「やはりナチュラルなどというのは野蛮で愚かな劣等人種でしかなかったのだ!!
民間人の虐殺に核を使うだと!?やつらは第3次世界大戦から何も学ばなかったのか!
おまけに『戦場となった場所で民間人と戦闘員を判別して攻撃することは非常に難しいことは自明の理であり、それを分かっていたうえで民間人を避難させずこちらを批難するプラントには作為的なものを感じざるをえない』だと!?
では私はレノアを、愛する妻を作為的に殺したとでも言うのか!
シーゲル、やはりプラントの独立だけなぞ生ぬるい。
われら新しき優等人種であるコーディネイターが愚かなるナチュラルどもを監督せねばならんのだ。早急に全力でナチュラルどもを叩き潰すのだ!!」
「落ち着け、パトリック。
私だってレノアやユニウスセブンのことはつらいのだ。だがまだ我々は地球連合軍と地球で正面から戦うのは無理だ。宇宙戦で我々が圧倒的なアドバンテージを保持しているとはいえまだ連合軍には艦隊戦力が半分以上残っているのだ。ここは慎重に…」
「シーゲル!お前が慎重であることは前から知っているがそれでも今攻めねばいつ攻めるというのだ。
ナチュラルどもが調子に乗って第2第3のユニウスセブンを作ろうなどと考えぬうちに我らの力を見せつけねばならんだろう。
さいわいMSジンは地上戦闘においてもナチュラルどもの陸上兵器を圧倒できるのだ。以前評議会に提出した作戦を実行すべきだ!」
「あの作戦にはまだ穴が多くあっただろう。地上で制空権をとれないうちはいくら地上軍を圧倒しても連合軍の圧倒的物量を誇る空軍
にやられるのがオチだ。
それに5個艦隊を好きにさせていたら補給線も維持できん。ディンがもう少し量産されるまで待て!
それよりもユニウスセブンが破壊されたことで食料の確保を考えねばならん。地上戦も楽になるだろうし、やはり地球連邦と同盟を結んではいけないのか?」
「なぜナチュラルなんぞと手を組まねばならない!?
ナチュラルなんぞ連合だろうと連邦だろうと皆同じだろう。食料の備蓄とて3年分あるのだ。それまでにナチュラルからいくらでも搾取できるわ!」
「3年分といっても民間人にとっての3年分と軍で作戦上必要な3年分とは桁が違うことぐらい君だって分かっているだろう!?
仮に3年分あったとしても補給線が守れなければ前線には届かない!」
「ではどうするというのだ!ただ座して待てとでもいうのか!
そのようなこと評議員もプラント市民も認めんぞ!」
「……L1の世界樹を狙う。」
「何?」
「世界樹を狙えば連合軍もうかうかとはできず、艦隊を派遣するだろう。
それに壊滅的損害を与えればしばらくの間制宙権を手に入れられ、地球への物資輸送も可能になるはずだ。
それから、戦地でNジャマーの性能を確かめる。」
「Nジャマー…。確か核分裂を阻害するなどと研究班が報告していが、使い物になるのか?
効果範囲が狭ければあまり意味がないぞ。」
「それを確かめるんだ。
効力があるのなら、宇宙空間はもちろん地球にも散布する。ユニウスセブンのような被害もなくなるし、連合との国力差もだいぶ縮まるはずだ。」
「そうか。それならば納得できる。
ではすぐに評議会で審議して準備を…。」
「準備はほぼ整っている。評議会も通るだろう。
パトリック、レノアの死、無駄にはしないぞ…!」
CE70年2月20日
その日L1宙域を出発し、長距離偵察任務を行っていた独立艦隊からプトレマイオス基地に通信が入った。
「プラント方面より大規模な艦隊が移動中。目標はL1世界樹の模様」と。
その後の報告から敵艦隊規模はローラシア級11隻、ナスカ級5隻と判明。
プラント本国の守りを含めなければ現在のザフトのほぼ全力といっていい戦力であった。
地球連合軍は直ちに世界樹周辺に艦隊の集結を命令し、接触することになるであろう22日には第1、第2、第8艦隊が集結することになった。
世界樹には通常のMAメビウス並びに少量ながらメビウス・ゼロが計50機。加えて無人MAヴァルキュリアが250機配備されていた。
同年2月22日
ザフト艦と接敵した連合軍艦隊と駐留部隊は、その後智将とまで言われたハルバートン提督の卓越した指揮もあり互角以上の戦いをしていたが、ザフト特殊工作艦に搭載されていたNジャマーが使用されると、核エネルギーを使用していた世界樹のレーザー要塞砲をはじめ、誘導ミサイルやレーダー連動式無人対空機銃、果ては無線通信まで使用が不可能となってしまい戦場は混乱を極めた。
迎撃システムの大半を使用できなくなってしまった世界樹は流れ弾や轟沈した艦艇の破片から身を守ることができず、戦闘の開始から6時間後、世界樹は地球連合軍の誰もが予想できなかった形で崩壊。
ハルバートン提督はその時点で艦隊の戦力が開戦時の3割に落ち込んでいること、世界樹からの指令を失った駐留部隊が飛び回る蚊よりもたやすくザフトのMSに撃墜されていることを確認し、撤退を決断した。
アルザッヘル基地にたどり着いた時、戦闘可能な艦艇は1個艦隊分しか残されておらず、それに対してザフトはローラシア級とナスカ級をそれぞれ1隻ずつ失っただけであった。
地球連合軍は制宙権をプラントに明け渡さざるをえなかった。
「サザーランド大佐、それは本当のことですか?あそこには確か最新鋭の要塞砲があり、ヴァルキュリアもかなり優先的に配備してあったはずなんですが…」
「事実です、アズラエル様。
初戦は強力な要塞砲と駐留部隊をうまく活用して優勢だったのですが、ザフトの特殊工作艦が何らかの物質をばらまいた途端、核分裂反応をはじめとして無線系統なども使えなくなりました。
その後は艦隊も混乱して戦闘らしい戦闘もできず、敗北しました。」
そんな馬鹿な…!核も無線も精密レーダーも使えないだと!?ヴァルキュリアは司令部のCPUに基づいて無線で指示が出されて飛んで
いるものだし、艦艇の対空火器の大半は精密レーダーと連動したものだ。
このままでは戦えない。
「レーザー通信は可能でしたか?デブリが多いと使えませんが長距離通信はしばらくそれで我慢するしかないでしょう。
それから、そのばらまかれた物をすぐに研究所に持って行ってください。ヴァルキュリアの改修もそれからです。」
「分かりました。早急に手配いたします。」
この戦いで連合軍の艦隊は残り3個艦隊となってしまった。
いくら国力のある大西洋連邦とユーラシア連邦とはいえ、2日3日で艦隊が再編できるわけではない。アルザッヘルとプトレマイオスには常に1個艦隊ずつ配備しておかなければならないから…。
アルテミスはともかくとして「新星」は距離的にもあきらめざるを得ないか?ハルピュイアも改修しなければならないし…。
何としてでも月だけは守らなければ…。
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