りゅうおうの過剰攻撃が緑豊かなサザンビーク地方の森林を破壊する一時間前。
「王さま…王子が城下にて…」
「またか?今度はなにをした?」
ここはサザンビーク地方を治める王国、その王城玉座の間にて大臣と国王は、この国の名物王子、チャゴスのことでお互い眉間に皺を寄せ話している。
「現在城下にて開催中のバザーに乱入、散々場を荒らした後難癖をつけ露店商の売り子を鞭打ち、かばおうとした店主を売り物のはがねのつるぎで切りつけあまつさえ服に血が飛んだと言って店主に金を要求……」
出るわ出るわ名物王子の武勇伝の数々、王は頭を抱えて窓の外を見る。現実逃避である。思えば王子を甘やかしすぎたのだ、明日からは厳しくいかねば。
それでも明日からという点が既に甘やかしが入っているのだが、王は気づかない。なんだかんだ王子が可愛いくて仕方ないのである。
「……さらには首輪を嵌めたのちに紐でくくり犬のように……」
大臣の話しはまだ続いているが王は明日からの王子の教育方針に思いを馳せていた。
(まずは、はじめてのおつかいから始めよう!そしていずれは王家の谷に……)
すれ違う主従の思考が佳境に向かおうとした時。
ドォォォォォン!!
爆音が遠くから聞こえ、両者は身を縮ませる。
「なっ何事だ!」
玉座の間の扉がけたたましい音をたて開かれる。
「申し上げます!只今、城下より南東の方角に閃光が瞬き国土の一部が焦土とかしました!!」
城に詰める兵士が息せききってかけこんでくる。
「なっ……なんだとぉ!!」
玉座の間は城の二階に在る、王と大臣は兵士に先導され城壁の続き間を通り外にでた。
「王さまっ! あちらです!」
城壁の上には城中の兵士が件の方角を見つめ声を失っていた。王が近づくと兵士長が側に寄り指を指す。
「ばかな…いったいなぜ…」
王が見た方角は王家の谷に続く道、その先の大地が黒く焼け至るところから煙が上がっていた。王が上げた誰何の声、それに答えられるものはこの場にいなかった。
りゅうおうは茫然自失していた。まさかがむしゃらに放った呪文がここまでの威力を発揮するとは思わなかったのだ。
(これは…明らかにやり過ぎたか…)
目の前に広がる地獄絵図。中の人は地獄どころか臨死体験、ましてや地獄絵図の絵も見たことはないが、そう思った。
先ほどまであった殺気も今は霧散している。しかし、いまはそんなことは些事だった。
(やっぱり検証って大事なんだなぁ、転生ものの話しってやたら検証とかしたがるのにちょっとイライラしてたけど、これは確かにやらないと環境に悪いな、環境問題って大事だからな、うん。
)
自身がもたらした災厄にも等しい状況をほっぽりだして斜め上に思考を展開する。やはり普通?の転生者とはずれていた。