Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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桜ヴァティー実装、賛否両論ですが、とりあえず桜な以上引かない選択肢はなし。
現在宝具4なのでどうにかあと一人欲しいところです。


第三節『黒髭惨状』-2

 

 

「やっちゃえ、エイリーク殿!」

「ウオォオオオオオオオオ! コロスコロスコロスコロスッ!」

 エイリーク・ブラッドアクス。血の斧を持つバイキングの王か。

 ノルウェーの王として君臨したのは三年ほどだが、その王位のため兄弟姉妹を惨殺した残虐性、そして妻たる魔女グンヒルドの悪名に後押しされ、その名を轟かせた。

 クラスを確かめるまでもない。獣の如き咆哮と膂力、紛れもなくバーサーカーだ。

 その筋力ステータスは高い。此方で抑えられる者は――

「ッ、彼は私が!」

 跳躍し、降ってきたエイリークの斧を受け止め、衝撃を受け流したのはデオン。

 デオンの筋力ステータスは、その容姿に見合わぬAランク。

 バーサーカーたるエイリークにも、真っ向から立ち向かえる――!

「仕方ない。僕たちも行こう」

「無理は禁物よメアリー。向こうはサーヴァントが多いわ」

「やれやれ。オジサンの本領は守勢なんだがねぇ……」

 続けて乗り込んでくる、三人のサーヴァント。

「初めまして。わたしはアン・ボニー。そして此方が――」

「メアリー・リード。よろしくね、キャプテン・ドレイクとそのクルーたち」

 アン・ボニーとメアリー・リード――ドレイクとは違い、女性の海賊として後世に伝えられた二人だ。

 ジョン・ラカムの船の船員として、カリブ海を荒らしまわった、男に決して劣らない女傑。

 そのコンビネーションは、どんな海賊より通じ合っていたとされる。

『ほへー。その霊基、不思議ー。君ら、二人で一つのサーヴァントなんだ』

「へえ、何処からの声かは知らないけど、当たり。僕らは二人でサーヴァントだよ」

 なるほど――同時召喚ではなく、そもそも二人一組として座に登録された英霊か。

 そういう例も存在する。二人であることで伝説となった英霊ならば、二人で召喚されるのが必然だ。

 そして、緑の男性。

 ――彼は、明らかに他のサーヴァントたちとは格が違う。

 面倒くさそうな、飄々とした構え方ながら、隙は一切見られない。

「それじゃあオジサンも自己紹介。ヘクトールだ。よろしくな、ご一行」

「ヘクトール……!」

 彼は、他のサーヴァントたちのように海賊として名を上げた英霊ではない。

 その伝説が語られるのはギリシャ神話。叙事詩イリアス、トロイア戦争において大英雄アキレウスの宿敵として立ちはだかったトロイアの守護者。

 不死身の肉体を持つアキレウスに対して決して劣らず立ち回り、トロイアを守ったとされている。

 幾度も交戦を重ね、その果てにアキレウスに敗れるが、かの大英雄の存在がなければ、ヘクトールの活躍によってトロイア戦争はトロイア側の勝利で終わっていたのではないか――そうとさえ言われている。

 ティーチやエイリーク、アンとメアリーとは違う。彼は正真正銘の大英雄だ。

「お、その反応。知っててくれたか。嬉しいねえ。てっきりオジサン、自分がマイナーだと思ってたんだけど」

 ああ――知っている。

 月の裏側、あの事件において、メルトの最大の力を手に入れるために訪れた試練。

 その時は及ばなかったまでも、彼の力を――宝具を借りた。

 彼は知り得ないことだろうが、彼の武勇の一端は、この手が覚えている。

「――ゲートキーパー。彼の相手、お願いできますか?」

 カレンが僅かに息を呑み、己のサーヴァントに目を向ける。

 視線を外した一瞬を突ける相手だ。サンソンが守るように、カレンの傍に移動する。

「……ふうん。面白いサーヴァントだね。明らかにあの海賊連中の中にいるのはおかしいと思ったけど」

 余裕を消さず、小さな笑みさえ浮かべつつ、ゲートキーパーはヘクトールと対峙する。

「…………へぇ。子供だと思ったら、ただのそれでもないらしい。こりゃ、オジサンもちょっとばかし本気にならなきゃなぁ」

「安心してください。殺しはしませんよ。ちょっと遊ぶだけです」

 ゲートキーパーは未だ謎が多いサーヴァントだ。

 だが、戦ってくれるとあらば信用するしかない。

 前の特異点でカレンたちの危機を救ってくれたことは、間違いないのだから――

「ッ」

 銃声。まるでそれを察知していたように、自然と体が動いた。

 手に握っていた聖剣(ガラティーン)が、何かを弾く。

「ちぇーっ、余所見してたのに意外と動けるじゃーん。何それマスター詐欺? マスターの分際でぶん殴っちゃうYAMA育ちってヤツですかぁ?」

 煽るような声が誰のものかなど考えるまでもない。

 僕が戦うべき、恐らくはこの特異点最悪の敵だ。

「月育ちだ。それに、マスターが前に出てはいけないなんてルールはない」

「いや、真面目に答えなくて良いと思うぞ紫藤……」

「月育ち? 何それ厨二病? きゃーカッコイイー! この特異点のノリ理解してなーい!」

 歯を食いしばる。今すぐにでも飛び出したい足を必死で止める。

 此処で飛び出してはアイツの思うつぼだ。

 僕はこの場でメルトを守らなければならない。アイツが何を言おうと、その挑発に乗る訳には――

「というか退くでござるよー。出せよ出せよー、メルトリリたん、出せよー」

「――――ッ!」

「おい紫藤!」

 再三の癇に障るメルトへの呼称に、思わず足が動いた。

 敵の張った網を渡り、待ち構えるティーチに向かい走る。

 ああ――無謀だろう。到底マスターらしくない行動だろう。

 だが、メルトは怯えていた。今すぐ逃げ出したいとばかりに涙を堪えていた。

 ゆえに、一刻も早く、メルトを安心させるために――あのふざけたサーヴァントは倒さなければ!

「一人で来ると――わぁ!?」

 当然に飛び掛かってくる船員たちは、身体能力は常人と変わりない。

 身体強化を掛ければ、弾き飛ばすのは困難ではない。

 他の船員たちに用はない。僕が倒したいのは、あのサーヴァントのみ――!

「――――」

 気付けば目の前に、ティーチがいた。

 腕に装備したフックで、此方を貫かんとしている。

 僅か、船員たちに意識を向けていた隙で、ティーチはここまで迫っていた。

 残虐な笑み。その一瞬、ティーチ本来の姿を見た気がする。

 誰かが倒されたならば、その隙で獲物を狩る。なるほど、海賊の戦い方は、何処までも貪欲に敵の命を奪う。

 否、殺される訳にはいかない。動け、間に合え――――!

 

『――まったく! 何をしているかと思えば!』

 

「チィ――!」

 フックを受け止める。英霊の筋力に、何故か劣らず、それを弾き返す。

『そのまま! 私が第六感となります! 私が伝えるままに動いてください!』

 その――心の底から聞こえてくるような不思議な声を理解したのと同時。

 自分の体が、まるで自分ではないかのような軽さを感じた。

 重畳だ。ならば、この敵を倒したい。

 教えてほしい、どう動き、どう攻めればいいのか。

『いつの間にか乱暴になって……いいえ、構いませんわ。一騎程度なら――』

 どう動けばいいのか、解が頭の中に浮かぶ。

 自分では到底無理だろう動きが、不思議と出来る。

 サーヴァントにも劣っていない――いや、寧ろ、サーヴァントを凌駕している気さえする。

「お、おぉ……!?」

 ティーチの敏捷を超える速度で剣を振るう。

 訳が分からないが、ティーチの驚愕は本心だった。

 攻めきれる――確信を以て、剣を叩き込み――

『後ろ!』

「ッ――!」

 体が急に転回し、飛び込んできた槍を聖剣が受け止めた。

「今のを止めるかぁ。結構渾身だったんだがねぇ」

 ヘクトール――どうやら、此方の戦況を察して戻ってきたらしい。

 見れば、アンとメアリーも撤退している。『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』にいるサーヴァントは、エイリークだけだ。

「おお、助かったでござるよヘクトール氏!」

「マスターだからって油断するなよ船長。今の動き、下手したらサーヴァント超えるぞ?」

「OK、把握! 黒髭油断しちゃったてへぺろ。しかしこの黒髭、一度やられた戦法は二度と通用せぬ、安心いたせヘクトール氏!」

「……あ、そう。ならいいけど。とはいえだ、どうしたよそっちの少年。今まで気配も兆しも何もなかった。ここまでいきなり雰囲気が変わるなんて、オジサン見たことないぜ?」

 ヘクトールの訝しむ視線。その問いに回答は出来ない。

 確証がない。もし、彼女が手を貸してくれたというならば――何故それが出来ているのか。

 いや……理屈はいい。今なら攻めきれる。

 少なくとも、ティーチは敵にしかならない。今倒せるならば、倒しておくべきだ。

『……いえ、戻りますよ。敵は四騎、貴方一人で相手取れる数ではありません』

 しかし、声は制止を促す。

 何故なのか。君の力なら、十分に戦える。

『落ち着きなさい。私とて、力の全てを振るえる訳ではないのです』

 だけど――今の動きは、君のものだった。

 英霊に引けを取らないどころか、大英雄をも凌駕する。このまま、ティーチを倒したい――

『自惚れないでください。メルトリリスから離れて敵の船まで攻め込んだ貴方はメルトリリスを守りたいのか、あのサーヴァントを殺したいのか。どちらなのです』

「――――」

 窘めるような声だった。

 どんな状況であっても、それを聞くだけで冷静になる名。

 ああ――そうだ。メルトの傍にいなければ意味がない。

『それで良し。船に戻って、一旦離れなさい。確実に勝てるよう――もう少し戦力を整えた方がよいでしょう』

 ――分かった。確かに、この囲まれた状況で戦うのは有効とは言えない。

 もし、今力を貸してくれている彼女が本当に全力ではないとしても、この場を突破することは難しくない。

「ッ――、メアリー!」

「うん――!」

 近接戦闘に向いていないだろうアンを突破口と判断し、すぐに援護に向かってきたメアリーのカトラスを受け止める。

 ティーチとヘクトールの反撃も考慮し、疑似太陽を駆動――周囲に炎を迸らせ、牽制しつつ走り抜ける。

 ドレイクの船に戻ると同時に船を結んでいた網を断ち切る。

「ドレイク! 撤退を! まだ勝てる戦力じゃない!」

「チッ……退くよ野郎共! 旋回してタル爆弾をありったけ落としな!」

「アイ、アイ、マム!」

 残るはエイリーク――いや、問題ないか。

 シンジは此方の考えを分かってくれている。

 マリーがイバラで動きを封じ、アマデウスが何かしらの魔術で以て、エイリークの動きを大きく制限している。

「ふっ――!」

「はっ!」

「ゴオオオオオオオオオオッ!?」

 そこに叩き込まれる、サンソンとデオンの痛撃。

 そのコンビネーションの前に、エイリークは吹き飛ばされ、海に落ちた。

「……」

 四対一。力の強いサーヴァントであっても、複数を相手取れば必然的に数の不利に陥る。

 僕も、あのまま戦っていればこうなったかもしれない。

 ――必死になりすぎていたか。何も、一人で戦っている訳ではないのに。

「よし、このまま――おい髭ェ! 覚えときな! いずれ借りは返すからね!」

「あー、タンマ! タンマでござるぅ! せめてメルトリリたんだけは置いてって――」

「――――」

 今度は、短慮に聖剣を振りはしない。

 これ以上、怒りに任せて振るうのは本来の担い手(ガウェイン)に――絆を紡いだ(レオ)に対する侮辱に直結する。

 ティーチがメルトに邪な目を向けるのであれば、僕が常にメルトの傍に在って、彼から守るだけだ。

「……メルト」

「――――大丈夫よ、ハク。今は、もう」

 嫌悪の表情は浮かべたままだが、震えはもう収まっていた。

「ゲートキーパーが、ヘクトールと戦いながらも守ってくれていました」

「守ったつもりはないけどね。どうせ向こうはそっちのお姉さんを狙ってなかったみたいだし」

「そうか……それでも、ありがとう」

 カレンも、傍にいてくれたらしい。

 その頭に手を置きつつ、もう片手でメルトを抱き寄せる。

「…………ありがと」

「……うん」

 正直なところ、礼を言われるようなことでもなかった。

 自分を落ち着けたい。自分が、怒りに任せて戦ったという事実に抱いた不安を払拭したい。

 熱くなった体を冷やしたいがために、僕がメルトを求めているだけ。

「……」

 タル爆弾の牽制は有効らしい。

 『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』は黒髭の船とどんどん距離を離していく。

 いつしか聞こえなくなっていた声の主に感謝しつつも、その戦いの終わりを実感する。

 きっと――いや、間違いなく、彼らとは再戦することになる。

 その時は――

「……ハク、ちょっと、痛い」

「……」

 ――次など、今は考えなくてもいい。

 さっきの自分が。自分の選択が。自分の行動が。怖くて仕方ない。

 今は、それを拭うべくメルトを感じていたい。

 なるほど――アルジュナの言葉は間違っていなかった。

 あまりにも不安定。あまりにも未熟。

 だからこそ、常に傍に必要なのだ。

 完成された月の心――メルトという存在が。




黒髭伝説・邂逅変(誤字にあらず)、完。

今回は短慮に攻め込んでしまったハクの回でした。
バッドエンド在りきのゲームであれば間違いなく一直線な選択肢。
それを救ったのは……。

三章では、ややハクに焦点をあてていきたいと思っています。
十年経っても、否、十年経ったからこそ不安定で未熟な主人公をお届けします。

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