それはとてもきれいな空で   作:ルシアン(通説)

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それはとても偉大な遠征で

オーブ攻略作戦は半日で終了した。

彼我戦力は1:5。短期決戦の構えを取ったとはいえ、オーブ軍に勝ち目はなかった。虎の子のM1アストレイも、日本軍のロボット部隊やキラ研究員によってOSを改良されたストライク・ダガーを前に苦戦し、そこを航空機に叩かれる。とてもではないが戦闘らしい戦闘は行えなかったのだ。

最終的にカグヤ島に立てこもった代表首長らがオーブの象徴とも言えるマスドライバー施設、モルゲンレーテ社を爆破し、自爆することで戦闘は終結した。オーブ連合首長国は国家の柱を自ら壊し、文字通り崩壊したのである。

ただ幸運なことにオーブ軍は市街地を利用したゲリラ戦を取ることはなく、非戦闘員に対する被害は最小限に抑えられている。予め避難勧告が出ていたのか、非戦闘員が集まっている区画にオーブ軍は兵力を全く展開しなかったため、彼らは戦闘に巻き込まれなかったのだ。

市民は、自らの楽園が失われていく様を見続けることしかできなかった。武器を手に立ち上がる時間も与えられず、新たな国家の宣言を受け入れるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

作戦後、地球連合軍は未曾有の勢いで軍拡を突き進んだ。壊滅的被害を受けた宇宙軍の再建なくしてプラント攻撃はありえないからだ。

アルザッヘル、プトレマイオスの生産ラインは勿論、世界樹再建や月面の新基地、各マスドライバー周辺での造船ラインの拡充など、地上はかつてないほどの活気に満ちている。新兵器の開発においても、職場を失った旧モルゲンレーテ社社員がロゴスの加盟各社に派遣されたことで開発速度が飛躍的に上昇していた。

 

 

一方でプラント側は地上拠点を次々に失陥。アフリカでこそ名将バルトフェルドの奮戦によって戦略的撤退が可能であったが、その他の地域では孤立した末の壊滅が目立っている。

南アメリカでは何をトチ狂ったか、クルーゼが部下と現地住民に祭り上げられ、南アメリカ合衆国正統派を名乗ってザフトとも敵対路線をとっているらしい。

事実上壊滅した地球連邦のこともあり、プラントの地上への影響力は事実上ゼロと言っても過言ではないだろう。

ザフトはその戦場を宇宙に移さざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

C.E.71年 10月15日

アラスカ JOSH-A

 

「それではC.E.71年、第4回地球連合総軍報告会を開催します。各担当者、報告をしてください。」

 

「はっ!東アジア方面軍より報告します。現在管轄区に戦線は発生しておりません。配備兵力に変更点なし。今後2ヶ月間のうちに予定通り宇宙戦艦4、同空母2、同防空巡洋艦6、…」

 

 

オーブ攻略から3ヶ月。地球連合軍の定例報告会では、各軍の復旧、回復が報告されていた。

地上軍はもとより、宇宙軍でも10個艦隊が完全戦力化。それまでの無人MAに加えて有人MS、無人巡洋艦も配備されている。世界樹の再建こそザフトとの熾烈な小競り合いの結果果たせなかったとは言え、無人巡洋艦を用いた通商破壊作戦はプラント側に対して効果を上げたらしく、今のところ宇宙での戦闘も互角に持ち込めている。もっともザフト側が戦力の転換を急ぎ、積極的攻勢に出なかったが故の互角であるために今後どうなるかは分からない。それでも、地球連合軍は着実にザフトとの最終決戦に向けて力をつけていた。

 

 

「宇宙軍より報告する。現在作戦行動可能な正規艦隊は10個艦隊。うち、日本軍より編入された第15、16艦隊を除き全艦隊の旗艦はアークエンジェル級となっている。また、各艦隊はそれぞれ無人MS800機、MS100機の搭載が完了している。完熟訓練には若干の難がまだあるが、実践は可能だ。」

 

「非正規艦隊に関しては、通商破壊艦隊が8個艦隊活動中です。こちらは消耗が激しいため、これ以上の増強は現状難しいと思われます。また、必要性も報告されていません。」

 

「なるほど。…ザフトの動きは?」

 

「ここ3週間大きな動きは見られません。旧世界樹宙域戦以来、長距離偵察を増強しているようですが、攻勢の兆しは見られません。ただ、MSの数がだいぶ多くなっていることは確認されています。食料プラントの開発が進んでいることから見ても、無人MSとの戦力変換は順調なようです。」

 

 

出席者の1人であるアズラエルの問いかけに答える形で、会議室のスクリーン上にザフトの要塞、ボアズ周辺の様子が映し出される。ボアズからは頻繁にMSが離発着する様子が見られ、その機体の多さを誇示しているようにも見られる。

 

ザフトに関する報告は出席者全員の顔を顰めさせるのに十分なものだった。

 

 

「なんにせよ…。」

 

 

それら一通りの反応の後、アズラエルはまた口を開く。

 

 

「なんにせよ、我々は長期戦を睨んでいるわけではありません。これ以上長々と軍拡を続けることは各国とも望んでいないでしょう。戦場が遠のいた現在、市民にも厭戦気分は発生しやすくなっている。」

 

「では…?」

 

 

傍らの武官の問いかけに答える形で、アズラエルは大きく頷いてみせる。

 

 

「計画の変更はありません。…今年中に決着をつけましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

C.E.71年11月1日、地球連合軍はプラント本国攻略のため、艦隊を動かし始める。作戦参加兵力は6個正規艦隊+4個非正規艦隊。艦数170隻。MA5000機、MS600機。

まさに前代未聞の一大作戦になろうとしていた。

一方のザフト側も地球連合軍のこの動きを早期に探知。主力軍をボアズ要塞に集め、迎撃の構えを見せた。

 

 

 

「ボアズ要塞確認!ザフト艦隊複数確認!照合開始します!」

 

「敵戦力概算…ナスカ級20、ローラシア級30、MS200以上!ボアズより現在多数発艦しているもよう!」

 

「砲戦可能距離までおよそ30分!提督!」

 

 

ザフト発見の報が入り、地球連合軍艦隊が俄かに騒がしくなり出す。今回の作戦で総指揮官に抜擢された第8艦隊の提督でもあるハルバートンの元にも、続々と報告が入る。

 

 

「落ち着け!予定通りことを進めるのだ!…無人MAを艦隊側面に展開せよ。砲戦可能になり次第、予定通り斉射を行う!」

 

 

あまりにも膨大な数となったMAを効率的に運用するため、ハルバートンはMAを砲戦開始前に射出。MAを射線から退避させ、敵が砲撃により混乱したところに突撃させることを考えていた。勿論、事前の訓練は欠かせないが、もともと無人MAの運動はCPUに任されていることもあり問題はない。

一方で地球連合軍の切り札的機動兵器であるMS(こちらは有人)は艦隊の直衛として運用することとなっている。云わば予備兵力であり、敵が消耗したところで投入することになっている。ザフト側のようにパイロットがMSを運用できない以上、スペック的にもあまり強力とは言えない連合軍MSは宙間戦闘ではお荷物にしかならない。今回の作戦では、ボアズ要塞制圧の際の運用が注目されていた。

 

 

 

「敵艦隊、砲戦可能距離に入りました!」

 

「全艦、全砲門斉射!!」

 

「ファイヤーッ!!」

 

 

 

 

地球連合軍艦艇による砲戦から始まったボアズ攻防戦は、当初地球連合軍側の作戦通りに状況が変化していった。

艦砲の一斉斉射による急激な状況変化によって混乱したザフトに対する、圧倒的物量のMAの投入。これにより戦列の展開が遅れたザフト艦艇は一気に混乱に陥ったからだ。勿論、ボアズに存在する司令部からは随時的確な指示が出されるものの、雲霞の如く襲いかかってくるMAとの戦闘中に戦列を整えることなど並み大抵の努力では不可能だ。

 

 

「無人MA隊、新たにナスカ級1を轟沈!」

 

「戦線更に前進!提督、もう間もなくボアズが我が方のミサイル射程圏に入ります!」

 

「…勝ったな。」

 

 

ハルバートンはこの時、勝利を確信していた。オペレーターから次々に知らされる戦況はどれも地球連合軍の優勢、ザフト側の苦境を示すものであったし、そもそも圧倒的物量で奇襲攻撃が成功した段階で負ける方がおかしいと考えていたからだ。勿論、ハルバートンも伊達に智将と呼ばれる男ではない。コーディネーターの化物としか言い様がないスペックを過小評価することはなかったし、勝利を確信して気を抜くような真似はしない。それでも、この局面までくれば勝利を疑うことはできなかった。

しかし、それもオペレーターの発した新たな報告を聞くまでであった。

 

 

「…!?…て、提督!」

 

「どうした?…最後まで気を抜くなよ。」

 

「ち、違います。ボアズ要塞からのMS発艦量が変化していません!」

 

「何?…それは本当か?」

 

 

戦闘が開始されて既に3時間。いくら展開が遅れたとは言え、未だに戦力の展開が終わっていないということはあまりにも不自然だ。スクランブル発進が3時間もかかるようでは軍隊としてはお話にもならない。

…そう、普通であれば。

 

 

「予備兵力の投入ではないのか?」

 

「いえ、違います!戦闘開始からこの3時間、途切れずに発艦し続けています!」

 

「ありえん!ボアズに一体何機のMSがあったというのだ!!」

 

 

3時間発艦し続けているとすれば、仮に1機当たりの発艦時間が2分、ボアズのカタパルトが10本あったとすれば1800機MSが存在することになる。これに艦艇から発艦するであろう数を加えれば、総数は2000を超える。

そのことに瞬時に思い立ったハルバートンは、ぞっとした。今はまだ押している。敵は数を生かせない「戦力の逐次投入」という愚策を犯しているのだから。だが、これが2時間続いたらどうなるか?

未だMSを吐き出し続けているボアズが、今この瞬間にMSを吐き出し終わるのならいい。だが、そんな保障はどこにもない。ハルバートん指揮下のMAは5000。これに虎の子(というには甚だ疑問のある)MS600機を加えたところで、コーディネーター(の脳みそ)操るMS3000機を抑えられるとは到底思えなかった。

更に、

 

 

「て、提督!これ以上全力戦闘が続けば、無人MAの弾薬が不足します!!」

 

「各艦に問い合せましたが、既にMAの弾薬の50%、MA用の小型ミサイルに限って言えば60%を消費しているそうです!」

 

「推進剤のストック、現在確認中です!!」

 

 

そう。無人MAの大量運用は、戦闘物資を恐ろしい勢いで消費するという欠点があった。圧倒的物量を持って短時間で敵を圧倒する、がコンセプトのため、この点は仕方がなかった。物資運送のためだけの艦を建造することも検討はしていたが、今までザフトとここまでの長期激戦を繰り広げたことがなかったため、生産されていなかったのだ。(ちなみにこれまでは長期戦になる前に連合軍が壊滅するか、ザフト側の物量が限界に達するかしかなかった)

 

 

「敵兵力再確認!…ナスカ級8、ローラシア級15、MS…せ、1200!!」

 

「我が方機動兵力確認!…MA約3500、MS600!!」

 

「正面圧力増大!無人MA,戦力再転換中…ハウゼン参謀より、戦線を下げるよう具申が!!」

 

 

そしてそれらのことに気がついた瞬間、まさに狙っていたかのようにザフトの攻勢転移が始まった。数こそ未だ3倍を保っているが、つい先程までの攻勢で戦列が乱れだしている無人MAでは優秀なるコーディネーターのMSを抑えることはできない。ただ1つ、生身の人間と違い無人MAは疲労しないということだけが救いだった。

それでも、ザフトの攻勢を止めることはできない。

 

 

「チッ!…直ちに戦線を下げよ!戦列を整えるのだ!」

 

「ダメです!戦闘が激しすぎてMA動かせません!」

 

「敵MSの一部がMAを掻い潜りそうです!て、提督ッ!!」

 

「全艦、ミサイル発射管に装填中のミサイルを変更!対空ミサイルに変えろ!!」

 

「提督、艦艇も後退させましょう。このままでは危険です!」

 

「しかしそれではMAの援護がッ!」

 

「いや、…ホフマンの言う通りだ。MAは持つまい…。」

 

 

ハルバートンの言葉通りしばらくして、母艦へ補給を受ける余裕すらもなくなった無人MAは一気に壊滅。既に撤退行動に移っていた艦艇群にもMSは襲いかかってきた。

ハルバートンはこれを無人巡洋艦と連合軍MSを盾にすることで何とか迎撃。大きな損害を出しつつも、プトレマイオス基地へと撤退することに成功した。

 

最終的に確認されたザフトMS数は3200。

地球連合軍喪失戦力は艦艇の40%、機動兵器に至っては95%。

 

まさに大敗北となった。

 

 

 

 

 

 




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