救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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イキキル(非)日常⑧

『オマエラ、おはようございます!朝です──』

(……もう朝か)

 

 朝の放送を聞きながら、苗木は目を開く。

 

「おはようございます、苗木君♪」

「…………………」

 

 そして眼前には、満面の笑みの舞園の顔があった。もし何時ものように上体を起こしていたら、唇と唇が触れ合っていただろう。

 

「……舞園さん、なんでいるの?」

「苗木君、鍵はきちんと閉めないと駄目ですよ?」

「みんなを信じてるからね」

 

 何故か無断で侵入している舞園に叱られた。

 ちなみに舞園に言った言葉は半分本心で半分嘘だ。誰かが来ても、あんな経験の後なのだ、気配はともかく殺気を感じれば目を覚ます。

 

「じゃあ、これからも鍵は開けておくんですか?」

「まあ、うん……」

 

 それに鍵を開けておいた方が、狙いがこちらに向くかもしれない。

 枕下のナイフを確かめてから舞園の肩に触れると、舞園は素直に退いてくれた。

 

「じゃあ、これから毎朝起こしに来ますね!」

「暫く貧血が続くだろうし、お願いするよ」

「はい♪」

 

 苗木がブレザーとパーカーを着て立ち上がると、舞園が右手に抱きついてくる。歩き難いことこの上ない。何故抱きついてくる………。

 

「転んだら大変ですもん」

「声に出てた?」

「エスパーですから……」

「……………」

「冗談です。ただの勘です」

 

 本当に、何か超能力でも持っているんじゃないだろうか。

 まあ、確かに貧血気味でまだ頭が冴えない。転ぶよりはましか。

 

「じゃ、頼むね」

「~~♪」

 

 苗木に頼られたことが嬉しいのか、舞園はギュッと腕を抱く力を強くして鼻歌を歌いだした。苗木はベッドの下からニヤニヤ見てくるモノクマを睨んだ後、部屋から出て行く。

 

 

 

「おはよう2人とも!──む?仲が良いな」

「苗木君が貧血らしくて、肩を貸しているんです」

「そうか。苗木くん、鉄分をしっかり取りたまえ!」

 

 それで良いのか、風紀委員。

 と、苗木が殺気を感じ振り向くと、桑田が鬼のような形相で睨んでいた。舞園も桑田に気づき笑みを向ける。

 底冷えするような冷笑だが、桑田は気づかず顔を赤くしていた。そのおめでたさが今回は羨ましい。

 

「おはよう!─あれ、苗木?眠そうだね?」

「貧血気味ってのもあるし、昨日は直ぐに眠れなくてね」

「私もあの映像見て怖くてさ、さくらちゃんに無理言って、泊まってもらったんだ」

「不健全ではないか…!男女が…1つの部屋に泊まるなど…!」

「我は女だが…?」

「し、失礼した…!」

 

 石丸は大神に謝罪する。大神を男と言ったことで逆鱗に触れることを恐れて……ではない。自分の非礼を心から詫びている。

 それにしても、桑田が居るのは予想外だった。前回は居なかったが………考えてみれば、超高校級の野球選手だ。朝練もあり、早起きが身についていてもおかしくない。前回は、舞園を殺した後で寝付けなかったのだろう。

 

「おや?まだ揃っていないな…?」

「十神クンが来てないね……」

「寝坊でしょうか?はい、苗木君あーん…」

「……1人で食べれるよ」

「嘘ですね。右手、怪我してますもん」

 

 どっかのアイドルのせいでね。

 苗木は仕方なく、舞園が差し出した朝食を食べる。

 

「む!そこの二人!まだ揃ってないのに食事を始めるとは何事か!」

「十神君を待ってて、苗木君がお腹空かせたらどうするんですか!」

 

 と、石丸の非難に逆に怒る舞園。別に苗木は今、腹減ってないんだが。

 まあ言うだけ無駄だろう。

 

「……どうした?何かあったか?」

 

 と、そのタイミングで十神白夜がやってきた。コロシアイ学園生活という状況の中、遅れながらも現れた十神に、ホッと周囲が安堵するのがわかる。

 舞園は十神の声に反応を示さず、苗木に食事を与えているが。

 

「おはよう十神クン」

「話しかけるな」

「…………」

「ストップ舞園さん」

 

 苗木の挨拶にふん、と鼻を鳴らし目を合わせない十神に、舞園が苗木に言われて護身用にしていた包丁(苗木の血液付き)を取り出そうとしたので小声で止める。

 舞園は十神と苗木を交互に見た後、包丁を取ろうと背に回した手を引っ込めた。

 

「…………」

 

 恐ろしいな。今、苗木は黒幕だけでなく、生徒全員とは言わずとも霧切や十神、セレス。そして恐らく、腐川辺りにも警戒されているはずだ。

 誰も死んでない時点で葉隠はいまだイベントと思っているだろうし、桑田は疑うより嫉妬に忙しい。大神は……不明だ。現時点で黒幕と繋がっていなければ疑ってるかもしれない。石丸は現状、誰かを疑うことはしないだろう。朝日奈、単純。山田、二次元にしか興味ないからこそ、アイドルと仲のいい平凡な人間という漫画の人物みたいな苗木の観察に忙しそうだ。

 

「それにしても、一晩で随分仲良くなってるのね」

「別にそういうわけじゃ──」

「はい!私と苗木君は仲良しです♪」

 

 霧切の探るような言葉に苗木が反応したが、その前に舞園が首に手を回してくる。桑田からの殺気が強まった。

 

『あー、あー。校内放送、校内放送です。全員体育館に集合して下さい』

 

 と、そのタイミングでチャイムが鳴り響き校内放送が流れる。苗木の記憶になかったイベントだ。

 まあおそらく、《学級裁判》についての報告だろう。

 

 

 

「今日オマエラに、素敵な学園システムをお知らせします。システムって良い響きだよね。クマと同じぐらい危険な匂いを孕んでるからね!」

 

 体育館に集まるなり、モノクマが訳の分からない言葉を聞かせてくる。が、その後漸く学級裁判の詳細を解説した。

 生き残りたくば、殺した後も殺したことをバレないようにしろという通達。そして、卒業する際に〝卒業する生徒以外は皆殺し〟と言う事実。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

 モノクマの説明は続き、話が『オシオキ』という名の処刑についての説明になった時、前回同様、江ノ島が歩み出る。

 

「アンタの言ってる事って……無茶苦茶じゃない!!」

「んあ?」

「私はぜってーやんねーからな!」

「なんとっ!学級裁判に参加しないですとっ!そんなこと言う人には罰が下るよ!」

「は?罰……?」

「暗くてコワーイ牢屋に閉じこめられちゃったり……しちゃうかもね…」

「うるせーんだよッ!!なんて言われようと私は絶対参加しねーからッ!」

 

 前回と同じ、彼女だけが最終的に待つ罰を知らない予め決められた言い争いをする。

 苗木は周囲に目を走らせると、注意して見れば板の質が違う床を見つけることが出来た。

 

「あ、モノクマさんが踏まれた」

 

 不意に聞こえた舞園の声で意識を江ノ島達に向けると、既にそこまで進んでいた。苗木は舌打ちを一つして歩き出す。

 

「苗木君?」

「舞園さん……ステイ」

「はい」

 

 付いてこようとした舞園に止まるように指示すると、舞園は笑顔で立ち止まる。

 

「学園長ことモノクマへの暴力を禁ずる。校則違反だね……」

 

 苗木は近づきながら思考する。彼女をどうやってその場から動かすか?

 敢えて言おう、苗木誠は非力である。女子に二度も押し倒されるという経験をするほど。超高校級達との生活の記憶が戻った苗木なら、一般人の攻撃程度なら避けられるが、槍は無理だ。となるとやはり、彼女自身その場から退いてもらうほか無い。

 

「召喚魔法を発動する!」

「ッ!………あ……」

 

 モノクマの宣言に慌てて駆けだし、しかし足に何かが引っかかり、ガクリと倒れる。

 ほどけた靴ひもを踏んでしまったようだ。

 

「助けて!グングニルの槍っ!!」

「うわあ!」

「ッ!?」

 

 モノクマの叫びと苗木の叫び、そして転がるような体勢で(実際転んでいる)迫ってくる苗木に江ノ島が気づいたのがほぼ同時。

 江ノ島は女子高生とは思えぬ反応速度で飛び退き、苗木が江ノ島の代わりにモノクマにのしかかり、その上スレスレを槍が通過した。

 グングニルの槍による負傷者、0人。


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