宇宙人ジョーンズ︰幻想郷調査結果報告書《完結》 作:ココナッツ・アナコンダ
宇宙人ジョーンズ︰売り子見習い
──この惑星の『市場』と呼ばれる場所には、常に騒音が満ち溢れている。
「へい安いよ安いよぉ! おっ、奥さん美人だねぇ〜。うちの野菜は栄養満天! 食べれば美しさ倍増間違いなしだよ!!」
「採れたて新鮮! 上質な牡丹肉が入ったよ〜! 本当なら少ーしお高いところ、今日はなんとぉ……こんなもんで売っちゃうよぉ!」
「えぇ!? お宅の旦那さん、ぎっくり腰やっちゃったの!?」
「そ〜なのよ〜、しかも結構深くいっちゃったらしくてね? 誰かの手を借りないと満足に起き上がることもできなくて〜。やっぱり永遠亭に連れて行くべきかしら?」
「おぉ〜い、早く来いよ〜!」
「待ってよ〜お兄ちゃ〜ん!」
──絶えることのないこの雑踏は、耳障りなことこの上ない。
「えぇーっと、聞いた話だと──あっ、多分あの人だと思う」
「ホントだ凄い! 私、ガイコクジンの外来人って初めて見るわ!」
「ちょっと小鈴? その言い方は失礼よ」
「とか何とか言っても、阿求だって浮足立ってるの丸分かりよ〜?」
──騒いだ所で売上に影響が無いのは、外の調査で把握済みだ。
「あの……ジョーンズさん、ですか?」
「私デス」
「お話をお伺いしたいのですが……お時間空いてらっしゃいませんか?」
「空イテマセン」
「そこをなんとか……」
「こ〜んな可愛い女の子二人とお茶できるんですよ〜? こんなチャンス滅多にありませんよ〜?」
「結構デス」
「ガァーン!? そんなぁ〜……私たちがまだ子供だから!?」
「いんや、こいつはこれからお仕事なんだよ。悪いなお二人さん」
「あっ、霧雨商店の……」
「親父サン」
「おうジョーンズ、着替えてきな」
「ハイッ!」
──何をそんなに騒ぐ必要があるのか……?
「やぁ、親父殿。それに阿求に小鈴も」
「おぉ、慧音先生じゃないか! しばらくぶりだなぁ!」
「お久しぶりです先生」
「おっ久〜!」
「先生はお買い物ですか?」
「あぁ、それもあるが……以前、親父殿に店の売上が右肩下がりなのを聞いてな。進展はあったのかを聞きに来たんだ」
「あぁ……それなぁ〜、全っ然ダメなんだよ。まだヤバいとこまでは行ってねぇけど、そろそろなんか対策しねぇとマジで首が回らなくなっちまいそうだ」
「消耗品でもなければ、道具は一度買うと壊れるまでは買い変えませんからね。小鈴、何かないの?」
「うちの貸本屋は万年火の車だよ!」
「そ……そう……。でしたら先生は?」
「いや、商売だと私も力になれなくてな。やはり、誰かその手の知識のある者に──」
「食い逃げだぁ! 誰か捕まえてくれぇ!!」
「邪魔だ、どけぇ!!」
「え?──きゃあ!?」
「阿求!!」
「貴様っ……待──」
「待テェ!!」
「ジョーンズ!?」
「うっそ……腕伸びてる!?」
「は?──ぐへぇ!?」
「よし、襟元を掴んだ!」
「ジョーンズさん妖怪だったの?」
「詮索は後にしろ小鈴! 今は阿求の手当が先だ……親父殿!!」
「応っ! ふん縛ってくるぜ!」
「任せた!」
「ジョーンズ! 今月はボーナス期待しとけ!!」
「アリガトゴザイマス!」
──ただ…。
「これ下さい!」
「あいよ!」
「ちょっとお会計まだぁ!?」
「少々お待ちを! ──阿求ちゃん!!」
「は、はいぃ〜!」
「小鈴ちゃんはこっち手伝ってくれ!」
「ひゃあ〜、目が回るぅ〜」
「賑わってるな親父殿」
「おう、慧音先生! いや〜、数日前とは大違いさ」
「それもこれも彼のおかげか」
「ああ、まさかジョーンズにこんな策があったとはなぁ」
「どれ、私も手伝おう」
「助かるぜ! じゃあ、ジョーンズと代わってやってくれ。あいつ、ずっと出ずっぱりなんだ」
「わかった」
──この惑星の住人はどこに行っても……。
「イチキュッパ! イチキュッパダヨ!」
「ジョーンズ、売り子を代わろう。休憩してこい」
「ハイ」
「それとほら、缶コーヒー……だったか? 冷やしておいたぞ」
「アリガトゴザイマス。休憩入リマス」
「いってらっしゃい。──さて……今日は安いよぉ! イチキュッパ! イチキュッパのお値打ち価格! 今買っとかないと後で損するよぉ!!」
──変わらず、イチキュッパが大好きなようだ。
幻想郷でイチキュッパとな?
とにかく安い(確信