それはとてもきれいな空で   作:ルシアン(通説)

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それはとてもぎりぎりの戦いで

「アスハ、家?」

 

カガリの意外そうな顔を見、アズラエルは頷いた。

 

「そうです。オーブという国家の姫であり、一人娘であるカガリ嬢は、好むと好まざると関わらず帝王学を学ばなければなりません。帝王学とは、国を統治し、国際社会を生き延びるための学問です。国家という単位で物事を考えなければなりませんので、世間一般の価値観では図りきれないことが多々あります。」

 

カガリは真剣に聞き入っている。今まで学んできたことが、世界を見る、と言って飛び出したアフリカで見たことと全くそぐわなかった理由として納得できたからだ。

 

「ここで重要なのは、アスハ家にいる限り、カガリ嬢が教わる帝王学はオーブ用の帝王学だけと言うことです。オーブと言う国はかなり特徴的です。国際社会での孤立、中立国でありながら巨大な軍事力、地球連邦に近いという立地…どれをとって見ても、スタンダートな帝王学では国を治められません。当然ですが、綺麗ごとだけで国を治めることもできません。そこでカガリ嬢のお父上は、あなたにオーブを現在の形のまま治めてもらうために、世界を見せると言いつつ、自分たちの国の悪いところは見せないようにしていたのです。」

 

「どういうことだ?確かにお父様はモルゲンレーテのことを隠してはいたが…。」

 

「モルゲンレーテの件もですが、オーブが武器商人であることは隠していたのでしょう?アフリカや紛争地帯でオーブ製の武器が使用されていること、地球連合、ザフト双方に準軍用物資を輸出していることは他国では有名なことですよ。その一方で、カガリ嬢には憎しみの連鎖を断ち切るためには中立が云々だとか、コーディネーターの差別がよろしくないだとか言っていたわけでしょう?

要するに、自分たちの国の良いところだけを伝え、他国と比べて自分たちの国には良いところしかないとカガリ嬢に錯覚させようとしていたわけです。」

 

「そんな…お父様が…。」

 

頑固なところはあっても、思慮深く、カガリが本当に困ったときにはいつも相談に乗ってくれていた父親。しかしアズラエルの話を信じるのであれば、自分の父親は卑怯なことを行っているように聞こえる。

カガリは考えていた。

オーブにいては考えることも無かった、オーブのあり方について。アフリカで、JOSH-Aで、オーブにも多くの欠点が存在することが分かった。…欠点は直さなければならない。だが、お父様は私にオーブをこのままでいさせようとしている。人の命をお金に代え、自分の国の兵器に変える国のままでいさせようとしている。それだけは、カガリには認められなかった。

 

深く考え込みだしたカガリを見たアズラエルは、通信で兵士を呼ぶとカガリをゲストルームに返すよう命じた。自分の言うことの大半を丸呑みしたカガリは、今後父親と敵対してでも国のあり方を変えようとするだろう。その時に、カガリの物事の考え方を変えるきっかけとなったアズラエルに好意的になることは目に見えているし、それは次世代のオーブが大西洋連邦贔屓になるということであった。

 

 

 

 

14:00

アラスカ沖 

 

「カナギ陸将補!上陸準備、完了しました!!」

 

「JOSH-Aより通信、地球連合軍MS部隊発進との事。上陸支援としてMS50機が出るそうです。」

 

JOSH-Aから少し離れた海域では、今まさに日本軍による逆上陸作戦が始まろうとしていた。当初の想定とは全く異なる上陸方法に兵員は緊張の表情を浮かべていたが、カナギ陸将補だけは落ち着いていた。

 

「よし、では戦闘爆撃機『震電』部隊を全機出せ。」

 

「了解、震電全機発艦!!」

 

「防空駆逐艦、装甲巡洋艦は上陸予定地点に行け。現地MS部隊と連携し、上陸点を安全化せよ。」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

JOSH-A 023区

 

地球連合軍の極秘兵器であるMS『ストライク・ダガー』の部隊長となったキラ・ヤマトは、愛機『ストライク』のチェックを済ませ、今まさにゲートから出ようとしていたところだった。

 

『MS部隊発進30秒前より周辺対空兵器を集中させ、ゲート周辺の敵機を減らします。ですが、完全に安全ではありません。敵機襲撃には注意してください。』

 

「分かりました、ありがとうございます。…発信1分前、システムオール・グリーン。…副長、部隊に以上はありませんか?」

 

「問題ありません、全機全力を出せます。」

 

「ゲートを出たら、まずは一直線に上陸予定地点へ行きます。ゲート周辺の敵に引っかからないでくださいよ?」

 

出撃前にも拘らず、キラには緊張と言うものが無かった。副長やオペレーターとの会話もスムーズにこなし、周りにも気を配っている。

 

『発進30秒前!全防空火器、B23に集中します。MS固定器具解除!!』

 

 

『3,2,1…MS発進!キラ・ヤマト臨時大尉、どうぞ!!』

 

「了解、キラ・ヤマト、ストライク、出ます!!」

 

リニアカタパルトによる強烈なGを感じながら、まずキラが先陣を切ってゲートの外に出る。背中には強化スラスターと姿勢安定用のウィングが付けられており、その姿はさながら天使のようである。

ゲート外では、突然の防空火器の集中に対応し切れなかったザフトのMS達が黒煙を上げているところであった。その中をすり抜けたキラはビームライフルを取り出すと、部隊の部下たちがゲートを出終えるまでザフトのMSを狙撃し始める。当然ザフト側のジンやシグー、ディンがキラを狙うも、圧倒的な操縦性の良さを誇るストライクを撃ち落すことはできず、逆にその数を減らしていく。

 

「ヤマト大尉!全機ゲートより出ました!これより上陸地点に向かいます!!」

 

しばらくするとキラのもとに副長からの通信が入り、そこでキラの狙撃は一旦終わりを迎えた。

 

「分かりました!僕もこれから向かいますので、日本軍の戦闘機や防空艦との連携を重視してください!」

 

「了解!」

 

ストライクは強化スラスターの勢いを更に強くすると、部下達を追って上陸予定地点へと向かった。後には乱れたザフトの戦列と、それをすかさず利用して一時的な攻勢に転移した地球連合軍の航空部隊だけが残っていた。

 

 

 

日本軍が上陸に予定した場所はJOSH-Aから南に5キロほど離れた海岸である。5月ということで雪も溶けており、周辺に木々は新緑の風景を作り上げている。

そこでは1つの戦いが行われていた。

 

「ミツキ二尉!連合軍MSを確認しました!」

 

「分かった、地上の方はそちらに任せるとして、ディンは俺たちだけで落とすぞ!!」

 

「了解!」

 

空を乱舞する日本軍の戦闘爆撃機。その数およそ150。彼らは自由自在に空を舞いつつ、動きの鈍いディンや、重力によって地上に縫い付けられているジンやらバクゥやらを確実に減らしていた。もともとJOSH-Aから少し離れていることもありザフトの展開が少ないこの海岸線では、海上からの援護をも受けている彼らを止める存在は無かった。

 

『地球連合軍所属、キラ・ヤマト臨時大尉です!加勢します!」

 

「日本軍航空軍所属、ミツキ二尉です。地上の方をお願いしたいのですが。」

 

『分かりました!』

 

加えて少し前から地球連合軍のMS部隊も駆けつけており、ザフトにとっては踏んだり蹴ったりな戦場となっている。

 

『ミツキ二尉、そちらはどうだ?』

 

「順調です。敵の増援も確認できないので、上陸は可能だと思います。」

 

『よし、ではこれより強襲上陸艇を派遣する。引き続きエアカバーを保持せよ。』

 

「了解。」

 

防空駆逐艦からの散発的な対空ミサイルも今ではほとんど確認できず、この地域の敵が一掃されたことは明らかであった。

 

「ヤマト大尉、こちらの上陸準備は整ったがそちらはどうする?」

 

『上陸完了までにどのくらいかかりそうでしょうか?』

 

「そうだな…1時間で一次部隊の展開が終わるはずだ。その後は分からんが、とりあえずは一次部隊のみでJOSH-Aに突入をかける手はずとなっている。」

 

その返事に、キラは副長と相談することにした。

 

「シェリルさん、バッテリーはどの程度残っていますか?」

 

「そうですね…個人差はあるでしょうが、戦闘平均時間で1時間分程かと。」

 

少し考えるキラ。とはいえ、この状態では答えは決まっているようなものだ。

 

「では僕たちだけでJOSH-Aに戻っても難しいですね…。」

 

「…日本軍の方々と合同でJOSH-Aには行きましょう。サザーランドさんの手腕なら1時間程度守れるはずです。」

 

「分かりました。…全機、警戒態勢を保持しつつ散開!」

 

副長の命令が部隊に響く。

しばらくすると沖合いに空母を始めとした大型艦が現れ、次いで上陸艇が海岸に向かって動き出した。歩兵用の小型の上陸艇もあれば、戦車やロボット用の大型上陸艇もある。それらは海岸に部隊を上陸させるとまた輸送艦に戻り、部隊のピストン輸送を行っていた。

 

「なかなか圧巻ですね。」

 

しばらくその光景をぼうっと眺めていると、副長から通信が入った。

 

「ええ、これだけの部隊がいればサザーランド司令長官も喜びそうです。」

 

「あのMS…いえ、ロボット兵器はどれほど強いのでしょうか?スカンジナビアでの戦いの映像は見ましたが、ザフトの動きは連邦のジンの数倍早いです。」

 

「僕にもまだ分かりません。…ですが、かなりスムーズに動くことができるようですね。武装も結構充実していますし…。さすがロボット開発において一日の長があるだけのことはありますね。」

 

キラ達が眺めている前では、特殊戦車「久遠』が上陸艇から地上へ上陸し、背中に抱えていたアサルトライフルを構えつつ部隊展開を行っている姿があった。

ストライクやストライク・ダガーと違い空を飛ぶための追加パックは無いようだが、足の動きからして地形踏破性能や小回りはかなり優れているようだ。

 

『こちら日本軍南米派遣部隊、カナギ陸将補だ。地球連合軍MS部隊指揮官、応答を願う。』

 

「あ、こちら地球連合軍MS部隊指揮官、キラ・ヤマト臨時大尉です。」

 

上陸艦が何往復かこなし、海岸沿いにかなりの規模の部隊が展開を終える頃、キラのもとに空母から通信が入った。

 

『ヤマト大尉、こちらは一次部隊の展開が終了した。これよりJOSH-Aへ向かおうと思う。』

 

「分かりました。ではこちらもそちらに合わせようと思います。…戦闘機はどれほど頂けますか?」

 

『震電を100機出す。これは戦闘爆撃機なので、地上戦の援護も十分に行えるだろう。戦闘開始から30分経ったら残りの50機も出す。…よろしいか?』

 

「ありがとうございます。では早速…」

 

『ああ…一次部隊、JOSH-A救援に行け!』

 

その声を聞き、キラも通信を介して命令を下す。

 

「全機、日本軍に合わせてJOSH-Aへ!」

 

 

 

 

 

一方、JOSH-Aでは戦闘が佳境に入ろうとしていた。

 

「ゲート2、ダメージ80突破!中性子爆薬起動!!」

 

基地スタッフの声が聞こえるや否や、司令室にも響くような轟音が轟く。

 

「敵の損害は!?」

 

「現在集計中です…出ました!!MS12機を破壊、その他にも10機ほどが戦闘に支障が出ている模様!!」

 

後少しでゲートが壊せる。その思いから集まったザフトを狙い、わざとゲートが壊れきる少し前に爆薬を爆発させたことでかなり多くのザフト兵を道連れにする。サザーランドの周囲ではこの快挙に士官たちが喜んでいるが、サザーランドだけはそこまで喜んでいなかった。

 

「敵はもう同じ過ちはしないはずだ。かなり慎重になるだろう。」

 

「しかしそれなら、敵の進行が遅くなるはずでは…。」

 

そうある仕官が口を挟んだとき、オペレーターの声が響いた。

 

「A15区、急に敵の圧力が増しました!救援要請が出ています!!」

 

「敵はメインゲートだけを狙っているのではない。ここが危険だと分かれば、別地点への攻撃を強めるだけだろう。」

 

メインゲートは最も大きなゲートであるためにザフトに集中的に狙われているが、広大なJOSH-Aには当然ながら複数の小さなゲートも存在する。小さな分だけ守りやすく、攻めづらくはあるのだが、それ故にいざというときの爆破装置も存在していなかった。自爆を恐れるのならば、敵は被害が多少増えようともそちらを狙うに決まっていた。

 

「それでは…!」

 

サザーランドの話を聞き、絶望に顔を暗くする士官たち。そんな彼らに、サザーランドは続けて言った。

 

「だが、敵の侵攻が遅くなることに間違いは無い。増援部隊が来るまでこの基地を守ることぐらいならできるだろう。」

 

増援、という言葉に基地の雰囲気が明るくなる。数ヶ月前までまさか日本と隣り合って戦うとは思っていなかった彼らだが、今ではその日本が助けに来ることを心待ちにしている。

おかしな事ではあったが、良い変化ではあるので深くは考えないことにした。日本に対する自分の認識が変わろうと変わるまいと、自分たちの現在の敵がプラントであることに変わりは無いのだ。

 

 

 




ストックが切れました。試験も近いのでしばらくは更新できません。あしからず。

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