救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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機械少女は希望の夢を見るか⑥

「希望ヶ峰学園の人工天才プロジェクトの被験者になり一回休み」

「殺人鬼の情報をいち早く気づく。2マス進む…」

『………未来機構からのスカウト。各ターンごとに所持金二万追加でちゅ』

「ボクは……未来機構No.2に目を付けられた。五回先まで出た目の半分進む」

 

 4人はルーレットを回しながら駒を進めていく。

 一体何処の会社が作ったのやら、何気にこの場の人間にとってはリアルなマスばかりだ。しかも今のところ誰も止まってないが、事故死、病死など死に関するマスもある。

 コンセプトは、人間何時死ぬか解らない………。

 

「適当に選んだんだけど……」

「ある意味『幸運』ですね」

「それってボクの?それともカムクラ先輩?」

 

 苗木は6を出し3マス進みながら尋ねる。確かにこのゲームには超高校級の幸運と、幸運の才能も持っている人間が参加している。この場合、どちらの幸運に引き寄せられたのだろう?

 

「ま、どっちでも良いけどね……あ、占い師の借金を押し付けられる、か……」

「人工天才プロジェクト成功。出した目の数の倍進む………絶望の乙女と接触、一回休み」

『って、これは一体何でちゅか───!?』

 

 月光ヶ原の車椅子からアームが飛び出て机をひっくり返す。カムクラはすぐさまボードを落ちないように受け止め、駒を元の位置に来るようにボードでキャッチする。

 

「「何って、人生ゲーム……」」

『そういうことを聞いてるんじゃありまちぇん!何であたちにキ、キ……〝キス〟をしといて平然とゲームを始めるんでちゅか!』

「でも取り敢えずやってくれる月光ヶ原さんって、結構優しいよね」

 

 キスの部分で月光ヶ原本体も赤くなり俯きながら、ディスプレイのウサギ──《ウサミ》と言う名らしい──が文句を言ってくる。

 

「実はボク、月光ヶ原さんについては未来機関に来る前から少し知ってたんだ。何せ『教え子』から聞いてた事だから」

『……モナカ……』

「そ、月光ヶ原さんとは種違いの姉妹で、キミが〝見放してしまった妹〟……」

『み、見放してなんか!』

「少なくとも、モナカちゃんはそう感じてた……」

 

 苗木の言葉に押し黙る月光ヶ原。その表情は悲痛なモノとなり、両手をギュッと力強く握った。

 

「モナカちゃん曰く『二度と私の前に姿を見せるな!って言ってやった……』との事………察するに、その事がトラウマになって、妹と同じ声を発するのが出来なくなったってところかな?」

『それが解っていながら、何であたちに無理やり声を出させたんでちゅ!?』

「今の内に慣らしとかないと、〝妹〟に会った時大変でしょ?」

『………どういう事でちゅか……?』

 

 月光ヶ原は苗木に責めるような視線を向けていたが、その言葉に固まる。そして聖原は、花火の打ち上げ筒の中に落ちて一回休みになっていた。

 

「そのまんまの意味。ボクは月光ヶ原さんとモナカちゃんを会わせる気なんだ♪」

『で、でもあちしは………!』

「一度否定されたからって逃げ続けるの?」

「ッ!」

 

 俯く月光ヶ原は、しかし何も言い返せない。

 

「……家族なんだ、仲良くしなよ。……モナカちゃんが君を否定したのだって、大好きだからこそ嫌いになったんだ。最初から嫌いだったらあんなに怒ってないよ」

『でも………いえ、そもそもあたちは今自由に動ける立場では……』

「なら、【ボクの組織】に来る?」

『……………え?』

「実はボク、未来機関抜ける気なんだよね。最初は見定めようと思ったけど……実権握ってるのが宗方さんじゃあねぇ……あ、月光ヶ原さんの番だよ」

 

 苗木の爆弾発言に唖然としていた月光ヶ原は、慌ててルーレットを回す。

 

『………未来機構総統が妹を未来機構に潜入させて混沌な状況を作るために、首を180°ねじ曲げられ殺される。振り出しに戻る……何でちゅかこれー!いや、それよりさっきの……』

「?」

『未来機関を抜けるって……本気なんでちゅか?』

「真面目と書いて『マジ』と読む」

「つくづく予想を上回ってくれますね。しかし困りました。僕としては月光ヶ原さんと苗木君は〝同じ組織〟にいるのが望ましいのですが」

「じゃあ月光ヶ原さん引き入れるの手伝ってよ……コロシアイゲームで嘗ての仲間が死ぬ、一回休み」

 

 未来機関の職員が聞いたら一騒動起きそうなことを話すカムクラと苗木。月光ヶ原は冷や汗を流して2人を見つめる。

 

「手伝いですか………では月光ヶ原さん、アナタの妹である塔和モナカは『絶望の残党』です。苗木君が未来機関から抜ければ、未来機関は絶望の殲滅を躊躇しないでしょう。ですが苗木君の設立する組織なら、妹が殺される心配はありません」

「誰が脅せと………」

『ぜ、絶望の残党?……モナカが?……それって本当なんでちゅか!?』

「事実です……そして助ける方法としては、未来機関を抜けるか、未来機関を作り替えるしかないでしょう」

 

 だから誰が脅せと言ったのさ、と苗木はカムクラを呆れた目で見ながらも、月光ヶ原の答えを待つ。月光ヶ原は視線を泳がせながら答えに詰まっていた。

 

『少し……考えさせてくだちゃい』

「いいよ」

「未来が見えないのであれば、良く考えてから選んだ方が良いでしょう。………未来機構のアニメーターを仲間にして新たな旅へ………希望はここから始まる…………〝上がり〟です」

 

 

 

 一位カムクラ、二位苗木、三位聖原、四位月光ヶ原で人生ゲームが終了した後、部屋には苗木達男子だけが残った。

 

「彼女は来ますかね?」

「来るでしょ。カムクラ先輩があれだけ脅してたし」

「脅したつもりはありませんが来るでしょうね」

 

 聖原の問いに、苗木とカムクラが人生ゲームを片付けながら答える。月光ヶ原は間違いなく、苗木の立ち上げる予定の組織に来るだろう。

 

「にしても先生は、未来機関を抜ける気だったんですね」

「まあね」

 

 と、その時ノックもなく扉が開き誰かが入ってきた。やってきたのは『柊』だった。

 

「【話】は扉越しに聞いています。よろしければお力に───」

「それは違います。聞けたのではく、聞かせてやったのです」

「最初っから居るのに気づいてたよ~」

 

 苗木とカムクラは、突然の訪問者に大した興味も抱かずに片付けを終える。

 

「そ、そうですか……ではその……未来機関を抜ける手伝いを……」

「待て、何故あんたが先生の味方をする?あんた、急進派の宗方の側近だろ?」

「ええ、ですが私は……『超高校級の絶望』でもありますから」

「…………あ?」

 

 柊のその言葉に、苗木は殺気全開に柊を睨んだ。


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