Fate/Meltout -Epic:Last Twilight- 作:けっぺん
それとマリーが活躍するのは何の関係もないですが、書けば出る教はあると思います。
「さあ、海賊さん! 貴女も一曲、如何かしら?」
「生憎――そんなお綺麗な歌だの踊りは素養がなくってねぇ!」
クルクルと、回りながらステップを踏むマリーにドレイクが迫る。
両手には拳銃が握られているも、その引き金を引こうとはしない。
多分、それはまだドレイクに、「マリーたちが常人である」という考えがあったからだろう。
しかし、マリーはサーヴァント。かつ、それが戦いであると、理解している。
当然、何の意図もなくただ踊っているだけの筈がない。
「ッ――!?」
ドレイクが咄嗟に伏せ、地を蹴って再び距離を離す。
頭があった場所を通り過ぎて行ったのは、黒ずんだイバラだった。
マリーの足下から伸びるそれは、獲物を逃がすまいと追撃する。
「チィッ……!」
今度は躊躇なく、イバラに弾丸を撃ち放つ。
勢いを無くしたイバラはその場に倒れることなく、黒い花弁となって散っていく。
「ふふ、そうこなくちゃ!」
気付けば、マリーの姿にも変化が現れていた。
「――――」
その身を縛るように、巻き付くイバラ。
あれでは当然自分も傷付く。だが、マリーはそれを気にする様子もない。
その手を振るい、まるで鞭のように伸ばし、ドレイクを襲わせる。
「こりゃ……舐めてられないね!」
速度は十分素早い。常人であれば躱しきることは出来ないだろうそれを、ドレイクは対処出来ている。
とても生きた人間とは思えない。その身のこなしは、或いはキャメロットで出会った成熟していない頃のアルトリアに勝るかもしれない。
「そぉれ!」
横に振るった腕に追従する、三つの鞭。
躱せないと悟ったドレイクは片手の得物を捨て、腰から下げていたカトラスを抜く。
そのイバラを対処するには、銃より剣が向いていると判断したのだろう。
切り離されたイバラの先はすぐに花弁へと変わり、消えていく。
自身に当たる部分さえ無力化してしまえば、後に残るはリーチの足りない鞭のみ。
やはり、ドレイクは判断力も長けている。
攻撃の攻略法を見出したうえで、自身の一手を狙っている。
「そこぉっ!」
一発。
イバラの性質上、咄嗟の防御は難しい。
手目掛けて放たれた弾丸は、ドレイクが命中を確信して撃ったものだった。
「――読めてるよっ」
「ッ……へぇ」
ゆえに、シンジが防御魔術で防いだのを見て、驚愕と共に感心の声が漏れた。
「今の、そっちのアンタかい?」
「ああ。だけど、それじゃ終わらない。決着付けさせてもらうぞ、ドレイク! マリー!」
「分かったわ、マスター!」
マリーの眼前を、イバラが躍る。
複数のそれが絡まり、捻れ――中心に薔薇の花を咲かす。
大きな魔力を持つそれ。ドレイクも、それが危険なものであると判断したらしい。
残る銃の弾をありったけ放つ。爆散し、散った花弁を見て不敵に笑ったドレイクだが――
「今だ!」
「ウィ!」
「――――――――!?」
――その一撃が、戦闘を終了させた。
その花弁一枚一枚から噴き出てきたイバラの嵐。
この場の海賊全てを仕留めて余りある棘の奔流がドレイクに降り注いだ。
「……なるほど。ブラフに掛かっちまった訳だ」
「これで終わり……で良いよな?」
イバラの檻の如くドレイクを囲みながら、一切傷つけることはなく。
複数の先端が獲物を狙う、完全な詰みの形でシンジは決着を宣言する。
「……まだまだ、とは言いたいけれど……ま、そうだね。いいよ、アタシの負けだ」
ドレイクも敗北を認めると、覆っていたイバラは消えていく。
「王妃、お怪我は?」
「いつも通りよ。ありがとう、サンソン」
戦いの後だと感じさせないマリーの微笑み。
サンソンは気が気ではないようだが、それに平時とまったく変わらない笑顔を向けるマリーは天然というか……。
「……ねえ、ハク。気付いてた?」
「え?」
「ドレイク。人の割には動けすぎよ。それに、あんなただの武器が英霊の武装を相手に出来るのはおかしいわ」
「……そういえば」
英霊の武装としては、マリーのイバラは然程強力なものではないかもしれない。
だが、それでも普通の武器で応戦出来るようなものではない。
ドレイクはただの剣と銃で、それが出来ていた。
それに、集中してみれば、ドレイクからは魔力の反応が感じられる。
彼女は魔術師ではない。アルトリアのように、英霊に匹敵し得る特殊な出自があるのだろうか……?
「さて、どうするね? これでアタシは敗者。人権は無いも同然。煮るなり焼くなり抱くなり、好きにしな」
「どれもお断りだよ。……んで、紫藤。どうする?」
「ん……あぁ。ドレイク、頼みたいのは――」
「まあ、大体わかっちゃいるけどね。見た感じ、この海をどうにかするために足が欲しいとかそんなんだろ?」
頷く。やはり、彼女は此方の考えを分かっているらしい。
「アンタらはこの海で、探し物をしている。だったらアタシら海賊の出番さね。いいよ、やってやろうじゃないか。で、他には?」
「まずは……この海は結局何処なんだ? イングランドか、スペイン近くか、それとも――」
「あー、悪いね。そういやわかんないわそれ」
「分からないでどんちゃん騒ぎを……!?」
珍しくカレンが声を大にしてツッコミを入れた。
……まあ、ドレイクの性格からして大体そんな事だろうと思っていたのだが。
「だって食糧にも酒にも困らないし――さっ、難しい話はまずはここまで! アタシたちはたった今からアンタらの仲間だ! とりあえず――乾杯といこうじゃないか!」
「え……? え……!?」
ドレイクの一声で海賊たちが慌ただしく走り回る。
瞬く間に宴の用意がされていく様子は、海賊ながら妙な美しささえ感じられた。
意味が分からない。流れが掴めないとカレンは目を丸くしている。
僕たちも多少その勢いに圧倒され――かつての慣れかシンジだけが、相変わらずだとばかりに溜息をついた。
「よーぅし! じゃあ、仲間になったアタシたちと、シンジたちに――乾杯!」
『乾杯ッ!』
日が暮れ始めた頃、およそ海賊とは思えない豪華な宴が始まった。
飲めや歌えやの大騒ぎ。作法も何もない喧噪に、気付けば僕たちも巻き込まれていた。
「ッカァ――――! やっぱりこの酒は美味い! で、アンタらは飲まないのかい?」
「うん、僕たちはいい。シンジ、は……」
シンジは当然のように、自身の杯を呷っていた。
「……シンジ、今確か……」
「あぁ、十八だよ。だけどまあ、飲めないこともないし」
……意外だった。
十年会わないうちに、シンジもまた飲酒が出来るほどになっていたとは。
日本の法律で言うと、年齢的には駄目なのだろうが……まあ、ここは五百年前の、どこの国とも知れない海だ。誰が咎めることもない。
「まあ、美味しい! こんなお肉食べたことがないわ!」
「お? 姫さんそんなんも食ったことないのか?」
「ええ。こういう大味な料理は初めてよ。ねえ、そちらも食べて良いかしら?」
「おうよ! おい、それこっちに寄越せ! 姫さんがご所望だ!」
……どうやら、この宴を誰より楽しんでいるのはマリーらしい。
確かに彼女の出自からすれば、海賊の食事は存在すら知らないほどに遠い代物だっただろう。
「あまり食べ過ぎるなよマリア。少しでもそのお腹が出張ったらサンソンが自分の首を落としかねないからね」
「誰がそんな事するか! 貴様は口を開けば音楽か大法螺しか吐けないのか!」
「おや、歴史じゃなく本来の僕を知っていながら、そんな事も知らなかったのかい?」
「ああよく理解してるよ!」
「はぁ……王妃が太ることはないだろう。彼女の摂取した栄養は全て胸に行くのだから」
「待ってそれ詳しく」
……多分、仲は良くないのだろう。
しかしまあ、マリーの取り巻きたちもそれなりに楽しんでいるようだった。
本人の耳に思いっきり聞こえるような場所で話す話題でもないような気もするが、マリーは一切気にしておらず、海賊たちにあれやこれやと盛られた料理に舌鼓を打っている。
「お父さま、お母さま。楽しんでいますか?」
「まあ……それなりに」
「緊張感が無さすぎよね……先行きが不安だわ」
料理は美味だ。だが、あまりにも海賊のノリが楽観的過ぎるというか。
これから先大丈夫だろうかと思わずにはいられない。
メルトやカレンも同感のようで、料理を口にしながらも微妙な顔をしている。
ゲートキーパーは――相変わらず、酒器を片手に近寄りがたい雰囲気を発していた。
彼の真名は未だ知れないが、前の特異点の戦いにおいて、苦戦していたスフィンクスを一撃で葬り去ったのは彼だという。
その助力のきっかけは、カレンも分からないらしい。だが……少し積極的になってくれたならば、嬉しいことだ。
「何湿気たツラしてんだい? そんなんじゃ目の前のお宝も逃げちまうよ?」
此方の様子を見て取ったのか、ドレイクが酒で顔を僅かに紅潮させながら話しかけてきた。
「大方アレだろ? 早くこの異常をどうにかしたいって。ま、そうだってんなら少しは知ってること話すよ。美味い酒にはならないけどね」
言いながら、その一杯を飲み干し、酒器を置いてドレイクは“海賊の目”に戻る。
「……確かに、これはとびっきりの異常だ。海流も風もお天道様が狂ったみたいにバラバラで、海図も役に立ちゃしない。ジャングルかと思えば地中海だったり、とにかくしっちゃかめっちゃかなんだ」
「大陸は? 大陸さえ見つかれば、場所も分かるだろ?」
「多分この海に大陸なんてないよ。何処の国ってわかる島も、一つも無い。なんで、それを確かめに、明日にでもアタシたちは新たな船旅に出ようとしてたんだ」
どうやら、ちょうどいいタイミングだったようだ。
この異常をどうにかするには、この島にいたままでは絶対に駄目だろう。
恐らくだが、原因は海にある。僕たちも海に出る必要があるのだ。
「じゃあ……」
「ああ、いいよ。もののついでだ。『
大きな、そして最初の一歩だ。
海を調査するための船を得られた。加えて、その船長は他でもないフランシス・ドレイクだ。
この時代、この海において、彼女以上に頼りになる存在などいないだろう。
「よしっ、決まり! そしたら飲みな飲みな!」
「え、いや……」
「ちょっと、私たちは……」
言うが早いか、ドレイクは僕たちに酒器を押し付け、酒を注いでくる。
黄金の器に並々入った酒は澄んでいて、芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
だが……美味しそうとは思えない。どうにもこの体は酒が苦手らしく、慣れないのだ。
「いいからいいから、ほら、そっちの嬢ちゃんも!」
「わたしも未成年なのですが――」
三人分の酒を注ぎ、自身の酒器にも同じように注ぐ。
黄金の器はその量を減らすことなく、未だ酒の泉を保っている。
あれも宝物なのだろう。ドレイクが旅の中で手に入れた至高の品。あの眩い輝きと凄まじい魔力。例えるならば聖杯のような――
「……」
「……」
「……」
「……」
――聖杯の、ような――――
『あ、やっぱりそうだ。変な観測結果だと思ってたけど、それ聖杯だよ』
『うわああああああああああああああああ――――!?』
その日、一番の大声が、海賊島に響き渡った。
「……へえ、これがアンタたちの求めていた宝、ねぇ……」
「そりゃ凄ぇ、大冒険だったワケだぜ……」
「聞いて驚け! 無限に続く七つの夜! 大渦から現れたのは伝説のアトランティス!」
「海の神ポセイドンを前にして一歩も劣らない姐御はついにその嵐を突破して、このお宝を手に入れた――!」
『ヒャッフー! 姐さんマジ最高ゥー! ハイホー!』
「……」
――さて、フランシス・ドレイクと言えば星の開拓者である。
あらゆる難航を可能に変え、人々の可能性を切り拓いてきた、まさに英雄と言えよう。
そしてドレイクは、この海で新たに、さらっととんでもない伝説を打ち立てていた。
突如として現れた海の神を、「ムカついた」という理由だけで返り討ちにしたというのだ。
開いた口が塞がらない。規格外にも程がある。
――この時代、僕たちが来る前にあった災厄。それをドレイクは
「おっと――」
その宝の真実を告げると、興味深げにそれを弄っていたドレイク。
そんなドレイクの体に、吸い込まれるように聖杯は消えていった。
「これ、慣れないんだよねぇ。まあ、あの化け物みたいな連中にも傷つけられるのはありがたいけど」
「……そう、か。それが、からくり、か……」
サーヴァントの攻撃にも真っ向から対処できる理由。
それは他でもない、最大級の魔術礼装たる聖杯の神秘を、ドレイクが保持していたからなのだ。
「んで? アンタらはこのセーハイ……だかってジョッキを回収しに来たって事?」
「あ、あぁ……一応、そういうことになる」
「ふーん。ま、アタシは敗者だし。くれてやってもいいけど……」
……だが、これを回収すれば終わる、という訳でもないだろう。
何でもないように投げ渡された聖杯を受け止める。
「カグヤ」
『うん、駄目だね。何の変化もなし。ここの元凶は別の聖杯だね』
「……と言う事は、これは……この時代に元々あった聖杯ってことね」
多分、そういう事象も存在するだろう。
聖杯と呼べる代物、その類似品たる魔術礼装はこの世に幾つか存在する。
これも、その中の一つということだ。
「よくわかんないけど……これでアンタたちの目的は達成されたのかい?」
「いや……これとは別に、もう一つ、この時代にあってはならない聖杯があるらしい」
「スピード解決とはいかないか……ま、そうだろうとは思ってたけど」
「それを回収しないと、この海は永遠にこのままでしょう」
「……本気かい?」
流石に冗談に出来ない事実を前に、ドレイクから笑みが消えた。
頷くと、その表情はより神妙になる。
「というワケだ。これはこの時代の、お前のものだ――それでいいんだろ、紫藤」
「ああ。正しい時代のものなら、持っていく訳にもいかないよ」
「そうかい? いや、ここまで宝をあっさり返されたのは初めてだよ……」
――あの聖杯は、恐らく願望器としての性質を有している。
宝を聖杯に願って手に入れる、それは海賊の本懐とは言えないだろう。
宝とは冒険して手に入れるもの。ゆえに、ドレイクは冒険に必要な汲めども尽きない酒と食料こそ欲している。
聖杯は現在進行形でドレイクの願いを叶え続けているのだ。
そして、この海を乱した聖杯は別にあり、誰かがそれを使用したことで時代に異変が起きた。
僕たちの本命はそちら側だ。
「よぅし、だったらソッチを探しに行くんだろ? 野郎ども! 明日からお宝探し再開だ! アタシらの海をぶっ壊したセーハイとやら、見つけに行くよ!」
『オォォォォォォォォ――――!』
緊張感のない宴は続く。
不安はあったが、それをいつの間にか感じさせなくしたのはドレイクだ。
やはり彼女は星の開拓者。彼女とならば、間違いなく今回の特異点も解決できる。
そういう確信を持てた。
マリーVSドレイク、そしてドレイクが仲間になりました。
オリジナル要素となるバーサーカーマリーですが、このように歌以外の戦闘能力として黒イバラでの攻撃があります。
というかちょっと喋らせるだけで延々と続きそうなサロン・ド・マリーは一体何なんですか。