『争奪戦』
「ルクス君、ライラさん、学園生活はどう?」
城塞都市にある機竜使いを育てるための学園の学園長室。私とルクスは2人で学園長から呼び出されてここにいる。
「えぇ、私の方はまだ助かっています。でもルクスは…」
「僕はうまくやれていますよ。みなさん、よく話しをしてくれます」
私はこのルクスとアイリ。元皇族を監視するために私はここへ来た。だが、監視というほど堅苦しい程のものではない。元々、ルクスとアイリには良くしてくれた仲だし、2人とも現王国に反乱するような行動も起こそうとしないため、任務としてはとてもイージーである。女王に念のためと言われて軽くこなしている。
「話をするというよりも、ほとんどが雑用の依頼じゃないの?」
「あはははは…、でも最近は世間話もするようになってきたよ」
「依頼と世間話の割合は?もちろん、私やアイリ以外の人でだけど」
「ん〜、8:2ぐらいかな。」
「最初の方から比べたらましになったね」
編入当初、ルクスと生徒の会話はほとんどが依頼のことだった。ただ、ルクスのタイムスケジュールの管理をしていたのはティルファーであり。依頼の話だけをされていた。
「話を戻していいかしら?」
「すいません。学園長」
「いいのよ、ルクス君が楽しそうに学園生活をしてくれていたら」
レリィさん、あなたさっきの会話聞いていましたか?依頼の内容を話し、依頼をこなし、かつ勉学に励む。こんな鬼畜なことをやらせてるのに楽しそうはないでし。
「それに、セリスさんの帰りが遅くなってしまったおかげかもしれないけど」
レリィさんの発言にすこし、ポーカーフェイスが乱れてしまった。私のフルネームはライラ・ラルグリスで、さっきいったセリス、セリスティア・ラルグリスの妹である。でも、このことを学園内で知っているのはレリィさんとシャリス先輩だけで、他の人たちには「世界には数人同じ顔の人がいるんだよ」で通している。私とお姉ちゃんは本当によく似ていて、両親でも見分けるのは難しいと言われていたほど。現在は知らないけどね♪
「でもね。ルクス君。あなたに対する生徒の不満が学園長である私のところへたくさん来ているの」
「へっ?」
「学園長!ルクスの編入は正式に認められているはずですよ!」
「えぇ、正式に認めているわ。私もここの生徒たちも」
「な…なら何が不満なのです!?もしかしてルクスが童顔だから!?」
「ライラ、僕をディスるのやめよ!?」
「たしかに童顔なんだけど」
「ま…まさか、そのことを利用して、女装して学園を過ごさせるつもりですか!?女の園という名誉のために!」
「そのエ○ゲー的展開やめようよ!?」
「ルクス君が女装……いいかも?」
「私はルクスが女装するなら、協力します!」
「2人とも!?なにを言ってるのかな!?」
私がふざけた提案に乗ってくれた。学園長は常に面白い方向へ話を進ませてくれるから個人的には嬉しいのだけれども、そろそろ本題に戻さなきゃ。ルクスがかわいそうに見える。
「で、本題はなんでしょうか?」
「えぇ…もっとふざけていたかったのに…」
「いいから早く済ませましょう」
「そうね。この束を見てくれる?」
レリィさんが机の上に置いたのは数百枚にも及ぶ紙の束。先生たちがこれを目を通すのは学校の備品が壊れてしまい、その報告書と予想するのが相場と決まっている。が
「これ、全部ルクス君への雑用依頼なのよ」
「こ…こんなに…」
「ティルファーさんがタイムスケジュールを組む依頼は、私から許可を出した依頼のみ。そうじゃないと、あなた勉強をしないでしょ?あくまで生徒として編入してきたんだから」
「うっ…」
「そこでルクス君に優先順位をつけてもらおうかと思ったんだけど、あなたのことだし、順位を決められませんと言うでしょ?」
「はい…その通りです…」
「だから、生徒たちにこれから催し物を始めると言っておいたの」
「「その催し物は?」」
「『ルクス君争奪戦』をすることにしたわ!」
「えっ?」
「あなたにはこの『一週間だけルクス君に優先して依頼ができる特別依頼書』を渡すわ。これを制限時間内にあなたから奪い取った生徒が一週間独占できるというね」
「そ、そんな、冗談ですよね」
「ルクス、諦めたほうがいいよ」
「ま、まさか、ライラも参加するなんて言わないよね?」
「うん、私は参加しないよ。ただの傍観者になるから」
「そ、そっか、よかった」
ルクスは安堵のため息をする。そこへ私はルクスの耳元で囁く
「ルクス、普通に廊下へ出たら女の子達がたくさんいるよ。だから窓から逃げなさい」
「う…うん。わかった」
「レリィさん!ごめんなさい!」
「まぁ、いいわよ。最初っから捕まえられたら面白くないし」
「ありがとうございます」
そう言ってルクスは窓から外へ出て行く。ルクスが出て行くと私は出て行った窓を閉める。
「あなた、ルクス君には言っていないの?あなたの家族のこと」
「はい…ですが、彼が知ろうとしないから言う必要はないかと」
「そう」
「では、私はこれで失礼します」
「あっ、そうそう!」
「まさか、その左手に持っている特別依頼書を私にも持たせ『争奪戦』をさせるつもりありませんよね?学園長?」
私はかなりの強い殺気を込めて言う。面白いことを言うのはいいのだが、こちら側が相当疲れるような真似は絶対にして欲しくない。その意味を込めた眼光を放つ。
「え…ええ。なんでもないわ」
「なら、いいんです」
そう言い、私は学園長室の扉を開ける。すると周りには何十人ものの女の子で囲まれていた。その先頭には『三和音』の1人、ティルファーがいた。
「ねぇねぇ、ライラ、ルクっち知らない?」
「さぁ?どうだか。この学園長室の中にいるんじゃないの?」
「そうかそうか。あくまでルクっちを庇うか…ならば」
「あぁ、私の争奪戦は開始されませんよ?」
「えっ?なんで?」
「そうですよね?学園長?」
ティルファーの疑問にレリィさんが答えてもらおうと振り返ったが、レリィは虚ろな瞳で「怖かった。怖かった」と連呼しながらライラの特別依頼書をハサミで切っていた。
「そういうことなので」
私は人混みに紛れてその場から去る。
「どうやったら学園長をあんなにまで追い詰めることができるの?」
ティルファーの呟きはライラには聞こえたが、何も返答せずに立ち去った。
原作が次巻へ行くときには一回おやすみさせてください。