ラブライブ! -9人の女神と禁断の果実-   作:直田幸村

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どうも、幸村です。
更新が遅れてしまい、申し訳ありません。

というのも、仕事が忙しくなり手を付ける時間がありませんでした。
その上、データが飛んでしまい、数日間途方に暮れていました。

今回は相当時間がかかってしまいましたが、これからも更新は続けていくつもりですのでよろしくお願いします。

では、本編をどうぞ



第七話 『理想と現実』

「ソイヤ! オレンジドレス。花道、オンステージ!!」

 

 

 光のベールを払って現れるは、橙の光を放つステージドレス。

 

 

 穂乃果は、以前ヘルヘイムで見せたステージドレスを身にまとっていた。

 

 

 デザインはほとんど同じだったが、以前とは異なりスカート部分には草摺(くさずり)と佩盾(はいだて)が、肩の部分には鎧の袖が浮いており、戦国武者をイメージしたような格好。それはまるで、自ら戦うことを決めた穂乃果の心に呼応したかのような変化だ。

 

 

 穂乃果は、突如現れたクラックを前に身構える。

 

 

 すでにクラックは人の身長大にまで広がり、インベスがくぐり抜けるのに十分な大きさとなっていた。

 

 

 そのため、そのクラックをくぐって一匹、また一匹と、穂乃果たちの世界へと行列をなして入ってきてしまっていた。

 

 

「みんな、下がってて」

 

 

「穂乃果。あなたいったい、なにをするつもりですか?」

 

 

「・・・・・・あのインベスたちを、ヘルヘイムに帰す」

 

 

「そんなの無茶です。ユグドラシルの方がくるまで待ちましょう」

 

 

「ごめん、海未ちゃん。そんなの、待ってられないよ」

 

 

 穂乃果は、海未の制止を振り切って走り出した。

 

 

 向かうのは、クラックをくぐって来ようとするインベスの正面。

 

 

 身体能力が強化された穂乃果は、数歩で彼らの前までたどり着くと、インベスの進行を阻むと共に彼らをヘルヘイムへと押した。

 

 

 特別鍛えているわけではないが、ドレスの恩恵で強化された怪力のおかげで、押し戻せないまでも彼らをくい止めていた。

 

 

「なにをしにきたのかわからないけど、お願い帰って!」

 

 

 そして、インベスたちに呼びかけた。

 

 

 いつも、自分のインベスに話していたように。

 

 

「ここで暴れちゃだめだよ。じゃないと、ユグドラシルの人が来て・・・・・・」

 

 

 穂乃果は、赤い騎士のことを思い出す。

 

 

 そして、彼女が目の前で見ていた光景を思い出す。

 

 

 インベスが腹部を突き刺され、苦しむ様が今もありありと浮かぶ。いた。

 

 

 インベスの断末魔が、まだ耳から離れない。

 

 

 そして、インベスが塵となって消えていく様を目の当たりにしたのだ。

 

 

 怖かった。

 

 

 海未たち親友が傷つくことは、もちろん怖かった。

 

 

 でも、今はそれと同時に、目の前で友達として一緒に過ごしてきた「ほむまん」と同じインベスが目の前で息絶える光景を見るのが怖かったのだ。

 

 

 穂乃果は、彼らを救うために彼らを引き返させようとする。が、長年生活を共にしたものならともかく、全く初対面の相手に彼女の気持ちが伝わるはずもない。

 

 

「ちょっと、痛い。やめて」

 

 

 穂乃果の説得に対し、インベスは聞く耳持たず、牙を剥いたのだ。

 

 

 一番先頭にいる初級インベスは、自分を押し返そうとする穂乃果へ向かって短い、しかし強靱な腕を振り回していた。

 

 

 肩あたりで浮遊している鎧の袖によって、穂乃果は、その攻撃の直撃を免れていた。が、鋭い爪は防いでも、振り下ろされる度に襲いかかる衝撃までは防ぎきれない。

 

 

 その衝撃は、痛みとなって穂乃果の体を蝕んでいた。

 

 

「なんで、どうして聞いてくれないの? ・・・・・・ただ、傷つけたくない。傷ついてほしくないだけなのに。――きゃ」

 

 

 どうにか送り返そうとしていた穂乃果だったが、彼女に不意に横薙の一撃が襲った。

 

 

 初級インベスの攻撃は上からの衝撃が主であり、それに耐えるために縦方向の衝撃に集中していたからだろう。

 

 

 ほぼ身構えてなかった横からの衝撃に、軽い彼女の体は、たやすく浮き建物の壁に叩きつけられた。

 

 

 無双セイバーは、穂乃果が飛ばされると共に彼女の手を離れ、穂乃果が倒れ込むと共に彼女の近くに突き刺さった。

 

 

 全身に走る痛みに涙ぐむ目を開くと、彼女に一撃を加えたであろう相手柄の姿が見えた。

 

 

 その姿は、ヘルヘイムで見たものとほとんど同じ。

 

 

 彼女の目の前で殺されたものと同種のインベス。ビャッコインベスだった。

 

 

「なんで、なんでわかってくれないの?」

 

 

 押さえつけるものがなくなったインベスたちは、一斉にクラックから飛び出した。数秒もしないうちに十数匹の初級インベスと上級インベスが、決壊したダムのようになだれ込んだ。

 

 

 そして、一瞬のうちに商店街の広い道を埋め尽くした。

 

 

 穂乃果が押さえていたため、騒ぎになっていなかった。

 

 

 発見時に一緒にいた近所のおじさんは、結局あっけにとられて動けないでいたため、インベスが居ることが伝わっていなかったからだ。

 

 

 しかし、インベスが道を埋め尽くすほど出てきてしまったため、騒ぎを聞きつけた近所の人々が出てきてしまった。

 

 

「なに、あの大きいインベスは?」

 

 

「大変だ。誰か襲われてるぞ!」

 

 

「ユグドラシルへ連絡するんだ。逃げろ」

 

 

 人々は、インベスを見つけるなりパニックになっていた。

 

 

「みんな。はやく、逃げて」

 

 

 逃げ惑う周囲の声に反応し、周りに人が集まりつつあることに気づいた穂乃果は、痛む体をおして彼らとインベスとの間に割って入った。

 

 

 無双セイバーをとっている余裕はなかったため、素手でインベスに飛びかかった。

 

 

 そのままインベスを押し倒した彼女は、両脇を進もうとする二匹のインベスを片手で抑えた。

 

 

 二匹のインベスは彼女に構わず進もうとする。

 

 

 最初は穂乃果に興味も示さなかったインベスたちだったが、進行を妨害されてさすがに気が付いたようだ。

 

 

 進ませまいと踏ん張る穂乃果に対し、インベスたちは、腕を振り下ろした。

 

 

「い、痛い。……お願い、やめて。やめてってば」

 

 

 インベスたちが振り下ろす腕を受け、彼女の上体が下がる。

 

 

「穂乃果。逃げてください」

 

 

 それでも踏ん張り続け、インベスの進行を遅くする穂乃果を見て、海未は叫んだ。

 

 

 自分たちの身が危険であることは重々承知だったし、今戦える人間が穂乃果しかいないこともわかっていた。

 

 

 でも、そんなことは関係なく、友達を戦わせたいと思う人間なんていない。

 

 

 海未は、たとえ自分が危険な目にあうことになろうとも、穂乃果が傷つくところを見たくなかったのだ。

 

 

「おねがい。・・・・・・誰か、助けて・・・・・・」

 

 

 助けに行きたい。

 

 

 海未は、そう願うも動けなかった。

 

 

 助けに行きたかったが、行ったところで役に立たないことがわかっていた。それどころか、自分が無茶なことをすれば、それだけ穂乃果が危険な目に遭うことは分かり切っていた。

 

 

 だから海未には、だだ祈ることしかできなかった。

 

 

 穂乃果を助けられるだけの力を持った誰かの助けを・・・・・・。

 

 

 

 

 

「海未、逃げろ!」

 

 

「え?」

 

 

 レンジの声に、海未は自らにも危険が迫っていることに気づく。

 

 

 いくらドレスで強化されていても穂乃果は一人なのだ。

 

 

 どんなにがんばっても、一人で押さえられる数は限られている。

 

 

 穂乃果を避けて進み出ていたインベスが、海未たちの方へと向かってきていたのだ。

 

 

「穂乃果!!」

 

 

 

 

 

「奴の言うとおりになったことは癪だが、マークしておいて正解だったようだな」

 

 

 

 

 

「な、その声は・・・・・・」

 

 

 穂乃果に腕を振り下ろそうとしていた上級インベスが、横っ飛び飛ぶ。

 

 

 そのすぐ後に、黒い陰が彼女たちの視界に飛び込んだ。

 

 

 黒いジャケットをマントのようにたなびかせ、彼は悠々と立っていた。

 

 

「駆紋、戒斗・・・・・・」

 

 

「やはり、俺の予想は正しかったようだな。園田海未」

 

 

「あなた。私たちの後をつけていたのですか!?」

 

 

「正確には、俺の部下が、だがな」

 

 

「あなたたちは・・・・・・」

 

 

 海未たちを助けてくれたはずの彼を、海未は敵でも見るような顔で睨んでいた。

 

 

 彼女を助けた戒斗は、そんな彼女を一瞥した。

 

 

 彼女の表情を見た戒斗は、特に表情を変えずに睨む彼女を鼻で笑った。

 

 

「何だ、その不満そうな態度は。俺も、あの姑息なやり方は気に食わんが、結果、貴様等はまだ無事に生きている。貴様等からの礼など欲しくもないが、憎まれる筋合いはない」

 

 

「……」

 

 

 助けてもらったにもかかわらず理不尽な態度をとっていると自覚のある海未は、ぐうの音も出ず黙って睨む。

 

 

 そんな言い返せない彼女を見て戒斗は満足したのか、視線を移した。

 

 

「さて。証拠はつかんだ。話を聞こうか、高坂穂乃果」

 

 

 いつから彼がそこにいたのかは定かではなかったが、そこまで言うということは、変身の瞬間から見ていたのかもしれない。

 

 

 だとすれば穂乃果が危険な時もただ見ていたのではないかと考え、非難の視線を向ける海未をよそに、戒斗は穂乃果の方を向いた。。

 

 

「――くそっ」

 

 

 戒斗が穂乃果に近づこうとしたとき、インベスが戒斗に襲いかかった。

 

 

 回避を余儀なくされた戒斗は、とっさに後ろに下がって飛びかかってきたインベスをやり過ごす。そのインベスを踏み台にし、さらに後ろへターンしながら続いて襲ってきたインベスを避けた。

 

 

 インベスたちには穂乃果を守るような意志は毛頭なかったが、自分と穂乃果の間に立ちふさがるようになだれ込んできた初級インベスに、彼は舌打ちをした。

 

 

「群をなし、徒党を組む。人間もインベスも、弱者は同じか」

 

 

 戒斗は、一般人からすれば明らかな強者であるインベスたちを弱者と断じると、懐から何かを取り出した。

 

 

「弱者は強者に淘汰されるのみ。邪魔をするなら容赦はしない」

 

 

 彼は、取り出した黒い湾曲した板状のものを腰にあてがった。すると黒い物体の端から光の帯が伸び、彼の腰に巻き付いた。

 

 

 それは、穂乃果が変身の際に使用したユグドラの形状と酷似していた。

 

 

 いや、正確には、穂乃果のユグドラが彼のものに酷似しているという表現の方が正しい。

 

 

 なぜなら、戒斗が身につけたものは、ユグドラの試作機として作られたものだからだ。

 

 

 ユグドラに搭載されているヘルヘイム環境に対する適応機能とともに、

 

 

 インベスに対抗するための武装を搭載したドライバー。

 

 

 かつて、戒斗を含む五人が使用していた、戦極ドライバーだ。

 

 

 戒斗は、ドライバーを装着すると、今度はロックシードを取り出した。

 

 

 そのロックシードに描かれているのは、黄色く細長い果実の房だ。

 

 

「変身」

 

 

「バナナ!!」

 

 

 彼は呟き、ロックシードを解錠する。

 

 

 解錠すると、ロックシードが自らを高らかに宣言した。すると、その宣言に呼応するように頭上にクラックが開き、金属らしき塊が姿を現した。

 

 

 その塊は、ロックシードが宣言した通り、バナナの一房のような形をしていた。

 

 

 彼は、持ち上がった掛け金に指を引っかけて一回転させた後、腰のドライバーのドライブベイに押し込む。数々の戦いの中、体に染み着いた動作で掛け金をおろす。

 

 

「ロックオン!!」

 

 

 ロックシードが固定されると、戦国ドライバーはファンファーレを奏で始める。変身までの行程をほとんど完了し、装着者にゆだねていることを表す待機音。それが高らかに鳴り響く中彼は、カッティングベレードの柄を引き上げ、ロックシードのキャストパットを展開した。

 

 

「カモン。バナナアームズ! ナイトオブスピア!!」

 

 

 彼の行った最後の行程を経て、電子音と共に頭上の塊が彼の頭に覆い被さるように飛来した。

 

 

「ば、ばなな?」

 

 

 戒斗の変身を目の当たりにした海未たち。

 

 

 いくつもの戦いをくぐり抜けて来た歴戦の騎士を前に、彼女たちが漏らしたのは、畏怖ではなく、素っ頓狂な驚きの声だった。

 

 

 頭上から落下した金属のバナナを被った戒斗は、そのバナナを被ったまま歩き出したからだ。

 

 

 その姿からは、騎士のような勇ましさも、貴族のような高貴さも感じられない。

 

 

 その姿は、バナナをそのまま頭とすげ替えたようなお化けだった。

 

 

「何ですかあれ」

 

 

「あのバナナ。ほんとに強いのか」

 

 

 海未と憐次は、ついつい疑問を漏らしてしまう。それに反応してか、バナナが彼女たちの方を向いた。

 

 

 そこで、やっとバナナに変化が現れた。

 

 

 三分割されたバナナは、両端部分がそれぞれの肩に、そして真ん中の部分が前後に分かれ、背中と胸を守る装甲となった。

 

 

「バナナではない。バロンだ!!」

 

 

 バナナの展開が終了すると、戒斗は、海未たちがヘルヘイムで出会った騎士と同じ姿となっていた。

 

 

 三人がバナナで被った彼を見てつぶやいた言葉が気に障ったようだ。いつの間にか、彼の手には、白い槍が握られていた。

 

 

 槍の先は白く皮をむいた中身のようで、柄は黄色い皮のよう。

 

 

 バナナアームズ専用武器である剥き身のバナナを象った槍、「バナスピア」だ。

 

 

 変身した直後の彼に、インベス後ろから飛びかかった。彼の死角からの攻撃だったが、彼は一瞥もすることなく手に持った槍を振るった。その一撃は、不意打ちを仕掛けたインベスを弾き飛ばした。

 

 

「貴様らは引っ込んでいろ。戦う覚悟のない奴が立ち入っていい場所ではない。……貴様もだ。高坂穂乃果」

 

 

 周りのインベスを一蹴したバロンこと戒斗の視線は、同じ場でインベスともみ合っている穂乃果へと向けられていた。

 

 

 その穂乃果は、いまだインベスを倒そうとはせず、クラックに押し込もうとしていたのだ。

 

 

「いやです。だって、戒斗先生はまた、この子たちを……殺すんでしょ」

 

 

「ふん。死ぬのはそいつが弱かったというだけのことだ」

 

 

「強い、弱いって。そんなことで決めていいことなわけないじゃないですか」

 

 

 目の前で平然とインベスを殺して見せた戒斗に問う穂乃果。

 

 

 その問いに戒斗は、あたかも当たり前というように平然と答えた。

 

 

 その答えは、インベスをできる限り傷つけずに帰したいと願う穂乃果には許せないものだった。

 

 

「またこの子たちを話もせずに傷つけようとするなら、先生こそ帰ってください」

 

 

 そんな、彼女の言葉を小馬鹿にしたような表情で笑う。

 

 

「ふん。弱者の言い分だな」

 

 

「弱者弱者って、強さがそんなに大事なことですか? いいから、帰ってください」

 

 

「ほう? では、俺が出てきていなかったとしたら、こいつらはどうなっていた?」

 

 

 戒斗は、海未たちを指した。

 

 

「そ、それは……」

 

 

 それを見て、穂乃果は言いよどむ。

 

 

 さっき、襲われそうになった海未たちを救ったのはほかでもない。戒斗なのだ。

 

 

 穂乃果は、インベスたちの対処に追われ、助けに入れる状況ではなかった。

 

 

 戒斗が割って入らなければ、海未たちはインベスたちに襲われ、ただでは済まなかっただろう。

 

 

「仲間は守りたい。同時にインベスも助けたい。そんなできもしない綺麗事を並べ、結局なにもできていないどころか仲間をも危険にさらしてきる」

 

 

「っでも、話もしないまま一方的になんて・・・・・・」

 

 

「話など通じるものか。貴様は、さっきからインベスを説得しようとしていたが、どうだ。その中の一匹でも言うことに耳を傾けたものがいるか。話すどころか、貴様を牙を剥いたのではないのか」

 

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 

 穂乃果は、戒斗の言葉にたじろいだ。

 

 

 いままで彼女は、インベスに対し、家族や友達のように接してきた。

 

 

 今でも自分のインベスに対してペットに持つような愛情を示す人は少なくない。それに、実際彼女のインベスは、彼女と彼女の親友を助ける為に動いた。

 

 

 そんな今までの出来事が、彼女にフィルターを掛けてしまっていたのだ。

 

 

 インベスでも、話を聞いてくれるものはいる。親身になって接すれば、きっとわかってくれると。

 

 

 しかし、そのフィルターが解かれたとき、穂乃果の目に映った世界は今まで見てきた世界とは全く別物となっていた。

 

 

 目の前にいるのは、醜い怪物。あるのは、彼女と彼女の親友たちを傷つけようとしたという事実。

 

 

「はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・」

 

 

 息が荒くなる。

 

 

 頭が痛い。

 

 

 頭を押さえながら、穂乃果はうずくまる。

 

 

「しっかりしてください。穂乃果」

 

 

 海未が、突然うずくまった穂乃果へ叫ぶ。

 

 

「穂乃果! ――きゃっ」

 

 

「世話の焼ける。――っくそ」

 

 

 再びインベスに囲まれている海未たちを見かね、助けに入ろうとしたバロンだったが、横からのインベスの不意打ちを受けて断念した。

 

 

 バロンは、咄嗟にバナスピアで一撃を受けると共に後ろに飛んで衝撃を殺した。着地と同時にインベスに向き直ったバロンは、自分に不意打ちを浴びせたインベスの姿を確認した。

 

 

 姿を現したのは、二匹のビャッコインベス。上級インベスだ。

 

 

 いくらバロンであっても、上級インベス二匹を正面から一撃で倒すことはできないようだ。

 

 

 戒斗は、頭を抱えたままの穂乃果に檄を飛ばした。

 

 

「高坂穂乃果。友を救いたければ覚悟を決めろ」

 

 

「でも、私は・・・・・・」

 

 

「さっさと選べ。戦いは貴様など待たんぞ。貴様が救いたいのは、人類に害をなす怪物か。それとも貴様の友か」

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

 

 

 戒斗が迫る非情な選択に、穂乃果の崩れ落ちた。

 

 

 表情は垂れた髪によって隠される。

 

 

 髪の隙間から、唇の動きだけが見えた。

 

 

「・・・・・・して・・・・・・、・・・・・・てくれ・・・・・・ね」

 

 

「穂乃果、大丈夫ですか? 早くこち、らに・・・・・・」

 

 

 穂乃果の絶叫が止まると、何かを呟いた。

 

 

 その声を聞き逃さなかった海未は、穂乃果を連れ戻そうとする。

 

 

 が、海未は言葉を切った。

 

 

 垂れ下がった髪で表情が見えない。それでも、彼女の雰囲気が変わったことは容易にわかった。

 

 

「・・・・・・どうしても、聞いてくれないんだね」

 

 

 飛びかかったインベスが突然はじきとばされた。

 

 

 見ると、さっきまでうずくまって動けずにいた穂乃果が、腕を振り抜いていた。

 

 

 そして、その手には、鋭き刃を持った刀「無双セイバー」が握られていた。

 

 

「穂乃果、がんばったんだよ。インベスたちのことも傷つけたくないって、がんばったんだよ。でも・・・・・・」

 

 

「ほ、のか・・・・・・」

 

 

「そっちがぜんぜん聞いてくれないなら、・・・・・・もう、むりだよ」

 

 

 彼女は泣いていた。目からは滝のように涙を流し、涙の伝ったところには、赤い筋が浮かび上がっていた。

 

 

 泣きながら、彼女は無双セイバーを構える。

 

 

「てやぁ!!」

 

 

 今まで、インベスたちの攻撃を受け止めるために使っていた刀を振り上げ、インベスに振り下ろしたのだ。

 

 

 彼女の剣撃を受けたインベスは、火花を散らしながら後ろに倒れる。

 

 

 切られた部分を押さえ、うめくインベスに向かって、彼女は告げる。

 

 

「逃げるなら逃げて。帰るなら帰って。・・・・・・でも、これ以上やるなら」

 

 

 彼女は、無双セイバーを握る力を強める。

 

 

 ギリギリと音を立てるほどに強く握られた手を見つめ、そして、振り下ろした。

 

 

「海未ちゃんやことりちゃん、レン君を。穂乃果の親友を傷つけようとするなら、・・・・・・あなたたちを、絶対に許さない」

 

 

 無双セイバーを後ろ手に構え、穂乃果は走り出す。

 

 

「邪魔をしないで!」

 

 

 未だ、彼女の前には、インベスたちが彼女に向かってきていた。

 

 

 しかし、彼女の目に映るのは、今にも襲われそうな親友の姿のみ。

 

 

 それ以外は、障害物であり邪魔者。排除する対象でしかなかった。

 

 

 目の前に立ちはだかるインベスの壁を、無双セイバーを容赦なく振り下ろし、切り開いた。

 

 

 相手はすべて初級インベスであり、彼らを傷つけないという制約もなくなったため、すぐに海未たちのもとへたどり着いた。

 

 

「せやー!」

 

 

 海未たちとインベスたちの間に滑り込むと、穂乃は無双セイバーを横薙に振り切った。

 

 

 インベスたちは、彼女の一閃を受けて倒れた。

 

 

「穂乃花、あなた・・・・・・」

 

 

「大丈夫。もう危険な目には遭わせないから」

 

 

「そういうことではありません。もういいですから。もう戦わなくていいですからーー」

 

 

「――ごめん。すぐに、決着つけるから」

 

 

 穂乃果は海未たちに向かって大丈夫だと告げた。

 

 

 が、海未たちは誰一人、そう告げる彼女の顔を見て、安心したものはいなかった。

 

 

 穂乃果は、笑いかけたつもりだったのかもしれない。

 

 

 でも、海未たちの目に映った彼女の表情は、決して笑顔などではなかった。

 

 

 海未たちが見たのは、赤く充血した瞳と赤く筋の走った泣き顔。今にも壊れてしまうのではないかと思わせる絶望に染まった顔だった。

 

 

 海未は、そんな彼女を見て、すがりつくように懇願した。

 

 

 その表情から、とうに心が限界を迎えているのにも関わらず、さらに一線を越えようとしていることがわかったからだ。

 

 

 越えてしまったら、きっともう戻ってくることができない一線。海未は、それを踏み越えさせまいと彼女の手を取ろうと手を伸ばす。

 

 

 が、その手は空を切った。

 

 

 もう、穂乃果には彼女の声すら届かない。

 

 

 ただ、守らなければと。親友に害をなす存在を排除しなければと。そんな強迫観念にとりつかれていたのだ。

 

 

 穂乃果は、今にも倒れそうな状態で、海未たちに背を向けた。

 

 

 穂乃果が斬り伏せたインベスが立ち上がり始めたのだ。

 

 

「・・・・・・大橙丸」

 

 

 よろよろと彼女たちの方へ向かってくるインベス。

 

 

 彼らを見据えながら、穂乃果は、オレンジロックシードの専用装備を呼び出す。

 

 

 それを左手でつかむと、右手に持っていた無双セイバーの柄部分に連結する。

 

 

 柄の両側に刃を備えたナギナタモードと化した無双セイバーを構えると、右手で髪飾りに触れた。

 

 

 すると、オレンジの髪飾りからロックシードが出て、彼女の手に収まった。

 

 

「ロックオフ」

 

 

 ロックシードのキャストパットは開いたままであり、変身を維持したままの状態だ。

 

 

 そのロックシードを、無双セイバーの鍔部分に存在するくぼみに押し込み、ドライバーでしたように掛け金を降ろし固定した。

 

 

「ロックオン!」

 

 

 接続が完了したことを知らせる声を聞き穂乃果は、無双セイバーを構えた。

 

 

 無双セイバーにロックシードを接続したため、ドライバーを介してではなく、ロックシードから直接エナジーを引き出すことができる。

 

 

「一、十、百、・・・・・・」

 

 

 無双セイバーに取り付けたロックシードから、オレンジ色の光が無双セイバーに吸い出される。

 

 

 ロックシードの光がやや小さくなるにつれ、無双セイバーとその柄から伸びる大橙丸の刃がオレンジ色に輝いていく。

 

 

「・・・・・・千、オレンジチャージ!!」

 

 

 限界値までエナジーの充填を完したのを確認するや否や、穂乃果は大橙丸部分少し離れた位置にいるインベスたちに向かって振るった。

 

 

 今の位置では、穂乃果の刃がインベスたちに当たるはずはない。

 

 

 が、穂乃果は一切の迷いなく刃を振るった。

 

 

 穂乃果の振るった刃の意味はすぐにわかった。

 

 

 オレンジに輝く大橙丸の刃から光の刃が飛び、さらにそれはインベスたちに当たると共に光球と化し、インベスたちを拘束したのだ。

 

 

 最初の大橙丸での斬撃は、インベスにダメージを与えるためのものではなかった。

 

 

 それは、次の一撃の為の布石。

 

 

 続く本命を確実に当てための準備だったのだ。

 

 

「あなたたちがいけないんだよ。いくら言っても暴れるから」

 

 

 それが、穂乃果がインベスたちに対しての最後の勧告だった。

 

 

 拘束されて動くことのできないインベスたちを前に穂乃果は、無双セイバーを振りかぶった。

 

 

 最後の一撃を与えるため、穂乃果は一歩足を進めた。

 

 

「だめです。穂乃果」

 

 

 が、彼女はその足を止めた。

 

 

 彼女を抱きつくようにして止めたのは、彼女がかばっていた海未だった。

 

 

「離して、海未ちゃん。もうすぐ終わらせるから、もう少しだけ……」

 

 

「やめてください。それ以上してしまったら……」

 

 

 穂乃果は、インベスたちに最後の一撃を加えるため海未を振りほどこうとするが、海未は頑として離さない。

 

 

 今の穂乃果の力なら、普通の女子高生でしかない海未は決して振りほどけない相手ではない。しかし力ずくで振りほどいてしまったなら、海未を傷つけてしまう恐れがあったために穂乃果は彼女を振り払うことができなかった。

 

 

「海未ちゃん。お願いだから、離して」

 

 

「いえ、離しません。……穂乃果ももう、やめてください」

 

 

 

 

 

『バナナスカッシュ!!』

 

 

 

 

 

 少し離れたところで、ビャッコインベス二匹と戦っていたバロンのほうから、技名が聞こえてきた。

 

 

 海未が振り向くとちょうど、黄色い光をまとった彼の槍が、二匹のビャッコインベスの腹部を貫いているところだった。

 

 

 バロンが、突き刺したバナスピアを抜き去ると、インベスたちは力なく倒れ、爆散した。

 

 

「貴様ら。戦闘の最中で、何をやっている!!」

 

 

 バロンは、穂乃果と彼女を掴んで離さない海未に向かって叫ぶ。

 

 

 拘束してから、数秒が経ったことで、インベスたちを止めていた力が弱まっていた。

 

 

 中でインベスが暴れると共に光球にひびが入り、何匹かは光球を抜け出しつつあった。

 

 

「退いていろ」

 

 

 穂乃果たちとインベスの間に入ったバロンは、カッティングブレードを三回降ろした。

 

 

 

 

 

『カモン! バナナスパーキング!!』

 

 

 

 

 

 アーマードライダーは、それぞれカッティングブレードの降ろす回数によって三つの攻撃バリエーションを使うことができる。

 

 

『バナナスカッシュ』が敵単体に対する技なのに対し『バナナスパーキンング』は複数の敵に対する技だ。

 

 

 バナスピアには、ドライバーを介して吸い出されらエナジーが集まる。

 

 

 エナジーを充填したバナスピアは、黄色い光の槍と化した。

 

 

 バロンは、その光の槍を大量のインベスへではなく、地面に突き立てた。

 

 

 あらぬ方向へと突き立てられたバナスピア。

 

 

 一見理解しがたい行動を取ったバロンだが、彼がそんな無意味な行動をとるはずがない。

 

 

 今インベスたちが立っている地面が黄色く発光し、そして複数のバナナを象った光が地面か次々と伸びた。

 

 

 光の槍に貫かれたインベスは、つぎつぎと爆発していった。

 

 

 普通一匹ずつにしか攻撃を与えられないところを、複数を同時に倒して見せたのだ。

 

 

 複数体が同時に爆発したことによって起きた爆風を至近距離で受けた穂乃果と海未は、反射で目をつむる。

 

 

 爆風が収まって二人が目を開けると、目の前に群がっていたインベスは、一匹残らず居なくなっていた。

 

 

 一気に緊張が解け、穂乃果と海未はその場に崩れ落ちた。




本編は、どうだったでしょうか? 幸村です。

今回は、インベスをヘルヘイムへ帰そうとする穂乃果が理想と現実の差をたたきつけられてしまう話でした。
今まで意思疎通のできていたために、話せば聞いてくれると信じていた穂乃果。
ですが、話を伝わらないインベスを前に、穂乃果はついに刃を向けてしまいます。

今回は、海未よって止められましたが、この先どのようにインベスと向き合っていくのか。
お楽しみに


そういえば、仮面ライダーエグゼイドが始まっていますね。
ゲームが題材となっているこのライダー。
Lvと聞いて、シンしか思いつきませんでした。

エグゼイドでも、コラボさせたい作品が思いついたので、余裕ができたら書いていきたいと思います

ではでは

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