これは、きっと奇跡だったんだ。
なんの取り柄も、なんの力もなかった私が、誰かの助けになれる。
誰かのために戦える。
誰かの笑顔のために戦える力がこの手に入れることができるなら、これ以上に望むことはない。
私は、その力を手に入れたとき、その手に持った錠前を見て思ったんだ。
これはきっと、奇跡なんだって。
「なに、これ・・・・・・」
高坂穂乃果は、掲示板に張られた紙に書いてあるものの意味を、すぐに理解することができなかった。
「廃、校?」
「そのよう、ですね・・・・・・」
「は・・・・・・、は、いこう・・・・・・」
親友である海未とことりのつぶやきを聞いて意味を理解してしまうと、視界がぐらりとぐらついた。立っていられなくなり、重力で引かれるまま、後ろにゆらりと倒れた。
「ちょっと、穂乃果」
「穂乃果ちゃん!?」
「私の、輝く、高校生活が・・・・・・」
とっさに彼女を受けとめた海未とことりの声が遠くに聞こえていた。
彼女たちの通う音の木坂学院高校の掲示板に張られた廃校の文字を見て、高坂穂乃果は、信じられない現実を目の当たりにし、残酷な現実を拒否して意識を手放した。
それが、高坂穂乃果の輝ける高校生活は、終わった瞬間だった。
その日、校長から朝礼で唐突に告げられた音の木坂学院高校の廃校の知らせ。
理由は、少子化の影響だとかいろいろ理由は言っていたけれど、最大の理由はほかにあった。
現在、ロックシードと呼ばれる錠前状のアイテムが普及している。
これはユグドラシル・コーポレーションという企業が販売している商品だ。
このロックシードは、開錠すると異世界からインベスと呼ばれる生物を召還できる。
インベスは、人々にとってペットのような存在。大きさはまちまちであるが、だいたい30センチほど。堅い殻に覆われた虫のような見た目で、お世辞にもかわいい見た目とは言えない。しかし、力持ちだし頼めば大体何でも手伝ってくれる。そのため今では、インベスは一人一匹は必ず持っているほど生活には欠かせないものであり、そのインベスを召還できるロックシードは必需品となっていたなっていた。
しかし最近、そんな社会の一部と化したインベスが、人を襲うという事件が起こっている。
人を襲うインベスというのは、ロックシードによって呼び出されたものではない、野良のインベスであるということが既に発表されている。
しかし、ロックシードひいてはインベスを管理しているユグドラシル・コーポレーションとしては見逃せない事態。
そのためユグドラシルは、各企業や施設と連携してロックシードとインベスの管理体制の強化を行ってきていた。
とはいえ、一企業が都市すべての企業や学校などの施設を管理、保護する事は難しい。
ユグドラシルは、警備として対インベス用の装備に身を包んだ黒陰部隊を有しているが、完全な量産化を行えていない対インベス装備は数が限られている。派遣できる範囲、同時に派遣できる人数も限られ、広範囲に多数のインベスが出現した際には、対処が間に合わないおそれがある。
そこで最近、生徒数が減ってきている学校を併合することで、施設自体を減らし、管理体制を徹底しようとしているのだ。
そして今回、彼女たちの音の木坂学院にも、番が回ってきたというわけだった。
「どうしたら、廃校を阻止できるのかな」
今日は土曜日。突然突きつけられた残酷な現実が堪えていたため、次の日が休みでよかったと穂乃果は一人ごちる。
せっかくの休みだというのに、そんなショックな出来事をきれいさっぱり忘れてリフレッシュできるわけもない。
気付けば、家を出て宛もなくさまよいながら、朝礼で廃校について告げられた日の放課後のことを思い出していた。
最初は、現実を受け止められなかった穂乃果も、今はある程度事実を受け止めていた。でも、それをただ受け入れることはどうしても受け入れる事ができなかった。
特に何かやりたいことがあるとか、達成したい目標があったわけではない。
でも、友達と何気ない話に花を咲かせた教室やときどき遅刻しそうになって走るなって怒られた廊下。ほかにもたくさんのかけがえのない思いでに満ち、これからもそんな思い出が増えていくんだろうなと考えていた学校がなくなってしまうというのは悲しい。
いつか、自分がどこの高校に通っていたかって話になったとき、もうなくなってしまったことを思い出さなければならないのは悔しい。そう思ったのだ。
だから帰り道、親友の二人に相談していたのだった。
「穂乃果。廃校は残念ですが、私たちにはどうしようも・・・・・・」
でも、反応はある意味穂乃果の予想通り。艶やかな黒髪の大和撫子、園田海未は、悔しそうにつぶやいた。
「でも、何か方法が・・・・・・」
「穂乃果ちゃん。新入生が減ってきてるのはちょっと前から問題になってたことなんだよ」
「ことりちゃん?」
ちょこんとはねた癖毛がチャームポイントの南ことりが、ためらいがちに言った。
「実は、お母さんから聞いてたの。新入生が減ってきて、前から廃校の話は持ち上がってたんだって。お母さんも、どうにか新入生を増やそうと前から頑張ってた。でも、だめだったの。残念だけど・・・・・・仕方がないよ」
ことりのお母さんは、音の木坂の理事長をやっている。
理事長を一番近いところから見ていたことりは、誰よりも母親が頑張っていたこと、そして頑張ってもだめだったことを知っていたのだろう。
廃校になんてさせたくない。
それはみんなが願っていること。でも、理事長でもどうにもできなかった事態に、一般生徒である自分たちに何ができようか。
結局、穂乃果もことりの一言に対し、反論することができなかった。
帰り道を一人である来ながら、ああでもなこうでもないと考える。もちろん、廃校を阻止するための方法についてだ。
理事長にもできなかった。
それは確かに、穂乃果たちが何をやっても変わらないと突きつけられているようなもの。それでも、やっぱり諦めきれないと穂乃果は思った。
せめて、何かやってからじゃないと諦めが着かない。
「うん。やっぱり諦めきれないよ」
「諦めきれないって、どうしたんだ?」
「・・・・・・へ?」
不意に掛けられた声に、穂乃果は背後の気配から距離をとるように振り返った。
距離を取ったからか、振り返った先には、面食らった表情をした少年が立っていた。
その顔を見て、穂乃果は胸をなで下ろした。
その少年は、よく見知った人だったからだ。
「・・・・・・なんだ、レンくんか」
「何だとは何だよ」
「ううん。なんでもないの」
穂乃果にレンと呼ばれた少年は、彼女の態度に首を傾げたが、優しげに笑った。
彼は、穂乃果の幼なじみだ。友達になったのは、きっかけすら思い出せないほど幼い頃。たぶん幼稚園児くらいの時だろうか。
いつ頃からか公園で出会い、いつの間にか一緒に遊ぶようになっていた。
年を重ねるうちに学校などで会う機会は減ったものの、メールや電話、最近ではスマートフォンのアプリなどを使ってときどき話したりしている。
今回のように偶然出会うこともあり、今もレンと穂乃果は昔とほぼ変わらない関係を築いていた。
「で、どうしたんだ? なんか悩み事か?」
「え? 何で悩んでるなんて分かったの?」
まるで、見透かしたかのように、心の内の悩みを言い当てるレン。
どうして分かったのと言わんばかりに穂乃果の表情に、レンは、呆れた顔で答えた。
「本気で言ってんのか、それ? そりゃ、しかめっ面してたら誰だって気付くって。そんな深刻な顔してたら心配になるって」
「えぇ? そんなにわかりやすい顔してる?」
「もう、この世の終わりかってくらい暗い顔してたぞ」
「そっか・・・・・・。そんなにか」
「ああ。どうせ、悩んでもいい考えなんて出ないくせに、一人で抱え込んでたんだろ? バレバレだっての」
「な。もう、ひどいよ。穂乃果だって一人で解決するくらい・・・・・・」
「・・・・・・話してみろよ。らしくないんだよ。一人で悩んでるとこなんてな」
「・・・・・・」
自分はいったいどんな表情をしていたんだろう。今日はろくに鏡を見てこなかった穂乃果には、今の表情など分からない。
でも、簡単に悩んで居ることがばれてしまうほどにはひどい顔をしていたみたいだと、レンに気付かされた。
レンの言った言葉が胸に響く。
らしくない・・・・・・か。
「そうだよね。実はね・・・・・・」
穂乃果は観念して廃校について説明をする。レンは当然穂乃果とは違う学校に通っている。廃校なんて重大な事は、普通人には、しかもほかの学校の人には教えられない。
それでも穂乃果が話したのは、彼は他の人に言いふらしたりなんてしないと思ったからだ。
穂乃果が、深刻な問題を相談できるとすれば、家族と海未、ことりをのぞいては、レンだけなのだ。
「廃校、か」
「そうなんだ。・・・・・・どうにかして阻止したいんだけど、ぜんぜんいい考えが浮かばないし、海未ちゃんやことりちゃんも諦めムードだし、どうしたらいいか分からなくて」
穂乃果が打ち明けると、レンは少し考えていたがすぐに顔を上げた。
「そっか。じゃあ、ちょっと秋葉原でも行くか」
「秋葉原って、何で? そんな余裕・・・・・・、アイタッ」
穂乃花の反論を遮ったのは、レンのデコピンだった。
額を押さえながら文句を言おうとする穂乃果だったが、
「煮詰まってると、浮かぶものも浮かばないからよ。ゲーゼンでも行って、リフレッシュしようぜ。それに、もしかしたら違う景色とかものとか見たら、そこからアイデアが浮かぶかも知れないだろ?」
「とかいいながら、久しぶりに遊びたいだけだったりして」
「そ、そそそんなわけ無いだろ。本当にいいアイデアが浮かぶようにって・・・・・・」
「もう、冗談だよ。そうだね。・・・・・・うん、そうしよう」
穂乃果は、レンの腕をつかんで駅へ向かって走り出す。
「お、おい。ちょっと待てって」
今日は、ろくに鏡を見てこなかった穂乃果。さっきまでどんな表情をしていたかは分からない。でも、今は何となく自分がどんな表情をしているか分かった。
「善は急げだよ。それに、早く行かないと遊ぶ時間なくなっちゃうよ」
「そうだな。よっし、じゃあ行くぞ」
レンは、そんな彼女の表情を見てほっとしたように笑った。
秋葉原に着いた二人は駅から出るや否や、近くのゲームセンターへと駆け込んだ。
クレーンゲームから始まり、ガンシューティングでゾンビをさんざんいじめた後、ダンスゲームで思う存分汗を流した。
穂乃果は、一時はまってやっていた時期があり、そこそこ高いスコアを出すこともできていた。なのにレンは、あまりダンスゲームはしたことがないと言っていたのにも関わらず、互角の戦いになってしまい少し悔しかった。
「時々しか来ないから、毎回圧倒されちゃうね」
時は夕方。ゲームセンターをいくつか回った後も、いくらか秋葉原の町並みを歩きながら気になった店を見たりしていたから、気が付いたときには
すでにそんな時間になっていた。
楽しい時間と言うものは早くすぎるものだ。
さっきまで世界の終わりのような暗い顔をしていた穂乃果も、遊んでいるうちは、なにも考えずリフレッシュすることができた。
でも同時に、廃校の打開策についても何一つ考えつけていなかった。
もうそろそろ帰らなければならない。
帰りの時間が近づくほどに、穂乃果は、焦りをぶり返していた。
レンは、横目で穂乃果の様子を見て、辺りを見渡した。
せめて、不安はあっても今日は楽しくいてほしいと、探していると一つ目に付く。
「お、何だあの人だかり」
「すごい、人がいっぱい!!」
レンが指指さす方向をみた穂乃果は、彼が指さしたものを見て、思わず声を上げた。
そこは、よくイベントが行われる建物の下だ。近くにはアニメやゲーム関係の店が集まっているため、その関係のイベントであることも考えられたが、その割には老若男女、いろんな見物人が集まっていた。
よほど、人気のイベントがあるのだろう。
イベントらしき音がしないためステージはまだ始まっていないようだが、見物人はステージの奥が見えないほど集まっていた。
「なんだろう、あれ。行ってみよ」
「お、おい。・・・・・・勝手に走んなって」
穂乃果は、人だかりを見ると目をきらきら輝かせて、レンが気付く頃にはすでに走り出していた。
穂乃果が人だかりの最後列に立ち止まったところで、ようやくレンが追いつく。
穂乃果は、おもしろそうな事には目がない。直感でおもしろそうと感じると、後先考えずに飛び込む癖があるのだ。
レンとしては、穂乃果が楽しそうに笑っている分にはいいのだが、いつ危ないことに首を突っ込まないかと肝を冷やす時がある。
「まったく。これ、何やるか知ってんのか?」
「ん? 知らない」
「知らないのに、あんな全力ダッシュだったのかよ」
「えー。知らないけど、分からないからこそわくわくするでしょ」
「そうかもだけどさ・・・・・・」
ため息をもらすレンをよそに、穂乃果は待ちきれないのかその場で少しでもステージが見えるポイントを探して飛び跳ねていた。
こうなったらもう止められない。レンは、今までの経験から直感した。
この熱が冷めるまでここから動かない、と。
だからかレンは、穂乃花と行動するときは目がはなせない。彼女のお目付役のような気分だった。
本当なら、そんな彼女は放って置いて、近くの店で時間をつぶすなり帰るなり、いくらでもできたはず。それでも、レンはその場を離れるとこをしなかったのは、その姿は、まるで本当に熱中できることを探し回っているように見えたから。
私の本当にすべき事はなに? って叫んでいるように見えたからだ。
今回の廃校騒ぎもそうなのだ。別に、彼女が何かしなくちゃいけない訳じゃない。それなのに、まるで使命で背負っているかのように一人で悩んでいたのだ。
彼女が止まらない限り、レンの気は休まらない。そして、このままでは彼女自身を傷つける。レンは、そんな事態を危惧していたのだ。
願わくば、熱中できるなにかを。
そして願わくば、そのなにかが、彼女にとって幸せな何かであることを・・・・・・。
そう願わずにはいられないのだ。
「ねえねえ。レンくんはこれからなにが始まると思う?」
「なにって、近っ!!」
いつの間にか接近していた穂乃果の顔に、レンは仰け反った。
「どうしたの? もしかして、目開けたまま寝てた?」
「いや。そんな器用なことできねえよ」
「立ったまま寝るくらい退屈だったって事?」
「いや、だから退屈とかじゃないし、寝た訳じゃないっての」
穂乃果の冗談に返事を返しながら、いよいよ穂乃果だけでなく自分まで心配になってきた。
これはいよいよ、穂乃果には何か一つ見つけてもらわなければと危機を感じ始めた。
「本当? ならいいけど、それならさっきの質問答えてよ」
「分かったよ。ええと、そうだな・・・・・・」
寝てないことは本人も分かっていることだろうが、自分の話を惚けて無視されたことに腹を立てている様子の穂乃果。
口を尖らせ、頬を膨らませて怒っていることをアピールしている。
仕方なくレンは、辺りを見回した。
振り返るとすでに、レンの後ろにも何層かの人の列ができていた。
見ると、子供からお年寄りまで多様な年代の方が集まっているようだが、男性の人数が多い気がした。男性に人気のあるイベントなのか。
そこで男性に注目して見てみると、イベント開始が近づいてきたのか、光る棒を取り出す男性がちらほら見えだした。
「たぶんだけど。アイドル、かな」
「アイドル?」
「ああ、最近はやってるみたいだし。そういえばここって、あの学校の下じゃ・・・・・・」
レンがそう思った経緯を説明しようとしたとき、
音楽だ。音楽が流れ出したのだ。
その瞬間、どっと上がった歓声に遮られた。
さっきまで、周りは落ち着いた様子だったのだが、あれは嵐の前の静けさというものかと思うほどの空気の変わりよう。
一瞬何事かと思うほどの騒ぎに、レンは面食らってしまった。
さっきまではしゃいでいた穂乃果も、さすがに驚いたようで、とっさにレンの腕にしがみついていた。
「な、なに?」
「始まったんだ。・・・・・・ライブが」
レンの口からその騒ぎの原因が告げられる。
その言葉で、穂乃果はようやく辺りに流れるメロディーの正体に気付いた。
「ちょっと、じっとしていて」
「おい、おまっ。ちょっと待て」
レンの制止も聞かず、穂乃果はレンの両肩に手を置いて飛び乗った。
穂乃果はいつの間にか登場していた者達の存在に気付いた。しかし、人だかりのせいで、三つの頭しか見えなかったのだ。
いったい誰が居るんだろう?
そう思った瞬簡には、思考より早く体が動いていたのだ。
「動かないでよ。わぁ――」
「おい、急に飛びつく奴があるか。早く降り――」
「――揺らさないで、きゃっ」
「お、おま――」
レンの肩においた手だけで体を支えている穂乃果は、レンの背中にのしかかった。それだけならよかったのだが、なるべく高いところでみたいとそれだけを考えている穂乃果は、ピンと腕を伸ばしていたため、レンの頭に二つのほむまんが乗っかる形となった。
「――っ!!」
瞬間、レンは電撃が走った気がした。
頭の上の圧力から、彼は見た目や数字などあまり役に立たないなと思った。
大きかろうと小さかろうとそこには確かに夢があり、その存在感は彼の平常心を狂わせるのだから。
「ちょっと、支えて。――きゃ」
「――たく、仕方ねぇな」
ぐらつく穂乃果が、レンの背中から離れた。
穂乃果の体が後ろに傾き始めていることを感じたレンは、彼女の膝辺りをつかんで持ち上げ、前の方へ反動をつけて彼女を担ぎ上げた。
レンが手を台のように固定したことで、穂乃果はそこに膝立ちになることができた。
そのおかげで穂乃果は何とか立て直した。
しかし、穂乃果の体は再びレンに密着する形となった。
「なあ。そろそろ退いてくれないか? ・・・・・・そろそろやばいんだが、精神的にも」
「・・・・・・すごい」
「穂乃果さん?」
幼なじみとはいえ、レンは男で穂乃果は女だ。
密着する自分のものとは違う体温に、どぎまぎを隠せないレン。
しかし、いつもとは違う返事に、レンは彼女を見上げて様子をうかがった。
普段、楽しいことを見つけた彼女は、これでもかと言うほどはしゃぎ回る。見ているだけで、ほかの人まで暖かくするような笑顔で笑う。しかしそれは一過性であり、すぐに飽きて長続きしない事の予兆でもあった。
いままで、彼女がはしゃげばはしゃぐほど、早く熱が冷めてしまうのだ。
それを今まで間近で見ていたレンは、穂乃果の今までにない反応を目の当たりにしていた。
「・・・・・・」
曲が一旦終わり、ステージに立つアイドルが観客に向かって語りかける。
一般人の中に紛れていた熱狂的ファンが沸き立つ中、穂乃果は一言も発せずに見ていたのだ。
いつも一旦話だしたら止まらない彼女が、一言も発しないのだ。
MCが終わり二曲目が流れ初める。
それでも、いつも檻から放たれた獣のように走り回る彼女が、動かない。
まるで、彼女だけ時間が止まってしまったかのように微動だにせず、ただ目の前で繰り広げられるパフォーマンスに見入っていたのだ。
あっという間にステージは終了した。
二曲だけの短いライブが終わり、観客達がそろそろと各々の方向へと散っていく。
そんな中、穂乃果はまだレンの肩の上で動かずにいた。そして、レンは穂乃果のせいで動けずにいた。
「おい、穂乃果。大丈夫か?」
「へ? って、わぁ」
レンが下から揺らすと、穂乃果はやっと正気を取り戻した。が、それと同時に前方へ倒れ込んだ。
いままでほとんど腕の力だけで体を支えていたせいで、一気に力が抜け、手が肩から滑り落ちたのだ。
レンの頭と穂乃果の顎が激突する。そのせいで、レンまでバランスを崩すと二人そろって地面に倒れ込んだ。
「痛てぇ。大丈夫か、穂乃果?」
「う、うん。私は大丈夫」
幸いレンの体をクッションにした穂乃果は地面との接触は回避したが、クッションにされたレンは、全身にしびれるような痛みを感じていた。
いつもと雰囲気が違ったものの、いつもと同じように災難に見舞われたレンは、文句の一つでも言ってやろうと仰向けに穂乃果と向き合う。
「だから、危ないって言ったんだ」
「そんなことより――」
そんなこと呼ばわりされたことに、さらなる文句がのどからでかかったが、鼻が触れ合うほどの距離まで接近した穂乃果の顔におもわずのみこんでしまった。
「――見つけたよ。廃校から学校を救う方法」
「それって、いったい・・・・・・」
「さ、早く帰ろう。明日早く海未ちゃんとことりちゃんに説明しなきゃ」
そういって立ち上がった穂乃果は、レンの返事も聞かずに彼の手をつかむと、駅の方へと掛けだした。
その誰をも振り回す台風のような様子は、いつもの彼女のようにも見えた。
でも、さっき感じたいつもとは違う雰囲気に、レンは息を漏らす。
「なんか、夢中になれるものが見つかったのか?」
「うーん、分からない。・・・・・・でも、やってみたいと思った」
「そっか。なら・・・・・・」
一瞬、彼の願いが叶ったのかと思った。
「やりたいことが見つかったんなら、それは大事にしないとな」
「うん!!」
そして、それは新たな願いへと変わる。
願わくば、彼女に決して冷めることのない夢を。
願わくば、決して覚めない夢を。
はじめましての方ははじめまして。幸村です
かわいい女の子たちとバトル要素が混在した作品が大好きな私。
ある小説を見て、想像力を掻き立てられ、先駆者が多い中、私も書かせていただくことにしました
どこか、ほかの方とは違ったストーリーにしていきたいと考えておりますので、興味がおありの方は、読んでみてください
とはいえ、この第一章。
妄想のままにキーボードをたたいていましたら、全く終わらない。
そのため、たぶんこの章は上中下の三部となると思われます。
ネット小説なので、一回が長すぎるというのも考え物ですね。精進します
もしよろしければ、感想、評価をよろしくお願いします