「さぁ、誰が乙女の身体に触れた?」
少女から発された言葉は女らしからぬ声で、周りの帝国騎士たちに殺気を放っていた。
「おっとこれはこれは『学園最強』といわれてるセリスティア・ラルグリス嬢ではありませんか。先日の模擬戦はどうも俺たちを負かしてくれたな」
その威圧感を感じてないと思わせるような声色が聞こえた。
「あなたは…誰でしたっけ?」
ライラは聞こえた方へ視線をやり、機竜使いを見る。少々動きづらいような雰囲気を出しているが、そんなことを気にしていない。
「ふん…やはり男性には興味がないか、俺は旧帝国近衛騎士団団長のベルベットだ。つい先日、貴様に負けたばかりだからな。ちょうどいい、ここで仕返しとしようか」
そう言い、ベルベットは持っていた笛を口へ近づけて鳴らす。笛の音は高音域で少々うるさい。しかし、数秒吹いただけで鳴りやんだ。その代わりに幻獣神の群が向かってくる。
「まったく、こんな面倒なことを女性にするなんて、あなたモテないでしょ?」
続けて、リーシャに振り向かずに言う。
「リーシャ様、何もしないでいてください。大丈夫です。私が幻獣神を倒しますから」
「こ、この数を、どうやって… っておい!」
リーシャの返答を聞かずにライラは空へ飛び立つ。
「さあ、どこからでもかかってきなさい」
その言葉を聞いた幻獣神たちは容赦なくライラに突撃してくる。ライラは立ち向かうように剣を構え、向かってくる幻獣神を落としにいく。
「ふぅ…なんとかなったのかな」
10分弱が経つと、ライラは安堵のため息をつく。ほとんどの、いやライラが見える範囲の幻獣神は全て倒してしまったからだ。それはリーシャはもちろんだが、敵であるベルベットやその部下たちも驚愕を隠せていない
「なっ!」
「さて、次はどなたから殺りましょうか?」
「ま…まさか、『学園最強』が『閃光の妖精』だったなんて…」
「あんなにいた幻獣神が…」
「お前ら!何をうろたえている!さっさとその『閃光の妖精』を墜とせ!」
「っとその前に」
ライラが『神速』を使い、ベルベットに近づき首元へ剣の刃を向ける。もう少しで首の皮が切れるほどの距離をライラが保っている。
「その笛をこっちに渡してれないかな?後でそれは使えそうだし、それに逆らったらわかるよね?」
「ぐっ!」
反乱軍は一切攻撃ができない。いや、ベルベットがライラに笛を渡さない限り行動ができない。そう判断したのか、ベルベットは素直にライラへ渡す。
「どうも〜♪」
そう言って、剣を離し、ベルベットから距離を取る。その瞬間、反乱軍が群がってライラへ攻撃を仕掛ける。
「まったく、自分と相手の力量差ぐらいわかってほしいね…」
そうボヤキつつ、ライラは相手になる。
「ヤバイヤバイ…あいつが来たせいで今までの作戦がパーになっている…」
ベルベットは部下たちに攻撃を指示したまま頭で考えていた。
「笛は取られたし、王女も交渉材料にできないなんて…ん?」
ベルベットの本来の目的はアティスマータ王国の王女を連れ去り、それを交渉の材料として連れ去るというものだった。今考えると、笛は取られたが、目的である王女を連れ去るだけでもいい。そう考えた末に思いついた案が
「王女を気絶させて、連れ去る…そうするしかっ!」
思いついたら即実行。リーシャに銃口を向けて、放つ。ただし、殺してしまっては意味がない。そう考え、リーシャの周りの直径1melで撃つ。リーシャは声をあげるが、それはライラには届かなかった。
「はっはっは!『閃光の妖精』よ!残念だったな!」
「ん?残念?何が?」
「お前のせいで王女が!」
ベルベットが説明しようと指でリーシャがいたところを指差すが砂埃で見えない。
「あぁ、そうね残念だったわね。あなたにとってはだけど」
「何っ!」
ライラが言ったことに疑問をもち、銃で放ったところを見る。砂埃がちょうど晴れてたところには1人の男性がリーシャを守っていた。
「おまたせしました。リーシャ様。」
「ルク…ス?」
旧帝国の皇子さまが、新王国の王女を守っていた。
「リーシャ様、遅れて申し訳ございません」
「いや、守ってくれてありがとう」
「さぁ、安全なところへ」
ルクスがリーシャを安全な場所へ移動するように催促する。
「でも、ルクス、お前はどうするんだ?その武器は折れてるから戦闘は無理だろ!」
「僕はライラと戦うよ」
そう言い、ルクスは汎用機竜をしまい、もう一本の剣、神装機竜の機攻殻剣を取り出す。
「顕現せよ!血肉を喰らいし暴竜…黒雲の天を断て!バハムート!」
そう言って、リーシャが見たルクスの機竜姿は漆黒でまとっていた。
「ルクスが…『黒き英雄』だったのか」
「リーシャ様は早く学園へ、ここは僕とライラで食い止めます」
「わかった!無事を祈ってるぞ」
そう言ってリーシャは戦域を離脱する。ルクスは反乱軍の機竜使いを払いのけながらライラへ近づく。
「ごめん。遅くなった!」
「ルクス、あの助けるタイミング狙っていたでしょ?」
「そ…そんなことはないよ!」
「じゃあ、そっちはお願いね」
「うん、わかった」
2人は背中合わせて敵との戦闘を再開した