今日からまた投稿していきます。
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まだ夜も明けきらぬ刻。サザンビーク城下のとある民家で、少女は目を覚ました。起きてすぐに服を着替え顔を洗い朝食の準備にとりかかる。まだ背が小さいため流し台の前に台を置きその上に乗る。
「今日の朝ごはんはなににしよっかな~♪」
鼻歌まじりに少女は手際よく調理をしていく、その様はまるで主婦である。まだ10にも届かない歳だが。
少女は二人分の朝食を作り終えると、母親の寝室へと向かう。扉の前に一度膳を置き、ドアノブに手をかける。扉を開くと部屋のなかでは少女の母親がベッドに腰掛け、少女を待っていた。
「お母さんおはよう!」
「おはよう。いつもすまないねぇ。」
「それは、言わない約束でしょ!」
お約束の会話である。いや、少女の母は本当に申し訳なく思っていた。彼女は謎の病にかかり長い。家事や炊事どころか立って歩くことすら儘ならないのだ。そのために娘である少女に自身の世話や店のことを任せっきりにしている現状にもはや怒りすら覚えていた。
「お前には苦労をかけて……。」
双眸から涙を流し、娘に謝罪する母。
「大丈夫だよお母さん!お母さんのびょうきはあたしが必ず治してあげるから待ってて!」
少女は改めて決意する。自分の母の病を治しまた一緒にお出かけしたりするのだと。健気である。
「じゃああたしお店の準備があるから、もう行くね!ちゃんと寝てなきゃダメだよ?いってきます!」
少女は母親にそう言うと自分の分の朝食を袋に包み家を出た。
少女の家は小さいながらも店を営んでいる。取り扱っている品物は決して安いものではなく、めったに客は来ないがそれでも母の病を治療するため値段を下げる訳にはいかない。少女の父親が店に立っていたときからの馴染みの仕入れ先も、少女の境遇に同情はしても品物の値段を下げることはしなかった。
少女の父親はいない。ある日仕入れに出かけたまま帰って来なかった。当時は心配したが、時がたつにつれいつしか捨てられたのだと考えるようになった。
帰らぬ父を待ち続けても仕方ないと、少女は代わりに店に立つようになった。母の病を治療するお金を稼ぐために。
少女は店に着くと奥にしまってある宝箱の鍵をあけ、中の商品を確認する。そしてまた鍵を締め店先に立つ。今日も少女の一日が始まる。
少女の店の客は大概常連の人間で、新規の客は珍しかった。故に、その客はひどく目立った。
「い、いらっしゃいませ!」
少女は元気良く接客するが、内心おっかなびっくりしていた。その客が怪しさ満載で挙動もおかしかったからである。
「こ…こんにゃ…ちは……。」
舌を噛みながら店の前に立つ客は、顔半分を布で覆いその身体を紫色のローブで包み右手に杖をもった、自分より少し背が高いだけの小柄な人物だった。
サザンビーク地方に舞い降りた環境破壊の化身。りゅうおうその人である。
(か、噛んじゃった、恥ずかしぃ~……。)