それはとてもきれいな空で   作:ルシアン(通説)

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それはとても激しい動きで

現在宇宙には17個艦隊存在し、オーブ艦隊の2を除くと大西洋連邦が5、ユーラシアが4、東アジアが3、日本が2、国際連合加盟国の混成艦隊が1となっている。

 

日本がどう動くかは分からないが、仮にユーラシアと東アジアが敵方につくと、大西洋連邦は劣勢となってしまう。

そして軍需産業をはじめとしたかなりの工場が月に作られているのだ。もうちょっとどうにかしたい。

 

そんな会話をサザーランド中佐つながりで紹介してもらったハルバートン提督と先日話し合った。

 

彼はどちらかというと反ブルーコスモスなのだが、コーディネイター憎しのみだと私のことを考えていたらしく、理路整然と愚痴りだす私にかなり驚いていた。ただ、話の分かる提督ではあったのだが軍内部の発言力はそこまで大きくないらしく、あまり役立つとは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CE68年

 

「…であるからにして、プラントのそしてコーディネイターとしての種の繁栄をこれからもより発展させるべく尽力していく所存であります」

 

今テレビでは8年ぐらい前から報告書に必ずと言っていいほど名前の載っていた人物、シーゲル・クラインによるプラント評議会議長としての初心表明演説が行われていた。

 

今回の演説では今までの議長が必ず言ってきた「地球とプラントの共共栄」といった言葉が無い。

おそらくこれからのプラントの行動を如実に示しているということだろう。

 

演説内容を事前に把握したと思われる大西洋連邦国防省からは、新型宇宙戦艦であるアガメムノン級に加え、500メートル級超大型母艦のユグドラシル級、そしてMAのメビウスとメビウス・ゼロの発注が相次いでいた。

また、宇宙軍の規模がなかなか拡大されず最悪開戦時にパイロットが足りなくなるだろうと予測した私の命令で開発させた無人MA「ヴァルキュリア」などは恐ろしい数の発注があった。どうもパイロットの不足がかなり深刻らしい。

 

時を同じくしてパトリック・ザラはこれまでの軍事警察組織を統合しプラント独自の軍事警察組織ZAFT|(以降はザフトとする)を設立。MS「プロトジン」を主力兵器とした。

 

翌年シーゲル・クラインはコロニー群の一部を農業用プラントに改修することを宣言。

プラント理事国による武力介入をも文字通り打ち破り、プラントは完全に独立体制に移行してしまう。

 

また、この戦闘で圧倒的多数であった理事国連合軍のMAが少数のMSに敗北し、数少ない戦果の大半が無人MAヴァルキュリアによるものであったことが軍内部で大きな波紋を呼んだ。

 

短期間のうちに理事国の艦隊は大きな損害を受けてしまい、特に被害の大きかった東アジア共和国は「宇宙艦隊の再建に関しては全くめどが立っていない」と発表。

今後のプラント独立戦争には関与しないことを暗に示した。

 

 

 

そしてCE70年。

 

プラントに関する外交交渉の全権を担っていた国際連合の事務総長を含む首脳陣がテロによって殺されると、国際世論は反プラント一色となり、その年に行われた世界各地の選挙でブルーコスモス派が第一党に輝いた。

 

 

国際連合首脳陣が爆破テロされた事件、通称「コペルニクスの悲劇」は世界各国に強烈な衝撃を与えた。

 

連合の担っていた職務を継続できる人材がすべて失われてしまったことにより、国際連合はその真価がもっとも問われる時期に解散せざるをえなくなってしまったのだ。

 

 

CE70年2月7日

 

大西洋連邦、ユーラシア連邦、南アメリカ合衆国、南アフリカ統一機構は今回のテロをプラントによる陰謀であると断言。

これはプラントによる地球各国への宣戦布告に等しいと発表すると同時に、国際連合に代わる国際調停機関として地球連合を組織した。

 

また、地球連合加盟国での兵器の統一規格の作成などを目的として、軍需・エネルギー産業等の企業を中心とした企業連合「ロゴス」を結成。両産業界に多大なる発言力を持つムルタ・アズラエルが盟主として就任した。

 

 

翌2月8日

 

日本国、オーブ連合首長国、赤道連合、汎ムスリム会議、スカンジナビア王国は今回の戦争において中立勢力となることを宣言した。日本国のマキシマ首相の提案で中立国同士の相互防衛協定が結ばれたが、オーブのアスハ代表は「このような軍事同盟とも呼べる協定を結ぶことはオーブの建国理念である中立性を損ないかねない」として協定に加わらない。

オーブが国際関係において完全に孤立してしまった瞬間である。

 

 

同日、旧ロシア連邦のウラル山脈以東が「東ロシア連合」を名乗り独立を宣言。

これを東アジア共和国、大洋州連邦、アフリカ共同体が承認。同4か国はプラントの独立は当然の権利であり、また明確な証拠もなくテロをプラントの陰謀と断定することは間違っているとして地球連合に対して批難をした。

 

さらにこの4か国は、「国際連合の理念を正統に引き継いだ国際調停機関」として地球連邦を創設。

地球連邦内の軍需・エネルギー産業などの企業を中心に企業連合「ミュトス」をも創設し、地球連合に対抗していった。

 

 

 

2月10日

 

大西洋連邦大統領は「これまでのあらゆる批難に対してもプラントから謝罪・釈明は一切なされておらず、反省どころか問題意識すら持っているかうかがわしい。このような無法をほおっておくことは国際秩序云々以前の問題である。」と発言。

 

地球連合として正式にプラントに対して宣戦布告がなされ、すぐさまプラントの所有する資源衛星「ヤキン・ドゥーエ」に艦隊が派遣されることになった。

 

しかし、同時に地球連合に対して地球連邦から宣戦布告文が届けられたため、プラント派遣艦隊の一部は東アジア共和国の資源衛星「新星」の制圧に回されることとなった。

 

 

これまでの間、プラントが行ったのは国民に対する情報操作のみでありプラントの外交、情報戦に対する能力が非常に低いことが浮き彫りとなっていた。

 

 

 

 

 

 

「最近調子はどうだね、アズラエル君。」

 

「いや、もうロゴス盟主アズラエル殿と呼んだほうがいいかな?」

 

「いやはや、月日が経つのは早いものだ。」

 

「まったく、ちょっと前に父親から代替わりした新参の若造と思っ

ていたら。」

 

「今ではわれらより上の立場にいるというのだから、全くもって年月が経るのは早いものだ。」

 

 

 

………すごく頭が痛い。

だから私はこの爺ども、国防産業連合の理事どもが嫌いなのだ。だがそれも今日でおしまいだ。

連合に加わっていたもので地球連合勢力圏の企業はすべて「ロゴス」に所属しており、それ以外は地球連邦の「ミュトス」に加盟してこの連合から抜けていった。

 

つまり、役割のほぼすべてをロゴスが担っている今国防産業連合に存在価値はなく、だからこそ今日をもって解散することになったのだ。

 

…そのことでこの老人たちは盛んに愚痴を言っているのだ。

 

「甘い蜜を吸いづらくなってしまった。」と。

 

 

 

 

この爺どもの相手をしなくてよくなったとはいえ、仕事の量が減ったわけではない。

いや、どちらかというとロゴス盟主になったために仕事量は激増している。

やっぱりあの士官学校生を秘書として引っこ抜いておけばよかった。今じゃもう立派に士官をやってるだろうから引っ張り込むのは難しいだろうな…。

 

 

「アズラエル様、農業用プラントユニウスセブン周辺での戦闘で地球連合軍は戦術核を使用し、初期の任務を貫徹しました。

しかし迎撃にあたったザフトモビルスーツ部隊との戦闘で艦艇の7割、MAの6割を失ったためヤキン・ドゥーエへの遠征は見送りとなりました。」

 

「わかった、まあ予想通りですね。ブルーコスモス対外査察局局長とつなげてください。

 

…ああ、私です。今回の件でプラントの世論はどうなりそうですか?…まあその辺を突いてくるとは思っていましたが。そうですか、それくらいなら予想通りです。引き続き調査を頼みます。」

 

 

「大西洋連邦及びユーラシア連邦大統領から通信が来ていますが。」

 

「つないでください。…これはこれはお二方おそろいで。本日はどのような用件で?」

 

「決まっておる。今回の作戦だが、戦術核の使用を提案したのは君だそうじゃないか。

非戦闘員が核で大量に死んだとなればプラントどころか連合国内でも問題となってしまうぞ。現に地球連邦からは抗議文が届いておる。」

 

「はっ!カシミール戦線で最後に戦術核を使った国がよく言いますね。

そもそも、農業用プラントなんていう接収しても全然うまみのないものをわざわざ犠牲を払ってまで占領するわけないじゃないですか。

壊し方が通常弾頭での破壊か核を使った破壊かに違いはありませんよ。

宇宙ですから環境破壊云々もありませんし。

 

それよりもそのくらいのこと予測がつくだろうに民間人の退避をしていなかったプラントのほうがおかしいんです。

いっそ記者会見で行ってやったらどうです。『ザフトは地球連合に対して国民の憎悪を募らんがために24万もの民間人を見殺しにした』ってね。

 

そんなことよりも大統領、問題はわが軍の被害の多さですよ。『新星』をほぼ無被害で制圧したとはいえ、この調子では宇宙艦隊の補充が追い付かなくなるのは目に見えてますよ。パイロットのほうなんてもう底が見えてきたそうじゃないですか。」

 

「いつの間に…!

……そういえば君はブルーコスモスの盟主だったな。諜報力の、特にプラントに対してだが、高さにはCIAの長官が脱帽していたよ。

 

パイロットについてだが、ヴァルキュリアを拠点防御のみならず艦船にももっと搭載しようと思う。

それから開発中の小隊単位で遠隔操作できるという無人MA『ハルピュイア』はいつ量産可能になる?軍は結構期待を寄せていたよ。」

 

「月の両面を死守していただけるなら4月までにも…。先日の戦略会議ではMSの開発を決定したそうですが、ロゴスとしては全面的に協力します。議会の方を頼みますよ。」

 

「ふん、どうせ表立ってないだけで議員の大半に折り合いをつけておるくせに…。

当面の予算は戦争税を可決させれば何とかなる。早く目に見える戦果を出さねばならんからな。こちらからは以上だ。」

 

 

 

現在地球連合軍は「新星」に第3、第5艦隊、月裏側のプトレマイオス基地に第8艦隊、月表面のアルザッヘル基地に第1艦隊、そしてL1宙域の世界樹に第2艦隊つまりは計5艦隊が存在する。

 

逆に言うと、わずか2回の戦闘で地球連合軍は4個艦隊=戦力の半分近くを失ったのだ。

 

制宙権の維持は連合軍首脳部やアズラエルが予想していたよりも難しいことになりそうであった。

 

 

 




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