また、もう一度   作:フリムン

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まーた。まーたやっちゃった。

テストが辛くて現実逃避の短編投稿。
しかも本連載のほうは6月から手を着けてないっていうね。


 まぁ、そんなことは置いといて、どうぞ。


彼の死んだ日

 

 ―――――痛みが、全身を突き刺した。

 

 

 

 その直前に見たのは、黒髪の少年のように見える少女と、オレンジ髪の目付きの悪い少年。

 

 いきなり後ろから突き飛ばされたことに驚いたのか、目を見開いてこっちを見ている。

 

 はは、なんだよ、そんなに驚いたのかよタツキ、一護。揃って変な顔しやがって。ウケる。

 

 

 その直後、スローに見えていた世界が速度を取り戻し、けたたましいスリップ音と共に、大質量によってオレの体が右の塀に叩きつけられる。………いや、押し付けられる、の方が最適かもしれない。

 

 オレの腹から下を巻き込んで壁に突っ込んだ車の運転手の若い男二人は、口々に「やべぇ」だのなんだのを叫び、戦いている。

 

「ごぼっ」

 

 口から塊のような血が吐き出され、辺りに飛び散る。

 

 痛みはもうほとんど感じない。

 

 目の前ではタツキと一護がなにかを叫んでいる。

 タツキに至っては髪をかきむしりながら泣き叫び、オレの手を掴んでいる。

 

 ったく、なにしてんだよタツキ。お前の髪、せっかく綺麗なんだからそんな風にしちゃダメだろ。あとそんな顔で泣いてたら可愛い顔が台無しだ。

 

 オレがいつもこんな事を言うと鉄拳が飛んでくるのだが、幼馴染みでいつも言ってるのだから慣れて欲しかったな。

 

 まぁ、今そんなこと言おうとしても、口からはか細い声ですらない音が漏れるだけなんだが。

 

「なに、聞こえない、聞こえないよ善吾! いや、いやぁ……………!」

「善吾! 今救急車が来る! だから、だからもう少し頑張れ! 死ぬな!」

 

 はは、無茶言うなよ一護。下半身の感覚どころか、意識すら怪しいんだ、我ながら凄まじい生命力だと思うよ。

 

 

 ……………あぁ意識が薄れてきた。もう首から下の感覚が無いや。

 

 なら、せめて、最期に……………

 

「……た……つ…………き……………」

「何!? 善吾、何!?」

「………ご……め、んなぁ…………試、合………見に行って、やれなくて……………」

「嫌だ! 善吾が見に来てくれない試合なんて頑張れない! そんなの絶対に嫌だ!」

 

 無茶言うなよ……………無理だってば。

 

「いち、ご………」

「……………おう」

「………おりひめ、と、こいつ…………頼む……………」

「………ああ、任せろ。なんなら成仏も手伝ってやる」

 

 そいつはありがたいね。ダチに見送られるなら悪くねぇ、最高だ。

 

 ああ、そうだ、最期に一つ。

 

「あの子に、ごめん………て……………」

「…おう、伝えとくぜ」

 

 オレと一護で見つけた、一人ぼっちの少女の霊。

 このまま幽霊の見えるオレも、幽霊になるのだろうか。

 

 

 だんだんと、意識が遠退いていく。

 視界が暗くなっていき、瞼が重くなる。

 

「………善吾?」

 

 長く、長く息を吐く。

 

 もう二度と、吸う必要が無いことを主張するように、長く。

 

「―――――――」

 

「嫌……いや………いやぁ………善吾、ぜんごぉ!」

「タツキ、善吾は、もう……………」

 

 

「あぁぁあぁあぁああぁぁあ!」

 

 

 

 その日、わき見運転で突っ込んできた車から幼馴染み二人を助けた少年、漆山(うるしやま)善吾(ぜんご)は、息を引き取った。

 

 誰よりも大切だと思える少女に看取られながら……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「と、まぁ、感動的にオレは死んだわけよ」

「うぐ……ぐず………」

「おいおい、泣くなよ花太郎。こんなとこ卯ノ花体隊長に見られたら怒られるんだからな! ほら、勇音先輩もなんとか言って……………」

「うぇぇええん!!」

「大号泣!? え、ちょ、やめて!」

 

 やべぇ、このままだったら十三番隊の平隊員が他の隊の副隊長と七席を泣かすとか言う前代未聞の問題に……………ひぃ! 浮竹隊長に申し訳ねぇ! というか三席の清音先輩と仙太郎アニキに殺される!

 

「あ、あの、ほらお団子! お団子奢りますよ!」

「うぅ………みたらし20本」

「え?」

「ぐずっ………僕はヨモギ十五本」

「えっ?」

 

 こいつら容赦ねぇ……………。

 

 っていうか、

 

「なんで頼まれて死んだときの話したら泣かれて団子奢ってんの、オレ?」

 

 そしてオレは、頭を抱えて蹲りたい衝動にかられる。

 

 

「はぁ、只でさえここがBLEACHの世界なんだなって三年前(死んだ日)に自覚して、それだけでも頭痛いってのに」

 

 

 

 そう、ここは漫画BLEACHの世界だ。生前はここが漫画の世界だー、とか、うぉぉ、一護とか主人公じゃん! ってならなかったんだけどなぁ………なんか死んで流魂街に来た途端に全部一気にその漫画の知識だけが流れ込んで来たんだよな。

 

 けど前世のことなんかなーんも覚えちゃいないっていう。

 

 

 一応原作知識あったから、流魂街に来て暫くさ迷って、死神の学校を見つけて入ったんだけども、

 

「やべぇ、そろそろ卍解できそうで怖い」

 

 まぁ、盛大にやらかしたね。

 生前から主人公(一護)と同じレベルで霊が見えたし触れたけど、まさかそれでここまで適応力があるとは思わなかった。

 

 学院での成績と言えば、斬拳走鬼のほとんどがトップレベル。走に至っては二番隊から勧誘が来るレベルだった。

 いや、隠密機動とかあんな感じの堅苦しいの苦手だからなんやかんや理由を着けて断ったんだけどね。

 今でも砕蜂隊長からは会うたびにスカウトを受ける。真顔で。怖い。

 

「はぁ……………」

 

 ため息をつく。

 頭を悩ませているのは別に、これから一護たちが乗り込んで来ることとか、ルキア先輩が一護といい感じになることとか(オレは織姫推し)、藍染隊長の悪巧みとか、破面とか滅却師とかそんな先の事ではなく、

 

「……やべぇ、金足んない」

 

 いくら将来が有望視されてるとはいえ、今はまだ席官ですらない平。そんなオレに、あんな大量のお団子代が支払える訳もなく。

 

「んー、マキマキ」

「へ、へいアニキ!」

「お金ちょっと足んないから頂戴」

「貸してと言わない辺りさすがっすねぇ」

「なんか言ったか?」

「いえ! これくらいでしたら!」

「おお、ありがとな。やっぱり持つべきは頼りになる舎弟だな! 先輩だけど! あっはっはっ!」

 

 こうして今日も、オレは平和に、このソウルソサエティで楽しくやっている。

 

 あいつらには会えないし、寂しくもあるけれど、オレが死んだ理由を知ってる人とか、まだ学校にいる同期とかと楽しく過ごせている。

 

 

 安心しろよ一護。

 オレとお前の再会の舞台は整った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 感動的に再会しようぜ。楽しみにしてらぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、そういや明後日だな。ルキア先輩が現世に行くの。

 

 

 …………どうせ行くの一護の家だろうし、アイツんちにオレが隠した本の居場所を教えとくか。

 気付かれて無ければまだあるはずだし、へっへっへ、これで一護に濡れ衣を着せられるぜぇ……………

 

 

 

 ま、とりあえず今は皆とのお茶会に戻るか。

 

 だからやちるちゃん、髪を引っ張るのやめなさいって。それは更木隊長にやって。

 

 

 

 

 

 

 

 じゃあな、一護。また会える日を楽しみにしてるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆数日後◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「い、いいい一護! なんだこれは」

「あ? なんだって言われても……………はぁぁぁあ!?」

「なんだこのハレンチ極まりない本は! 春画か! 春本と言うものなのかこれは!」

「まて、誤解だルキア! これは俺のじゃない!」

「嘘をつけ! 貴様の押し入れの天井裏から見つかったんだぞ!」

「天井裏!? ………あいつかぁ!」

「やっぱり後輩の言う通りだったわ! 「ベッド下とか古い古い、今時男子はだいたい気付かれにくい押し入れの天井裏とかに秘密を隠すんですよ」って!」

「なんて事を教えてんだその後輩は! て言うかだから俺のじゃねぇ!」

『一兄ぃうるさい!』

「ほらみろ、怒られたじゃねーか」

「お前がな」

「ぶん殴りてぇ………」

 

 

 

 なんてことがあったとか無かったとか。

 

 

 

 


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