チャゴスが玉座の間に入っていったあと、りゅうおうは足下に散らばる兵士だった肉塊を踏みつけないように、チャゴスのあとを追っていた。
計画は中止になり街を襲撃しなくて済んだとはいえ、今更やっぱなしなど納得ができないからである。
それにいまこの場で行われている殺戮をみてみぬふりもできないとりゅうおうは考え、玉座の間の扉を開け放った。
中へと入ったりゅうおうの目に飛び込んできたのは、切り刻まれた貴族達のしかばねと、いままさにチャゴスによって首を落とされようとしている大臣の姿だった。
「……ん?…貴様か…なんの用だ、貴様にはもう用はないぞ?」
「………なにを……?」
りゅうおうが部屋に入ってきたことに気づいたチャゴスは、大臣の首に剣を当てたまま目線だけをりゅうおうに向けて用件を問う。
それに対してりゅうおうは、何故こんな殺戮を行っているのか逆に問う。質問に質問で返すとは…
「なに、こやつらが愚かにも俺様に剣を向けてきたゆえ…処刑しているだけのことよ。」
りゅうおうはチャゴスから先刻の出来事を簡単に説明し、唐突に笑いだす。
「…ククク…ハーハッハ!」
突然笑い声をあげるチャゴスにりゅうおうはえもしれぬ怒りを覚えた。
「…………だ…。」
「なんだと?」
「やり過ぎだと言ったんだ!」
りゅうおうは遂にチャゴスの身勝手さに激高した。
りゅうおうが怒鳴ったのが意外だったのか、チャゴスはきょとんとしていた。
「なにを怒っているのだ貴様は…?」
チャゴスには本当にわからないようで、りゅうおうに問う。
その態度がさらにりゅうおうの怒りに油を注ぎ、怒りの炎が燃え上がる。
「ここまですることかっ!全て己の自業自得だろうが!クズめ!」
「…なぜ怒っているのかわからんが……俺様をクズだと?…貴様も此奴らと同じ凡愚か…。」
チャゴスは顔にあからさまに失望の色を浮かべると左手をりゅうおうに向けた。
「…俺様に楯突く輩は、誰であろうと殺す!」
チャゴスの左手に魔力が集まり光を放つ。
「グランドクロス!」
チャゴスは左手で十字を切り光をりゅうおうに解き放つ。
迫る光の奔流にりゅうおうは己の魔力を両手に集め、呪文を唱える。
「ベギラゴン!」
二つの閃光はぶつかり合い、眩い光を放ち衝撃波がうまれる。
そして――――
「………………………ぐっ………………。」
あれからなにがどうなったのか、りゅうおうは瓦礫の中で目を覚ました。
「…っ!…奴は…!?」
辺りを見回すもチャゴスの姿は見あたらなかった。
サザンビークの城はりゅうおうとチャゴスの激突により半壊し、所々で煙が上がっていた。
「……痛っ…!!」
身体を起こそうとすると痛みが走る。
「…なんにせよ、早いとこ移動しないと…。」
痛みを訴える身体を無視し、無理矢理起き上がるりゅうおうに背後から声がかかった。
「お、お待ちください!」
振り向いたりゅうおうの目の前には、頭を切ったのか血を流しながらもサザンビークの大臣が立っていた。