それはとてもきれいな空で   作:ルシアン(通説)

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それはとても小さな反撃で

「またお話しできて光栄です。智将ハルバートン提督。本来なら直接お会いしたいのですがあいにくと忙しくて…。」

 

「よしてくれ、敗戦の将でしか私はないのだ。それを智将などとは…」

 

「英雄が必要となったのでしょう…。今回の敗北は大きすぎたのです。

それに実際あなたの指揮した第8艦隊よりずっと被害が少ないのに戦果は一番大きい。製造側としてもうれしいですよ。」

 

「そうか…。

ところで、あれからあの物質については何か分かったかね。恥ずかしいことに私は軍内ではつてが多くなくてね、あまりわからんのだよ。対抗兵器はすぐにできそうかね?」

 

「残念ながらあまりいい情報はありません。

まずこの物質は…プラントではNジャマーと呼んでいるようですが、核分裂の阻止が主効果であり、無線の妨害や精密レーダーの妨害などは副作用です。

ですので、無線もレーダーも完全に使用が不可能になるわけではありません。今回の戦闘のようによほど高濃度でない限り前線で指揮を執ることは可能でしょう。

それからこのNジャマー、電波のようなものを放射しておりそれが核分裂の阻止などをしているようです。研究班の報告ではこの電波もどきを遮断する方法は当分見つかりそうもないようです。

現在ロゴスでは生産した兵器から無線誘導機能や精密レーダー連動装置を撤去し、赤外線自動追尾型を搭載しなおしています。無人MAも少し値が張りますが、小型化に成功した新型のOSとCPUを直接機体に搭載することで何とかなりそうです。」

 

「仕方ない…か。君には大分負担をかけそうだな。

……G計画はどうなりそうだ?」

 

「…内密のことですが、オーブのコロニーで研究する予定です。向こうのモルゲンレーテ側も結構乗り気のようです。」

 

「相互防衛協定すら拒否した中立国だぞ。本当に大丈夫なのか?」

 

「向こうも1枚岩ではないということでしょう…。私も何回か視察する予定ですので大丈夫かと。」

 

「頼んだぞ。

…ふふふ、あれだけブルーコスモス派嫌いで有名だった私がブルーコスモスの盟主を貴重な人間としているのだから、おかしなものだ。」

 

「私たちの願いは自らの生存と、敵対者からの防衛なのです。いざ戦争が始まれば、理解しあえるのも道理と言うものではありませんか?」

 

 

アズラエルの返しにハルバートンも確かに、と頷く。コーディネーターの脅威を唱え続けてきたブルーコスモスを無視してきたのは自分たちなのだ。

自分たちの意識が変われば理解しあえるのは不自然ではない。

 

 

 

世界樹攻防戦での事実上の大敗は大きな波紋を生んでおり、第3次世界大戦の際に築かれたウラル要塞周辺ではいったんはユーラシア連邦有利だった状況から、東ロシア連合の反撃が激しくなってきているようだ。

 

いまだにこの地域では表立って地球連邦が参入していないのでユーラシア連邦独自の国内問題ということで地球連合としては援軍を送ってはいないが、これ以上ザフトの勢いが強まれば地球連邦はすぐにでも地球連合に対して積極的に戦線を作ろうとするだろう。

 

ただでさえオホーツク海や北アフリカ各地で小競り合いが多発しているのに、ザフトと地上で戦うことになるのが現実となりそうとなった今、地球連邦との戦争が早期に解決できるとも思えない。

 

この戦争、勝てるのだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球連合軍南アフリカ戦線総司令部 ケープタウン

 

「総司令官、コンゴ方面の0311戦車師団が後退許可を求めています。」

 

「ナイロビ国際空港を守備する0305並びに0307歩兵師団から援護砲撃と増援の要請がきています。」

 

「ユーラシアからの増援によって第3防衛ラインの構築が完了いたしました。」

 

「よし、これよりナイロビ空港を含む第1防衛ラインを放棄する。予定通り敵に出血を強いつつ後退しろ。」

 

 

……民間人のはずの私が何で南アフリカ戦線臨時総司令官をやって

いるのだろうか。

 

 

 

 

CE70年2月18日

 

世界樹を消滅させ、一時的にせよ地球連合軍宇宙艦隊を行動不能にしたザフトは若干の被害を出しつつも地球の衛星軌道上に到達。

南アフリカの中心都市ヨハネスバーグにありったけの要塞攻略用のミサイルを投下して司令部機能を完全に消滅させたうえで、強襲降下用カプセルを用いてジンを主力とした降下部隊がマスドライバーを擁するヴィクトリア宇宙港を占領した。

 

 

最初の爆撃で司令官クラスの人間をほとんど失ったこの戦線には代わりとなる総司令官を直ちに派遣しなければならなかったのだが、不利な戦局の中総司令官となり地上での戦闘の初の敗軍の将となることを皆嫌がり、人選が決まらなかった。

 

そんな中オブザーバーとして呼ばれていたハルバートン提督は、

 

「アズラエル氏ならばザフトについても精通しており、戦術、戦略両面においてそこそこの能力を持っており、開発側の人間として連合軍の新兵器の扱い方もよく心得ている。」

 

などと発言。

 

それにサザーランド大佐をはじめとしてブルーコスモス派の軍人が賛成。

大西洋連邦議会では民間人を司令官にすることに対する疑問の声が上がったが、与党にも野党にも多くいるブルーコスモス派の議員がアルスター議員を筆頭に賛成したため、賛成多数で議決された。

 

臨時司令官になってしまった私は瓦礫と化したヨハネスバーグからケープタウンに総司令部を移し、残存兵力で不慣れな地上戦をしなければならないザフト兵に対して時間稼ぎをしつつ、各地から集まってきた地球連合軍の増援を使って敵を包囲しつつあった。

 

ザフトが量産化を急いでいるらしいディンがいまだ実戦配備されていなかったこともあり、こちらが制空権を得ることはたやすく、戦闘が始まって2週間たった現在補給もままならないザフトは、主力兵器をジンから鹵獲した地球連合軍の旧式戦車に切り替えつつあるらしい。

 

食料の方も潤沢とは言えないらしく、占領下におかれた地域ではかなりひどい徴発を行っているようだ。

 

 

 

 

地球連合軍の増援は敵を包囲する形で展開を完了した。ザフト兵は長らく自分たちを苦しめ続けた連合軍の残存部隊を追撃することに必死なようで、陣形は乱れきっている。

 

 

「南アフリカ戦線にいる地球連合軍全軍に告ぐ。よく今日までの長い間耐え忍んでくれた。これより反転攻勢をかける。コーディネーターどもに地球が我々ナチュラルの物であることを教えてやれ!」

 

 

 

 

 

 




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