「ライラは大丈夫でしょうか…」
満天の星空を窓越しに見つめながら、セリスはライラが家出した後から毎夜のように心配をしている。ただ、家出をしたのなら捜索すればいいが、都合が良くなかった。家出した後の一ヶ月後にアーカディア帝国へのクーデターが発生したからだ。そのため、生きているかどうか分からない人を探すのは無謀とも言え、そもそも、新王国が出来たばかりで兵士の人数を割くことは出来なかった。セリスが自ら探しに行くと言ったが、もちろん、女の子1人だけで行かせる親ではない。
(ライラ…生きてると信じてます。)
流れ星はなかったが、そう願い続けている
ルクス達との出会いから3年後、ライラが住む環境はガラリと変わってしまった。
前までは、王都の貴族街で裕福な暮らしをしていたのだが、今では王都の離れに住んでおり、毎日忙しい日々を送っている。だが、その生活も生きがいと感じて何も不自由とは思ってない。
「こんなことを自分がするとは考えられなかったからね〜」
朝早く、ライラはキッチンで料理を作っている。ベーコンエッグやサラダ、トーストなど効率よく作業をしている。全品を食卓に置くと、その部屋を出て行き階段を上がり二階の部屋の扉の前で止まった。
「アイリー、そろそろご飯の時間よー」
ノックをしながら言う。ライラはアイリと同部屋だが、着替え中だったりするといけないため気を使ってノックは一応する。だが、返事は一向に返ってこない。いつもはアイリがこの時間に起きてるはずだが、今日は違っていた。
(一応ノックしたし、入りますか)
ドアを開けると、ダブルベッドの上に横向きで寝ているアイリがいた。いつもは兄であるルクスにツンツンしているのだが、それを感じさせない無防備で可愛いアイリの寝顔があった。いつまでも眺めてたいライラであったが、せっかくのご飯が冷めてしまうので、アイリの頬に人差し指でつつく。
「ふにゅぅ…」
(アイリ可愛いすぎだよ…今すぐ抱きしめたい!)
ライラが欲望を理性で抑えつけているとアイリは起きる。未だに眠そうな声で
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよう、アイリ、ご飯の準備できてるから顔を洗って来なさい」
素直に洗面台のところへいき、食卓へやってきた。いただきますと2人は声を揃え料理を頬張りながら会話をする。
「あれ?兄さんは?」
「ルクスはもう仕事に行っているよ。雑用の依頼がたくさんたまっているから、少しでも早く消化したいらしい。大変そうだよね〜」
「お姉ちゃん、他人事だと思ってません?」
「だって、私は元王家ではありませんから。アイリ姫?」
「その呼び方はやめてください!」
「ごめんごめん、アイリ。そういえば、珍しく自分で起きなかったよね?」
「すみません、古文書の解読が後少しで解けそうだったので…」
「そっか、それなら仕方ないかな」
そんな話をしながら食事を進めていく。アイリとルクスは旧帝国王家の生き残り。新王国が2人を釈放する条件。それはどちらかの1人が新王国の国家予算の一部負担をすること。そのため、ルクスはアイリにその負担をさせないよう、国中の雑用係となって東奔西走している。また、アイリも兄さんの負担を軽くするためにと思って古文書の解読、装甲機竜の指南書の改訂などをしている。ライラは居候の身であり、2人の為にと思い家事の全般をこなしている。
「そうだ、ルクスからの伝言、『しばらく帰って来れない』だそうで」
「しばらくってどれぐらいでしょうか。もう兄さんはいつもザックリしているんですから」
「あはは…それじゃ、そのしばらくの間はアイリと2人きりだね」
「お姉ちゃん、その…頼みたいことが…ありまして…」
「どうしたの?可愛い妹のためならなんでもするよ?」
「本当ですか?ならば、装甲機竜の扱い方を教えてください」
「うん。いいよ。とりあえず、食器を洗って洗濯物を干すまで待っててね」
「それなら私もやります」
食事を終えた2人は仲良く家事をこなし、外へと出る。森の中に入るとライラは何度も行き帰りしている道をアイリと談笑しながら歩く。開けた場所に到着すると、ライラは早速3つ持っている機攻殻剣のうち1つを渡す。
「お姉ちゃん…これって…」
「特殊型の装甲機竜、ドレイクだよ。性能はアイリの方がよく知っているから説明は省くよ。最初は性能が低い装甲機竜を使わないと痛い目みるから」
「は…はい…頑張ります」
ライラは基本操作を教え、後はアイリが自由に動くように指示をした。
数時間後、アイリは装甲機竜の装着を外し、草の上に寝転がって肩で息をしている。よく見ると足が震えており、もう立てないようだ。そこに金髪の髪を持つ女の子が近づく。
「アイリ、お疲れ様。今日はこれぐらいにしておこっか。」
「い…いいえ、まだやります。」
「そんなこと言っちゃって…足がピクピクしてるよ?怪我をしちゃったらどうするの?それに1日で強くなれる訳ではないのよ?毎日コツコツ練習するのが一番なんだから」
「は…はいぃ…」
ルクスに口喧嘩で完勝しているアイリでもライラとでは一度も勝っていない。今は一歩も動けないので素直に従っておこう。
「ほら、アイリ乗って」
ライラはアイリに背を見せ体を乗せるように促す。アイリは一瞬ためらったが、また正論の矢が大量に刺さりそうなので体を預ける。
「お…重たくないですか?」
「それほど重くはないよ。逆に心配するぐらいかなぁ〜、ちゃんと私が作る料理を食べてるのっていうぐらい」
「ちゃんと食べてますよ」
「それじゃなんで私と同い年なのにお胸が小さいの?」
「小さくありません!ってあれ?」
アイリはツッコんだ後に重要なことを聞いた。
「お…お姉ちゃん、さっきなんて?」
「お胸が小さいの?」
「そっちではありません!その直前に…」
「私と同い年なのにってところ?」
アイリは唖然した、今までルクスと同い年だと思って接していたことと、自分と同い年なのにライラがはち切れんばかりのお胸を持っていることに。
「世の中は不公平で満ちあふれてます…」
「アイリ何か言った?」
「何でもありません」
アイリの憎しみのある独り言はライラの耳には届かなかった。