宇宙人ジョーンズ︰幻想郷調査結果報告書《完結》 作:ココナッツ・アナコンダ
宇宙人ジョーンズ︰家政夫
──この惑星の住人は、『無謀』と分かっていながら、それでも強行な手段に踏み切ることがある。
「『八雲紫、17歳です!』──どう、藍?」
「全然ダメです。目標にしている『若者らしさ』には遠く及びません」
「そう……やはり簡単にはいかないわね。藍、改善点を教えてちょうだい」
「そうですね……先程の発声には、会社の面接を受けているときようなの固さがありました」
「固さ……か」
「はい。なので、もっとこう──声を弾ませて、甘ったるい耳触りになるような感じを意識して下さい」
「なるほどね、分かったわ! よし、もう一度──」
──まったく理解が及ばない。何故わざわざ苦難と知る道を選ぶのだろうか……?
「『八雲ゆかり、17歳でェーす!』──どう!?」
「違う──違うんです紫様! セリフを文字にしたとき、所々に星マークとかハートマークが付くような……そんなバカっぽい若者の弾ける『若さ』が感じられません!」
「ぐっ……難しいわね。何度かリトライしてるけど、めぼしい成果も上がらないし」
「大丈夫ですよ、確実に前には進んでいるはずです!」
「実感無いわぁ〜。そもそも弾ける若さをどうやって表現したらいいのよ? 皆目、見当もつかないのだけど」
「た、確かに……私も言ってみたものの、どう助言すればいいかまでは……」
「う〜ん……どうしたものかしら?」
「ですがご安心下さい! 資料となりそうなものをこちらに用意してございます!!」
「本当っ!? でかしたわ藍! 流石、私の式神といったところね!」
「さっそく研究しましょう!」
「ええ!」
──自己満足……と片付けてしまうには、賭けている意気込みが並の強さではない。
「髪型はツインテールに──服装も薄いピンクのエプロンドレスに着替えたわ。変じゃないかしら?」
「素敵です! 今の紫様の外見は、完全に今時の若い子を再現されています!」
「そう? やっぱりそう思う? うん! やっぱり、資料があるのと無いのとでは捗り具合が違うわね!」
「はい! ですが、まだそれで完成というわけではありません。気を緩めてはなりませんよ?」
「分かっているわ、今はただ外見を真似ただけ──笑顔、発声、オーラ……まだまだ身につけなければならない壁は厚いものね!」
──望んだ結末が、確実に待っているわけではないだろうに……。
「その意気です! では笑顔から確認していきましょう。まず笑顔は無邪気に──いつもの胡散臭さを出したら台無しになってしまいますからね?」
「分かったわ」
「次に発声ですが──資料によると『ふえぇ』や『はわわわっ』のような一見、意味の無さそうな言葉が可愛らしさを引き立てるようです。『間延びした喋り方』と組み合わせて、トライしてみましょう」
「ええ、やってやりますとも!」
「最後にオーラですが──恐らくこれは、全てをマスターしたときに自然と身につくものと思われます」
「……つまり、下手に手を加えるべきじゃないのね?」
「その通りです。なので、笑顔と発声に重きをおいて練度を高めていきましょう」
「了解よ──ありがとね藍。おかげで、ついにゴールの横断幕が見えてきたわ」
「礼などいりませんよ。私は紫様の式でございますから」
「藍……」
「紫様……」
──この惑星の住人には、不思議なことばかりだ。
「……」
「ホンット、アホらしいわ──アンタもそう思うわよねジョーンズ?」
「……オ前カ」
「久しぶりね。こっちに顔出してみれば、アンタがいるもんだから驚いたわ。缶コーヒーなんて飲んで余裕そうじゃない」
「イイノカ?」
「大丈夫よ。ちゃんと防音バリヤーを張ってるもの……例えスキマを使われても、こっちの声は向こうには聞こえやしないわよ」
「ソウカ」
「ええ──あっ、でも、もういっそのことビシッと言ってやるのもアリかしら? そうすれば、しばらくは大人しくなるだろうし……」
「ヤメテオケ」
「冗談よ──下手なことして関係を悪化させたくはないもの」
「……」
「しっかし毎度毎度、こんなくだらないことに私を巻き込んで──あ〜あ、本当……頭痛が痛いわ……」
「……意味」
「重複してるって言いたいんでしょ? 馬鹿ね、それくらい頭が痛いってことよ。察しなさい」
「……」
「ねぇ、もういいんじゃない? 私、そろそろ故郷の自宅が恋しいんだけど」
「……マダダ」
「………………あっそ」
──ただ…。
「──『はうぅぅ! やくもゆかりぃ♡ じゅぅななさぃでぇ〜すぅ☆彡』」
「…………」
「…………」
「あ……ああぁ……!!」
「……藍?」
「か──完璧です! 私には確かに、セリフ中のハートマークも星マークを読み取ることができました!」
「じゃ、じゃあ……もしかして……!?」
「はい! 紫様から若さがオーラになって溢れ出ています! もう誰にもBBAなんて言わせません!」
「や、やった……遂にやったのね藍!」
「紫様ぁ!」
「……」
「…………うわぁ……」
「……」
「もの凄いはしゃぎ回ってる……え、あんなのでいいの?」
「…………知ラン」
「やったやったぁ!! あっ、そうだ──
「ゲッ……」
「……呼バレテルゾ」
「分かってるわよ……チッ──ジョーンズ。この馬鹿騒ぎが終わったら、アンタが飲んでるのと同じヤツ……私の分も用意しなさいよ?」
「ワカッタ」
「橙ぇぇぇぇん! いないのかぁぁぁ!?」
「……ハァァ……──はい! 藍しゃま、何ですかぁ?」
「……」
──この惑星の、『猫を被る』という表現は……。
「おぉ、来たか橙! さぁ、見るんだ──新しく生まれ変わった紫様の姿を!」
「紫しゃまの……わぁ! 紫しゃますごく可愛いです!」
「本当? そう思う? 私って若く見える?」
「はい! とてもお若く見えますし、人里を歩けば10人が10人振り返るくらいです!!」
「そう……そう!!」
「紫様!」
「ええ! これで自信がついたわ!」
「努力が遂に報われましたね!」
「お二方とも流石です! 橙もとても嬉しいです!!」
「…………」
「これで霊夢にも──!」
「宴会で皆にお披露目を──!」
「橙もいいと思います──!」
「…………」
──言い得て妙だ。
宇宙人オレンジ(地球名,橙)︰式神
圧倒的やりたい放題感満載のこの話。これは前々からやりたかったネタなので、批評を恐れずぶっこんでやりました( `・ω・´)
しかし紫様のツインテールのエプロンドレスか――藍様は一体、どんな資料をもってきたんでしょうね?
これで書き溜めた分は全部使っちゃったので、また更新は止まります。ではまたその内に(・ω・)ノシ