我は竜王、誇り高き竜族の王   作:傾国の次郎

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今日は長めにいきます。


第八話

 

太陽が顔を出し鶏の鳴き声が聞こえる。

 

サザンビークの住人たちもその大多数が動き出す頃。りゅうおうは市街地の裏路地でひっそりと身を潜めていた。

 

(…どうしてこうなった…。)

 

りゅうおうは心の内でそうごちる。が、そんなりゅうおうの思考を読んだかのように、すぐ隣で同じように家の陰に潜む金髪の少年が喋りかけてくる。

 

「そんな顔をするな、なに、おとなしく従っておれば悪いようにはせぬ。」

 

チャゴスである。先程せかいじゅの葉を売る店の前で売り子の少女と押し問答をしていたりゅうおうの前に彼は颯爽と現れ、誰何の声をかけるりゅうおうを無視して強引に商品の代金を立て替えると、りゅうおうを路地裏に引っ張りこみこう告げた。

 

「貴様のことは昨日の森での一件からいままでずっと見ていた。兵士につき出されたくなかったら俺様の計画に付き合え。」

 

そう言うと、りゅうおうの返事も待たずついて来いと先を歩きだしてしまった。りゅうおうは昨日のことを見ていたと言う少年の言葉にパニックに陥りながらそのあとを追う、見ず知らずの少年の言葉に素直に従いついて行くあたり、動揺の度合いが伺い知れる。

 

(…見られていた?いつから?始めから?わからない……それよりこの少年は何者なんだ?原作にいたかなこんな子……でもなんか、どこかで見たような…)

 

りゅうおうはパニックで思考がまとまらないまま少年の後をついて行くと、少年がふいに立ち止まり此方へ手招きする。

 

「この空き家は城の外への秘密の抜け道になっているんだ。城の外へ出たら詳しく話してやるからついて来い。」

 

そう言うなりチャゴスは目の前の民家の裏口の扉を開け、なかに入ってしまった。りゅうおうは一瞬ためらうも、ここまで来たら最後までついていこうと扉を開けてなかに入る。

 

家のなかは家具などはなく、ちぎれたロープやナイフなどが散乱する床には所々血痕が付着していて、壁には大きな布が掛けてあった。

 

少年がその布をめくると、壁には穴が開いておりなかは真っ暗でどこまでも続くトンネルのようになっていた。少年が先に入り、りゅうおうが後に続く。

 

どれほど歩いただろうか、しばらくすると外へ出た。少年はなおも歩き続け、大きな滝の側の切り株へ腰をおろすとこちらに声をかけた。

 

「足労をかけたな、その辺に座るがいい。」

 

そう言われたりゅうおうは、近くにあった手頃な岩の上に腰かける。

 

「さて…、なにから話そうか…」

 

少年は顎に手をやり考えるふりをする。りゅうおうは少年の姿を正面か見て、はっとする。

 

(…なんか様になるなぁ…この子……つーかイケメンすぎ!美少年てやつですか?そーですか!まじいけめんしねばry……)

 

りゅうおうが酷い自傷思考を抱き始めたとき、少年が口を開く。

 

「…と、まずは自己紹介をしておこうか、俺様の名はチャゴス。誇り高いサザンビーク王家の王子チャゴス様だ!」

 

少年はりゅうおうに自身の名を告げるとその場で座ったままふんぞり返りドヤ顔を炸裂させるが、りゅうおうの反応が薄いのに気を咎め、再び口を開こうとしたときりゅうおうが小刻みに震えだし、そして……

 

「……だ…」

 

「だ?」

 

りゅうおうのつぶやきが聞き取れず聞き返すチャゴス。次の瞬間、辺りにりゅうおうの叫び声が響いた。

 

「誰だお前はぁぁあぁぁ!チャ、チャゴスがあの人をイライラさせる天才みたいなクソ脇役キャラが、こんなイケメンなはずがあるかぁぁぁああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

りゅうおうがチャゴスに向かって怒鳴り付けている頃サザンビーク城では蜂の巣をつついたような騒ぎが起きていた。毎度お馴染み名物王子チャゴスのことである。騒ぎの発端は、久しく使っていなかった地下牢の掃除をするために新米の兵士達が牢のなかに入った所しばらく前から行方不明だった使用人達が見るも無惨な状態で見つかり、わずかにいた生存者の話しから、王子に言いがかりをつけられ牢に繋がれたのち、躾と称する拷問紛いの折檻を受け、もう何日もここへ放置されていたことがわかり、事情を聞いたクラビウス王が国中にチャゴスを指名手配する布令を出す大事へと発展していた。

 

現在チャゴスはりゅうおうと共に城の外へ出ているためいくら探しても城下にはいないのだが、そんなことは兵士達には知るすべもなく、王子の捜索は続いていた。

 

玉座の間ではクラビウス王と大臣の他にも兵士長や他の貴族などが詰めかけ、事態の深刻さに誰もが言葉を忘れてしまったかのようだった。

 

そんな静まり返った場に兵士が慌ただしく駆け込んできた。

 

「申し上げます!チャゴス王子の行方は依然不明、ですが目撃情報があげられています!」

 

兵士が言うには今日の朝早く、城の近くにある店に来ていた怪しい客を後からきたチャゴス王子が連れたち二人で市街地の裏路地に消えたという。

 

(全く意味がわからぬ…。)

 

怪しい客の素性を問うも、バンダナで顔の下半分を隠していたため顔はわからず、子供ほどの背丈であったことしか情報がない。

 

「(其奴とチャゴスの関係性が謎だな…。)他に報告することは……?…なければ其方も捜索へ戻れ!」

 

兵士はクラビウス王の命令に一礼すると、部屋に入ってきた時と同じように慌ただしく出ていった。

 

「王さま……チャゴス王子の処遇…いかがなさいますか……?」

 

大臣が答えにくいことを聞いてくる、しかし後回しにできる問題でもない…クラビウス王は静かに席を立ち窓の外を見る。窓の向こうには昨日謎の閃光と共に出現した焦土が広がっていた。

 

(…この光景は、正に今の儂の心情そのものよ………信じてやりたかった…いつかは立派に王位を継いでくれると……今回のことも、何かの間違いだと…信じてやりたかった…だが……)

 

王は思考を中断し大臣以下臣下の会話に耳を傾けると、聞こえてくる王子を非難する声……あの王子ならやりかねん…だから私は昔から…やはり王子は王の器ではなかった……………。

 

(……もはやこれ以上の庇いだては不可能……このままではこの国は割れてしまう…………決断しなければならんな………。)

 

クラビウス王が臣下の列に向き直ると、彼らは私語を止め王のまえに跪く。

 

「……チャゴスの処遇を伝える…………チャゴスを廃嫡し、王家から除籍……そして…国外への永久追放とする……!!」

 

クラビウス王は決断した。王子が改心することを信じていままで庇ってきたが、今回のことでその心をへし折られてしまった。そんな王を見つめる臣下達は最大限の同情を心に抱き、王の布告を城下に広めるべく行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?驚いたぞ、いきなり叫びだすとは。」

 

りゅうおうはひとしきり叫んだあと急に冷静になり、叫んだこと自体が恥ずかしくなって地面に突っ伏していたが、チャゴスには先程の叫びは半分も聞き取れておらず、王子だと明かしたショックで叫び出したと勘違いされていた。

 

「まぁ、仕方のないことではあるゆえ、今回の無作法は大目にみてやる。感謝するがいい。」

 

どうだ、慈悲深いであろうと言わんばかりの態度で、ドヤ顔を決めるチャゴス。だがりゅうおうの耳にそんなことははいらない。

 

(……どーなってんの?…チャゴスがイケメンて…。)

 

未だショックから立ち直れないでいるりゅうおうであった。


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