Fate/Meltout -Epic:Last Twilight- 作:けっぺん
最も期待しているのは当然EXTRA関連の情報です。
「では、行くか。留守を頼むぞ、我が妹」
「何度も言いますが、妹では――ああ、もういいです。いい加減否定するのも面倒なので」
「なんだ。意外と認めるのが早いではないか。ほんの冗談のつもりだったのだがな」
「冗談の割には天丼が過ぎませんかねえ!? 五十回から先数えてないんですけど!?」
「ハハハハハハハ! そこまで数えるとは、性質の割に几帳面な奴よ!」
「良妻たるもの几帳面なのは当然です! 私とて家事に従事すればオリジナルにも劣らない女子力をですね……」
「そうかそうか。此度の召喚では不慣れな役目を与えたな。謝罪しよう」
「……サーヴァントなのに風邪でも引きました? 貴方が謝るとか気味悪いんですが」
「なに、百召喚されれば一度くらい血迷うこともあろう。此度が偶々、その機会だっただけよ」
「うわー、何とも貴重な巡り合わせだったものです。ま……精々暗殺でもされないようお気を付けくださいまし。命令通り――この神殿は守り通します」
「頼むぞ……想定外などなければ良いのだがな」
「不吉なこと言うと現実になりますよ。私が不安なのは貴方が気紛れで余計なことするんじゃないかって事ですけど」
「フハハ、まあ許せ。それはファラオの甲斐性、戯れという奴よ」
「戯れで同盟の作戦ぶっ潰されたら堪ったものじゃないでしょうね。円満に事が進めば良いんですが……何卒神様仏様……神様は私ですけど」
「ほう。神頼みなら余も得意とするところだ。何しろ余は神王なれば、な」
「……皇帝特権の名称、神様特権にでも改めた方が良いんじゃありません?」
「……それは良いな。そなたよもや、天才か」
「しょうもない冗談に呼び方変えるほど感銘受けるとかやっぱり頭の螺子何本か飛んでますね」
「よし。帰還し次第検討するとしよう。或いはサーヴァント界に革命を齎すやもしれんぞ」
「もう好きになさってください……さてと、私も準備しますか。スフィンクスがいる以上必要ないと思いますが……」
「余も発つ。達者でな、タマモ・オルタよ」
「はいはい――本当に、何もなければ良いんですが」
+
『そこからがローマ領です! 内部に多数のシャドウサーヴァントと魔獣の反応!』
「よし――行くぞ!」
エジプト領、そしてバビロンとも違う都市。
舗装された道を荒らす魔獣や影の英霊が跋扈する内部に侵入する。
「相当の数だな。この数日で余程魔力を貯め込んでいたか。だが――!」
ウラエウスに乗ったまま、ラーマは一体目のシャドウサーヴァントを射抜く。
セイバークラスでありながら、彼の武器は剣のみではない。
強弓から放たれる正確無比な矢は、獲物の脳天を確実に貫いていく。
「このままカルナたちと合流したいけど……サクラ、位置は分かる?」
『はい。ローマ領中心部に二人ともいます。そのまま街道を直進していけば辿り着きますが……』
当然、そこまでの道は険しい。
シャドウサーヴァントも魔獣も数は多い。
それに対処する兵士は少なく、追い込まれているのは明らかだった。
「ッ――メルト!」
「ええ!」
兵士の一団が戦う魔獣の群れに弾丸を撃ち込む。
動きの止まった獲物を一体ずつ、メルトが穿つ。
此方を察知し飛び掛かってくる影を、ランサーが素早く対処し貫いた。
「貴女は……転生せしディアーナの……!」
「違うんだけど……まあ良いわ。今の状況は?」
「はっ……影や魔獣の一部を各所で我々が誘い相手しております。中心部で将軍の皆様が膨大な数の敵を相手取っていますが戦況は芳しくなく……」
あの兵士は……バビロンでの戦いで、少しだけ話したことがある。
カリギュラの側近だった男性だ。
メルトの問いに躊躇うことなく兵士は状況を話す。
なるほど……サーヴァントたちは中心部で主に戦っているらしい。
「皆様は援軍で……?」
「そんなところよ。それで、私たちは中心部の援護に回れば良いのね?」
「お願いします。この辺りの相手は我々でもどうにか可能ですので……」
「分かったわ。精々頑張りなさい」
言葉を残し、メルトは一跳びで戻ってくる。
「女神ディアーナの祝福を受けた! どのような魔獣であれ恐れることはない!」
『おおおおおおおおぉぉぉぉぉ――――!』
メルトのその、たった一言が、一段の士気を大きく上げることに繋がったらしい。
再び魔獣たちに立ち向かう彼らは、あの様子であればまだ持ちこたえるだろう。
彼らの情報が正しければ、中心部はここの比ではないだろう。
先へと進む。この辺りの敵のレベルは然程でもないが……。
「■■■■■■■■――!!」
道を塞ぎ、大剣を振り上げるシャドウサーヴァントを、それを超える速度でメルトが貫く。
やはりシャドウサーヴァントは通常のサーヴァントとは比べるべくもない。
ウラエウスはある程度の耐久力もあるようで、魔獣に攻撃されてもビクともしない。
だが、先は長い。
このまま中心部に行くまで持つという確信はない。
より慎重に行く必要があるか。
「チィ……やはり量が多いな。止まれハクト。一旦前を切り開く!」
「分かった――頼むラーマ!」
弓を仕舞い込み、ウラエウスから跳躍するラーマ。
その手には歪に捻じ曲がった槍が握り込まれている。
持ち主の意思に呼応するように、槍は雷を迸らせる。
「吹き荒れよ、嵐の刃!
投擲によって槍はその原形を失い、雷の嵐となって奔っていく。
剣に弓、更に槍までも武器として有するサーヴァント。
少年の姿とはいえラーマは凄まじい英霊だ。三騎士クラスの全てを一人だけで補う底力。
牙を剥いた雷霆は魔獣や影を抵抗すらさせずに吹き飛ばし、道を拓いた。
「このまま進めれば良いんだが……む?」
「そうは行かぬようだ。厄介なものだな」
しかし、全滅させた訳ではない。
雷の嵐を掻い潜ったのか、健在のシャドウサーヴァントが数人残っていた。
それだけではない。騒ぎを聞きつけた巨大な魔獣が近付いてくる。
毒竜バシュム。バビロンの戦いでも相当厄介だった魔獣だ。
「ふむ……バシュムは余が相手取ろう。影共は任せてよいな?」
「やるしかないわね。さっさと片付けるわよ」
「了解だ!」
あのシャドウサーヴァントたちは敏捷に秀でているらしい。
それによりラーマの投槍のレンジから素早く逃れたようだ。
だが、それでも敏捷に特化したメルトの敵ではない。
「逃がさないわ! 良い声で啼きなさい!」
一撃ではなく、連撃による痛覚の刺激。
メルトの悪い癖ではあるが、退避を許さずダメージを重ねていくのは有効だ。
「ふん、この程度ならば――!」
ランサーもまた、さして苦戦はしていない。
敏捷ではなく耐久に重きを置いたランサーは、敵の攻撃を待ち受け止めてからの反撃により、一撃で仕留める。
ランサーを回復しつつ、ラーマの様子を見る。
弓でも槍でもなく、此度手に持っているのはセイバーのクラス相応の剣だ。
魔を払う性質を持っているらしいその剣は、バシュムなど相手にならない。
「貴様を相手にしている時間などない! 疾く去るがいい!」
硬い鱗をあっさりと切り裂き、毒息を躱しつつ確実に追い詰めていく。
シャドウサーヴァントよりも手強い相手なのだろうが、それを感じさせない程にラーマは素早く相手を切り伏せる。
メルトが相手を仕留める頃にはバシュムは力尽き、再び道は拓いていた。
「あら、今までのとは違うみたいね」
倒れ伏したシャドウサーヴァントやバシュムは、血となって地面に染み込んでいく。
霧散していく筈の影まで……何か、改造が施されているのだろうか。
「……」
「まあ、さして力の差はあるまい。このまま進むぞ」
『ッ、待ってください! 周囲にサーヴァント反応があります! その血の反応と混じって場所の確定は出来ませんが……』
――どうやら、サーヴァントの能力によるものらしい。
此方に襲ってくる魔獣やシャドウサーヴァントを操っていたということは、ラーヴァナの配下か。
対処はしなければならないが、早くカルナや牛若と合流しておきたい。
「……では、ここは僕が残ろう」
「ランサー……?」
「確信ではないが……そのサーヴァントに心当たりがある。どうにかしてすぐ合流しよう」
心当たり――生前に知り合った仲、だろうか。
多くのサーヴァントの召喚が考えられるこんな状況であれば、そういう可能性は少なからず存在する。
キャメロットにおける円卓の騎士や、ジークフリートとクリームヒルトのように。
であれば、性質や弱点を何より知っているだろう。
彼の神妙な表情から察するに、尋常ならざる関係のようだ。
「……分かった。任せた、ランサー」
残りたい、残らなければならないと、ランサーの目は告げている。
ならば、それ以外の決定は存在しない。
「ああ。また後で」
その場をランサーに任せ、先に進む。
サーヴァントが追ってきている可能性も考えられたが、ランサーは動かない。
それは、敵の意識が自身に向いている、という確信からか。
結局彼が動くことも、サーヴァントが姿を現すこともないまま――ランサーの背は遠ざかっていった。
+
彼らを先に行かせたのは、一刻も早くローマ中心部に援軍を向かわせるため。
それは決して、間違いではない。
しかしそれが第一の理由かと問われれば――否だ。
彼は――ハクトは、私に似ている。
恐らく彼女を見れば、動揺でその手を鈍らせるだろう。
人の理を外した者に対し、何を思ってしまうのか。
同情し、助けるために手を伸ばすとあらば、それは愚かの極みだと言える。
それでも、今の
この頃の私は愛する者を救いたくて仕方がなかった。
私の正義のために、愛する者の悪を許容した。
それが彼女の救いだと思った。私には、それしか救いの道を考えられなかったのだ。
もし――もし。
彼女に、他に救いの道があったとすれば。
それは私には出来ない。とどのつまり、彼女を本当に救うことは、私には出来なかった。
だから彼女は、こうして反英霊となった。人の恐怖の象徴となって、信仰にその名を刻んだ。
私も、召し使いも――生前の誰も、彼女を救うことはしなかった。
そんな彼女を相手取るのは、私しかいない。
「……いるのだろう。隠れていては事は進まない。姿を現すんだ」
傍から見れば、虚空へ向かって話しているように見えるだろう。
だが、私は明確に、その言葉を彼女にこそ向けている。
「――そう。そうよね。私がいると確信を持つのも、貴方であれば納得が行くわ」
その血の色に染まったドレスを着込んだ姿は、私が知るよりも遥かに魔性に近くなっていた。
髪色まで変わり、悪魔が如き面で顔を覆っている。
生前の面影は殆ど残っていなくとも、その雰囲気は変わっていない。
「……久しぶり、というのは少しおかしいか。会えて嬉しいよ――エリザ」
「あら、懐かしい名前。そう……こうまで変わり果てても、貴方は私をこう呼んでくれるのね」
「勿論だとも。君に、それ以外の名があるのか?」
「ええ――この霊基に刻まれた真名はカーミラ。エリザベート・バートリーなんて名は過去の穢れよ」
正直なところ、目を覆いたかった。耳を塞いでしまいたかった。
自分を押し潰しそうになったのは、自責の念だった。
彼女を、エリザをここまで堕としてしまったのは、他でもないこの私なのだ。
私があんなことを教えなければ、彼女はこうはならなかった。
彼女を苛む頭痛を、苦しみを緩和したいがために、私はあのような事を教えてしまった。
「何をそんな、苦しそうな顔をしているのかしら。もしかして、罪悪感でも感じていて?」
「……そうだね。間違いない。君をここまで変貌させたのは、僕の責任だから」
「勘違いも良いところね。私は私の意思でこうなった。貴方がアレを教えてくれなければ、早々に命を断っていたわよ? 貴方は私を救ってくれたじゃないの」
「しかし、それが原因で君は反英霊に身を落とした。僕は後悔しかしていないよ」
もしもやり直しが叶うならば。
私はもう一度、彼女を救う道を模索したい。
願いを叶える機会があったとして、それに彼女の救いを願うことはない。
それは私の手でもって解決すべき宿願。
そして――誤ってしまったあの女性は、いてはならないものなのだ。
「……そう。それなら、果たしてどうするつもりなのかしら?」
「過ちである君を倒す。それが、今の僕に出来る最大限の罪滅ぼしだ」
「――ふ、ふふふ、アハハハハハ! 若い頃の貴方はそこまで愚かだったかしら! ええ、やってみなさいよ! それなら私は貴方を目覚めさせてあげるわ! 鉄血無情の黒騎士様!」
槍を構える――まさか、私が彼女に槍を向けるなんてことが起こるとは思わなかった。
それでも、これが仕方なきことであれば。
彼女を救うためなのであれば。
ラーヴァナなどどうでもいい。今の私は、彼女に全霊を注ぐ。
「行くよ、エリザ。サーヴァント・ランサー――ナーダシュディ・フェレンツ二世、君を断罪する」
「来なさいフェレンツ! 貴方の血なら、喜んで浴びましょう! 最後の一滴まで飲み干してあげましょう! 貴方の苦悶の声、聴かせてちょうだい!」」
という訳でカーミラ様参戦。そしてランサーの真名が判明。
フェレンツVSカーミラとなります。
ここまで隠していたのは何より、カーミラ様に一目で看破してほしかったためですね。
冒頭の会話はオジマンディアスがバビロンへと発つ前のもの。
次回からはローマでの戦いも本格的になっていきます。