Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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一章十話前後とかほざいてましたが普通に無理です。


第八節『森に狂気と笑顔はありて』

 

 

「――――ん」

 ――ふと、目が覚めた。

 慣れない場所だ。少々寝難さから、目覚めたのはまだ暗い頃だった。

 パチパチという焚火の音は寝る前から、絶えず鳴り続けているようだ。

「あれ? どしたのハクト?」

「……いや、少し目が覚めた」

 火の番はジークフリートとブーディカが担当してくれるとのことだが、現在はブーディカの時間らしい。

 ジークフリートは用意された椅子に腰掛け、静かに目を閉じている。

 対してブーディカは薪を片手に、微笑んで此方を見ていた。

「ま、分からなくもないかな。野宿は初めてでしょ? 大体の人は寝付けないって」

 苦笑するブーディカ。

 経験談によるものだろうか。もしかすると、彼女の統率していた兵たちの話かもしれない。

「例外はいるみたいだけど……ね」

 視線を移すと、そこにはメルトとアルテラが眠っていた。

 先ほどまでの諍いが嘘のように、向き合って寝転がっている。

 普段のメルトからすれば、信じられないことだ。

 メルトは出会って数日の人物と打ち解けられるような性格ではない。

 それに例外を作ったのは、やはり二人の間で眠る小動物が原因だろう。

「……フゥゥ」

 やはり何処か、普通と違う寝息を立てるキャスパリーグは、観念したように二人の腕の中に納まっている。

 眠る前にキャスパリーグがどちらに抱かれるかという、一触即発の戦いがあったのは言うまでもない。

 結果として、レオが提示した妥協案がこれだ。

 当然不満を並べた二人だが、結局こういう形で収束した。

 ……にしても、気配遮断の術式を紡ぎながら眠るとは、器用な動物である。

「案外仲良くなれるかもね」

「キャスパリーグが常にいれば、だけど。多分二人の相性は悪いと思うな」

「確かに。メルトって仲良い人、いるの?」

「……」

 ――さて、どうだろうか。

 姉妹であるリップ、アルターエゴらとの相性など言うまでもない。

 共闘こそあれど、基本的に相容れない関係だ。

 BBや桜とも、仲が良いという訳でもない。

 強いて言えば……

「二人、かな」

「あ、いるにはいるんだ。きっと凄く良い人なんだろうね」

 良い人、か。

 そうかもしれない。

 どちらも、自己中心的の極みにあるような存在だが、メルトの友人と言える二人だろう。

「まあ、良い人だよ。……結構厄介だけど」

「……苦労してそうだね」

 はは、と苦笑しつつ、ブーディカは火に薪を放り込む。

「……マスターが君らで良かった。万が一にも、敵側じゃなくて」

「え?」

「君らがあたしを召喚したおかげで、こうしてこの国を守る立場になれた。ありがとね」

 ブーディカは藪から棒に、そんなことを言い出した。

 マスター――正しい意味ではないが、召喚者というならば合っている。

「いや。召喚に応じてくれたのはブーディカだ。此方こそ、ありがとう」

 力が必要とは言っても、強要は出来ない。

 いや――出来なくはないが、生憎、それを出来る性格ではない。

 だから、この異変を解決せんとする意思を持った英霊を喚んだ。

 死した後の要請に応じてくれたブーディカにこそ、感謝するべきなのだ。当然、彼女だけでなく、立ち上がった英霊やマスターたちにも、だが。

「こっちこそ――と、はは、ループになるね。でも、本当に感謝してる。復讐者なんてものに祀り上げられたあたしを許容してくれる、君たちの心の広さに」

「……祀り上げられた……?」

「そ。正しいあたしは“人”に属す英霊。だけど、復讐心に歪んだあたしは違う。本当のブーディカじゃなくて、怒りを糧に彷徨う悪霊が信仰されたブーディカの贋作みたいなものなの」

 ブーディカは晩年、ローマへの怨念から血塗られた復讐鬼と化した。

 その復讐は果たされることなく、無念のままにブーディカは散る。

 後年、英国では憎悪のままに戦車を駆るブーディカの亡霊を見たという噂が後を絶たなかったという。

 アヴェンジャーとして召喚されたブーディカは、その伝承が英霊化したものなのか。

 即ち――。

「……“地”の英霊」

「正解。ブーディカの堕ちた最期だけを全部にした伝説の上で走り続けた悪鬼。だから、あたしが救国に立てるのは奇跡を超えた奇跡なの」

 ――――英霊は、その出典や成り立ちから三つの属性に分けられる。

 一つ、“人”。歴史の上に実在した、人類史を創り上げてきた英霊たち。

 レオと契約したアルテラや敵方のシャルルマーニュなどが該当する。

 一つ、“地”。文化の内に発生した、人に語り継がれてきた英霊たち。

 神話や叙事詩、物語の中の英雄だ。

 円卓の騎士はこの属性の筆頭とも言える勇者たちであると言えよう。

 一つ、“天”。文明の外で俯瞰する、天上の存在から成った英霊たち。

 該当するのは女神(ハイ・サーヴァント)や神性を持つ英霊など少数だ。区分で言えば、女神を内に秘めたメルトもこれに該当する。

 ブーディカは、間違いなく実在した女王であり、“人”でなければならない英霊だ。

 だというのに、“地”の英霊として召喚された異質。それは、ブーディカ自身が一番理解している。

 しかし、それでも――その悪鬼の身で、この国(ブリタニア)を救えるなら、それ以上はないと。

復讐者(あたし)が、皆とゴハンを食べて、笑ってられる。英霊の役割で言えば本末転倒だけど、あたしにはそれが嬉しくてしょうがないんだ」

 まるで子供のようだ、と照れ笑いを浮かべるブーディカ。

 本来の『ブーディカ』は、彼女にとって実感のない記憶のようなものなのだろう。

 そんな、復讐心しか知らない筈の自分(ブーディカ)が、人並みに笑えるのは奇跡だとブーディカは言う。

 あり得ない感情であっても、ブーディカにそれが芽生えたことは――僕は、とても好いことだと思う。

 こうして、皆の為に笑うことが出来る姿こそ、在るべきブーディカであるのだろうから。

「――」

『……ぁ、ぇ? この反応……』

 ブーディカが目の色を突如変えて数秒、仮眠を取っていた白羽が目覚める。

「白羽? 何が……」

「サーヴァントだ。敵かどうかは分からんが」

 目を閉じていたジークフリートも、何時の間にか目を開きブーディカと同じ方向を見ていた。

『数は、一……空間内の観測範囲外なのに……』

「この距離なら殺気を放てば嫌でも気付く。相手がどうして分かったのかという疑問はあるが」

 この空間内に入ってから、ムーンセルからの観測範囲が狭くなっている。

 サーヴァントがいるのはその外らしい。

「……どうする?」

「行くしかないでしょう。どうせこっちに向けた殺気なら、この距離で戦いを避けるのは難しいわ」

「……メルト」

 メルトとアルテラも目覚めていた。

 レオとキャスパリーグも、尋常ならざる雰囲気を感じ取ったらしい。

「フォウ! フォウ!」

「喚くなキャスパリーグ。私が傍にある限り、お前は脅かされるどころか危険に寄り付かれもしない」

「――セイバー。キャスパリーグを此方に。何時でも剣を振るえるようにしていてください」

「……むぅ。分かった。頼むぞレオ」

 瞬時に状況を理解したレオがアルテラに命じる。

 敵方にもサーヴァントがいることは、既にわかっている。

 殺気を放っている以上、この反応が敵である可能性が高い。

 キャスパリーグが隠蔽の魔術を解くと同時に焚火を鎮火させる。

 一時の休憩は終わった。

「白羽、距離は?」

『一キロ、強……。森の中での接触になる、けど……』

「……まだ朝弱いんですか、ミス黄崎」

『否定はしない、けど……一応、まだ夜だし』

 目覚めて数分。白羽が本調子に戻るのは随分先だ。

 まあ、最低限のオペレートをしてくれれば問題ない。

 夜明けにはまだ早いが、出立だ。

 

 

 隠蔽の魔術を解けば、僕たちは森に迷い込んだ旅人と変わらない。

 夜は獣の時間。こんな時間の迷い人など、格好の獲物だろう。

 此方の存在を察知した獣を何度か撃退し、間もなくサーヴァントと接触する。

「……これは」

 血の臭い。

 僕でも分かるほどに濃密なそれは、サーヴァントの方向から漂ってくる。

 相変わらず、殺気は此方に向けられている。

 一体何が起きているのか。戦闘が発生している訳ではないようだが――

「――見えた」

 先程休んでいた場所のように、少し開けた場所に、そのサーヴァントは立っていた。

「おう、早いな。てっきり朝まで寝てるかと思ったが」

 小さな歓喜を含んだ、挑発的な第一声。

 数匹の獣の死骸。血溜まりの中に立つ男。

 筋肉隆々たる浅黒い肉体はどこもかしこも深い傷に抉られている。

 両の腕を鎖で繋ぐ異相。

 この森の獣たちと同じ、獰猛な瞳。

「よく言う。あれほどの殺気を向けておきながらおちおち休んでいる訳にもいくまい」

「お? そうか? 別に寝てるなら取って食いもしねえ。待ってるつもりだったが……」

 積極的に戦うようなことはない、ということだろうか。

 そう考えたのは一瞬だった。

 絶対に違うと、その瞳を見れば否が応にも理解できる。

「何故、僕らに気付いたのです?」

 レオの問いに、サーヴァントは肩を竦めて答える。

「火の臭いには敏くてな。小細工を弄していたみたいだが、こちとら英霊だ。嫌でも感じ取れる臭いはある」

 凶暴性を隠さない笑み。

 血に濡れたその姿は、周囲の残骸も相まってひたすらに猟奇的だ。

「で、待ってる間こいつらが襲ってきたから始末して、待ちがてら焼いて喰おうとしたんだが……お前らも喰うか?」

「は?」

 明らかに此方を誘うべく、殺気を放っていた者の言葉とは思えない。

 ごく自然に、男は提案してきた。

「……食べるの? これ」

「あ? いや……そりゃ、喰うだろ。腹減って、喰えるものが傍に転がってんだから。ゲテモノだろうと美味いモノは多いぜ。例えばアレだ、竜」

「ッ!? 竜を食したのか……?」

 驚愕は誰しもが持ったものだが、特に言葉に出したのはジークフリートだった。

 当然だろう。彼が生前、竜に最も縁深かった。

 竜殺したるジークフリートならば、見逃せる話ではないのかもしれない。

「死に際に一回だけだがな。まあ、俺にとって竜は厄ネタだし、二度と会いたくもないが」

 ……豪胆な英雄もいるものだ。

 口ぶりから察するに、死の間際、災難の要因となった竜で最後の食事と洒落込んだらしい。

 如何に、竜を前にして死ぬことがあっても、それを食べようとは思わない。

 英雄特有の感覚というものなのだろうか。

「それで、其方の要件は?」

「そりゃ戦いだろ。怪しいモン全部殺せばいい。間違ってるか?」

「……もしかして君、バーサーカー?」

「おうよ。もしかしなくてもバーサーカーだ。大して理性も飛んでねえがな」

 なんともバーサーカーらしい結論だ。

 ……その結論から言うと、僕たちも殺すべき対象のようだ。

「……待ってくれ。僕たちは――」

 事情を話す。

 バーサーカーながら理性のあるサーヴァントならば、理解は出来よう。

 戦うべき存在は別にある。

 僕たちはそれを払うために、此処にいると。

「――そうか。じゃあ、お前らに付いていけと?」

「ああ。力を貸してほしい」

 この時代の異変を解決すべく召喚に応じたならば、協力してほしい。

「……悪いな。先約がある。だからテメエらを呼んだってのもあるが」

「ッ――」

「昨日英霊の二人組に声を掛けられてな。先についた義理をふいにするほど薄情でもねえ。諦めて死んでくれや」

 ――遅かった。

 二人組の英霊……恐らくはシャルルマーニュとクリームヒルトによって、既に黒竜王側についていたのだ。

「……事件の元凶はその英霊側です。それでも、其方につくのですか?」

「ああ。正直なところな、世界の危機なんざどうでも良い。喧嘩が出来りゃあな」

 そしてこの瞬間、サーヴァントの目は完全に此方を獲物として定めた。

 ジークフリートが、ブーディカが、アルテラが、メルトが、警戒から戦闘態勢に移る。

 全員が見据える中、サーヴァントは持っていたナニかを投げ捨てようとして――

「――ストップ!」

 メルトがそれを制止した。

「あ?」

「貴方……持っているそれは?」

 何に注目しているのか。

 確かに気付いてはいたが、暗くてよく見えなかった。

 てっきり獣の臓腑か何かだと思っていたのだが……メルトは何故か、それを捉えた。

「これか? さっき転がってるのを見つけてな。使い魔か魔道具の類だろ。欲しけりゃくれてやるよ」

 サーヴァントが放り投げてきた“それ”を、メルトが受け止める。

 覗き込むと、それは――

「……え?」

「……ハクトさん、ですか?」

 ……どういう感想を持てば分からないが。

 微妙にデフォルメされて縮小した、僕らしき人形だった。

「お、よく見りゃお前さんじゃねえか。なんだ、お前の使い魔か? 何つうか、容姿は悪くねえが趣味が悪いな」

「いや、覚えがないんだけど」

 しかし、まったく無関係とは思えない。

 他人の空似という可能性もなくはないが……そもそも、そんなものが何故こんなところにあるのだろうか。

『……確かに、大したものじゃないけど、魔力を感じるね。使い魔にしては微弱すぎるし……なんだろこれ』

「何でもいいわ。それよりこれ、本当に貰って良いのよね? 撤回は効かないわよ?」

「お、おう……?」

 あまりに剣幕に、男も一歩後じさる。

「最高よ。素晴らしいわ。一年……いえ、五年に一度の傑作。どうかしら、ハク!」

「え、あー……うん。いや、でもそれ」

「きっと日本最高の造形師の仕業に違いないわ。アルター? アルターかしら!? まさか新作発表会で未公開のサプライズ製品!?」

「メル」

「多少デフォルメされてるけど、十分許容範囲。何よりモデルがハクなのが気に入ったわ。アルターでないなら、今すぐ製作会社を調べないと。贔屓にしてあげる。なんならスポンサーになっても良いわ。こんな事件の最中に、こんな出会いがあるなんて! ああ、もう――!」

「メ」

いい笑顔(グッドスマイル)! 何度でも言うわ! ――いい笑顔(グッドスマイル)ッ!!」

 夜の森に響き渡る、探求者(マニア)の叫び。

 事件の中に居てもお構いなしに、メルトの趣味嗜好は発揮される。

 人形をこよなく愛する性質は、この場の誰もが茫然とするものだった。

「……趣味を見つけたのですね、メルトさん」

「いや、レオ。あの時からずっとこうだったよ」

 これから殺し合いを始める空気とは思えない。

 呆れ果てながら、敵サーヴァントは溜息を吐く。

「なあ、始めていいか……?」

 いつしかサーヴァントは両手それぞれに剣を握り込み、戦闘態勢を作っていた。

「あら、もう少しこれを見ていたいのだけど。邪魔しないでもらえる?」

「お前そっちのが重要なのな!?」

「メルト。今は自重して。強敵だ」

 メルトを諭すと、暫く逡巡した後、渋々と頷いた。

 ……真面目にすべき時は真面目になってくれないものか。

 人形を抱えたまま、メルトは脚具を纏う。

 まさかこのまま戦うつもりか。いや、脚による攻撃を重視するメルトならあまり問題はないとは思うが。

「まあ、良い。触れるだけで折れちまいそうな細腕だが、こちとら容赦はしねえぞ」

 サーヴァントの数だけでも四対一。

 敵サーヴァントの不利は明らかだが、それでも退く様子は見られない。

 それほどに自信があるか、或いはそれでも構わないという戦闘狂(バトルジャンキー)か。

「どれだけ数がいようが関係ねえ。このフルンディングとネイリングの錆になりなァ!」

 自ら明かした二つの剣の名は、真名に辿り着くのに十分な材料だった。

 ジークフリートと同じく竜殺し(ドラゴンスレイヤー)として名を轟かす、最古の英文学叙事詩に記された英雄。

 そうか。彼ならば理性を持ちながらも、バーサーカーに該当しよう。

 何故なら彼の名前そのものが、ベルセルク(狂戦士)を由来としているのだから。

「ベオウルフ……!」

「ご名答だ伊達男! 精々一振りで死ぬんじゃねえぞ!」

 二本の剣を振りかざし、狂戦士の英霊は吼える。

 怪物グレンデルや名もなき火竜を打ち倒した英雄ベオウルフ。

 この時代二度目のサーヴァント戦が、ここに幕開ける。




ベオウルフ、そして謎のハク人形の登場です。
どうでもいいアイテムではなく、GO編におけるキーアイテムになるような気もします。
決してここでいい笑顔ネタが書きたくなったので出した訳ではありません。ありません。

ブーディカについて掘り下げに加えて、属性についてもちょろっと解説しました。
FGOには隠しステータスとしてこれら三つの属性があり、
“人”は“天”に強く、
“天”は“地”に強く、
“地”は“人”に強いという相性があります。
クラス相性ほどではありませんがダメージ補正が掛かっているので、強敵との戦いで意識すると少し楽になるかもしれません。

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