Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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エリちゃんがアルターエゴになった。
何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった……
頭がどうにかなりそうだった……サクラファイブだとか殺生院キアラだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……


第七節『アン女王への復讐』

 

 

 意気消沈のメルトを支え、どうにか船にまで戻ってくる。

「お、姐御! その人が例の女神で?」

「ああ。女神アルテミスだ。エウリュアレ同様、失礼がないようにな!」

 頭の痛い話だが、それでもアルテミスは神霊だ。

 オリオンも、力は失っていれどその理性は健在。

 彼が神話で培った知識や見識は頼りになるだろう。

「ねーねーダーリン。あれやろうよ。船首で手広げるアレ」

「うん気を付けてね。海に落ちないようにね」

「ひどい! 後ろから支えてくれないの!?」

「あのさあ! 俺ぬいぐるみだからね!?」

 ……不安だ。

「さて。そろそろやるのか?」

「ああ、頃合いだ。ティーチの野郎に一泡吹かせてやろうじゃないか」

 戦力的には、十分と言える。

 相手のサーヴァントは五騎。

 ヴァイオレットが参戦してくれて、アステリオスにエウリュアレ、そしてオリオン――戦うのはアルテミスのようだが――が協力してくれたのは大きい。

 今なら申し分ない。

 彼らが完全に悪の英霊、この時代の災厄側に動くサーヴァントたちなのかは分からない。

 だが、ドレイクにとってはリベンジであり、僕にとっては清算だ。

 私情で英霊と戦うなど、この事件の中にあってはならない事だと思うが――。

「場所は分かるのですか?」

「問題はそこだけど――メルト、どう?」

 マスターがここに集まっている以上、カグヤが観測できる範囲も広くはない。

 だが、幸いにも舞台は海。それをカバーする手段が、此方にはある。

「…………はぁ。あまり言いたくなかったけど。ええ、捉えているわ。かなり感覚も薄くなっているけど、サーヴァントを特定するくらい造作もないわよ」

 メルトの性質は完全流体。

 地上に降りるためにサーヴァントとして階梯を下げている今ならばまだしも、本来ならば海にさえなれる存在だ。

 よって、この時代に来た最初の日、海に一滴、メルトの力を落としていた。

 もうあの場所からは随分と離れてしまったが、徐々に広がっていったメルトの一部はようやくティーチの船を捉えたようだ。

「へぇ、仕組みは分からないけど、上々だ。とっとと向かうよ! アイツらとの因縁、断ち切ってやる!」

 メルトの指示した方向に、船は発進する。

 気を引き締める。この時代、一つの大きな戦いだ。

「……ハク」

「ん?」

「……本当に、戦うつもり?」

 まだ撤回できる。否、いつでも撤回は許される。

 そんな、諭すような声色だった。

「――ああ。ティーチとは、僕が戦う。メルトはアンか、メアリーを相手取ってほしい」

「……どれだけ言ってもやめないのね。いいわ、死なないって言ったものね。なら、良いわ。全身全霊で勝ちなさい」

「了解だ。絶対に、負けない」

 頑なに意思を変えない僕に呆れるメルトを見るのは、これで何度目だろうか。

 メルトが認めてくれるならば、尚更負ける訳にはいかない。

「――貴女も。責任は重いわよ。聞こえているか知らないけど、分かってるわね」

 言いながら、メルトは指で僕の左手をなぞる。

「気付いてたのか……」

「気付かない訳ないでしょ。いきなりハクがあんな動き出来るなんて、コレが力を貸した以外考えられないわ」

 ああ、間違いない。ティーチの動きに対応出来たのは、彼女のおかげだ。

 また力を貸してくれるかは分からない。そもそも、どういう仕組みだったのかも。

 彼女は死んだ。あの一夜に、彼女は残された。

 それが未だ意思を持ち、僕に協力が出来た理由。或いは、この腕に宿る彼女の一部が関係しているのか――。

 いや、今は考えずともいい。次も助力してくれるならば幸いだ。そうでなくとも、自力で戦い抜いて見せる。

「ハクは今回限り、貴女に任せるとして――ええ。他のサーヴァントたちは私たちがどうにかするわ。ハクはアレとの戦いに専念しなさい」

「分かった。頼む、メルト」

 メルトも、カレンも、シンジも、ヴァイオレットも、無条件の信頼がある。

 契約するサーヴァントも。そしてこの特異点で出会ったサーヴァントたちも、協力の意思を見せてくれた。

 僕はティーチの相手に集中すればいい。それが、僕のすべきこと。

「ただ、どうするかね。船同士の撃ち合いになったら、悔しいが『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』に勝ち目はないよ」

 そうだ――戦いの場は船。負ける事はなくても、船が破壊されればそれまでだ。

 この船の耐久力を、せめて彼らの船に匹敵する程度まで引き上げないと。

「だったら、コイツの宝具で良いんじゃないか? 確か、そんなような事出来たろ」

 シンジの提案は、ヴァイオレットを指してのものだった。

 ――なるほど。ヴァイオレットは規格外な騎乗スキルを有し、かつ騎乗物を強化する宝具がある。

 彼女の能力ならば、船の極限までの強化が可能だ。恐らくは、彼らの船にも劣らない程に。

「ヴァイオレット、出来る?」

「無論です。耐久力、速度のみならず、砲の威力も底上げ出来ます」

「へえ。そりゃ願ったり叶ったりだ。じゃ、そのホーグ? っての使っとくれよ」

「ええ、この行動に無駄はないでしょう。十分有効な使用と判断しました。浸透せよ――『攪拌せし乳海の手綱(アプサラス・サムドラマンタン)』」

 ヴァイオレットから分かたれた繊維が、船に浸透していく。

 浸透したものの基本性能を大幅に引き上げる、アプサラスを基にした宝具。

 全身を使ったものではない。この後の戦闘を想定し、ヴァイオレットは力を残している。

 それでも、浸透しきった瞬間から、その変化は感じられた。

「おお!? なんだ!? メチャクチャ速くなったぞ!?」

「凄え! ヴァイオの姐さんか!?」

「これならあの船にも負けませんぜ、姐御!」

「ああ、想像以上だ。幸先がいい、こりゃ負ける気がしないねえ!」

 盛り上がる船員たち。速度はこれまでとはくらべものにならなくなった。

 これならば、ティーチの船もすぐに見つけられよう。

「カグヤ、この速度だと、あとどのくらい?」

『ん。あと二時間ってところかな。意外と近くにいて助かったねー』

 戦いは、二時間後。

 作戦を考える時間は十分にある。

 その後、暫く作戦会議が行われ――あっという間に、その時間はやってきた。

 

 

「さあ、接近するよ!」

 ティーチの船を発見し、船は一層速度を増す。

 当然、向こうには捕捉されているだろう。

 だが――彼らは先制攻撃が出来ない。

 何故ならば――

「……まったく。女神を壁にしようなんて、なんて不遜なのかしら。駄メドゥーサがいなければ絶対認めなかったわよ」

「彼らは貴女を求めていると聞きました。ならば、手は出さないでしょう。先制攻撃でアドバンテージを取る必要がある――下姉様、貴女の力が必要なのです」

「はいはい。じゃ、やるわよ」

 エウリュアレはサーヴァントのクラスとしてはアーチャーに該当する。

 この遠距離であっても、攻撃は可能だ。

 弓に矢を番え、ティーチ目掛けた第一射を――放つ。

「……ちぇっ、外れたわ。ううん、これは外してしまった、ね。あんなのに当てたら矢が可哀そう」

「あの……真面目にやっていただけますか」

「うるさいわよ駄妹。いいの、これで。本人に当てるより、別の誰かにぶつけた方が有効なのよ」

 続けて第二射、第三射――そうしているうちに、聴覚の強化を掛ければ声が聞こえるまでの距離に近付く。

「同士諸君! エウリュアレたんの矢に当たったら即座にぶち殺すんで、そのつもりで!」

「へ? 何言って――っあ!?」

 ティーチの警告に疑問を投げた船員が、次の瞬間最初の餌食になる。

 その矢を抜こうとした船員の手は、矢を掴む前に止まった。

「ッ、ぁ、あぁぁぁぁ! お前ら! エウリュアレ様のために死ッ――」

「なっ――」

 その手が剣を抜く前に、船員の首が飛ぶ。

 至極面倒そうに、そしてどうでも良い事のように、力なく振るわれたティーチのカトラスが、その船員の首を断ったのだ。

「あーあ。味方の血でも剣は錆びるんDEATHよ? そういうワケだから、矢が刺さった連中はすぐに始末するようにー」

『あ、アイアイサー!』

 あまりにもあっさりと、ティーチはその部下を切り捨てた。

 ふざけているのは言葉のみ。

 ……あれが、ティーチの本性なのかもしれない。

「バレてたか。ま、私の宝具が必殺になっただけでも収穫ね。さあ、第二波頼むわよ、アルテミス様!」

「はーい! アベック・オブ・オリオン、行っきまーす!」

「古い。微妙に古い。いや、この時代からしたら十分新しいんだろうけど」

 オリオンを肩に乗せたアルテミスが、ふわりと軽やかに跳躍し海に()()、海面を走り、ティーチの船に乗り込む。

 ポセイドンの加護により、水面に立つ力を有するオリオン。

 アルテミスが主となった今でも、その力は健在。

「て、天使……! 二次元(エレクトリック)じゃない天使(エンジェゥ)がこの世にはいたのじゃ……!」

「ッ、サーヴァント!」

「初めましてー、オリオンでーっす。全員射殺しちゃうぞー!」

 アルテミスが弓を振り回すと、番えてもいないのに矢が射出される。

 そしてそれらは不規則な軌道で駆け回り――船員を射抜いていく。

「……どういう仕組みなのよ」

「まあ、良いんじゃないかな。作戦通りに注目を受けてる」

 アルテミスは言わば囮――本命はオリオンだ。

 彼女が戦っている間に、目立たないオリオンは一人動き、作戦を実行している。

 それが完遂されるまでアルテミスは持ちこたえてくれればいい。

「ッ――来るわ、ハク!」

「――アンか!」

 メルトが飛んでくる銃弾を打ち払う。

 あちらの船でマスケット銃を構えるのはアン・ボニー。

 ライダーのサーヴァントながら、その腕前は十分アーチャーで通用するだろう。

 次々に放ってくる弾丸は、単調な動きならばそう対処も難しくはない。

 だが――

「跳弾!」

「くっ――!」

 床や壁、果ては海面にさえ反射し、軌道を変える銃弾は跳ね返るまで何処に飛んでくるか分からない。

 メルトやヴァイオレット、デオンは問題なく守れているが――戦闘に特化したサーヴァントではないサンソンは少なからず被弾している。

 アステリオスは銃弾の一発や二発、ダメージにもならないだろうが――数を受ければやがては痛手になるだろう。

「アマデウス! サンソンとマリーを援護! 二人は防戦に徹しろ!」

「ウィ!」

「仕方ないか――!」

 シンジが素早く命じ、防御の体勢を確立させる。

 アマデウスが奏でる、音を媒介とした音楽魔術。

 空気の強い振動で弾丸の動きを鈍らせ、或いは軌道を変化させる。

 速度の落ちた弾丸であれば、マリーとサンソンでも迎撃が叶う。

「アルテミス! 準備できたぞ!」

「はーい! さ、逃げるわよダーリン!」

 メアリー、そしてエイリークの攻撃を回避しつつ、船員を射抜いていたアルテミスがオリオンを回収し、船を飛び降りる。

「ドレイク! 今だ!」

「よっしゃあ! 操舵手、取り舵一杯! 衝角(ラム)であの土手っ腹を食い破るよ! 行けるねヴァイオレット!?」

「はい、全員、衝撃に備えなさい!」

 突撃する。船の速度と二人のアーチャーの健闘で完全にアドバンテージを取った。

 そしてこれが、その先制攻撃の終わり――!

「ぬっ……いかん、守りを固めるでござる皆の者!」

 察知することが出来たのは、ティーチとサーヴァントたちのみ。

 そして、その来たる衝撃に備えることが出来たのはほんの僅かな船員たち。

「ば く は つ す る ―――!」

 ティーチの船の火薬庫が大爆発を起こす。

 オリオンに任せていたのは、火薬庫の導火線に火をつけること。

 姿が小さく目立たない彼だからこそできた事。

 大きく揺れた船。対応の出来なかった船員たちは海に投げられ、落ちていく。

「ッ、船長! どうすれば!」

「お、おおおオチケツオチケツ! こういう時はまず服を脱ぎます。アン氏、アン氏! アン氏もズボンを脱い」

「次言ったら撃ちます」

 ……今警告の前にティーチの首元を銃弾が抜けていったような。

 いや、彼らの漫才は今は良い。

 僕たちも衝撃に耐える。そして、互いの船がぶつかり――!

「くっ、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』――!」

「さあ命乞いを考えておくんだね! 略奪開始だ、乗り込むよ、野郎共!」

「おぉ――――!」

 出来る限り、相手を追い込んだ。

 後は僕たちが、サーヴァントを倒す。

「ハク、信じてるわよ!」

「ああ!」

「行きなさい、アステリオス、メドゥーサ!」

「ぅ、ぅううううううう!」

「だから私はメドゥーサでは……」

「行きます。ゲートキーパー、ヘクトールの相手を」

「はいはい。ま、少しくらいはやってあげるよ」

「混戦だな――いくぞ! マリー、アマデウス、サンソン、デオン!」

 さあ、決着だ。

 黒髭海賊団との戦いは、ここで終わらせる――!




黒髭海賊団との決戦前まで。
黒髭が喋りだすと途端に執筆速度が遅くなる不具合。お前はなんなんだ。

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