我は竜王、誇り高き竜族の王   作:傾国の次郎

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第七話

なぜここにりゅうおうがいるのか。その問の答えは数時間前に遡る。

 

浜辺で遭遇、戦闘したオセアーノンに回復呪文を使おうとした結果、そもそも回復呪文を使えないということに気づいたりゅうおうは、他の手段を模索していた。

 

(呪文がダメならやくそうなどのアイテムを使えばいい…ん…だけど……。)

 

目の前に広がる焦土と化した森をみて言葉を失う。自身の過剰攻撃の結果がこんなところにまでも影響していた。

 

(……そもそも、やくそうとその他の雑草の区別がわからんな……。)

 

やくそうなどの回復手段はそんな理由で没。となれば街までいき、回復アイテムを店で買う必要があるが、この格好では怪しまれるし魔物だとバレればどんな目に遭うかわからないということが、りゅうおうに二の足を踏ませていた。

 

(……襲撃をかけてもいいんだが…変に人間に刺激を与えたくないし……やはり、変装して街に入るしかないな……)

 

未だなんの情報もない今、下手に街に襲撃をかけるのは得策ではない。ならば変装して街に入り速攻でアイテムを購入し速やかに立ち去る。これがベストだとりゅうおうは考えた。

 

幸い人間が落としたと思われるバンダナが浜辺に打ち上げられていたので、それで顔の下半分を覆うが、さすがに服までは落ちていなかったのでそれだけで諦める。これは変装といえるのか。

 

りゅうおうは焦ってもいたため顔が隠れればまぁいっかと深く考えるのをやめた。

 

(…とりあえずこれでよしとしよう。)

 

外見はなんら変化していないので、怪しいままなのだが。りゅうおうはオセアーノンの下へ戻り、状態を確認する。

 

(だんだん呼吸の間隔が長くなってるな……時折止まりもするし…街まで行ってる間もつのかこれ。)

 

オセアーノンは刻一刻とその生命活動を止めようとしていた。そして――――。

 

(……あっ…。)

 

遂に鼓動が完全に停止する。貴重な情報源になり得たものをむざむざ見殺しにしたりゅうおうは、その呆気なさに一瞬呆けるが、唐突にあることを思い出す。

 

(…そうだ。確かサザンビーク城下にはせかいじゅの葉を売っている店があったはずだ!)

 

せかいじゅの葉。ドラクエではお馴染みの死者復活アイテムである。サザンビークにはせかいじゅの葉を売る店がある。オセアーノンは死んでしまったが、せかいじゅの葉を使えば蘇る。そのことに気づいたりゅうおうは一路サザンビーク城を目指し走り出した。まだ蘇生呪文を試すという選択肢もあったのだが、りゅうおうは気づかない。

 

りゅうおうのハイスペックボディを駆使し城壁をよじ登り城下へ侵入後、街並みが多少ゲームと違うことに戸惑いながらもなんとか店の前にたどり着く。

 

そして少女に接客される場面に戻る。

 

「せ、せかいじゅの葉を…一枚?一個?ください…。」

 

吃りながらもりゅうおうは少女に喋りかける。少女はりゅうおうの怪しさに圧倒されていたが、注文を受けたことに気づくと慌て接客に戻る。

 

「しっ、失礼しました!せかいじゅの葉をおひとつですね?1000Gになります。」

 

少女は怪しい客に対価を要求するが、その瞬間その客は硬直した。

 

(……金…もってねぇ……、)

 

少女に言われて初めて気づいたがりゅうおうはお金を持っていなかった。言われるまで気にもしなかったのは迂闊だったが、この世界に来てからまだ一日もたっていないのだ、金など持っているはずがない。仕方がないので後で必ず支払いにくるので、いまは持ち合わせがないことを少女に伝えると。

 

「申し訳ありませんが、料金は先払いでしか受付けていません。」

 

と断られてしまった。当然である。常連の客ならまだしも初見の、いかにも怪しい風体のこの客を信用することなど少女には無理な相談だった。

 

「そこをなんとか…なりませんか…?」

 

りゅうおうはなおも食い下がるが、少女は首を縦にふらない。進退窮まったりゅうおうは、こうなれば強盗もやむなしと杖を握る力をこめたとき、背後に立つ人の気配に気づいた。

 

「話しは聞かせてもらった。その金は俺様が支払ってやろう。」

 

りゅうおうの背後に立っていた人物が話しに割って入ってきた。振り返るりゅうおうの目の前には、豪奢な金髪に涼しげな顔立ちのイケメンが口許を歪ませながら立っていた。チャゴス王子である。

 

サザンビークが生んだ名物王子チャゴスと環境破壊の化身りゅうおうのこれが初めての邂逅であった。

 

「………………誰?…」

 

りゅうおうのつぶやきが、まだ薄暗いサザンビークの空に小さく昇っていった。


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