仲良しでも喧嘩はあるよ
「お姉ちゃん‼︎」
いきなり怒った声が屋敷の中に響き、セリスティアは驚く。金髪が腰まであり、翡翠の瞳を持つ2人、外見が同じでどっちがどっちかわからない。ただ怒っているのは妹だとわかる。
「ライラ、どうしたんですか?そんな声を出して」
「どうしたんですか?じゃないよ!」
セリスティアにはライラが怒っている理由がわからない。ライラに酷いことを言ってないし、傷つけてもない。というより、溺愛をしているため、そんなことをする必要がない。
「落ち着いて、何に怒ってるの?」
「お姉ちゃん、ウェイド先生に何か変なことをいったでしょ!」
変なことを言ったかどうかは判断し難いが、セリスティアはウェイド先生に今まで何を言ったか思い出していた。
(ウェイド先生には…機竜の扱い方、訓練方法の見直し、それと…)
ここで思い出した。ラルグリス家の中で聞いた悪い噂をウェイド先生に言ったことを。
「もしかして…帝国についてですか?」
「そうだよ、そのせいでウェイド先生が捕まっちゃったんだよ!お姉ちゃんのバカ!」
「えっ…」
ライラの言ったことは本当なのか、と始めは思った。しかしウェイド先生を一番慕っていた妹が先生の名前を使って嘘をつくことはないはずだ。そして大好きな妹にバカって言われたこと。この言動がセリスティアの頭の中が真っ白にさせる。
「お姉ちゃんのことなんて大嫌い!」
セリスティアはこの言葉でノックアウト。ただ立つことだけで精一杯。妹は足早に階段を駆け上り、自分の部屋の中へと逃げてしまった。一般の家庭ではよくある姉妹喧嘩、数日経てば喧嘩がなかったように仲直りになるはずだ。だがこの姉妹の間では異常なことだった。初めての姉妹喧嘩、姉のセリスティアには何をして仲直りしたらいいのかわからなかった。
(と…とりあえず、ライラが好きなドーナツを…)
好きなもので釣ろうという作戦、しかし、ライラは部屋から出ることはなかった。
数ヶ月後、あの時以来、ライラが部屋から出るのは家族で食事をする時のみになった。
部屋に入ろうとするも内側から鍵をかけられており、セリスティアが何度も入ろうといくつもの考えを思いつくが全戦全敗。何をしても扉を開けてくれない。
(今回はぬいぐるみを作りましたから…ライラが大好きなクマさんを!)
ライラは大のクマ好きだ。これなら確実に開けてくれるはずだと確信している。だが、
「ライラ、プレゼントをあげたいのですが…」
反応がない。無駄だとおもうがドアノブを捻る。
(また、ダメでしたか…)
ガチャという音がなり、セリスティアはえっ?ってなる。すぐさま部屋に入るが誰もいない。
(この部屋に入るのも久々ですね。)
毎日のように出入りしていた妹の部屋はピンク色で染まっていて、それは今でも変わっていない。だが、1つだけ違っていたのは…
(これはなんでしょうか?)
部屋の中は暖色で統一されている中、1つだけ寒色のものがあった。便箋である。
(これはライラの字…)
(家出をします。お願いですから探さないでください。って…)
セリスティアはショックを受ける、だがその後、素早く思考を回転させる。
(昨日の食事の時はいたが、今日はいなかった。食事の後、直ぐに出て行ったの、それともついさっき…ともかく、お母様に連絡を…)
父は用事で外へ出かけている。母に頼りになるのがセオリーだったが、母はセリスから渡されたライラの便箋を見て気を失っていた。
その頃、
「はぁ…はぁ…ここまで来れば…」
ライラは疲れていた。足が棒になるぐらいに。
「お腹減ったなぁ〜、というか、ここはどこらへんかな?」
空腹でもある。それもそのはずだ、彼女は食事をとった後、直ぐに家出をし、どこか遠いところへ走り出してしまったからだ。今は周りが見えない夜である。
「なにか食べものが欲しい…家から持ってくれればよかったよ…」
ライラは嘆いていた。後悔先に立たず。姉に罪はないと知っていながらも当たってしまったこと、そして何よりも顔を合わせにくかった。家での食事のときは姉の顔は一切見ない。姉に謝りたかったがそれ以上に申し訳なさでいっぱいだった。
「ごめんね…お姉ちゃん…」
そうポツリと言った瞬間、足音がした。
(こんなところに…人?ありえない。ということは動物?)
パニクっていた。ただ足音が近づいてくる。音からして4足ある。
(ヤバイ…ヤバイよ…完全に動物じゃん!)
足音が大きくなった瞬間
「君、どうしたの?」
声が聞こえた。容姿は短い白銀の髪に女の子っぽい顔、だけど骨格からして男のようにも捉えれる。
「え…えっと…」
ライラは迷っていた。何を聞けばいいのか、なんでここにいるのか、あなたは男ですか?それとも女ですか?初対面でそれは失礼じゃないか。
「兄さん、困らせてどうするんですか?」
兄さんと呼ばれた人の後ろで同じ色のセミロングの髪型をしている子を見つけた。
(兄さんということは男の子なのか…この顔で)
ライラが失礼なことを思っている中、兄妹で軽い喧嘩になっている。
「アイリ、僕はこの子が迷っているだろうと思って…」
「だからって、どうしたの?っていうのはないと思いますよ。ナンパの決まり文句じゃないですか。」
「そうだけど、放って置けなくて…」
これを見て、ライラは姉との喧嘩を思い出していた。
(お姉ちゃん…)
兄妹で会話をしているのをみて兄妹はいいなと思うと
「はい、これ」
兄からハンカチを差し出された。えっ?となるが
「あなた泣いていますよ?」
とアイリと呼ばれた女の子に言われた。手を頬にあててみる。汗ではない、涙を流していた。
「ありがとう」
そう言いつつ、ハンカチを受け取り、涙を拭う。そして安堵したのか、お腹の虫が鳴った。
「お腹減ったの?」
「もう兄さん!デリカシーないですよ!」
「ごめんごめん、もし良かったら僕たちの家に来る?」
このまま行ったら誘拐されるとは思わなかった。なんせ、ハンカチを貸してくれた人だ。悪い人ではないだろう。妹の方もしっかりしてるし。
「うん」
「あっ、名前まだ言ってませんでしたね。私はアイリです」
「僕の名前はルクス。君は?」
「私はライラ…です」
名前の後にラルグリスと言おうとしたが止めた、私は家出したからその名前は使ってはならない、その義務感があった。
「ライラですね。よろしくお願いします。」
アイリに言われよろしくお願いしますと言いルクスたちの家へ行った。