「いつ見てもすごいよなぁ…ここは」
アイリの特訓から帰った後、ライラは王都へ出かけていた。 理由は食材がないのと…
「早めに行かないと、女王さまが怒っちゃう…」
アティスマータの女王と面会である。というのも、彼女は女王から直々に任務を受けている。その経過報告をしなければならない。しかし王都に出れば、不意にラルグリス家やその関係の一家に目撃されると面倒ごとになるため、タオルで隠している。目立つ金髪をタオルからはみ出さないように王城へ走っていく。
「お疲れ様です。衛兵さん」
そう言いながらライラは慣れた手つきでタオルを手に取る。普通は顔パスでは通れない。そこで、女王はライラに髪留めを贈り、それを着けて王城へ来れば衛兵は通させるように命じると言われた。金髪の髪にインパクトのある紫色の宝石のような髪留めが衛兵の目に映る。
「お…お疲れ様です!」
そういいながら、扉を開ける。ありがとうといいながら通り過ぎ、城内へと入っていった。場内に入るとまたタオルで髪を隠す。城内で隠してもあまり意味はないが念のためにということで隠している。いつもだったら、通り過ぎるときに衛兵が今日はいませんよと言ってくるのだが、今回はそうではなかった。恐らく新人だったんだろう。色々と考えていたら女王の間に繋がる扉に着き、門番に話す。ライラが来るときいつもこの人が門番しているので顔パスで入れる。女王が面会の用意ができ、門番がドアを開ける。
「女王さま、お待たせいたしました」
「はい、ライラ。今日もお疲れ様です」
女王は笑みをライラに向ける。彼女はライラに甘い。側近から聞いた話で、娘がいるらしいが、その娘よりも甘く接しているのがライラである。娘はあまり女王とは話さないらしい。ライラとその娘と会ったことは未だにない。
「女王さま、例の件で報告をしにきました。」
「ライラ、そんなにかしこまらないで、もっと気楽に」
「ですが…」
アティスマータ女王は微笑みながらライラを見る。ライラにとっては無言の圧力が怖かった。今までは側近がいたため敬語で話していたがその人がいない。ライラは観念して
「はぁ…わかりましたよ」
「あら、素直なのね」
「もう、話をそらさないでよ」
「それじゃあ、報告してちょうだい。その後に談笑しましょう」
談笑する気はないのだが、任務の報告をするため坦々と話す。
「ルクスは順調に雑用をこなしています。最近は信用を得て一週間後の予定まで入っているらしいです。あと、仕事に専念するためしばらく家を空けておくと今日言われました」
「ルクスは忙しくなってるのね。しばらく家を空けるならばルクスの報告はいいわ。それでアイリちゃんの方は?」
「アイリはいつも通りですよ、古文書の解読に専念しているらしい。あぁ、そうそう、今日の朝はアイリから装甲機竜の扱い方についてレクチャーしていました。これはアイリから頼まれたのでやったのですが」
「ライラ、アイリちゃんの噂を聞いたんだけど」
(何だろう。アイリが装甲機竜を使いたい理由と重なるのかな?)
「アイリちゃんと一緒に寝ているのって本当?」
どうでもいい話だった。どうしてこんなことを今言い出す。
「えぇ…まぁ、そうですけど」
「なら、今度私と一緒に…」
「嫌です。絶対に嫌です」
「えぇ〜…」
女王がショックを受けている。頭に暗い色の波波の三本線が引かれているであろう。
「確かに、女王さまには感謝していますよ。私の行方をラルグリス家に知らせないようににしてくれているし、何より、この楽しい生活を続けられるのは女王さまのおかげですから」
「あらあら」
「どうしたんですか?」
「ライラちゃんの笑顔が可愛いなって」
「もう、からかわないでください!」
顔を赤くしながらそう言う。
ライラが女王と出会ったのがルクスとアイリの釈放の時である。ライラがルクス達を迎えに行ったときに会ってしまったのだ。女王はすぐにラルグリスの次女と分かってしまった。ライラの父である当主から、可愛い娘が家出してしまったから探して欲しいと言われていたのだ。だが、女王はライラの実直な性格を見て、彼女の意思を尊重するようにした。しかし、それだけではメリットがないので、ライラの所在を内緒にすることを対価にルクスとアイリの監視の任務をしてもらうようにした。いざというときの為に機攻殻剣を神装機竜を含む3つも渡した。ライラは汎用機竜の1つでいいと遠慮したのだが、女王はあなたが気に入ったからと押し付ける形で3つの機攻殻剣を渡したのだ。
「そういえば、機攻殻剣はどうしたの?」
「アイリに渡したままでした。アイリがいいならこのまま渡そうと思っているんですけど.」
「私はいいと思うよ。アイリちゃんはあなたを慕っているようだし、彼女の性格上、反逆できないだろうし」
「もしかしたらルクスと一緒にやりそうなんですけどね」
「ルクスくんがそんなことをすることはないわ。私がこの国の政治を腐敗させない限り」
「それは国民に不平等な政治をさせないということを誓っているのですか?」
「もし、そうしたらあなたが許さないでしょ?『閃光の妖精』さん」
「…その呼び名はやめましょう」
『閃光の妖精』というのはライラの二つ名である。橙色の神装機竜をスタイルの女性が纏い、閃光の如く私利私欲な政治家や王を殺すとまではいかないが、再起不能まで追い込む。ルクスの『黒き英雄』はアーカディア帝国を滅ぼした後、見た人はいない、そのため『閃光の妖精』は必ず存在してると言われかなり世界中で知られている。
「そろそろ帰りますね」
「もっと話しましょうよ」
「話をしたいのは山々なんですが、夕食の準備をしないといけないので失礼します」
「そう…仕方ないわね。アイリちゃんをよろしくね」
「わかりました」
そういって退室する。退室した後、すぐさまタオルを被り王城を去る。 これから二週間の献立を考えながら商店通りへ行く。
(アイリと2人だけだから、ヘルシーなものにしようかな〜)
そう考え始めたとき、昔から馴染みのある髪を見かけた。
(なんでこんなところにお姉ちゃんがいるのよ…)
人混みの中でもひときわ目立つ髪の色。上品な立ち振る舞いをしながら誰かを探しているような様子を伺わせる。
(私はもう帰らないの。それにそっちに行ったら女王からの任務ができないじゃない」
女王からの任務というより、アイリが心配なだけ。自分を姉として慕ってもらえる子とは離れたくないと思うである。同い年ではあるが。
「上手く躱しながら行けるかな?」
セリスにバレませんようにと願いながらライラは買い物を始め、済ませた。帰る頃には姉の姿は見かけなかった。しかし、時間がいつもよりもかかってしまったため、仕方なく橙色の機攻殻剣を取り出し、神装機竜を纏って家へと帰って行った。
王女と女王が混同していましたので修正しました。
誤字報告ありがとうございます