「…我がこの世界を席巻していた頃から随分と長い時が過ぎた。」
かつては世界に覇を唱えた存在は、砂漠の迷宮の奥深く下層、深層と呼ぶべき場所でその存在を知覚した。
1000年前、己が身を滅ぼされる直前に発動させたとある儀式が、悠久の時を越えいま発動したのだ。
「遂に、来たか。」
その存在に身体はなかった。
所謂、精神体や思念体とよぶモノだった。
「…復活の日は近い。ふたたび地上へと舞い戻り、1000年前に果たせなんだ野望を…」
そう言うと、ふわふわと空中を浮きながらソレは動き出す。異世界からの客人を招くために。遠き同郷の存在をココへ向かえるために。
「…とはいえ、流石に1000年手をいれてないだけあって荒れ放題の崩れ放題じゃな…。」
ソレは自身がいる空間を見回す。
闇の祭壇。そんな言葉がふさわしい部屋は僅かに壁が土に侵食されており、石畳の石もひび割れ、本来の光沢も失われてしまっていた、それに―――
「……ちっ、だめじゃ…かつての配下も全て石になるかくたばったようじゃな……。」
己の配下に思念を送ってみるも反応がないどころか、そもそも存在を知覚できなかった。若しくはとある秘術によって、自らを石に変え眠っているものだけだった。
「仕方ない、誰ぞ起こしに行かねばの…、一番近いのは………んん?…いや、此奴はだめじゃ…他は……おお!……爺が近くに…!」
ソレは、近くの壁や地面に埋もれた巨大な骨や、地表で横たわる竜の骨を見やりながら近づき、その内のひとつに手をあて魔力を流し込んだ。
「…爺…起きよ……ぐぐっ……年寄りの癖にやたら魔力を吸いおって…………ええい!…ぬん……!!」
骨に流し込む魔力の量を一気に上げる。すると。
土に埋もれた骨が光だし、肉をもち皮をもち始めた。
そして。
光が完全に止んだとき、ソレの前には一頭の白銀の竜が頭を垂れて、出現していた。
「…若…久方ぶりじゃの…」
「爺、年寄りの癖に復活のための魔力が多すぎるぞ、我でなければ、到底でできなんだわ。」
「…フン、それだけ儂が高位の存在ということよ…ところで、儂を復活させたということは…。」
骨の状態から蘇った白銀の竜は若と呼ぶ存在の愚痴をさらっと流し、言葉を続ける。
「うむ…、遂に転生者が現れたようじゃ。」
「…やはり…では、ココヘ?」
「うむ、招こうと思う。」
「…承知致しましてございます。では、某は他の者を起こして参ります。」
白銀の竜は途中から口調を正した言葉使いへと変え、くるりと後ろを向いた。
「うむ。任せた…後で祭壇を綺麗に調えておいてくれ…。」
「承知…若?…どこへ…?」
「客人に招待状を出しに…な、すぐ戻る。」
そう言うと、ソレはその場から消えるように何処かへ向かって行った。
後に残った白銀の竜は、その姿を見送ると踵を返し、任された仕事をこなすため、迷宮の下層へと登っていった。