「本日の地球連合通常総会では、南アフリカ戦線における先の戦闘で不利な状況から勝利を導き出したロゴス盟主、ムルタ・アズラエル氏に月華楯賞が授与されることが満場一致で可決されました。
これに伴い、大西洋連邦議会では特例措置としてアズラエル氏に名誉少将の地位に任ずる模様です。」
開戦以来の初の大勝利ということもあり、私は地球連合から英雄になることを望まれたようだ。実際ケープタウンから戻って以来講演の依頼はひっきりなしであり、ロゴス盟主としての溜まっていた仕事を片づけるという理由がなければおそらく現在私は世界中の士官学校の講堂に行っているだろう。
残念ながら現状は私にとって史上まれにみる忙しさを誇っており、いくつかの会談をキャンセルしつつ報告書や重要人物との会見をしていた。
「鹵獲したジンのOSを最優先でG計画の部署に送ってください。CPUの方はこちらの方でも解析します。ザフトの新型MSについての報告はありませんか?」
「こちらにまとめておきました。どうやらディンのみでなく地上戦用のMSなども開発されていたようで、現在量産準備に入っているようです。
Nジャマーの研究報告ですが、特に芳しいものはありません。キャンセラーに関してはめどすら立たないようです。」
「交渉していた四菱重工ですが、リニアガンタンクの車体に使う合金のみライセンス生産の許可を得ました。MSの方は却下されました。」
「ユーラシア連邦国防大臣から会談の要請がきています。マスドライバー施設の防衛力強化に向けてアズラエル航空の次世代戦闘機AZ-7の優先的販売を求めているようです。」
……体があと2つ欲しい…
「やはり今回の作戦は強引過ぎたか…。」
「…。」
「いくら評議員の大半が賛成したとはいえ、国防委員長のお前が反対してくれればもうちょっと待てたはずだ。ディンやバクゥが配備されるまでぐらいなら…。
パトリック、なぜもう少し待てなかった。」
「…調子に乗ったナチュラルどもに我々の本気を見せつけねばならなかったのだ…。」
「それだけのためにお前はあれだけの同胞を死地に追いやったのか、パトリック!!
我々の第一の目的は復讐でもナチュラルの根絶でもなく、コーディネーターによる国家の建設なのだぞ!国民を湯水のごとく失っても良いわけではないのだ!指導者である我々が短絡的になるな!!」
「…すまない。確かに私は、いや我々は短絡的だったようだ。冷静にならねば、な…。」
「ここまで共に歩んできたのだ。冷静になってくれるのならそれだけでいい。
…今回のことで評議員はもとより国民も冷静になっただろう。私は今一度評議会で『オペレーション・ウロボロス』を提案しようと思う。次は賛成してくれよ。」
「分かった、あれならば時間はかかっても成功するだろうしな…。
だが本当にNジャマーを散布するのか?以前からお前が言っていた地球連邦との同盟が難しくなると思うが。」
「ジンのライセンスを与えることで取引しようと思う。シグーが量産化できればジンは旧式化してしまうし、連合の方は先の戦闘で鹵獲しているだろう。
なによりナチュラルではジンを生産することはできても操縦することが難しいだろうからな。」
「なるほど。後は核エネルギーを使えなくなった地球連邦がどの程度利用できるかだな。」
CE70年4月1日
ザフトはプラント評議会でひそかに可決されていた作戦、「オペレーション・ウロボロス」の発動を宣言。あらかじめ衛星軌道上に移動していた特殊工作艦より地上に、公式発表によると20000発ものNジャマーを打ち込んだ。
それと同時にプラントは地球連邦と軍事・経済同盟を結ぶことを宣言地球連邦構成国に多くのソーラーパネルと、シグーの正式配備によって在庫が増えつつあったジンを食料などの民生品と引き換えに提供した。
これらの動きを予想していた地球連合は、大西洋連邦の領土であったグレートブリテン島からユーラシア連邦にすでに大規模な送電線を敷設しており、若干の供給不足はあるものの深刻な事態に陥ることだけは避けることに成功した。
しかし連合、連邦共に海上・海中戦力の大半が原子力型のため、多くの空母、潜水艦、大型輸送艦が航行不能となった。
ロゴス盟主アズラエル氏はこれらの戦力の動力をバッテリーと化石燃料を組み合わせたものに現在改修しつつあると発表。遅くとも1ヶ月以内に海上戦力の半数を回復させることを約束した。
また、需要が急増することになった化石燃料の問題に対して、「当面は東ロシア連合との海上戦線で優勢な北極海でメタンハイドレードを採掘し、それによって補う。将来的には電力の供給を安定化させ、海水から水素を作り出して燃料としようと思う。」と発表。海上戦力の復活が一朝一夕にはできないことが判明した。
ザフトの陸戦、空戦、海戦用の新型MSが発表されたことに対抗する形で、ロゴスは新型CPU、OS搭載の無人リニアガンタンク「AZ70式」、無人MA「ハルピュイア」、新型戦闘機「AZ-70」、長距離衛星レーザー誘導式駆逐艦「ローレライ」を次々と発表。これらの大半はNジャマー影響下においても戦闘できる無人兵器で、激化する戦闘でのパイロットやクルーの不足を予想して開発された。
翌4月2日
軍事同盟の協定に基づき、大洋州連合のカーペンタリア湾にザフト軍基地を建設。地球連合軍は手持ちの旧式ディーゼル潜水艦を全て派遣。基地建設に協力していた地球連邦軍の数少ない重油エンジン搭載の大型輸送艦とその護衛艦を撃沈するも、ザフトの新型海中戦用MSグーンには全く抵抗できずに大敗してしまった。
CE70年4月5日
北極海のメタンハイドレード採掘地確保のために地球連合軍大西洋連邦所属空軍がウラル・北極海戦線に派遣されたことを理由に、地球連邦は地球連邦軍東アジア共和国所属部隊の派遣を決定。
同月12日から大規模な戦闘が開始された。この戦いの初戦で空軍に大きな損害を受けた地球連邦軍は北極海から一時的に後退することを決定
した。
結果、プラントではNジャマー散布による地球連合の国力減退の成果が予想以上に少ないとして取り上げられることとなった。
「アズラエル様、NSSC|(新型太陽光宙間発電システム)のアルザッヘル発電所2号機、3号機の建設状況についての報告です。
2号機は5月までに、3号機は6月までに完成しそうです。」
「そうですか、後は完成までに、いや完成した後もアルザッヘルを守れるかですね。大西洋連邦大統領にアルザッヘル基地の防衛力を強化するように要請してください。あそこが陥落したら工業力の10パーセント、電力の80パーセントが無くなるとも言っといてくださいよ。」
ユーラシア連邦は原子力発電所を使用できなくなったことで、電力の大半を大西洋連邦から輸入することになってしまった。
NSSCの運用には多額の資本はもとより、技術と運用経験が不可欠であるために自前で電気を作ることがなかなかできないのだ。ユーラシア連邦内では中央アジアに侵攻することでソーラーパネルの原料となるケイ素を確保しようという動きもあるが、燃料の不足から実現は難しいと言わざるを得ない。
今のところメタンハイドレードを燃料にできるのはエンジンの関係上艦艇のみなのだ。石油の枯渇の深刻な現在、長距離の陸上での行軍はコストがかかる。ゆえに、地球連合国構成国ということで割安価格で販売してくれている大西洋連邦から輸入しているのだ。
地球連邦各国にはプラントから大量のソーラーパネルが提供されており、さらに構成国が工場をフル回転させてソーラーパネルを増産させているのだが、ソーラーパネルの生産にも電力を消費してしまうためになかなかうまくいっていない様子だった。
CE70年5月1日
プラントの最高評議会は「Nジャマーの散布のみでは『オペレーション・ウロボロス』の初期の目標を達せえなかった。」として、地球連合の電力の大半を生産しているアルザッヘルを攻略する作戦「プロメテウス」の発動を採択した。
これに合わせてザフトは5月3日、ジンハイマニューバやシグーといた最新鋭MSによって固められた精鋭部隊をとりあえずの橋頭保として月面のローレンツクレーターに上陸させた。地球連合軍は残っていた第3・第5・第8艦隊のみならず編成途中であった第4艦隊まで投入。プトレマイオス基地にはヴァルキュリア300機、ハルピュイア200機、メビウス100機、メビウス・ゼロ50機を配備し徹底抗戦の構えを見せた。
5月3日
ローラシア級15隻、ナスカ級7隻に加え総MS数130近くのザフト軍は防衛線を敷いて待ち受けていた地球連合軍とエンデュミオンクレーターで激突。エースパイロットを数多く含むザフトMS部隊を前に当初、地球連合軍は不利な戦いを強いられていた。
しかし、ハルバートン提督に指揮された地球連合軍は粘り強く戦闘を続け、無人MAが生産拠点の近くということで、連日数多くMAが補充されたこともあり次第に戦線を持ち直していった。
コーディネイターの中の、さらにエースであったとしても所詮は人の子でしかないザフトMS部隊は次第に消耗の度合いが大きくなり、6月2日にはとうとう現地司令官は作戦の継続を断念した。
ザフトは月から完全に撤退することとなり、地球連合軍は宇宙戦で初勝利をすることができた。
が、連合軍の被害も非常に多く1個艦隊の壊滅に加え、無人MA897機、有人MA113機を失うこととなった。
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