Fate/Meltout -Epic:Last Twilight- 作:けっぺん
真っ直ぐ、ティーチに向かう。
メルトがメアリーを。ヴァイオレットがアンを。
ゲートキーパーとシンジのサーヴァントたちがヘクトールを牽制し、道を拓いてくれている。
そして――
「ぅぅううううううううッ――――!」
「ゴアアアアアアアアアアアッ!」
アステリオスとエイリーク。二人のバーサーカーは早くも本格的な戦いを開始している。
筋力ステータスは、天性の魔として産まれたアステリオスに軍配が上がる。
だが、エイリークは一切劣っていない。どころか、有利に立ち回っている様子さえあった。
あれは何らかのスキルによるものか。
しかし、アステリオスはエウリュアレがサポートしてくれている。
遊撃手として自在に跳ね回るアルテミスもいる。皆は問題ないと思うほかない。
僕は、ティーチとの戦いに集中すればいい。
「来たかよ我がライバル! 拙者は今、『
「ティーチ――――!」
「口上くらい言わせてくれませんかねぇ――!」
近付く前に弾丸を撃ちこむ。
彼はライダー。対魔力を有するサーヴァントにはダメージを与える程には至らないが、それでも多少の牽制にはなる。
「ククク、だがこの程度では死なないのがこの黒髭。負ける事など微塵も考えた事ありませんので!」
「――ハッ、言うじゃないか同業者」
「――
隣に立ったドレイク。彼女も、ティーチも、敗北など考えていない。
「おうよ、どうせアタシらどっちも悪党だ。敗者がクズ、勝者が正義。やろうじゃないか黒髭、アンタの正義、同じ悪党として踏み躙ってやるよ」
「トゥンク……おおう、BBAの癖に格好良すぎるんじゃないの。なに、拙者をヒロインにでもするつもり? 拙者、イラストも嗜んでいる身でござるが服脱いでいくCGの差分、面倒なのよねアレ」
「なあ、ハクト。アタシ、アイツの言っていること本気で理解できないんだけど」
「僕もだ。多分、分かっちゃいけない事なんだと思う」
恐らくこれは、一生涯必要のない知識なのだろう。
メアリーと交戦するメルトが小さく「あ、分かるわ」とかぼやいていたが、多分気にしなくて良いことだ。
しかし……口調はふざけているが、隙は見られない。
やはり、彼はあれでも只者ではないらしい。あれでも。
「さ、それはともかく、決着を付けるか! 二対一結構、拙者サーヴァントでござるからな!」
「そういうワケだ。ハクト、一緒にやるよ。悔しいがこの差は聖杯とやらじゃ埋められない。人っ子二人とサーヴァント一人、良い条件じゃないか?」
「――分かった。やろう、ドレイク――!」
ドレイクがカトラスを引き抜く。左手には拳銃。どちらも聖杯の影響で、サーヴァントにさえ通用する神秘を有している。
危険なのにも関わらず、彼女が前線に出るのは、海賊の長としてだろう。
ならば、共に戦う。同じく、黒髭との逃れ得ぬ因縁を持つものとして。
準備は万端。激情で動く訳ではない。
決着術式による宝具の継続使用は魔力の消費が激しい。
だが――僕とて決着術式だけを頼ってはいない。いざという時、メルトと離れた時、身を守る手段は必要だと、メルトを説得して作り上げたものがある。
魔術師として、それまで自身の魔術礼装も持たず、特異な切り札にばかり頼ってきたというのは異端なのだろう。
否、今も異端なのは変わらないか。元よりマスターは、前線に出るものではないのだから。
「
決着術式とは別の、あの事件の後に作り上げたコードキャスト。
七人のアルターエゴに準えた術式。決着術式ほどの爆発力はないが、コストとそれぞれの役割に特化した使い勝手の良さがある。
『愛憎のサロメ』は白兵戦に特化した術式だ。
手に持つ双剣と、その剣に並列に展開される左右四つずつの刃。
合計十の刃は長い爪。言うまでもなくリップの戦闘方法を元に組み上げた術式だ。
振るえば軽く、それでいて斬撃は重い。ローズの双剣のような武器を絡め取る形状はしておらず、特殊な効果を持っている訳でもないが、剣としての使い勝手であれば此方が勝る。
「まーた何か主人公っぽい武器を……アンタも拙者ルートを開拓する気でござるな?」
「あり得ない。一生ない。死んでもない」
「怒涛の拒絶三段活用ゥ! 拙者全然悔しくないんだからねっ! と今時時代遅れなテンプレ発言をしてみるテスト!」
……もう始めて良いだろうか。
何というか、このサーヴァントに喋らせているといつまで経っても話が進まない。そんな気がするのだ。
「もう多分アレだね。幾ら話してても身にならない。とっとと決着付けるよ!」
「あ、ああ――!」
「掛かってくるでござる。拙者は実は一回刺されただけで死ぬぞぉ――!」
そんな訳あるか、と内心で突っ込みつつも、戦闘を開始する。
同時に、以前と同じ、体の軽さを感じる。
『また貴方は……何処まで死に上がりの私を酷使するんですか!』
それは、すまない。今回限り、僕に力を貸してほしい。
僕の手で、ティーチを倒したいのだ。
『……後でお説教が必要ですね。先日ほどの出力は出来ません。細心の注意を払いなさい!』
双剣に対し、ティーチは右手にフックとカトラス、そして左手には拳銃。
彼女の言う通り、前回ほど体が動く訳ではない。
簡単に攻め切ることは出来ないが、今回此方は二人だ。
「そらよ!」
ドレイクのカトラスをフックで受け止め、振り下ろした十の刃を逆手に持ったカトラスが防ぐ。
ごく近距離でのドレイクとティーチの銃弾の応酬。弾丸に弾丸をぶつけ相殺する絶技が刹那の間に繰り返される。
「チッ……片手じゃつらいでござるな! 黒歴史系勇者とは違うのであった!」
僕たちを弾き返し、カトラスを左手に、銃を右手に持ち直す。
両手を近距離に対応させた。それでいて銃も使える辺り、あのフックは思った以上に厄介だ。
「どれか一つでも奪えればいいんだけどね。やるじゃないか黒髭」
「BBAに褒められても嬉しくないですぞ! まだ拙者本気出してないですし!」
「へえ。だったら本気出せよ。最後が手抜きの戦いなんて死んでも死にきれない。いつだって海賊稼業は破産覚悟だろ!」
「ぐふ、その通り! 良いこと言うでござるなあBBAは! ならリクエストにお応えして拙者の
……多分、ティーチは十分本気で、いつものふざけた口調の一環だっただけではないだろうか。
これで会話が成立しているのが奇跡に思える。
ともかく、ティーチの動きには付いていけている。
加えて――
「ッ、このっ――」
「貴女一人なら造作もないわ。さっさと片付けてハクに合流させてもらうわよ」
メルトも戦いを有利に運んでいる。
メアリーの、海賊としての担当はカトラスによる切り込み。
だが、真価であるアンとのコンビネーションは今は発揮できていない。
「くっ……なんて奇怪な体をしていますの!? まるで弾丸が当たらない……!」
「当たったとしても大した傷にはなりませんがね。まあ、当たる可能性は低いものですが」
ヴァイオレットは、相手取っているアンとの相性から確実に追い詰めている。
弾丸も剣も、当たらなければ意味がない。
体の繊維化をうまく利用することで、ヴァイオレットは放たれる弾丸悉くをすり抜けさせ、回避している。
メルトとヴァイオレットにコンビネーション能力などないが、個々で相手をすれば相手の長所を殺すことが出来る。
そして、僕たちも。
「――おぉぉッ!」
「そらそらそらっ!」
「ッ、ッ――!」
二対一のアドバンテージは大きい。
少しずつ、しかし確実にティーチの隙を見つけ、追い込む。
決定的な一撃を与えられる瞬間まで、彼に奥の手がなければ、このまま押し切れる。
ドレイクと入れ代わり立ち代わり、互いの持てる最善手を打ち込む。
いつしかティーチからも、目に見えた余裕が消えていた。
行ける――半ば確信をもって、次の一撃を叩き込もうとした時だった。
「くっ、こうなれば――アン氏、メアリーたん!」
「ッ――分かったよ船長!」
「いつだって準備は万端ですわ! 背水の陣が海賊の常ですもの!」
何かをする――止めようとする前に、ティーチが大きく距離を開く。
そして手に持った銃を――――投げ捨てた。
「なっ……!?」
更に腰に下げていたもう一丁を同じ方向に投げる。
その先にいるのは、アン。跳弾の連撃でヴァイオレットを引き離し、そのままマスケット銃を蹴り飛ばした。
同時期、メアリーもまたメルトの攻撃を受け流し、それを隙として距離を開ける。
メルトが体勢を整える僅かな時間、逃げた先は――アンが銃を飛ばした方向。
「アン!」
「ええ、メアリー!」
メアリーの投げたカトラスが、マスケット銃と交差する。
徒手となったアンを追撃せんとしたところに、背に向かって投げられた剣を見逃すヴァイオレットではない。
即座にその剣の軌道を把握し、弾き飛ばす。だが――
「計算通り!」
その先にいたのは、ティーチ。
ティーチがメアリーのカトラスを受け止める。メアリーがアンのマスケット銃を受け止める。アンがティーチの二丁拳銃を受け止める。
『――――舐めるなよ、海賊を!』
得物の総入れ替え――――!?
全員が呆気に取られていた。
性質の変わった二丁拳銃。マスケット銃を超える速度がヴァイオレットの繊維を捉え始める。
マスケット銃を剣のように近距離武器として扱い、メルトに打ち込みながら銃弾まで交え始めたメアリー。
そして此方の双剣への対応を盤石とするように二本のカトラスを構えるティーチは、フックでドレイクの拳銃を弾き飛ばす。
「お前――!」
「何でもありが海賊だ! そうでおじゃるな、フランシス・ドレイク!」
「ああ、その通りだよチクショウめ! こりゃあいよいよ決死じゃないとねェ!」
慣れていない武器ならば、大した脅威ではないだろう。
だが、そこはやはり海賊か。それぞれの武器ならば問題ない程度に熟練している。
この戦法で、劇的に戦況が変わるということはない。
だがそれぞれ、相手の戦い方に応じた武器に変えることで少なからず、その不利を脱却していた。
「行くでござる行くでござる! アン氏! メアリーたん! プランBですぞ!」
「そんな名前だったのアレ!?」
「どうせ船長が後から決めたんでしょう! ともあれ、ラジャーですわ!」
そう宣言しつつも、剣戟に何ら変化が現れたようには見えない。
カトラスが二本になったことで、苛烈さを増し攻め切ることが難しくなっている。
それでも、対処しきれないほどではない。
傍目では、メルトとヴァイオレットも少しずつ順応し始め、徐々に攻勢を取り戻している。
気付けば、彼女たちもごく近い場所で戦っていた。
示し合わせたように、同時に打ち込み、ティーチ、アン、メアリーを同じ場所に追い込む。
三人同時に倒せる――半ば確信は、彼らの笑みによって打ち消される。
「ッ――――!」
ごく近距離。トドメのために此方が体勢を整える僅かな時間でも、もう一度武器を入れ替えるのには十分だった。
ティーチが二丁拳銃を。メアリーが二本のカトラスを。そして、アンは己のマスケット銃を取り戻す。
これは――まずい。
四人が密集している。これは、すぐさま全員離れるべきだ――
「逃がしませんわ!」
だが、見越していたようにアンが弾丸を放つ。
跳弾の檻は僕たちを逃がさない。ヴァイオレットが繊維で以て叩き落すも、既に彼らのフォーメーションは確立されている。
「これこそが! カリブの海を生きるための必須科目!」
「常に海賊稼業は危機の中、ゆえに私たちはいつだって命を燃やす!」
「さあ! これがカリブ海の略奪だ! カリブの海賊は凶暴ですってなぁ!」
跳弾の檻。正確無比な狙撃。そして行動を制限する狙いを定めない連射。
味方でさえ、何の躊躇いもなく銃弾は穿つ。
放たれた弾丸はそれ以降操作が出来ず、味方にとって何より恐ろしい武器になるだろう。
だというのに――彼女は恐れていない。
寧ろ、それこそが自分の生き様だとでも言うように、構える。
「メルト!」
「ええ――!」
防御膜の展開。銃弾はこれである程度防げる。
だが依然としてその外へ退避することは出来ず、膜を貫く弾丸も少なくはない。
そして何より、迫りくるものはそれだけではない。
「行くよ! アン! 船長!」
「武運を!」
「恐れるな! くじけるな! くよくよするな! 何事にも動じぬ精神こそが最強の武器でござる!」
この敵味方等しく撃ち抜く銃弾の嵐に自ら飛び込む、もう一つの弾。
無謀に生きた生涯を象徴するように、その体にはありとあらゆる傷が刻まれている。
被弾を厭わず――否、被弾すればするほどに、
追い込まれ、窮地に陥ることこそ海賊の本領。これが、カリブの海賊の戦い方――――!
『――『
「With
三人で、アルターエゴさえ含めた四人にチェックメイトを言い渡す。
生前剣の向きを同じくしなかった海賊さえ交えた圧倒的なコンビネーション。
ここに、決して逃れ得ぬ死の檻は完成された。
宝具ばかり使っていたハクに、遂に新コードキャストが登場です。
これまでの章で出ていなかったのは白兵戦の必要がなかったから。是非もないよネ!
さて、海賊ズは謎の戦闘能力を発揮。
武器交換アクションはロマン。ゴーカイジャーでもそう言ってる。