それはとてもきれいな空で   作:ルシアン(通説)

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それはとてもようやくの始まりで

「本当に次こそは大丈夫なんでしょうね?前回の二の舞だなんてことはごめんですよ、僕は。」

 

華美な調度品、質の良い家具などに囲まれた部屋にあるモニターに向かってジブリールは話した。

顔には若干の疑わしさを浮かべており、そのことを相手に隠そうともしていない。

 

「フッ、前回は情報が誤っていたからな。今回はこちらで掴んだ情報だ。失敗などありえんよ。」

 

それに対してモニターに映る仮面の男は特に反応しない。どころか、ジブリールに対して挑発をもしてみせた。

自分はお前の部下ではない。対等であり、またジブリールがどうなろうと関係はない…。そう言っているようにも聞こえる。

 

「…そうですか。じゃあ僕はせいぜい吉報を待っていますよ。……青き清浄なる世界のために。」

 

「…。」

 

ジブリールの言葉には答えず、仮面の男…クルーゼは唯一見ることのできる口元に笑みのみを浮かべ、通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

CE71年1月25日 ヘリオポリス オーブ軍港

 

通常であればオーブ軍仕官がいるはずの指揮官室には、オーブ軍の制服を着つつも、地球連邦軍の階級章を付けている軍人たちと、スーツを着ている長身の好青年が立っていた。

 

「……ではOSの方も順調に改良されているということですか。」

 

「ええ、現地の工業大学生に秘密裏に協力してもらっているということですが、恐ろしいスピードでシステムが構築されています。カトウ教授とやらは恐ろしい才を持つ生徒を持っているようです。」

 

オーブ軍の制服を着た壮年の軍人はアズラエルへ話す。階級は中佐となっているが、アズラエルに対する話し方は丁寧であり、軍とは異なるパワーバランスを意識していた。

 

「ふむ…。OSの内容がばれていないのでしたら問題は無いです。確かパイロットの方も今日来るはずですからその人たちとも連携して最適なOSを模索してください。

後、防諜の方はしっかりやっといてくださいよ。皮肉なことですが、より優秀なはずのコーディネイターよりも性能の良いOSを我々は作っているのですから。」

 

「はははっ、まったくですな。お任せを、防諜には最大限注意を払っております。」

 

「お願いしますよ。…では私は噂の新造艦を見ようと思うのですが……、君たちはパイロットたちを迎えに行くのでしたね。誰か案内のできるものはいませんか。」

 

一通り基地内、ドック内で確認すること、連絡することを話し終えたアズラエルはそのまま新型艦の査察へと赴くことにした。

ハルバートンに対する土産話にもなるだろうし、アガメムノン級と異なり量産型に改良されていない新造艦というのにはアズラエルも興味を持ってる。

 

「そうですな…。CIC担当なら今手は空いているはず…。…バジルール少尉!ちょっとアズラエル氏の案内をしてくれ!」

 

「はっ。それでは案内をいたしますので、こちらにおいでください。」

 

軍港内の指揮官と思われる人物からの命令を聞き、それまで書類仕事をしていた女性仕官がアズラエルの元によりドックへと案内する。

あまり人の通らない連絡通路に入ると、二人の間から公としての空気が薄れていった。互いにJOSH-Aで知り合っており、お茶をする程度の仲ではあったのだ。

 

「しかし驚きましたよ。まさかJOSH-Aに勤めていたはずの人物が急に新造艦に乗り組むことになるとは。いったいどうしたんです。」

 

「私にもどういうことかはあまり分からないのですが、閣下が中将になってしばらくした頃に人事課から通達が…。」

 

「そうですか、人事課の人からは何か言われませんでしたか?参謀本部からの意見だとか、議員からの圧力だとか、第8艦隊からの要請だとか。」

 

何となくいやな予感…というか最近妙に結婚を推してくる某政治家やら某提督の顔が脳裏に浮かび、思わず尋ねてしまう。

まだバレてはいないはず…というかそうであって欲しい、と思うアズラエル。

 

「は?…いえ、そのようなことは何も。私はてっきり閣下からの圧力かとでも思ったのですが…。」

 

「まさか。私でしたら船ではなく私の執務室に配属させていますよ。知っていますか?今私の部屋には地球連合事務局から5名、ロゴス総務部から5名、地球連合軍総務課から5名、大西洋連邦国務省から10名、ブルーコスモス事務課から5名の事務官の応援が来ていて、それでも秘書が足りないんですよ。」

 

実はアズラエルの下に各部門から応援が行くことで組織同士の横の繋がりができており、それに目をつけた権力者が組織運営の効率化を目的としてアズラエル及びその直属機関に多くの仕事を回しているのだとはアズラエルも知らない。

 

「それは…。仕事量が多いことも分かりますが、まるでかつての国際連合の総会のようですね。」

 

「笑い事じゃありませんよ。だから私はあなたに個人的な思いからだけでなく、切実に秘書になってほしいんです。後、閣下ではなく名前で呼んで欲しいのですが…。」

 

「無理です。これでも譲歩しているのです。普通ならば中将閣下と呼んでいるはずなのですから。後、秘書のお誘いに関しても難しいです。兄が生きていればうなずいたかもしれませんが…。」

 

表面上はきっぱりと、だが視線は明後日の方向に向けながらナタルは答えた。彼女も脳裏にはそろそろ結婚を…、と言ってくる家族の姿が浮かんでいた。

 

「そうですね、無理を言ってすみません。ところで、新造艦『アークエンジェル』の案内をしてもらいたいのですが…」

 

「分かりました。すでに連絡橋を通って艦内に入っているのですが、現在は船員室とブリッジをつないでいる連絡路を通っています。この先、ブリッジにてこの艦の火器類全てをコントロールしています。艦載機としてはMS5機に加えてMAを最大で5機搭載可能です。MAに関してはッ!」

 

 

ズンッ!ズズッ!!……ヴィー!ヴィー!ヴィー!

 

『非常事態発生、非常事態発生!ザフト戦闘艦ならびにMSが複数出現。各員、非常事態マニュアルNo.3に従って行動せよ。繰り返す…』

 

 

ナタルの発言を遮るように、突如として周辺が騒がしくなった。

非常サイレンが鳴り響き、スピーカーからは非常時にのみ使用される機械音声が訓練放送に似た内容を繰り返す。

 

「バカな!中立国のコロニーに攻撃を仕掛けるだとっ!?やつらは何を考えているんだ!?」

 

「恐らくここの開発がばれたのでしょう。…まずいですね、地球連合軍が管理していることをばれなくするためにここのMAはオーブ軍採用の有人機しかないはず…。

……バジルール少尉、ブリッジに向かい司令部と連絡を取りましょう。」

 

「そ、そうですね。……おい!誰かいないか!?」

 

「バジルール少尉!よかった、生きておられましたか!」

 

ブリッジへと駆け込んだナタルの下に青年が駆け寄る。ブリッジクルーなのだろうが、それにしてはブリッジ内の人数がかなり少ない。

 

「どういうことだノイマン?艦長達は無事か?」

 

「いえ、どうやらパイロット候補生たちを迎えに行ったところでちょうど襲撃されたらしく、艦長以下多くの仕官が生死不明です。ですので現在この場で最高階級なのはバジルール少尉です。」

 

「くっ、仕方が無い。CIC、引き続き連絡の取れていない乗組員の情報収集に当たれ!機関長!アークエンジェルの始動までどのくらいかかりそうだ!?」

 

「1時間ほどです!少尉、そちらの方は?」

 

そこまで話したところでノイマンはようやく、アズラエルに気が付いたようであった。まさかの非常事態ということで冷静さを失っていたらしい。

 

「彼は…「私はムルタ・アズラエルです。ちょうどこの艦とGの視察

に来ていたところ、巻き込まれたわけですが…。そうだ、バジルール少尉、Gの確認は?」

 

「Gは…確かモルゲンレーテ社の別のドックにあったはずです。っ!おい、だれかすぐにGの格納庫に連絡を取れ。敵の狙いはGの奪取かもしれん。」

 

 

ナタルの言葉にブリッジに数名残っていた通信員が関係各所に連絡をとり始める。…緊急事態のせいか、なかなかマニュアル通りには確認手順を踏めないでいる。

 

「……ダメです!敵にGを奪取されたようです。…あ、いえ、1機は奪われていないようです!コロニー内で戦闘を行っています。後、通

信が入っています。」

 

「入れろ。」

 

『こちら、特殊教導部隊のフラガ大尉だ。敵MS1機を落としたが、こちらも被弾しちまった。着陸許可を出して欲しい。』

 

通信からはアズラエルの記憶に新しい声が流れ出た。彼が生き残ったことに対してアズラエルは普段信じていない神に感謝した。とはいえ、アズラエルの内心の思いなどこの場にいる他の人間には分かるはずもない。

 

「アークエンジェル、バジルール少尉です。現在艦長以下仕官の大半がいないので臨時で許可を出します。それと大尉、戦闘中の味方MSの支援をお願いしたいのですが。」

 

『了解。それぐらいなら今すぐにもできそうだ…って何だ!?』

 

「っ!?」

 

突如、激しく揺れるコロニー。ストライク操縦者キラ・ヤマトが対艦用兵器アグニを使用した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、言うわけでようやくの原作突入です。
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