東方月紅夜~Guardian of sorrow spirit~   作:酔歌

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視点:博麗霊夢
Google+で連載していた「東方月紅夜 第一話」の内容をほぼそのまま投稿しています。


一章 夏季
一話 まるで地獄のそれ


――晴天。

 

 憎たらしいほどの光を浴びながらの掃除は、一層体への負担が大きい特に今日は。先日段差ですっ転んでしまった拍子に箒の柄を折ってしまい、魔理沙の過重なそれを借りる羽目になってしまったからだ。

 

 一通り枯葉をかき集めて、巫女装束の袖を汗で濡らしたちょうどその時、神社後方の雑木林の中に血だまりがあることを発見した。前面にいる間に、野妖怪やらが心中したのかと思い、多少面倒くさい気持ちは有りながら放っておくわけにもいかず、確認だけすることにした。暑かったし。

 

 いざ林内部へ掻き分け入ると、あたり一面は血だまりも血だまり、まるで血の池地獄だった。濡れたくなかったので、少し飛びながら進んでいくと、妙なものを見つけてしまった。うすうす感づいてはいたけれど、やっぱり、私の周りには面倒が渦巻いているようだ。

 

 なぜなら、それは見知らぬ女性だったからだ。

 

 面倒くさいと言いつつも、私は一先ず医者へ連れていくことにした。いつもの案内人と共に雑木林を抜け、例の月人の元へと向かった。ずっと見知らぬ女性を抱えていたから腕が疲れていた事と、月の人等が住処にしている屋敷へ行っても、人や兎一匹たりとも現れないので腹が立って、屋敷前で怒りを大声で叫んでやった。すると、姿現し兎がようやく顔を見せた。

 

「うるさいからやめなさいっての」

 

 兎はしばらく腕中のそれを見つめていたかと思うと、にやりと笑みを浮かべた。

 

「中々面白いもの持っているじゃないの」

 

 兎は段々と私に近づきながら言った。

 

「神の子供は神、巫女の子は巫女。ね」

 

 私は訳が分からず瞬きをしたら、そこにはもう兎は居なかった。

 

 さて置いて。私の怒号に反応したのは姿現し兎だけではなかった。ようやく医者の召使い兎が現れ、私を師の下へ連れて行ってくれた。

 

「あの、もう叫ぶのやめてくださいね」

 

 兎はうっとおしそうに言うと、歩みを進めた。

 

「そうでもしないとあんたら迎えないじゃない」

 

「今日は休館日だって表に……」

 

 兎の言には耳を貸さず、ただ少しの苛立ちを抱きながら血の付いた衣服を気にした。いくら巫女装束とは言え、一着一着が大事な持ち物だ。血で濡らされたとあれば、洗濯してもなかなか落ちることが無い。とにかく、今起こっている事象すべてに対して腹を立てているわけだ。

 

 中々広大な屋敷を大体足が痺れ始めるくらい歩くと、そこは医者の部屋だった。

 

「これ、どうにかして」

 

 隣接している診察床に血まみれのそれを寝かせた。

 

「随分と荒々しいご注文だこと」

 

 医者は妙に汗ばんだ手を首に当て、脈を図り始めた。

 

「あら、生きているのね」

 

「生きてなかったら勝手に埋葬するわ」

 

 医者は驚いたと同時に、不思議そうな顔を覗かせた。

 

「この女性、不思議ね」

 

 妙なことを話し始めた。

 

「見たところ外傷がない割には大動脈をぶった切られたような出血量。世の中には三者三様の妖怪がいたものね」

 

 医者はそそくさと薬箱を探り始めた。

 

「何よ。治療しない気かしら」

 

「外傷も何の無いのだから、内部で異常は起こらないのよ。意識が戻ったらこれ飲ませておきなさい。あ、それと、話があるから明日にでも来なさい」

 

 薬小袋をかっぱらって、彼女を抱え上げた。

 

「次からはちゃんと休館日でも入口を示しておくこと」

 

「はいはい」

 

 また屋敷を抜け、雑木林を案内人こと藤原妹紅と歩いているとき、不思議なことに気付いた。

 

「不思議そうな顔をして、どうした」

 

 無知を装い質問を投げかけて来た訳だが、言葉に出さずとも、彼女は感づいている。

 

「……私の抱えていた身体。石ころくらいの重さしかなかったのよね。体内の血液があふれ出たとして、そんなに軽くなるものかしら

というか、貴女そんなに気楽に話しかけてくるような人だったかしら。少し不気味」

 

 その長い白髪を振りながらこちらを向いた。

 

「人と話すことは好きだ」

 

 彼女の頬とオーバーオールの紐は、林を燃やしそうなくらいに赤い。

 

 結局、月人等からは彼女の正体をつかむことはできなかった。肝心の医者からのアドバイスは「外傷は無いから内傷もない」というもの。確かに端的だ。だけど、どこか引っかかって、どこか違いが思い出せる。

 

 神社に着き、とりあえず彼女を脱がせた。水桶を用意し、血が付いている部分を洗い始めた。その後は風呂へ連れていく必要がある。意識がないだけだから、拭き取るのは容易だろう。

 

「疲れた……」

 

 気が付いたら日が落ち始め、疲労もたまってきた。そういえば貰っていた薬小袋や、鍵言葉の事を思い出しながら畳上の布団に寝転がると、自然と瞼は落ちた。朝になれば布団の中の彼女も起きているだろう。眠りが深くなるに連れ、怒りやわだかまりが消えていくことを感じ取れた。

 

 


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