ラブライブ! -9人の女神と禁断の果実-   作:直田幸村

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第十四話 『過去の亡霊』

綾瀬絵里、東條希の生徒会活動は、運動部が朝練習を行っているような早い時間から始まる。

音の木坂学院廃校の可能性が出てから、生徒会は独自に廃校阻止の為に活動を開始していた。

まだ表立った活動は行えてはいなかったものの、放課後に廃校阻止の為の作戦会議を行うため、早めにできることはこうして朝早くに終わらせるようにしているのだ。

絵里は、山のように積まれた書類を一枚一枚目を通し、確認の判を押していく。希は、絵里が処理し終わった書類を整理していく。

静かに黙々と続く作業の途中、希はちらっと絵里の方を確認する。

絵里は、いつも通り真剣そうな面もちで書類と向き合っていたが、希が見ていることに気付いて彼女へ顔を向けた。

そこで、希が切り出した。

 

「南ことりちゃん。あの子、今日は朝練習には出なかったみたいやさね」

 

「南ことり・・・・・・。ああ、あのスクールアイドルを始めるとか言っていた3人のうちの1人ね」

 

「うん。で、えりちはどう思う?」

 

希は、仕事に没頭する絵里にあえて意見を求める。

絵里は、一瞬希の問いに目を細めるがすぐに何事もないかのように資料へと目を戻した。

 

「別になにも。なにかケンカでもしたのかしら?」

 

まるで、今初めて聞いたと言わんばかりの態度の絵里に希は眉をひそめた。

 

「えりちも意地悪やな。えりちがそうなるように仕向けたんやろ?」

 

「何のことかしら。私にはさっぱりよ」

 

「うちに、わからんとでも思ってるん?」

 

見透かしたようなことをいう希に、絵里はため息をついた。

希は勘が鋭い。こと絵里の関しては、一緒にいる時間が長いせいかすぐに見破られてしまう。そのため、希に隠し事をしても無駄だと諦めているところがあった。

絵里は、すぐに観念して資料を置いた。

 

「これもあの子達のためよ」

 

「そうかもしれんけど……」

 

「どうせ、あの力はすべて回収する。それが少し早まるだけよ」

 

希は、絵里の返事を聞いて黙ってしまう。

絵里がどうしてスクールアイドルを認めないのか、彼女から力を奪おうとしているのか知っていた。

絵里の思いを知ってしまっている希には、反論をすることはできなかった。

希が何も言ってこないのを見て、絵里はもとの作業に戻ってしまう。希は、それからどうしようもなくなり、彼女もまた自分の作業に戻った。

 

絵里は、作業をしながら希に言われたことを考える。

意地悪。傍から見れば、そう思えてしまうのも仕方ないのかもしれない。そう考える。

事情を知らない人からすれば、ただ頑なにスクールアイドルを否定する、ただの意地悪な先輩だ。でも、

 

「……これで、諦めてくれればいいのだけれど」

 

それでも絵里は、自分が間違っているとは思わない。

なぜならそれは、音の木坂存続に必要なことだから。

ただそれだけであり、他意などありはしないのだから。

 

 

 

「よう」

「あなたは・・・・・・」

 

ことりは、朝練習に出なかっただけでなく、学校も欠席した。

学校で二人と顔を合わせるのが怖かったからだ。

風邪を引いているわけでもなく、ただ退屈な時間をつぶすため、彼女は散歩に出ていた。

そんなときに声をかけてきたのは、昨日にも聞いたことのある声。

帽子が印象的な黒尽くめの錠前ディーラーだ。

 

「この間のロックシードはうまく使ってくれてるか?」

 

「もうこんなもの、私には必要ありません」

 

どうやら、昨日お試しとしてもらったロックシードの使い道を聞きに来たようだ。

昨日の今日で感想を聞いてくる男に対し、若干のずうずうしさを感じながら、ことりははっきりと答えた。

ことりがロックシードをつき返すと、錠前ディーラーはあわてて理由を求めた。

 

「おいおい、どうした。なにかあったのかい?」

 

「あなたには関係ありません」

 

「なんだ。つれないじゃないか」

 

男は、いつも引いているスーツケースを引きながらことりに近づく。

 

「大方、インベスゲームの嫌いな誰かになんか言われたってとこか?」

 

ことりは、理由を言い当てられはっとする。

その様子を見て男はささやいた。

 

「もう一回、今度はそいつらがピンチのときに助けてやんな。そうすりゃ、そいつらだって認めざるを得ないだろう」

 

「もういいんです。どうせ、穂乃果ちゃんたちには、私の力なんて必要ありませんから」

 

ことりはそういってため息をついた。

いまさら力を示したところで同じことだ。どちらにしろ、穂乃果たちの考えは変わらないだろう。

海未はともかく穂乃果はそういう人だ。

ことりは、ロックシードを男に返してその場を立ち去ろうとした。

 

「南ことり。貴様、何をしている」

 

ことりは、その声に固まった。

おそるおそる振り向くと、男が自分のほうへ歩いてきるのが見えた。ことりは、思わず彼の名前をこぼす。

 

「……駆紋、先生」

 

「そいつはだれだ。まさかとは思うが、錠前ディ・・・・・・」

 

ディーラーと言い掛けて、戒斗は眉を細めた。

特徴的な黒い帽子に見覚えがあった。彼の後ろにあるスーツケースに見覚えがあった。

そして何より、獲物を狙っているかのような眼光と残忍さのにじむ笑みを目にしたとき、その男の正体が戒斗の中で固まった。

 

「まさか貴様は・・・・・・」

 

「おやおや。懐かしい顔だと思ったら、バロンの坊やじゃないか。覚えていてくれたとは感激だな」

 

「貴様。生きていたのか、シド」

 

戒斗は、黒ずくめの男をそう呼んだ。

男は、目元を隠すように深くかぶっていた帽子を少し上げた。すると、ギラリと光る瞳が戒斗を捕らえた。

戒斗は、懐から戦国ドライバーを取り出しことりとシドの間に入った。

 

「久しぶりの再会だってのに、ずいぶんと物騒だな」

 

戒斗とシドの因縁は浅くない。

戒斗がビートライダーズとして活動していたときから、シドは錠前ディーラーをしていた。

ビートライダーズ間でインベスゲームが流行った頃は、戒斗もシドと錠前の取引を何度もしたことがある。

ただ、錠前をやり取りするだけの関係であるならば良かったのだがシドには、いや、シドのさらに上にいた当時のユグドラシルには別の計画があった。

戒斗たちビートライダーズの何人かに戦極ドライバーがばら撒き、インベスゲーム同様これを使うよう誘導していたユグドラシルの目的は、戦極ドライバー量産やさらに強力なドライバー開発の為のデータ収集。つまり、戒斗たちビートライダーズ出身でアーマードライダーとなった者はユグドラシルにモルモットにされていたのだ。

そしてシドは、ビートライダーズにインベスゲームを流行らせ戦極ドライバーをばらまいた張本人だ。

そんな因縁浅からぬ間柄であったが、戒斗は努めて冷静だった。

 

「貴様が生きていようが死んでいようがどうでもいい。俺は、違法な錠前ディーラーを狩る。ただそれだけだ」

 

「そりゃご立派なことで。前は散々弱者だの強者だの拘っていたくせに、今やお前もユグドラシルの犬かい」

 

「勘違いするな。今のユグドラシルは、貴様らがのさばっていたころのように弱くはない。俺がいる限り、弱者などになり得ない。それに、ユグドラシルに従っているつもりもない。俺は、陰に隠れて人の弱みにつけこみ甘い蜜を吸う、貴様等のようなやり口が気に入らないだけだ」

 

「そうかい。まあいいや。結局俺たちはこいつでしか語る方法を知らないってわけだ」

 

シドは、ポケットからロックシードを取り出した。

シドが取り出したロックシードに、戒斗は眉をひそめた。

彼の持っているロックシードは、ほかのものといくつか異なる点があった。

普通のロックシードは、掛け金や本体が黒や灰色など金属のような部品で構成されている。が、シドの取り出したロックシードは、本体のほとんどが水色のクリアパーツで構成されていた。

「ふん、エナジーロックシードか。まさかとは思うが貴様、インベスゲームでもしに来たのか?」

エナジーロックシードは、ロックシードの中で最高峰、クラスSを関する現存する中で最強のロックシードだ。

当然、このエナジーロックシードもドライバーと併用することで、アーマードライダーへと変身する力を秘めている。

とはいえ、戦極ドライバーでは、その強大なエナジー出力を制御できない。エナジーロックシードを用いて変身するためには、ゲネシスドライバーと呼ばれる専用ドライバーが必要となる。

 

ゲネシスドライバーを用いて変身するライダーは、戦極ドライバーで変身するライダーとはけた違いの性能を誇っている。

そんな強大な力をちらつかせているシドに対して戒斗は挑発と取れる発言をしたのには訳がある。

それは、現存するゲネシスドライバーが存在し1つもないことだ。

設計者である戦極凌馬は、5年前の戦いですでに死亡している。

ゲネシスドライバーは、彼自ら製造過程のすべてを行っていたため、製造にかかわった人間は一人もいない。

当然、彼の研究資料や設計図などは多数存在したが、肝心な部分はまったく残していなかったのだ。

彼はゲネシスドライバーに異様な執着を持っていた。そのため、自分以外にゲネシスドライバーを造ることができないよう、肝心な部分の資料を残さなかったのだろうと考えられている。

彼が自ら製造していたため、その台数はわずか6台。そのほぼすべてが凌馬によって破壊されたため、今のエナジーロックシードは、インベスを呼び出すことしかできないただのロックシードでしかない。

たとえ最強のクラスSのロックシードから呼び出されたインベスでも、アーマードライダーの力を持ってすれば倒せない相手ではない。

相手がインベスで戦うつもりであるなら、戒斗に負ける要素などなかった。

 

「インベスゲーム? そんな子供の遊びするわけないだろ」

 

戒斗の問いに、シドは口角をつり上げた。そして懐から赤い奇妙な形をした塊を取り出した。

 

「心配はご無用だ。俺にはこれがある」

 

シドが取り出したものには左右に中央へ押せるようななにかが1つずつついており、中央下には輝くコップのようなクリアパーツがついている。そして中央には、戦極ドライバーのドライブベイのようなものが存在していた。

戦極ドライバーに似て非なるそれを、シドは腰に巻きつける。

 

「それは。……ゲネシスドライバーだと。やつめ、報告と違うぞ」

 

シドが腰に巻いているドライバー、それこそがゲネシスドライバー。今は製造不可能なはずの幻のドライバーだ。

さすがの戒斗も、驚きを隠せない。

そんな戒斗を見て、シドはにやりと笑うと左手で帽子を再び目元を隠すように深くした。

 

「さあ、始めようか。昔みたいに、アーマードライダー同士の戦いをよ。変身!」

 

シドは、帽子を押さえたまま、右手でエナジーロックシードのアンロックリサーサーを押し、解錠する。

 

『チェリーエナジー!』

 

ロックシードに描かれているのは、さくらんぼ。

ロックシードの解錠とともに、頭上にクラックが開きさくらんぼを象った固まりが顔を出す。

 

『ロックオン! ソーダー!』

 

右側についているハンドル、シーボルコンプレッサーを押し込むと、エナジーロックシードの前面が二つに割れ、さくらんぼの果実を二つに割ったかのように果実の中身が顔を出す。

それと同時に、コップを模したコンセントレイトポッドにエナジーが溜まっていく。

 

『チェリーエナジーアームズ!!』

 

エナジーが溜まりきったところで、空中に浮かんでいたさくらんぼを模した塊が、彼の頭に覆いかぶさった。

さくらんぼの二つの果実の外側半分が、果柄に引かれて左肩に重なる。そして、前後がそれぞれ倒れて胸と背を守る鎧と化した。

ライドウェアの両手足には毛皮のような防具がついており、右手には弓のような武器が握られている。その姿は獲物を狩る狩人のよう。

神話に出てくる英雄、シグルドの名を冠するアーマードライダーだ。

変身したシド、シグルドの姿を見て、戒斗はうしろのことりをかばうように構えた。

 

「南、貴様にもあとで話を聞く。それまで下がっていろ」

 

『バナナ!』

 

戒斗は、ことりに逃げるよう促すとすぐさまバナナロックシードを解錠した。一回転させた後、戦極ドライバーに固定した。

「変身!」

 

『ロックオン! カモン! バナナアームズ、ナイトオブスピア!!』

 

カッティングブレードの柄を引き上げ、キャストパットを切り開く。

頭上から飛来したバナナを模した塊が彼の頭にかぶさるとともに展開され、彼は、バロンバナナアームズと化した。

 

 

 

いつ戦いが始まってもおかしくないと感じたことりはきびすを返した。

邪魔者(ことり)がその場から離れる。それが戦いの合図となった。

 

「行くぜ!」

 

「はぁぁぁあああ!」

 

彼女が走り出したと同時に、バロンとシグルドも動き出した。

バロンはバナスピアを突き出し、シグルドは弓のような武器『ソニックアロー』を相手に向けて振り下ろした。

両者の武器がぶつかり合い火花を散らす。

鍔迫り合いになり、お互い至近距離でにらみ合う。

 

「思い出すよな。あの頃の戦いをよ」

 

「思い出話に興味などない」

 

「そりゃ、苦い経験だったろうからな。思い出させてやるよ。俺とおまえの力の差をよ」

 

ぶつかり合った瞬間は拮抗しているように見えたが、戦極とゲネシスの性能差は大きい。

徐々に、シグルドがバロンを押し始めた。

バロンは、左手でバナスピアの先付近をつかみ、両手で押さえているにも関わらず、シグルドは片手でバナスピアを押していた。

 

「おいおい。力比べでかなうと思ってんのか?」

 

「ぐっ」

 

「これじゃあ昔と変らねえなぁ。がっかりさせんなよ」

 

「なめるな」

 

突然、バロンはバナスピアに込めていた力をぬき、左に槍をそらした。

シグルドは、バロンの全力を押しのけるほどの力を加えていたため、槍の抵抗がなくなったことでソニックアローの刃がバナスピアの表面を滑り、彼は前に倒れそうになる。

 

「なっ」

 

「そこだ!」

 

バロンは、相手がバランスを崩したことにより生まれた隙を逃さない。

すれ違いざまに、力を流され無防備になったシグルドの腹部へバナスピアを叩き込んだ。

バナスピアはシグルドの装甲の下部にぶつかる。バロンがスピアを振り抜くと、シグルドは体を半回転させて吹き飛んだ。

 

シグルドに強烈な一撃を加えたバロンは、しかし油断はしない。

シグルドとすれ違うとすぐさま反転して構える。

絶妙なタイミングで攻撃したため、直撃していれば相当のダメージを与えられていたはずだった。しかし、振りぬいた際の感触に違和感を覚えていた。

バロンの勘は当たっており、シグルドは大袈裟にふらついて見せているが、ほとんどダメージを受けているようには見えなかった。

シグルドは、楽しそうに笑い声を上げた。

 

「ほう。どうやら少しはまともなを戦い方を学んだようだな。ちょうどいい。久しぶりのゲネシスドライバーだ。慣れるまで、付き合ってもらうぜ」

 

腕を伸ばすように振ると、ステップを踏む。

脱力し一見隙だらけのように見えるが、バロンは動かない。やる気のない緊張感に欠けた空気をまとっているが、それこそがシグルド、シドの自然体。不用意に近づけば返り討ちに遭う。そう感じたバロンは、すぐさまバナスピアを縦に向けて防御に回した。

 

「おら」

 

「っ――」

 

刹那、バナスピアに火花とともに衝撃が走る。

警戒を緩めず距離をとり様子を伺っていたにもかかわらず、シグルドは、一瞬にしてバロンとの距離を殺し一撃を加えた。

バロンは、何とか一撃を防いだが、衝撃で一歩後退する。しかし、悠長に体勢を立て直している余裕はない。

シグルドは、すでにバロンの背後で武器を構えている。

バロンは、無理やりシグルドがいるであろう方向へ正対し、バナスピアを構える。

 

「そらっ」

 

「――ぐっ」

 

その直後、再びバナスピアに衝撃が走る。

攻撃の徐々に上がっているのか、バロンは先より大きくのけぞってしまう。

が、シグルドはとまらない。

のけぞったせいで対応が遅れたバロンの背中へソニックアローの刃を振り下ろし、かと思えば次の瞬間には正面に立ち刃を振り上げた。

バロンは、シグルドの攻撃をもろに受け、後ろへ吹っ飛んだ。

 

 

 

「瞬間、移動?」

 

建物の影で見ていたことりは、そうつぶやいていた。

アームズをまとっていない一般人には瞬間移動のようにすら見えるシグルドの動き。しかし、バロンにはそれが瞬間移動などではないことが見えていた。

エナジーロックシードは、クラスAのロックシードの上位互換のような性質を持つ。

チェリーロックシードの特性は、高速移動。クラスA以下のロックシードで召喚される全アームズの中で最速の移動速度を誇っている。

そんなチェリーの上位互換であるチェリーエナジーは、たとえアームズを使っていたとしてもクラスA以下では到底その動きに追いつくことはできない。現に、歴戦を勝ち抜いてきたバロンでさえも赤い残像が辛うじて見えるといった状態だった。

 

「ハハハ。さあ、次はどうする。バロンの坊や」

 

はね飛ばされたバロンは、追撃に備えてすぐに体を起こした。

追撃するなら絶好の機会だったが、シグルドは被っていた帽子を押さえるように頭に手をおいて余裕を見せていた。

 

「ならば、これでどうだ」

 

『ロックオフ』

 

バロンは、敵を目の前に戦極ドライバーからバナナロックシードを取り外した。

ロックシードがはずされたことで、バナナアームズが元のバナナの形に戻り、宙に浮かび上がる。

バナナは、機能がほぼ平均的であらゆる状況にある程度対応できるオールラウンダータイプのアームズだ。

しかし、それは同時に特出するものがないともいえる。アームズ一つでは、対応できる状況にどうしても限界が出てくる。

その問題を解決する機能として備わっているのが、アームズチェンジシステムだ。

 

『マンゴー!』

 

バロンがバナナの代わりに取り出したロックシードはマンゴー。

解錠するとともに素早く戦極ドライバーに固定し、カッティングブレードをおろした。

 

『ロックオン! カモン! マンゴーアームズ、ファイトオブハンマー!!』

 

バロンの頭上に、バナナアームズが出てきたときと同じようにクラックが開く。そして赤み掛かった黄色い果実が顔を出した。

空中で少々展開されたマンゴーの果実がバロンの頭に被さる。

後ろへ展開された部分はマントへと変わり、そのほかの部分が胸と両肩の装甲となる。

装甲それぞれが厚く、バナナよりもより重厚感あるアームズを身にまとっていた。

手には、マンゴーを模した鎚、マンゴーパニッシャーが握られている。

相当な重さのようで果実の部分を引きずっている。

それを見ただけでも、相当の破壊力が窺える。

 

バロンは、マンゴーパニッシャーで宙に浮いているバナナアームズをバッティングをするかのように打ち飛ばした。

 

「おっと、危ねえなぁ。だが、そんな攻撃じゃあ当たらねえぜ」

 

が、高速移動を得意とするチェリーエナジーアームズのシグルドは、危ないと言いつつ余裕でバナナを避けるとそのまま戒斗に肉薄した。

 

「おら!」

 

「ぐっ」

 

ソニックアローの斬撃が2度振り下ろされ、マンゴーの装甲が火花を散らす。

エナジーロックシードとゲネシスドライバーの性能によって繰り出されるソニックアローによる攻撃は、クラスA以下のものから受ける攻撃とは段違いの威力を持っている。

マンゴーは、その重厚な鎧による防御とマンゴーパニッシャーによる攻撃に特化したアームズだ。クラスB以下のインベス、アーマードライダーの攻撃であればすべて受けきれるだけの防御力を持っている。

そんな抜群の防御力を誇るマンゴーアームズだが、エナジーアームズの攻撃を防ぎきることはできない。

その衝撃は、装甲を抜け戒斗自身に突き刺さる。

 

「そらそらどうした。いいサンドバックだぜ」

 

「……」

 

ただでさえアームズで最速を誇るチェリーエナジーアームズに対し、マンゴーアームズへの換装は悪手にしか見えないものだった。

バナナアームズは、性能が平均的であり動きも遅くはない。そのため、チェリーエナジーの動きに追いつけないもののいくらか攻撃を防御することができていた。が、マンゴーへの換装によってさらに動きが鈍くなったバロンは、もはや武器で防御するることもできず、その身で攻撃を受け続けてしまっていた。

バロンが反撃をしてこないと見て、シグルドは、今まで以上に力をこめてソニックアローを振り下ろす。

その斬撃は、バロンの左肩の装甲に突き刺さった。

シゲルドは、とどめを刺そうとそのままシグルドは、さらに下へ引きおろそうとする。

そして、

 

「なに?」

 

ソニックアローを引き下ろそうとして、しかしそれ以上動かなかった。

 

「捕まえたぞ」

 

シグルドは、ソニックアローの先を見た。

マンゴーアームズに触れている刃先。弓の弦がついている部分をバロンは左手で掴んでおり、アームズに押し付けることで完全にソニックアローを捕らえていた。

そこでようやくシグルドは気づく。バロンは、スピードでは敵わないシグルドを捕らえるため、わざと攻撃を受けていたのだということを。

バロンは、待ちわびた勝機を逃すまいとマンゴーパニッシャーの柄でカッティングブレードの柄を下から押す。

 

『マンゴースカッシュ!!』

 

カッティングブレードによるスイッチ動作は1回。スカッシュ系の技に定められた量のエナジーがマンゴーパニッシャーへと供給される。

バロンは、エナジーが供給し終わる前に、掬い上げるように振り上げた。

スカッシュは、エナジーの蓄積量が少ない。そのため、マンゴーパニッシャーがシグルドにぶつかる寸前にエナジーの供給が終了した。

 

「はっ!」

 

「ぐはっ」

 

高速移動を生業のするシグルドも、バロンの無駄のない動きから繰り出されるカウンターには反応が遅れた。

エナジーロックシードを用いて形成されたアームズといえど、至近距離からの攻撃を受けてはダメージは避けられない。

直撃を受けたシグルドは、数メートル飛んで地面に転がった。

 

「どうした、シド。相当腕がなまったようだな」

 

シグルドをたたき飛ばしたバロンは、マンゴーパニッシャーを引きずりながらシグルドに近づいていく。何度もシグルドの攻撃を受けたいたが、その足取りはしっかりとしておりダメージを感じさせない。

マンゴーアームズは、重く動きが制限される。そのため、走ったりなど連続した動作は遅くなってしまう。しかし、少し体をずらす程度の小さな動きであれば、あまり影響を受けずに動くことが出きる。

バロンは、ソニックアローによるインパクトの瞬間に身を少し引き、ダメージを軽減していたのだ。

 

「ガキが、調子に乗るんじゃ――」

 

バロンの挑発的は発言に再びバロンへ向かっていこうとしたシグルドは、突然足を止め、耳あたりに手を置いた。

 

「ちっ。なんだこんな時に」

 

何やら通信が入ったのか虚空に向かって声を発する。

 

「おい、ふざけんな。まだ戦いの途中だ。口出しすんな。……ったく、わかりましたよ」

 

通信が終わり、シグルドは耳あたりから手を放す。

通信のないようが気に入らなかったのか、投げやりな様子で諸手を挙げた。

 

「ああもうやめだ」

 

「何だ貴様。投降する気になったのか?」

 

「んなわけねぇだろ」

 

バロンの問いに、シグルドは睨み返す。

が、ふといつもの冷静さを取り戻すと軽い口調で返した。

 

「生憎、今回の依頼はお前と遊ぶことじゃなくてな。お前とは、また今度遊んでやるよ」

 

「逃げる気か」

 

「俺は、任務に忠実ってだけだ。ビジネスは、信用第一ってな」

 

シグルドは、そう捨て台詞を吐くと、ソニックアローノッキングドロワーを引き、弦を引き絞る。そして、バロンの真上に向かってさくらんぼの形をしたエナジーの塊を放った。

バロンはとっさにマンゴーパニッシャーを上に掲げて盾代わりにする。

それとほぼ同時。さくらんぼの実が裂けると中から大量の矢がバロン目掛けて降り注いだ。

広範囲に矢を降らせるためか、一本一本に威力はほとんどなかった。

バロンに降り注いだものもアームズで受けきれる威力だった。

それでも、大半は地面を焦がし、バロンの周りを煙で包み込んだ。

目くらましが目的だったのだろう。

地面に降り注いだ矢が起こした煙がバロンの視界を遮った。

すぐに煙は風に流されるも、視界が開けたとこにはすでにシグルドの姿はなかった。

 

 

 

戦いを終えた戒斗は、キャストぱっとを閉じ変身をといた。

アームズおよびライドウェアが消えると、彼は片膝を付き左肩をかばうように押さえていた。

 

「ぐっ。ゲネシスと戦極の性能差を埋めるには、まだ足りないか……」

 

シグルドの攻撃を何度も受けてもあまりダメージを受けていないように見せていたのはフェイク。

平気そうに見せておいて、その実すでにぼろぼろの状態だった。

ゲネシスドライバーを有していない戒斗にとって、今回取った戦略が最善の手であった。

それでもシグルドの攻撃に対応できなかったことに、内心、あのまま戦っていれば危なかったと唇を噛んでいた。

 

「だが、今は……」

 

反省点は多い。しかし、それよりもシドの目的の方が重要。

シドが言っていた今回の依頼についてが気になった。

彼は、戦う気はないといった。

それは理解できる。現在、ユグドラシルが違法ロックシード取引に対し目を光らせてる。

なるべく気づかれずに取引を行うほうが彼らにとってはいいのだろう。しかし、取引にしては不可解な点がある。

ことりの母親は校長であるが、廃校寸前の高校だ。

そんな決して金持ちとはいえないことりに、わざわざロックシードを売りつけるメリットが戒斗には理解できなかった。

ことりに思考が向いたところで、彼女を一時退避させたことを思い出す。

 

「おい、南。もう出てきていいぞ」

 

その疑問を解くヒントは、彼女が持っている。

彼女に事情を聴くべく、戒斗は振り返った。

 

「……南。貴様、どこへ行こうとしている」

「その……」

 

そろりそろりとその場を離れようとしていることりの姿を発見した。

戒斗は、めんどくさそうに舌打ちをすると、ことりが固まっているところまで歩いていった。

 

「シドは取り逃してしまったからな。やつの分まで洗いざらい話してもらうぞ」

「はい……」

 

戒斗は、ことりの肩を捕み、逃げ道を封じた。

逃げられたいと悟ったことりは、観念して俯いた。




どうも、幸村です。

ついに。ついについに。
鎧武らしいアーマードライダー同士の戦いが書けました。

舞台設定として、TVドラマの5年後くらいを想定しています。
そのため、戒斗たちユグドラシル勢はゲネシスドライバーを所持していません。

対する死んだはずの彼は、どうやって手に入れたのか。
今回は誰に雇われているのか。

これからもたびたび絡ませていきたいのでお楽しみに。


学校を別にしてしまったため、憐次君が全然出てこない。
もう少し話が進んで、ライブとかするようになったら出てくるんですが……。
それまで、私も我慢して書いていきます。

では、これからもよろしくお願いします

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