Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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英霊剣豪七番勝負、面白かったです。
ところで今年中に第二部開始って話でしたけど、無理そうですね。


第五節『輝く星の支え方』

 

 

「デカッ!?」

「よっしゃあ、言ったろ、姐御は雲を衝くような大男を連れてくるって!」

「いや! ほら、肩を見ろよ。絶世の美少女がいる! 賭けは俺の勝ちだ!」

 エウリュアレとアステリオスを連れて船に戻ると、盛り上がる船員たちに迎えられた。

 アステリオスの巨躯に驚愕しつつも、すぐさま金銭を巡る戦いが始まる。

「よーし、賭けてた連中は全員アタシに掛け金半分ずつ寄越しな。エウリュアレとアステリオスは今日からウチの仲間だ。この海をどうにかするために、力合わせるよ!」

『アイ・アイ・マム!』

 この一日で、この船の戦力は大幅に向上した。

 ヴァイオレットに、二人のサーヴァント。

 エウリュアレのステータスは控えめ――魔力と幸運が規格外の値を示しているが――だが、アステリオスはその巨体に相応な物理ステータスを有している。

 まだ聖杯の在り処も分からないが、戦力は多いに越したことはない。

「これは……また……」

「生前見た事もない巨体。神代の英霊ですか」

 サンソンとデオンも、驚きを隠せないようだ。

 確かに、二メートルを優に超える巨体など、一生涯掛けても出会うことは殆どないだろう。

「ところで、船はもう動くんですかい?」

「ああ、アステリオスが結界を解いてくれたからね」

 あの迷宮、そして船が動かなくなった原因たる結界はアステリオスによるものだ。

 彼はバーサーカーでありながら、その出自から結界――迷宮の宝具を有している。

 ――『万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)』。

 一度発動してしまえば、迷宮という概念の知名度によって難攻不落のダンジョンを形成する固有結界に近い大魔術。

 そんな宝具を持っていながら、アステリオスは宝具に特化したサーヴァントではない。

 その筋力、耐久パラメータはエイリークをも上回る規格外に近い値を持っている。

 きっと大きな力となってくれるだろう。

「さあ、全員乗ったね。出るよ!」

 この島で新たに二人のサーヴァントを迎え、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』は出航する。

 しかし、なんら問題が解決した訳ではない。

 聖杯の反応が見つからないことには、この広大な海の何処へ行けば良いのかも分からない。

「さて、と。とっととクソ髭をぶっ飛ばしたいところだけど……聖杯も探さないとね。そうさね、女神島でも行ってみるかい?」

「女神島?」

「他の海賊の連中が言ってたのさ。この近くに女神が住まうって噂の島があるって。良いお宝の一つでもあればって思って行こうとしてたんだけど」

「あら。私以外にも女神がいるの? 随分変なところに喚ばれたものだわ」

「そ。アンタみたいなのがいるなら、そっちの女神も本当にいるかもしれない。いなくてもまあ、ゲンを担ぐって意味なら外れでもないよ」

 神霊は原則として、サーヴァントとはならない。

 だが、この時代は、エウリュアレがサーヴァントとして召喚されるほどに特殊な特異点だ。

 であれば、その女神ももしかすると――。

 女神が簡単に力を貸してくれるとも思えないが、訪ねてみる価値は十分にある。

 それに、もしかすると、この特異点の解決に繋がる情報を有しているかもしれない。

「で、その女神ってのは?」

「アルテミス。知ってるかい? ギリシャの狩猟女神さ」

「ッ!」

 ――なんと。

 自然と、メルトに目が行く。

 言うまでもなく、アルテミスはメルトを構成する女神の一柱だ。

 基本的に召喚されない神霊だが、エウリュアレのような例外も今回はある。

 アルテミスが召喚される可能性も、決してゼロではない。

「……嬉しそうだね、メルト」

「――ええ、そうね。私の中に在って、私が尊敬する数少ない女神だもの。是非一度、この目で見てみたいものだわ」

 そうなのか……初めて知った。

 メルトが尊敬する存在などいないと思っていたが、意外にもかの女神に敬意を抱いていたらしい。

 であれば、会わせてあげたい。いい気分転換になるだろう。

「うん。なら、向かってもらえるかな、ドレイク」

「決まりだね。進路を西に取りな!」

 思いつきからの実行は早い。

 ドレイクはすぐさま船員に命じ、船の行く先を決定した。

 島に着くまで、各々が自由に時間を過ごし始める。

 ヴァイオレットはこっそり離れようとしていたのをエウリュアレに見つかり、説教というか文句を受けている。

「――ところで、ハク」

「何?」

 そうして、暫く経った頃。

「ヴァイオレットが来たから、今朝言うのを失念してたわ。昨日のアレみたいなこと、二度とやめてちょうだい」

「アレ、って――」

「一人で飛び出してあの変態と戦ったことよ」

 周囲に会話を聞く者はいないと判断し、メルトは鋭い視線を向けてきた。

 先程の期待とは違う。それはそれ、これはこれと、メルトは釘を刺してくる。

 ――怒っている。ただの不満ではない、本気のそれだ。

「あの時動けなかった私にも非はあるわ。だけど、シンジやカレンのサーヴァントもいたわよね。貴方が行く必要はあった?」

 昨日一日、メルトの衝撃は残っていたらしく、どうにか回復したのが今朝。

 今更――とは思ったが、どうやら問い詰められる状況を待っていたらしい。

「一体何度言ったかしら。貴方は前に出なくていいの。サーヴァント戦は私の役目でしょ」

「……でも。メルトにあんな目を向けられて黙ってなんて――」

「だからってね。前線に出てサーヴァントと戦うなんてマスターがやることじゃない」

 サーヴァントと直接対決したことは、今までにもなかった訳ではない。

 その度に危険があった。死に瀕することもあった。

 ――サーヴァントをも超える神にさえ等しくなった化生と戦い、この命を握られたこともあった。

 それらは全て、メルトのためだ。

 それをメルトは認めていない。十分に、理解している。

 これは、僕とメルトの――相容れない考えだ。

「ハク、覚えておきなさい。もしも、あんな無茶で死ぬようなことがあれば――私は絶対、貴方を許さないわ」

 本気だった。心底からの、メルトの本音だった。

 ああ、そうなったとき。例え助かったとしても、メルトは愛想をつかすだろうか。

 それは――嫌だ。僕の生きる理由であり、存在する理由。僕の存在の全ては、メルトと繋がっていてこそだと言っても良い。

 それでも、メルトを守りたい。守りたいのだ。だから――

「……次が、最後にする」

「ハク――!」

「アイツは、メルトには戦わせない。次に出会ったなら、僕が倒さなければならない敵だ」

 メルトに、嫌われたくはない。

 だが、今回ばかりは、何を言われても譲れない。

「…………貴方、馬鹿よ」

「知ってる」

「碌な死に方をしないわ。無茶。無謀。私が知ってる誰よりも唐変木」

「知ってる」

「ええ、誰よりも。キアラなんて及びもつかない。それくらいの愚かな人」

「――分かってる」

 一言一言に、怒りと、恨みつらみのようなものが込められていた。

 全部が心に突き刺さる。

 それでも、この意思は変わらない。

 メルトを守る。メルトに捧ぐ。この繋がりこそが、僕の、一番大切なもの。

 ゆえに、月の意思は――そういうもので出来ている。

「…………死んだら、許さないわよ」

 メルトの念押しに頷いて、答えを返しながら、抱き寄せる。

「――――ああ。死なない」

 基本的に、僕とメルトで意見の相違が生まれた時、メルトを優先することが多い。

 しかし、僕が折れることがなければ。いつも、渋々ながらメルトはそれを認めてくれる。

 こんな無謀をも許してくれる。だから、メルトは愛おしい。

 誰にも渡さない。ティーチには、触れさせもしない。

 重ねた唇。絡めた舌。この全ては、僕のものなのだ。

 

 

 この海を舞台にした特異点では、潮風は大きな敵となる。

 肌や髪はべたつくし、防ぐもののない日差しは発汗に繋がる。

 当然ながら、現代の価値観を持っていれば、風呂は必要不可欠だ。

 特にメルトやカレンは女の子。風呂の有無は死活問題である。

 よって――カグヤに頼み船の部屋を二つ使用、内部を拡張し編集、浴場を二つ用意した。

 男湯と女湯。広さは大浴場というほどでもないが、数人ならば余裕がある。

 さて、そんな風呂で汗を流そうとしたところ、同じタイミングで入った者たちによる、奇妙な組み合わせが生まれた。

 僕、シンジ、そしてアマデウス。

 英霊と風呂に入る。どうにも、混沌とした状況である。

「……相変わらず、訳の分からない技術だよな」

「時代に干渉しての記述追記だからね。記述が曖昧になった特異点なら、自由度も高くなるよ」

「こんなもの、お前らは作ってたのか」

 シンジは感心したように息をつく。

 自分たちの住む月の技術を友人に評価されるのは、嬉しかった。

「何年も掛かった。ようやく地上に行ける――そんなときに、この事件が起きたんだ」

「……お前らにとっては不幸かもしれないけどさ。ちょうど良かったんじゃないか。それがあったからこそ、対策が取れたんだし」

 ――レオにも、同じことを言われた。

 だが、試運転すらままならない状態で皆を巻き込んでしまった。

 システムの監視にはAI総出で万全で当たっているが、不具合が起きる可能性はゼロではない。

 本来は誰も巻き込まず、月のメンバーのみで解決すべき事件なのだ。

「そうさ。間が良い悪いは人の感じ方次第だ。少なくとも、この事件の黒幕は間が悪いと思っているだろうさ」

 口を挟んだのは、アマデウスだった。

 長い髪をタオルで巻いているその姿は、何故かミスマッチと思わせない雰囲気を醸している。

「キミは黒幕を笑ってやればいい。コレは思うに、悪辣に笑ってやらないと駄目なモノだ」

「……もしかして、見当がついているのか?」

「さてね。僕は探偵じゃない。謎を測って僕がすることは作曲のための妄想だからね。その点で言えば今回の題目は駄目だな。退屈過ぎて楽譜を書く指すら動かない」

 嘆息するアマデウス。

 お気に召さないという落胆の表情は、しかしすぐに期待に満ちた表情へと変わり、此方に向けられる。

「どちらかと言えば、キミだ。キミ。今回の召喚で一番面白い」

「僕が?」

「そうさ。なんだい昨日の。マスターが前線に出て、剣持って戦うなんて。いやあまともな作曲家だったら罵詈雑言の嵐だっただろうさ」

 あまりにもツボだったように、思い出し笑いをするアマデウスは、僕の行動を非難している様子はなかった。

 まあ……確かに普通のサーヴァントであれば、驚くことだろう。非難されて然るべきかもしれない。

 だが、それでも――昨日、僕の体は自然と動いていた。

「良いんだよそれで。愛のために戦うことは悪いことじゃない。でもね――一つだけ、文句を言いたいな」

「……それは」

「指揮者が指揮棒を捨てるような行動は、理解に苦しむって事だよ」

「――」

 それは、つまり――

「相方が演奏者たるならば、指揮棒を振るう。踊り子たるならば、音を奏でるのがキミの役目だ。ではそれを逆にした場合。キミのサーヴァント、指揮が出来るかい? キミが舞うために、音を奏でられるかい?」

 メルトは――主役を立てる存在ではない。

 戦いにおいて、常に主役たるのがメルトだ。

 彼女は踊り子(プリマ)だ。(エトワール)は他を輝かせるためにあるのではない。星の輝きをこそ、他は引き立てねばならない。

「キミらのスタンスに口を挟む気はない。これは単純に疑問をぶつけただけだ。キミらが何をしようと自由だけど――間違いなく、昨日のキミの戦い方は正しくはない」

「……分かってる。僕だけが前に出るのは、ティーチが最後だ。アイツだけは、僕が倒す」

「そうかい。なら、精々死なないことだ。引き立てる者のいなくなった星は、それこそ輝くだけしかできないからね」

「まったく……お前も無茶苦茶な奴だな。サーヴァントと自分から戦いに行くとか、正気?」

「うん……正気じゃないかもしれないな」

 自分でも、冗談なのか本気なのか分からない呟きだった。

 シンジはそれを、鼻で笑う。明らかに、それには呆れも混じっていた。

「ま、気をつけろよ。お前も、無敵じゃないんだからな」

「ああ。ありがとう、シンジ、アマデウス」

 この説教は、心に留めておこう。

 ああ――僕は指揮者(マスター)だ。メルトを支えるべき存在だ。

 メルトは星だ。それを理解していればこそ、彼女に戦いの主を任せなければならないのだ。

「さて、と。そろそろ上がるか。サンソンもそろそろ終えただろ」

「サンソンは何かやってたのか?」

「マリーの問診だよ。処刑人でもあるけど、アイツは医者だ。医術スキルも高いランクを持ってる」

 確かに――サンソンは当時の技術の水準を上回る医術の腕を持っていたとされる。

 だが……マリーの問診?

「マリーに何かあったのか?」

「あったというか、何というか……」

「こればかりは、ねぇ。あのマリアも大したお馬鹿さんだから。問題はアレだな。シンジ、前から思ってたんだけど、明らかにサンソンの専門外だろう」

「仕方ないだろ。専門の技術者英霊なんてそうそう出会えないだろうし。今のところはどうにかなってる」

 何の話だろうか。マリーに関する何かという事は分かるが、彼女が何らかの病を患っているようには見えなかった。

 それに彼女はサーヴァント。医師が必要になるなど、あまり考えられない。

 僕が気にすることではないのだろう。だが――何処か悲しげなアマデウスの表情が、気になった。




今回はハクとメルトにスポットを当てたオリジナル回でお届けしました。
独占願望。そして、メルトという存在との向き合い方。
ただし黒髭とのタイマンは譲らない。頑なですね。

おまけでアルテミスにちょっと期待するメルト。
きっと清楚で慎ましい美女神を想像していることでしょう。
喜べ少女。君の願いはようやく叶う。

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