東方月紅夜~Guardian of sorrow spirit~   作:酔歌

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視点:博麗霊夢
Google+で連載していた「東方月紅夜 第七話」の内容をほぼそのまま投稿しています。


二章 冬季
七話 part1 其の恋


 振り向くと、居るのはヒナギだった。

 

――如月時。幻想郷の新雪は積もるだけ積もり、今でも彼方此方に姿を残している。霧の泉は元々あり得たが、薄氷が張りついて鏡のように変化した。妖怪の若人等はそれで滑り遊びをしてるようだが、妖精に氷漬けされたという事例も相次いでいる。

 

 魔法の森在住の小魔法使いは何の準備もしないけれど、私はマフラーを用意した。厚手の生地で卸しても良いのだけれど、外の風に当たる機会と言えば神社の廊下を歩くくらいなので今季はこれで済ますことにした。

 

 忌まわしい夏に行った宴を、まだ覚えている。だけれどここの妖怪は酒好きで、飲みを止めることは無い。その孤独な飲みに奴等が飽きに飽きたとき、博麗神社に苦情は入る。ため息が出るわ――

 

 そういう事だから、マフラーを着けて廊下を歩きながら宴用の道具を運んでいるときにヒナギに呼ばれたわけだ。

 

「これ、何処に持っていけばいい?」

 

 賽銭箱を担いでいる。何だか滑稽で笑いそうになったけれど、奥の倉庫へ誘導した。ヒナギが歩く。揺れる長髪は何時見ても紫色だ。

思い返せばあっという間に半年が経った。独り気長に過ごしていた今までより、短く感じているのは確かなことだ。それはきっとヒナギのせいだろう。私にもよくわからないけど。

 

「夢中になっちゃって」

 

 思わずわっと声をあげた。魔理沙のしわざだ。ニヤニヤにやけている、恨めしい顔が。

 

「そんなんじゃない」

 

 すると魔理沙が、廊下を十分に使い語りかけてきた。

 

「いっつもあいつと、同じ屋根の下で? そんで毎朝飯作って? 正直怪しいぜ」

 

「勘違いも甚だしい」

 

 そう。嫌な噂は流れて欲しくはない。ヒナギに迷惑はかけたくないのと、彼に逸早く昔の記憶を思い出してほしいから。

 

 襟を掴んで境内を出て、大布を敷かせた。

 

……恥ずかしいからじゃない。きっと。

 

 その後何度か魔理沙に弄られを受けながらそれを制し、時々ヒナギに直接問いただしそうになったりと、今日の彼女はテンションが狂っていた。後日それを肴に摘ままれることを、魔理沙は知らない。

 

「大分来たな」

 

「うん」

 

……。

 

「なんか、今日二人ともヘンだよね。霊夢は静かだし、魔理沙は高ぶっているし。あ、霊夢はいつもか」

 

 大衆を見つめるヒナギの横顔は、私の目を引き付けた。でも、私の中で何かが言葉を抑えていた。ただ、廊下の太柱に支えられた太腿を見、髪を弄るくらいしかできなかった。蝋燭が神社と会場を照らして、酒を紅く濡らす。それを飲むと、私と、隣に座ったヒナギを暖めた。

 

 何だか、何だか。そこに居られなくなって、あいつと飲んでくると言って降りた。

 

 魔理沙になんて言われるかわからないけど。

 

 気が付けば酒が回り、それが私の思考回路を滅茶苦茶にする。時間なんてものをしっかりと感じ取ることはできず、辺りはすっかり暗くなってしまい妖怪等も少しずつ解散していったので、飲み残しの瓶を集めつつ片づけを始めた。粗方もう不必要なそれを取り除いて、神社階段を上る。廊下の手すりにも一本添えられていたから胴を掴むと、それはいいと言われた。ぼやけた瞳で確認するとヒナギだった。

 

 おかしい。ヒナギの顔が目に入るだけで顔が赤くなり、酔いはどこへやら。もう少し飲みたいとのことで、ごめんと言って小走りに離れた。すぐに瓶を置き壁に張り付いて、顔の「アカ」を取るように撫でたが、一向に収まることは無い。どれだけ撫でたって。手に当たる息が、暖かく白む。すると急に足音がして、奥へ逃げようとしたけれど私を呼ぶ声が聞こえた。

 

「やっぱり二人ともおかしい」

 

 私よりも一寸も二寸も高い貴方は、そっとでこに手を置いた。

 

「そりゃ熱いか。酔ってるもん」

 

「……うん」

 

 置いた瓶を拾ってすぐ部屋へ入った。

 

 こういう表現かわからないけれど、一言で表すなら、愛しい。


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