東方月紅夜~Guardian of sorrow spirit~   作:酔歌

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視点:ヒナギ
Google+で連載していた「東方月紅夜 第三話」の内容をほぼそのまま投稿しています。


三話 スキマの連れる地下霊殿

 元々意識が戻ったのが昼頃だったのか、それとも魔理沙の本話が長々と続いたせいか、すでに空は夕焼け模様。薄い血の池のようだった。ただ、今は夏である。いくら魔理沙が長話をしようと、長時間睡眠をしようとも、太陽がわざわざ大きく旋回するはずがないから、今が夏だというのが信用できずにいた。悶々とした気持ちを抱きながらも、日頃の自然な行動(DNA(体の記憶))がついつい体に出、つい先まで眠っていた部屋へ戻った。

 

 やはり霊夢は、見知らぬ男を泊めるのは気が引けるだろうか。顎に手を添えて、机を中心に円を描くようにゆっくり回りながら考えた、が、答えはいまだ出ず、相変わらず悶々としたままだった。

 

 そう悶えていると、駄々のように素早い足音がこちらへ向かってくるのが聞こえた。

 

「あ、まだいた。貴方泊まる部屋無いだろうから、奥の畳部屋使っていいわよ」

 

 障子が開かれたかと思うとお方は霊夢。急いで神社へ向かったとされる多量の汗。そして霊夢は紅白民族衣装でそれを拭いた。

 

「・・・・・・おお、ありがとう」

 

 妙な霊夢の態度に困惑した。

 

「あと風呂入れるから、ヒナギも入っちゃって」

 

 ふーと吹くと、手であおぎながら手前の部屋へ入った。これを親切と捉えるか、不気味と捉えるか。俺は後者だ。

 

 *

 

 風呂に入ってまたあの布団で眠ると、新しい日が始まった。霊夢が昨晩洗濯してくれたオーバーオールを着ると、その後の行動に困った。

 

 まず、何を行うべきだろうか。自分の正体、俺の記憶を思い出すためには……何はともあれ、外に出なければ事は始まらない。そう思い、外へ出た。

 

「あ、よおヒナギ」

 

 そう声の主を目視すると、魔理沙だった。魔理沙が続きを話そうとすると、突如として砂煙が発生した。実際には砂煙ではなく、何か大きな物体が砂を切って、俺たちの方へホーバークラフトのように移動してきたのだ。魔理沙と俺は、驚きつつも本能的に一歩下がった。

 

 包んでいた砂嵐が止むと、それは霊夢だった。霊夢は軽く舌打ちをするとゆっくりと立ち上がった。よく見ると、円柱棒状の木片に、紙片を組み合わせたどこかで見たことのあるようなものを持っていた。

 

 霊夢が黙視している方向を見渡すと、空間を切って現れた二つの赤リボンが縦に広がり、スリットが広がった。何事だと眺めていると、そのスリットの中から、白と今度は紫を組み合わせた衣装を着た、これまた金髪の女性が現れた。

 

「まだまだね」

 

 その金髪白紫嬢が呟くと、霊夢が彼女へ向かって歩み寄った。それに続いて俺たちも動いた。

 

「何でこんなこと、私がやらないといけないのよ」

 

「巫女なんだから、そのくらいの度量を持って叱るべきなのよ。まあ、今日はここらで…………」

 

 彼女がしばらく口を閉じたと思ったら、俺のことを見つめ、ニヤリと笑った。だけれどそれは刹那的で、すぐ今までの顔に戻った。

 

「彼が噂の」

 

「スキマ妖怪のネットワークにはもうこいつのことが載っているのか」

 

 今度彼女は霊夢のほうを向いて話し始めた。

 

「霊夢、ちょっと借り物を頼まれてくれないかしら」

 

「なんで、いやよ」

 

「違うわ。元々物品不足のこの神社から、金になりそうなものを物色したいわけではないわ」

 

 霊夢は少しむっとなり、「じゃあ何よ」と答いた。

 

「彼よ」

 

 ハッとなり、俺のことを言っているのだと気が付いた。少しだけ羞恥心が沸いた。

 

「あー……紫」

 

 霊夢は、「紫」と呼ぶ女性へ耳打ちで何かを伝えていた。と同時に魔理沙が俺に近づいてきた。

 

「有名人は辛いなあ、ヒナギ。紫からプロポーズ貰うってどんな気分なんだ?」

 

 魔理沙は少しにやけてしまっていた俺をイジリ、楽しんでいた。恥ずかしさからか言葉は無茶苦茶なものしか出なかった。

 

「別にそういう意味で言ったわけじゃない、と思うけど……」

 

 話し合いが済んだのか、霊夢がこちら側へ戻り、「紫」さんが「さあ行きましょうか」と言った。霊夢に行くべきかどうか尋ねたら、こくりと頷

いたので「はい」と答えた。 すると「紫」さんはまた、例のスリットを開け、顔だけ出してその中へ入った。

 

「私は八雲紫と申します。さあ、入ってください」

 

「わ、分かりました」

 

 スリットへ入って行く紫さんを見つめ、多少の恐怖心がありながらもその中へ恐る恐る入ってみることにした。彼女が言うに、このスリットは一種のワープ装置なのだそう。ある地点からそれを開け、目的の場所にも作ることによって著しく時間を短縮できるもの言うものだという。俺は今スリットと読んだが、霊夢を含め周りの人は「スキマ」と呼んでいるらしい。そこで大衆に混じって「スキマ」と呼ぶことにした。

 

 ということだからあっという間に目的地に着いた。が、そこは今までいた博霊神社前のような明るみではなく、まったく明るさなど感じさせないような、まるで地下だった。それでいてカラス眼にしてみると、小さな橋がかかっていたり、民家なども見受けられた。

 

「こちらへ」

 

 紫さんが歩みだす方向へ付いて行った。付いて行ったというよりは、童が母親の服を引っ張りながら、見知らぬ町を歩いていくような感覚に近かった。

 

「あの、ここどこですか」

 

「ここは、幻想郷の深い深い地下の空間。人目には一切触れないように工夫されているわけで、たぶん霊夢たちは知らないわ。だから、他言無用ね、彼女らには。民家も見えるでしょう。ここには幻想郷では住んで生きていくことができない妖怪等が有象無象しているわ。時に奴等が如何に阿呆事をやったのかと思うかもしれないけれど、彼女ら自信が望んでいるのよね。そうまでして凡著名妖怪等と交流を拒むかというのは、これから行く場所で自ずと見えてくるわ」

 

 紫さんは事細かに説明してくれたが、まず根本的に「幻想郷」の存在を知らないので、俺は相変わらず反応に困っていた。が、もう十歩ほど往くとそこへ着いた。そこは、周辺の民家と比べてみるととりわけ大きく、ただその存在感が俺に威圧をかけている。

 

「さ、着きましたよ。「地霊殿」と呼ばれる場所です」

 

 紫さんが大扉を開けると、俺を中へ誘導した。

 

「私は、貴方がここから出て行くときにもう一度来ます。住人が説明してくれますから、大丈夫ですよ」

 

 そう言うと紫さんはまた、スキマを作ってどこかへ消えた。遅る遅る足の関節を動かしてみると、少しばかりではあるが徐々に光が現れてきた。進むと、その正体が見えてきた。靴で地面をたたいて歩いていると、一部だけ音が違う。――ふとみると、ガラス製のような、まるでステンドグラスのように配置されているものが見えた――つまり、そこの底から絶え間なく光が溢れていたわけだ。

 

「あの。すいません」

 

 紫さんの言う「住人」を探すために声を出しながら、この異様なシャンデリアを見下しながら歩みを続けていると、遂に人声が聞こえた。

 

「いらっしゃい!」

 

 その声に焦点を合わせ、目を見開くと、それが話し始めた。

 

「貴方、私に相談があってきたんでしょ。私知ってるよ」

 

「あの、貴女は?」

 

「私は古明地さとり。この「地霊殿」の主です」

 

 地霊殿主である彼女……俺は、たいしたことでは驚かない自信があった。何しろ、見知らぬ土地の地下深くに屋敷を建てて暮らしているような奴だ。紫さんも言っていた通り、いったいどれだけ不気味で、おっかない奴が出てくるか分からない。だが、彼女の体型には驚いた。まさか館の主が、幼児さながらの体格だとは。

 

「あの、相談というかなんというか」

 

「うん。取りあえずこっちおいで」

 

 紫さんが何故ここへ俺を送ったか。きっと、それはここでこの古明地さとりさんから、記憶を思い出すヒントになるものがいただけるからじゃないだろうか。そういう意味では相談であながち間違ってはいないし、むしろ正答性は高い。

 

 さとりさんの向かう方へ歩み出した途端、別方向から声が聞こえた。

 

「こいし、どこへ行っていたの!」

 

 見ると、さとりさんと瓜二つな容姿ながら、若干の衣装違いな少女が現れた。だが、彼女は「さとり」さんのことをなぜか、「こいし」と呼んだ。

 

「客人に失礼でしょう!」

 

 訳のわからない俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。後女が前女を奥へ促し、もう一度異様なシャンデリアが照らす空間に還ってきた。

 

「さて……私の妹が、とんだ迷惑をしてしまったようで、申し訳ありませんでした。私はこの〈地霊殿〉の主、古明地さとりです

 

 どうやら、このお方が「さとり」のようだ。このお方が「さとり」ならば、先ほどの妹殿の名前が「こいし」なのだろうか。

 

「あの、ちなみに妹さんの名前は」

 

「古明地こいし、です。あの子からいろいろと言われたようですが、私が、本物の「古明地さとり」ですから。」

 

 なるほどと心の中で相槌を打つが、ただそこに一抹の謎が生まれた。俺はこいしさんから「さとり」だと聞いた。だが、その最中にさとりさんは近くで聞き耳を立てるわけもなく、こいしさんを探していたわけだ。ということは、こいしさんが俺に「さとりだ」と名乗った事実を知る由はない。

 

「…………ふふ。いえすみません、不可思議そうに顔を歪ませていたものですから、つい。お教えしてもよろしいのですが、立ち話では心もとないでしょう。こちらへ」

 

 七色の地下日が照らす部屋を出、薄暗い廊下を進む。

 

「暗いですね」

 

「そりゃあもう。ですが、私たちにはここが必要ですので」

 

 大扉を開け、小部屋に入った。今度はしっかりと電気の日が灯っており、数個の椅子が、縦長のテーブルに寄り添っている。さとりさんは奥側の椅子へ進むと、対角の椅子へ俺を誘った。

 

「さて、まず何から話しましょう?」

 

「じゃあ、先ほどのトリックを」

 

「はい。その前に一つ忠告を聞いてもらいます。私は八雲からあなたのことをよろしくと頼まれているので、このことを知ることを許可しますが……私やこいしがここに居る理由は如何なるものか、分かっておられるとは思いますが」

 

 先程紫さんから教えを受けた申を伝えると、頬を上げ話を続けた。

 

「そう。彼女はどこか自己中心的のように思え違和感がありますが、そういうことです。簡潔に言えば他言無用。でないと私たち引籠り妖怪の居場所がなくなってしまいます。築地に寄り添って一生雑品を売るなんてことはしたくありませんので。」

 

 少し時が開いた。俺はもちろんさとりさんも脚を微動だとして動かさずに。そうしてようやく話し始めた。

 

「私は、心を読む程度の能力、なあんていうものを持っているのよ」

 

…………嘘だろう?

 

「嘘ではありません」

 

 本当なのか

 

「本当です」

 

 次々と心言を言い当てられ、「おお」と感嘆の表情と言葉を述べるしかできなかった。

 

「さ、次はあなたのターンですよ」

 

 さとりさんのまさかの発言に戸惑いながら、俺は事細かにとはいかないが、現在までの流れを説明した。

 

「なるほどね」

 

 それっきり彼女は言葉を発しないまま、ただひたすらに黙り込んでいた。

 

「あの……それで?」

 

「それで? と聞かれても。私はたしかに紫からあなたをよろしく頼むようには言われたけれど、あなたの悩みを解決しろ、とは言われていないわよ」

 

 妙にさとりさんは厳しい口調で、俺を突き放した。

 

「そんなこと言われても……何故俺はここに来たんですか」

 

「知らないわよ。八雲の奴にでも聞きなさい」

 

 なんだか腑に落ちず、紫色の長髪を触った。

 

「……そうね。何か言えることがあるとすれば」

 

 つばを飲み込んだ。

 

「……そのうち思い出す、わ」

 

 俺を安心させてくれようとしたのか、それは心を癒した。

 

 そうするとさとりさんが急かし、あっという間に例の大ホールへ出た。そこには既に紫さんが居り、柱に背を付けて佇んでいた。

 

「何か面白い話でも聞けたかしら」

 

 回答に困った挙句、「はい」と答えた


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