人物を見れば、かわいらしい顔立ちに青と緑の目、アンテナのようなアホ毛を持った少年が『足下の死体』に気づいた。

 

「……どこの誰か知らないけど、運がないねキミたち。……まいいや、おかげで助かったよ」

 

 ベシャベシャと、まるで雨が降った後の泥道を歩く程度の気軽さで血溜まりの上を歩き絶望達が道をあける。何時の間にか少年を中心に空間ができてきた。

 

「ああこれは違うんだよ。ヘリのハッチが突然開くものだがハッチの側にいたボクはつい落ちちゃって、なんとか衝撃を減らして着地しようとしたら下に彼らがいただけなんだ。故意じゃない、だからボクは悪くない」

「苗木……誠!」

 

 絶望の誰かが叫ぶと同時に、新たな二つの〝影〟が降りてくる。一人は目つきの悪い男、一人は人形のように無表情の女だ。名を呼ばれた少年、苗木が上を見上げるとヘリが離れていく。

 

「『その程度で死ぬ輩でもないだろう』って言ってましたよ」

「無理矢理連れてきといて酷い扱いだ」

 

 男の言葉に苗木ははぁ、とため息をついた。だが、ある意味いなくて良かったのかもしれない。苗木は周囲で跪く数名の絶望を見ながら思った。

 

「ありがとう、私たちから江ノ島盾子()を奪ってくれて」

「ありがとう。俺達に大切なモノを壊される絶望を教えてくれて」

「うんうんそうだよ。それでこそ『絶望』だ。うん、合格」

 

 そんな絶望の反応に、苗木はうんうんと満足そうに頷く。と、一人の絶望がバットを振り下ろしてくる。

 

「苗木誠!江ノ島盾子の敵だぁぁ!死ね!死んで絶望しろ!」

「…………ああん?」

 

 苗木は途端に不機嫌そうな顔になり男の顔面を蹴りつけた。モノクママスクを潰し、男の鼻の骨を折る音が聞こえ、首あたりでゴキリと音が鳴る。

 

「……あ、つい……まあ今のは正当防衛だよね。……聖原クン、希望ヶ峰さん……仕方ない時以外は出来るだけ殺さないように殲滅するよ」

「はい先生!」

『かしこまりましたマスター。マスターも護身用にどうぞ』

 

 苗木は希望ヶ峰から『拳銃』を受け取ると、自分に憎悪の念を向けてくる連中に向けた。


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