我は竜王、誇り高き竜族の王   作:傾国の次郎

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第九話

 

チャゴス王子に連れられ、サザンビーク城下から秘密の抜け道を通り外に出たりゅうおうはいま、チャゴス王子が語る計画にドン引きしていた。

 

「つ…つまり王子は…」

 

「そうだ。王家の山になどいかずに父上や臣下達を黙らせる、最高の方法だとは思わんか?」

 

チャゴス王子の立てた計画はこうだ。

 

現在サザンビークの城や城下の人々は、王子であるチャゴスへの不満を隠そうとせず、陳情や嘆願書などを城に送り付け散々王子を罵倒しているという。

(ほぼ100%正当な訴えだが)

 

自分に従い、崇め奉ることが義務であり当然のことである者共が起こしているこの暴挙(チャゴスはそう考える)に、チャゴス王子はひどく憤り、この際飼い主が誰かを人々にわからせようと言うのだ。

 

はっきり言ってむちゃくちゃな主張であるが、チャゴスは生まれながらの支配者階級で当然のように傅く人々を見て育ったため、自身の考えが歪んでいるとは露ほども思っていなかった。

 

そんなことを考えていたところ、いつものように城を脱け出しベルガラックへ遊びに行こうとしたチャゴスの目の前にそれは現れた。

 

豊かで広大な森林地帯を一瞬で死の灰が舞い踊る地獄へと変貌させた、純粋で強大な力の奔流。

 

チャゴスは震撼した。

 

幼き頃より容姿に恵まれ、また、王族の生まれというこれ以上ないほどの出自に数多の輩が羨み妬む視線を向けてきたが、いじめはおろか表だった嫌がらせの類も受けては来なかった。

 

それには理由がある。

 

チャゴスは生まれつき魔力が高く、3歳の頃には初級ではあるが、呪文を唱え発動させることができた。身体が成長するにつれ魔力もさらにあがり、同時に同年代の子供どころか城に詰める近衛兵よりも高い身体能力を発揮するようになり、10歳を越える頃にはチャゴスに戦闘で勝る者は城から消えたほどである。

 

故に下手に手を出せば、返り討ちに遭うどころかその類いまれなる力で一族郎党皆殺しにされかねないと、腫れ物にさわるように扱われたため、より増長する要因にもなった。

 

そんなチャゴスでも、目の前で起きた大破壊を起こせるかといえば否である。

 

故にチャゴスは思い付いた。

この力を利用しようと。

 

りゅうおうにサザンビークの城下を攻撃させ、程よく蹂躙させた頃、颯爽と現れるチャゴス。

チャゴスはりゅうおうと戦いこれに勝利し、晴れて王家の山に行かずとも、国を救った英雄となり、父や臣下を黙らせるという計画だ。

 

この計画にりゅうおうが加担するメリットはこれっぽっちもない。

どころかデメリットのオンパレードである。

 

りゅうおうはチャゴスに断りの返事を告げようと口を開こうとしたが、チャゴスはそれを遮りこう告げた。

 

「当たり前だが貴様に選択肢はない、断るというのなら城へ貴様の人相と共に森林を焼き払った人物であると報告する。」

 

「………。」

 

りゅうおうはチャゴスの言葉に押し黙る。

 

「…だが、協力してくれるのならば、俺様に叶えられることならなんでも1つだけ叶えてやろう。どうだ?俺様は一国の王子、叶えてやれることは多いと思うが?」

 

チャゴスの言葉にりゅうおうは揺れる。

 

(…こいつの言う通りにすれば、間違いなくこれ以降表だった行動は制限される、若しくは困難になる……だが、欲しかった情報は得られる…オセアーノンを蘇らせたところで、所詮は魔物、人間のこいつのほうがより正確で多くの情報を齎してくれるだろう……けどなぁ…言う通りにすれば人を大勢殺すことになる…ひとりふたりならまだしも、いきなりそんな大量殺人に踏み切る勇気はないしな……)

 

人間から魔物に転生した直後に大量虐殺をした者の思考とは思えないが、あくまでもあれは魔物相手であり、人間が相手となると躊躇する。とんだヘタレである。いや、同じ人間相手では罪悪感の重さが違うのであろう。今は魔物なのだが。

 

りゅうおうは悩んだ末、チャゴスの計画に同意した。

なるべく人に被害がでないようにやろうと考えたのである。

 

「そうと決まれば話は早い、早速いまから計画を実行するぞ。」

 

いくらなんでも今の今では拙速すぎるのではないかとりゅうおうは思うが、一刻も早く情報がほしいのは此方も同じであり、渋々チャゴスに従う。

 

こうして、後に世界を震撼させることになる〈サザンビークの大虐殺事件〉は幕を開けたのである。


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