大西洋連邦領アラスカ。
その太平洋に面するとある場所に地球連合総本部JOSH-Aが存在する。実はここから10キロほど離れた場所にはNSSC|(新型太陽光宙間発電システム)の赤外線受容基地が存在し、この近辺は文字通り地球連合の心臓ともいえる。
JOSH-Aに隣接する形でロゴスの総本部も存在し、現在職員の大半は地球連合軍からの報告をもとにザフトの「プロメテウス」作戦による被害の事後処理などを行っていた。
MA損失1000機以上、1個宇宙艦隊の壊滅、その他の艦隊も無傷ではなく、地球連合軍の1年分の予算はこの戦いで底をついたと言ってしまってもいい。
月面に建設されていた工場は全て戦闘開始後から破損した艦艇の修理と無人MAの生産に全力を挙げており、生産したものは全てエンデュミオンクレーターに送っていたため、戦闘開始前に注文していた分の納期は守れそうもない。
とはいえ、月の防衛力を下げるわけにもいかないため、地上の生産ラインの一部を宇宙軍再建のために回すこととなり、結果として現在最も戦っていない海軍が割を食うこととなった。
新造される予定だった空母は全て1か月延期となり、補助艦艇の新造は2割減となった。
カーペンタリア近海での作戦行動は当面延期となり、それら全ての決定に何らかの形で関与しなければならなかったアズラエルはアラスカの地で睡眠時間を返上することとなった。
ここ1週間ほど自室の壁を見たことがない…。見えるのは書類だけ。
寝る時間をなくして頑張ると部屋が若干広くなり、疲労に負けて寝てしまうと急速に部屋が狭くなる。
報告書を届けに来る部下は悲痛な顔で書類を届けに来るし、以前は話すたびに嫌味を言ってきたあの頑固爺どもがテレビ通信越しにこちらに向けてくる顔には同情といった表情が読み取れる。
「アズラエル様!ザフト軍艦隊がカサブランカに現れました。連合軍艦隊は大敗したそうです!!」
「…ジブラルタルの防衛部隊に連絡。こちらに報告書を出さなくても良い。これ以上書類を増やすな!」
「わ、分かりました。」
……疲れた…。
連合軍艦隊が敗れた時点で誰もが予想した通り、地球連邦軍とすでに交戦を開始していたジブラルタル基地はザフト陸上部隊との戦闘に耐え切れず、スペイン方面に撤退することになった。
地球連合軍上層部はザフトの次の狙いをスエズ運河と予想。残った地中海艦隊と共にエルアラメイン近郊に防衛線を築いた。
この日、ユーラシア連邦大統領は地中海沿岸の各都市とに対して非常事態宣言を発令。コーディネイター支援団体に対して無期限の活動停止命令を出した。
ヨーロッパ各地では「ブルーコスモス」を名乗る勢力によるテロが頻発し、自らの近くに敵対勢力がいることに対する社会の不安が表面化しだした。
「最近、ブルーコスモスの動きがよく分からないのですけど。」
「は?…活動報告は毎週提出されておりますが…」
「そうじゃなくてさ、アズラエル財閥傘下の『正式な』ブルーコスモスは制御下におけてるんだけど、最近『自称』ブルーコスモスが多すぎると思うのですよ。
よくよく考えるとブルーコスモス派の議員や軍人も大半とは接触とってないし…。一度、会議みたいなのを開いて組織としての上位者を決めなきゃいけませんね…。
下手にテロなんか起こされて『正式な』ブルーコスモスまで批難されたら手におえません。」
「なるほど…。では来月あたりとりあえずブルーコスモス派を表明している地球連合内の議員と軍人、それにある程度の規模を持つ団体の指導者を集めましょう。場所についてはどうしましょうか。」
「財閥本社に普段使ってない大ホールがありましたよね?そこで開催します。」
「分かりました、まとめておきます。」
「…では『世界ブルーコスモス連盟』盟主はムルタ・アズラエル氏
に決定します。本日はお忙しいところお集まりいただきありがとう
ございました。」
翌月、開催された会議ではブルーコスモス派を名乗っていた者たちの統合組織を作ることを決定し、盟主として僕が就任することとなった。
地球連合内ではサザーランド大佐やハルバートン提督、アルスター議員といった僕と個人的付き合いの深い人物たちが僕の人柄について語っていたらしく、各界の良識派といわれる人々の中にもかなりのブルーコスモス派が存在した。
どうやらビクトリア宇宙港防衛戦の際にザフト軍が現地住民にかなり高圧的であったことや、食料や作業員としての人夫をかなり強引に徴発していたことは有名らしく、コーディネイターの謳う「理性」とやらに不信感を抱いている人も多いようだった。
「アズラエル盟主、久しぶりだな。」
「これはハルバートン提督。直接会うのはずいぶん久しぶりですね。
月ではずいぶん忙しいようではないですか。」
「艦艇は新品なほど優秀だが、新兵は全く役に立たないからな。君のところが開発してくれたCPUがなかったら艦隊としての行動が全くとれなかったよ。それに、忙しさの上では君の方がずっと忙しいだろう。」
「最近、私の執務室が増えましてね。」
「…?どういうことだ?」
「一部屋丸々書類で埋まってしまったんですよ。…秘書を5人から15人に増やして対応しているんですがね。」
「今どきまだ紙を使っているのかね、君は。データにしてしまえば物理的量は減るだろう。…まあ仕事量は変わらんが。」
「データはどんなにきれいに消したつもりでも復元できてしまいますからね。その点、紙なら燃やしてしまえば無くなりますから。
…それよりここだけの話、宇宙軍は再建までどの程度かかりそうなんですか?最悪、アルザッヘルだけは何としても守らないと地球連合は負けたも同然なのですが。」
「月の防御だけなら今でも可能だ。だが、『新星』はあきらめざるを得んかもしれん…。ザフトの補給路の妨害もしばらくは厳しいな。
新兵が慣熟するまでもだしばらくかかる。それに護衛のMSを討つのにMAでは被害が出すぎる。
…君が期待するような働きを我々ができるようになるまでしばらくかかるだろうな。
…G計画の方はどうなっているんだ?あれができればまた話は変わるのだが…」
「まだしばらくかかりそうです。鹵獲したジンのOSとCPUを見たのですが、あれでは一般のナチュラルには扱えません。CPUなどで補えない部分を彼らは全てパイロットの技量に丸投げしているようで…。
適性のある兵士が最低でも6か月は訓練しないと宇宙では戦えません。現在、一般のナチュラルでも訓練次第で扱えそうなOSとCPUを開発させているのですが、まだまだかかりそうです。」
「…そうか。では、もう少し粘らねばな。」
「ええ、8か月もたてば制宙権は圧倒的物量を誇る我々の物です。
…それより、アルスター議員が最近やたらと結婚させたがるんですよ。提督からも何とか言ってもらえませんか。」
「ははは。君もだいぶいい年なのだ。アルスター議員のいうことも尤もではないか。それに、今の君の身分なら引く手あまただろう。なんせ若干30歳でロゴス盟主にして全国ブルーコスモス連合の盟主、そしてビクトリアの英雄である名誉少将閣下なのだからな。
大西洋連邦の大統領よりも偉いのではないかね?」
「それはそうですが…。しかしアルスター議員は自分の娘を紹介してくるんですよ。彼女はまだ14です。いくらなんでも…」
「…そうか、それは何とも何とい言うか…。まあ良いのではないかね?」
「良くないですよ!」
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