我は竜王、誇り高き竜族の王   作:傾国の次郎

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とりあえず今日までで今週の投稿はやめます。
また来週の月曜日から投稿を再開します。


幕間~サザンビークの名物王子~

 

ここはサザンビーク城。神代の時代から続く由緒正しいサザンビーク王家が治める城。そんなサザンビーク王家の後継者は代々ある試練を乗り越えねばならぬ決まりがあった。

 

城から出て東に続く道を辿った先にある山。

 

通称王家の山は、山を管理する一族以外は次代の王にならんとする継承者以外は一切立ち入れぬ神聖な場所である。現王もその限りではなく、護衛も入れぬ正に聖地と呼ぶにふさわしい場所であった。

 

次代の王にならんとする継承者は、この山のみに生息するとある魔物を倒し、その魔物がもつという宝石を持って城へと帰還し現王に献上する。わたしは王の位を譲り受けるに足る者であると、現王や領民に証として示すのである。それ以外に王位継承権を得る方法はなく、歴代の王は皆その試練を果たしてきた。

 

当代の王も自身の王子にその試練を課し、王位継承権を与えようとしているのだが……。

 

「父上!わたしは王家の山になぞ行きたくありません!」

 

「まだお前はそんなことを言っているのか!?王家の山に行き王位継承の証を持って帰らねば次代の王にはなれぬと言うておろうが!」

 

サザンビーク城玉座の間。そこではサザンビーク王家当代の王とその王子が朝も早くから激しく論戦を交わしていた。

 

「わ、わたしは王になど……。」

 

「……はぁ……またお前は…、お前が王位を継がねば神代の時代より続く王家が絶えてしまうではないか……。」

 

サザンビーク王家の当代クラビウス王は、ため息を吐く。王子であるチャゴスは一人息子ということもあり、蝶よ花よと可愛いがり育てた、そして試練に挑む年齢になったチャゴスは歴代王家でも一、二を争う放蕩息子へと成長していた。毎日城下へと繰り出しては、領民や城下へ行商にきた商人などと諍いを起こし、城に詰める兵士や文官をストレスの捌け口にしたりと、やりたい放題であった。

このままではいかんと厳しく躾るようになったが、それがストレスや苛立ちを増長させ、また問題を起こすという悪循環にクラビウス王は頭を悩ませていた。

 

加えて最近は、教育のために雇いいれた教師たちの授業も放棄し、顔も見ぬ日も多々あり城に勤める使用人などは、王子の逃げ足と危機を察知する索敵能力は認めざるを得ないなどと、匙を投げる始末。クラビウス王は目の前にいる王子に向き直り観察する。

 

癖っけのある金髪に、歳のわりには小柄な体。サザンビーク王家特有の彫りの深い顔に母親譲りのダークブラウンの瞳端正な顔の下には筋肉質ではないが、程よく引き締まった体が頼もしい、黙っていれば二枚目という印象である。黙っていれば。

 

(外見の容姿は悪くない、だが、なまじ容姿が優れている分中身の酷さが浮き彫りになる。見た目は立派な王子なのだが……。)

 

クラビウス王は自身の息子をそう評する。

 

決して親の目フィルターをかけている訳ではない。この世界のチャゴス王子は、城の二階の自画像そのものなのだ。イケメンである。実際城を抜け出しては遊びに行くベルガラックの街の住民の間では、サザンビークの御曹司という呼び名で有名で、特に若い女性からの支持が半端ない。その人気は止まるところを知らずこの大陸中の年頃の女性は、チャゴスへの憧れを抱いていた。いけめんまじしねばいいのに。

 

しかし、彼女達は知らない。憧れの御曹司は中身が五歳児あたりで成長の止まった我が儘迷惑王子だということを。

 

その王子は現在、玉座の間にて父王であるクラビウスと向き合い、己の意志もとい我が儘を口にして王を困らせていた。

 

(毎日、毎日うるさいなぁ~父上は……昔は優しくてよかったのに、しばらく前からいきなりうるさく説教するようになって……領民や城の兵士は、王子である俺に従うのは当たり前のことだろう。抵抗せずに唯々諾々と言うことを聞けば鞭をふるったりはしないというのに……下賤な民や下級兵士の分際で、立てつくから痛い目にあうのだ。これは、いわば躾だな。……今日もこの説教のあと使用人どもを集めて、父上に話しがいかないように躾をしてやらねばな……。)

 

チャゴスは、このあとに続く遊びに考えを巡らせ、思わず顔を歪めていた。クズである。

 

「……ククッ。」

 

「なにがおかしい!!お前のことを思って言っておるのだぞ!?今日という今日は許さん!お前に王家の男児の在り方をみっちりと説教してやる!!」

 

思わず声に出し笑ってしまったチャゴスはその後昼食も抜きで説教され続け、ようやく解放されたのは日も沈む時間帯であった。そしてその日の夜城の地下にある牢屋から城に詰める使用人達の悲鳴が響いていた。その悲鳴は語るのも憚られる程の凄絶なものであり、時折悲鳴に混じり楽しそうな、本当に楽しそうな、まるで悦に入ったような哄笑がサザンビークの夜を犯していたという。





チャゴスは今後、ストーリーにも深く関わってきます
ブラックチャゴスの今後にご期待下さい。笑

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