distant day/dream   作:ナチュルの苗木

8 / 36
チェーン6  支配者

 ツカサ LP4000 手札×1

場 ナチュル・ビースト

  伏せ × 2

 

 イオ  LP4000 手札×5

場 無し

  無し

 

「さあいくぜ『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』! お前が『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』として全てを支配し、俺の動きを封じモンスターを制限、フィールドの全てを『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』するなら! 俺が『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』を打ち破り『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』の支配から皆を解放し『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』なんて概念ぶち壊してやる!」

 

「おいちょっと待てそれは馬鹿にしてるだろ!?」

 

 世間的にどうなのだろう。歓声からすれば店長の言うとおり格好良い渾名なのかもと露ほどは思ってしまったが、こんな煽りを受けるならばやはり格好良くないのかもしれない。

 

(『『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』する』ってなんだよ……。動詞じゃねえよ……)

 

「格好良いぜ『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』!。俺もこういう二つ名が欲しい!」

 

「……」

 

 ツカサは世間や流行に疎い方である。

 基本的に遊戯王第一で他の事への関心は薄いし、周りの流行やセオリーを気にしない。デッキだって流行りのビートダウンでなくロックを交えた罠主体のトリッキーなものだ。我が道を行く、そんなツカサだ。

 だから世間の感覚がよくわからなかった。

 

 店長のセンスが普通なのか、どうなのか。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 気を取り直して。決闘は2ターン目、相手の初動である。

 

 今までの試合からしてイオのデッキは『ジェムナイト』。融合モンスター主力のビートダウンデッキだ。

 融合モンスターという事は基本的に融合魔法カードを必要とする。

 それに対してツカサの立てた対策は、『魔法カードを使わせない』、だった。

 これで相手は上級モンスターが召喚できなくなる。そう踏んだのだ。

 

 だが相手もかなりの実力者。予選を勝ち抜き、この大会を勝ち進んできた猛者。

 

 当然、その対策は用意してきている。

 

「俺は手札からジェムナイト・アレキサンドを召喚。ジェムナイト・アレキサンドの効果発動、こいつをリリースしてデッキからジェムナイト・クリスタを特殊召喚!」

 

《ジェムナイト・アレキサンド》

効果モンスター

星4/地属性/岩石族/攻1800/守1200

(1):このカードをリリースして発動できる。

デッキから「ジェムナイト」通常モンスター1体を特殊召喚する。

 

《ジェムナイト・クリスタ》

通常モンスター

星7/地属性/岩石族/攻2450/守1950

クリスタルパワーを最適化し、戦闘力に変えて戦うジェムナイトの上級戦士。

その高い攻撃力で敵を圧倒するぞ。

しかし、その最適化には限界を感じる事も多く、仲間たちとの結束を大切にしている。

 

 イオが召喚してきたのは通常モンスター、ジェムナイト・クリスタ。攻撃力は2450と、ナチュル・ビーストを上回る数値だ。

 

 なるほど。ツカサは相槌を打つ。

 

 モンスターで融合を封じたが、これは単純な話。融合召喚以外でそのモンスターを倒せるモンスターを出せばいいのだ。

 ここに至るまでの決闘でナチュル・ビーストの攻撃力は露見していた。

 イオはナチュル・ビーストならこの方法で倒せると備えていたのだ。

 

「罠発動、奈落の落とし穴」

 

 対策の対策。ツカサはそれを奈落の落とし穴で処理する。

 

 もはや定番。お馴染みの罠カードが発動し、水晶の戦士は穴へと消えた。

 

「ああっ、俺のジェムナイト・クリスタが!」

 

 イオはショックを受けた顔になる。

 

『おおーーっと、流石『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』、モンスターの召喚は俺の許可を取れと言わんばかりのプレイング! 正に独裁者!』

 

「くっそー、『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』! これ以上はお前の思い通りにはさせないからな!」

 

 ノリノリの司会者とイオ。2人は高いテンションでツカサの二つ名を口にする。

 

「……」

 

 一々言う必要はあるのだろうか。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

「僕のターン、ドロー。僕は手札からティオの蟲惑魔を召喚」

 

《ティオの蟲惑魔》

効果モンスター

星4/地属性/植物族/攻1700/守1100

このカードは「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カードの効果を受けない。

このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地から「蟲惑魔」と名のついたモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚できる。

また、このカードが特殊召喚に成功した時、

自分の墓地の「ホール」または「落とし穴」と名のついた

通常罠カード1枚を選択して自分フィールド上にセットできる。

この効果でセットされたカードは、次の自分のターンのエンドフェイズ時に除外される。

「ティオの蟲惑魔」のこの効果は1ターンに1度しか発動できない。

 

 黒髪ロングの少女を模したモンスター、ティオの蟲惑魔。

 今回ツカサの墓地に蟲惑魔はいないので召喚時効果は不発である。

 少々もったいない気もしたが、手札にモンスターはこれしか残っていなかったのだから仕方ない。

 

 「バトルフェイズ、ナチュル・ビーストで直接攻撃!」

 

 相手のフィールドにモンスターはいない。3ターン目にして自分の場にモンスターを置かないのは致命的。ツカサはここぞとばかりに猛攻を仕掛けるが、やや急ぎ過ぎた節がある。もう少し落ち着いていれば攻撃の順番を変える事もできたであろうに。

 

「罠カード発動! 輝石融合!」

 

《輝石融合》

通常罠

自分の手札・フィールド上から、融合モンスターカードによって

決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、

「ジェムナイト」と名のついたその融合モンスター1体を

融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

「俺は手札のジェムナイト・アイオーラとジェムタートルを融合!

 ダイヤに次ぎし白き拳。圧倒的破壊力で敵を打ち砕け! 融合召喚! ジェムナイト・ジルコニア!」

 

《ジェムナイト・ジルコニア》

融合モンスター

星8/地属性/岩石族/攻2900/守2500

「ジェムナイト」モンスター+岩石族モンスター

 

 甲冑に身を包んだ巨体が唸りを上げた。

 効果こそないが、ジェムナイト最強の剣士、ジェムナイトマスター・ダイヤと同等の攻撃力2900を誇るモンスター。加工次第ではダイヤモンドの如き景観を見せる物体である、ジルコニウムゆえか。

 

「ちっ」

 

 ツカサは舌打ちする。それは罠カードの融合カードだった。

 

 ジェムナイトの融合カードは魔法カードに限らず、罠カードにも存在する。それはツカサも知っていたのだが、まさか初手で罠融合を引き当てているとは思っていなかった。

 いや、可能性を考慮しなかったわけではない。だが、よりにもよってこの状況でピンポイントに引き当てているとは限らない、との希望的観測だ。

 

(奈落の落とし穴は使っちゃったしな)

 

 先のターンのジェムナイト・クリスタは捨て石だったというのか。

 これも計算だとすれば中々のやり手である。やや天然気味に見られた彼だが、実は裏で細かいゲームメイクをしているのかもしれない。

 

 モンスターが現れた事により戦闘は巻き戻し。

 ナチュル・ビーストの攻撃力2200では悔しいがジェムナイト・ジルコニアには敵わない。ツカサはあえなく戦闘を中断。

 

「仕方ない、ターンエンドだ」

 

 ツカサはターンを終了する。

 

 もし先に攻撃していたのがティオの蟲惑魔だったのならばナチュル・ビーストを守備表示にする猶予はあった。結果論ではあるが、相手の罠を警戒してティオの蟲惑魔を先攻させるのもありだったかもしれない。

 

 反省会はさておき、ターンは相手へと移る。

 

「ドロー。俺は罠カード、廃石融合を発動!」

 

《廃石融合》

通常罠

(1):自分の墓地から、「ジェムナイト」融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターを除外し、

その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。

 

 またもや融合罠。ツカサは構える。

 

「俺はさっき墓地へ送ったジェムナイト・アイオーラとジェムタートルで融合!」

 

 現れたのは──2体目のジェムナイト・ジルコニア。

 

 攻撃力2900が2体。これはあまり良くない状況だ。

 ツカサはフィールドと手札を見やる。どちらにも召喚時の除去罠は無かった。

 

「ジェムナイト・ジルコニアの召喚時、罠発動。ナチュルの神星樹!」

 

《ナチュルの神星樹》

永続罠

「ナチュルの神星樹」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):自分フィールドの昆虫族・地属性モンスター1体をリリースして発動できる。

デッキからレベル4以下の植物族・地属性モンスター1体を特殊召喚する。

(2):自分フィールドの植物族・地属性モンスター1体をリリースして発動できる。

デッキからレベル4以下の昆虫族・地属性モンスター1体を特殊召喚する。

(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。

デッキから「ナチュルの神星樹」以外の「ナチュル」カード1枚を手札に加える。

 

 発動したのはツカサのデッキのキーカード。

 天を貫かんとばかりに聳え立つ巨木が決闘場内、ツカサの背後現れる。

 植物族と昆虫族を入れ替えるナチュルカードだ。

 

「場のティオの蟲惑魔を墓地へ送り、山札からアトラの蟲惑魔を召喚!」

 

 ツカサの相棒、アトラの蟲惑魔。ジェムナイト・ジルコニアに大きく劣る攻撃力だが、フィールドにいるだけでツカサは安心感を得られる。

 いくつもの戦場を共にしてきたモンスターだ。そのモンスターがフィールドにいるときのメリットはしっかりと身体に染み付いている。

 

「そいつは手札から罠を発動するモンスター! だけどもう俺はモンスターを召喚し終わってるから意味ないぜ?」

 

 モンスター召喚の後に召喚されたアトラの蟲惑魔に反応するイオ。

 

 だがツカサの目的は召喚の妨害ではない。

 

 さて、ここでツカサが気がかりにしていたのは、モンスターの攻撃順序であった。

 最初のジェムナイト・ジルコニアか、後のジェムナイト・ジルコニアか。

 結果事態こそ変わらないが、発動タイミングが変わってくる。

 

「バトル、ジェムナイト・ジルコニアでナチュル・ビーストを攻撃!」

 

 先に攻撃してきたのは後から召喚された方。

 そう確認すると手札に手を付けた。

 

「手札から罠発動! 串刺しの落とし穴!」

 

《串刺しの落とし穴》

通常罠

(1):このターンに召喚・特殊召喚された相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その攻撃モンスターを破壊し、

そのモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。

 

「結局手札から罠か!」

 

 ジェムナイト・ジルコニアはその巨躯を駆使し抗うが、落とし穴は無慈悲にモンスターを飲み込み貫いた。

 そして効果ダメージがイオへ。

 

イオ LP 4000 → 2550

 

「くっ……! だがもうお前には手札はない、いくらそいつがいようと罠はない!」

 

 イオはアトラの蟲惑魔を指した。

 事実ツカサの手札は0枚。魔法罠ゾーンもナチュルの神星樹の1枚である。

 もう攻撃を防ぐ手立てはない。

 

「もう1体のジェムナイト・ジルコニアでナチュル・ビーストを攻撃!」

 

 魔の獣も攻撃に応じるが、戦力差は数値にして700。

 ナチュル・ビーストはジェムナイト・ジルコニアの巨腕に押し潰され、その数値分のダメージが余波としてツカサに届く。

 

ツカサ LP 4000 → 3300

 

「俺のバトルなのに俺の方がダメージ食らってるのか……よし、魔法カード、ジェムナイト・フュージョン!」

 

 

《ジェムナイト・フュージョン》

通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、

「ジェムナイト」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、

その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、

自分の墓地の「ジェムナイト」モンスター1体を除外して発動できる。

墓地のこのカードを手札に加える。

 

 ナチュル・ビーストの支配下から外れたジェムナイトの純正融合カードがその効果を発動した。

 

「俺は手札のジェムナイト・ラピスとフィールドのジェムナイト・ジルコニアを融合!

 邪を祓う碧き石、乙女の意志と共にフィールドで輝け! 融合召喚、ジェムナイトレディ・ラピスラズリ!」

 

《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》

融合・効果モンスター

星5/地属性/岩石族/攻2400/守1000

「ジェムナイト・ラピス」+「ジェムナイト」モンスター

このカードは上記カードを融合素材にした融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

自分は「ジェムナイトレディ・ラピスラズリ」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

デッキ・エクストラデッキから「ジェムナイト」モンスター1体を墓地へ送り、

フィールドの特殊召喚されたモンスターの数×500ダメージを相手に与える。

 

 ジェムナイト少数の女性型モンスター。

 ジェムナイト・ジルコニアを素材にしてしまった割には攻撃力が2400と下がってしまっているものの、その効果は強力。

 

「ジェムナイトレディ・ラピスラズリの効果発動、エクストラデッキからジェムナイト・アメジスを墓地へ送り、1000ポイントダメージ」

 

「くっ!」

 

 特殊召喚されたモンスターはジェムナイトレディ・ラピスラズリとアトラの蟲惑魔の2枚、よってツカサは1000のダメージを受ける。

 

ツカサ LP 3300 → 2300

 

「これで俺の与えたダメージの方が上だ!」

 

 ツカサを指差すイオ。どうやら負けず嫌いな性格のようだ。

 

「これでターンエンド!」

 

 

「ドロー」

 

 手札無きツカサはすぐさまカードを引いた。引いたカードは一発逆転のカードではないが、凌ぐ事はできそうだ。

 

「バックにカードを1枚。……それからナチュル神星樹の効果でアトラの蟲惑魔を墓地へ。デッキからティオの蟲惑魔を召喚」

 

 ティオの蟲惑魔と交代で出てきたアトラの蟲惑魔。今回再度のティオの蟲惑魔との入れ替わりだ。

 

「ティオの蟲惑魔の特殊召喚効果で墓地の奈落の落とし穴を伏せる」

 

「げっ」

 

 イオが露骨に嫌そうな顔をした。

 決闘をしていて気づいたが、この男、天然で正直者なのだ。基本嘘は付けないし、卑怯な事はしない真っ直ぐな少年。そんな印象だ。──だからこそ、裏にどんな戦法を秘めているか読めず、怖いのだが。

 

 ひとまずこれで牽制にはなるだろう。モンスターの追加は薄いと見る。

 

 まあイオもツカサと同じく手札はもう無いのだが。

 だが手札1枚から驚異的な展開を見せる少女もいたのだ、備えておいて損はない。

 

「これ以上出来る事はないね。ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー。……その奈落は待ってれば消えるんだよな! よし、とりあえずジェムナイトレディ・ラピスラズリの効果発動! 1000ダメージ!」

 

ツカサ LP 2300 → 1300

 

 ツカサのライフポイントが減少する。そろそろ身の危険を感じる。

 

(うーん、ダメージ・ダイエットかホーリーライフバリアーが欲しいな……いや、今来ても困るな)

 

 ダメージ削減カードを思い浮かべたツカサだったが、それならば除去カードの方が優先だと思い直す。

 

 だが実際問題、除去カードが来ても解決はしない。

 現在ツカサは手札0枚。攻め手が足りないのだ。

 手札無し、ライフ1300、相手には攻撃力2400のバーンモンスター。

 整理してみると危機的状況であるが、反してツカサは自分でも驚くほど落ち着いていた。

 

(なんでだろうな。こんな状況だけど、焦りはない。負けるとは、思わない)

 

 ツカサは笑う。込み上げるのは自信。

 

「とりあえずナチュルの神星樹の効果でティオの蟲惑魔を墓地に送りトリオンの蟲惑魔を召喚」

 

《トリオンの蟲惑魔》

効果モンスター

星4/地属性/昆虫族/攻1600/守1200

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

デッキから「ホール」通常罠カードまたは「落とし穴」通常罠カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが特殊召喚に成功した場合、

相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動する。

その相手のカードを破壊する。

(3):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、

「ホール」通常罠及び「落とし穴」通常罠カードの効果を受けない。

 

 流れに横槍を入れるように罠を発動させる。

 特殊召喚されたトリオンだが、イオのフィールドに伏せカードはもう無い。その効果は不発である。

 攻撃力だってティオの蟲惑魔に劣る。この状況での進展はない行動だが、これはデッキを回転させる意味では無駄ではないだろう。

 

「バトル! ジェムナイトレディ・ラピスラズリでトリオンの蟲惑魔を攻撃!」

 

「罠発動、マジカルシルクハット!」

 

《マジカルシルクハット》

通常罠

(1):相手バトルフェイズに発動できる。

デッキから魔法・罠カード2枚を選び、

そのカード2枚を通常モンスターカード扱い(攻/守0)として、

自分フィールドのモンスター1体と合わせてシャッフルして裏側守備表示でセットする。

この効果でデッキから特殊召喚したカードはバトルフェイズの間しか存在できず、

バトルフェイズ終了時に破壊される。

 

「そうだな……スキルプリズナーと、光の護封霊剣でいいかな」

 

 ツカサは2枚をイオに提示すると、フィールドのトリオンの蟲惑魔と混ぜ、裏側に並べた。

 対応し、決闘場ではモンスターカードと罠カードを交えた3つのシルクハットがシャッフルされる。

 

「お前いきなり何して……罠カードとモンスターを混ぜるなよ!」

 

「マジカルシルクハットは罠カードをモンスターゾーンに置くカードだ。問題はないよ」

 

『『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』、今度は罠カードをモンスターゾーンに置くという暴挙に出たぞぉ!』

 

「くっそぉ、本当にルールさえ変えちまうのかよ」

 

 司会者と掛け合うイオ。

 いささかノリが良すぎではないか。

 そろそろ一周回って『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』に慣れてきたツカサだった。決闘後日、実は格好良いんじゃね!? となるのだが、この決闘以降は特に呼ばれなくなるのは余談だ。

 

「それじゃジェムナイトレディ・ラピスラズリで真ん中を攻撃!」

 

 3枚の中心、それは光の護封霊剣だった。

 

「よし」

 

 ツカサは口角を若干上げた。

 

「くっそ、偽物か。カードを1枚セットしてターンエンド!」

 

 イオは魔法罠ゾーンにカードを1枚セットしてターンを終了した。

 伴い、マジカルシルクハットの効果は終了。トリオンの蟲惑魔を匿っていたカードは墓地へ送られる。

 

 そしてツカサのターン。

 ツカサはカードを引く。

 

「来たね」

 

 ツカサの手札には1枚の植物族モンスター。

 目当てのモンスターではないが、それと同然のカード。

 

「ローンファイア・ブロッサムを召喚! 効果で自身を生け贄に幻妖種ミトラを召喚!」

 

《ローンファイア・ブロッサム》

効果モンスター

星3/炎属性/植物族/攻 500/守1400

1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する

植物族モンスター1体をリリースして発動できる。

デッキから植物族モンスター1体を特殊召喚する。

 

《幻妖種ミトラ》

チューナー 効果モンスター

星3/地属性/植物族/攻 500/守1000

このカードをシンクロ素材とする場合、

地属性モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

自分のメインフェイズ時、フィールド上の地属性モンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターのレベルを1つ下げる。

「幻妖種ミトラ」の効果は1ターンに2度まで使用できる。

 

 ローンファイア・ブロッサムはほぼ全ての植物族をサーチできるモンスターだ。これを入れているだけでデッキの植物族を引き当てる確率を上げているようなもの。つまり、単純に目当てのカードを引くよりも難易度は低くなるわけだ。

 その利便性からツカサのデッキには3枚入っている。

 

 そしてこの幻妖種ミトラ。レベル変動効果もこれまた便利で、メインの蟲惑魔とこのカードで大体のナチュルシンクロは出せることになる。

 

「幻妖種ミトラの効果で自身の星を1つ下げる」

 

幻妖種ミトラ ☆ 3 → 2

 

「じゃあいくよ。星4 トリオンの蟲惑魔に、星2 幻妖種ミトラをチューニング!」

 

☆4 + ☆2 = ☆6

 

「異界の森に住まう古の龍よ、聖森を侵す者に裁きを! シンクロ召喚! ナチュル・パルキオン!」

 

 攻撃力2500の古龍。全ての罠を無効化する──聖域の異物に制裁下す、裁きの龍だ。

 

「バトル、ナチュル・パルキオンでジェムナイトレディ・ラピスラズリを攻撃!」

 

 ジェムナイトレディ・ラピスラズリの攻撃力は2400。2体の差はたったの100。

 古龍の波動は宝石の乙女を襲う。2体の力は拮抗するが、たった100の差が勝者を決める。ここに火事場の馬鹿力のような補正は存在しない。

 

イオ LP 2550 → 2450

 

「ターンエンド。そしてこのとき、ティオの蟲惑魔の効果で伏せられた奈落の落とし穴が除外される」

 

 奈落の落とし穴が除外される。発動こそされなかったそのカードだが、相手のモンスター召喚を躊躇、断念させた。十分な働きをしてくれたのだ。

 

「俺のターン、ドロー! よっしゃ、まだ決着は着かないぜ!」

 

 イオは高らかに言い放った。

 

 イオの手札は1枚。フィールドはセットされた魔法罠が1枚。ここからどんな逆転をしようというのか。

 

「俺は墓地のジェムナイト・フュージョンの効果を発動! 墓地のジェムナイト・ラピスを除外してジェムナイト・フュージョンを手札に!」

 

「来るか……!」

 

 相手が手札に加えた融合魔法。ドローカード1枚に伏せカードもある。

 今度はどんな融合モンスターが来るのか。

 

「俺は手札から、召喚僧サモンプリーストを召喚」

 

《召喚僧サモンプリースト》

効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻 800/守1600

(1):このカードが召喚・反転召喚に成功した場合に発動する。

このカードを守備表示にする。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

このカードはリリースできない。

(3):1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動できる。

デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。

 

 召喚僧サモンプリーストはレベル4モンスターを特殊召喚できる汎用モンスター。

 

「ジェムナイト・フュージョンを墓地へ。デッキからジェムナイト・サニクスを召喚!」

 

 ジェムナイト・フュージョンは、墓地にジェムナイトがいる限り墓地から手札に戻せるカードだ。これは召喚僧サモンプリーストとは非常に相性が良い。魔法カードを手札に戻せるのならば、それはコストを踏み倒して効果を発動できるも同然なのだ。

 

「もう一度ジェムナイト・フュージョンを墓地から戻して、融合か。……でも闇属性とジェムナイトの融合体なんていたか?」

 

「いいや、違うぜ!」

 

 ツカサの呟きを否定する。

 

「俺が融合しか使わないと思ったか?」

 

 この少年もまた、楽しそうに笑った。

 

「俺はレベル4 召喚僧サモンプリーストと、レベル4 ジェムナイト・サニクスでオーバーレイ!」

 

☆4 + ☆4 = ★4

 

「白き宝玉、その拳で脅威を打ち砕け! エクシーズ召喚、ジェムナイト・パール!」

 

《ジェムナイト・パール》

エクシーズモンスター

ランク4/地属性/岩石族/攻2600/守1900

レベル4モンスター×2

 

「エクシーズ……!」

 

 失念していた。確かに、ジェムナイトにはエクシーズモンスターがいた。

 

 ──決して闇に染まる事のない、正義の戦士が。

 

「ジェムナイト・パールか……」

 

(変わりないな)

 

 効果は無いが、その分攻撃力2600と、2体素材のエクシーズモンスターの中では強力な数値を誇る。

 

 ──普段は物腰やわらかである種族ジェムナイト。だがその中で()は仲間のピンチに対して立ち上がり、その汚れなき正義心で悪を打ち砕いた。

 

 ──その風貌は今でも忘れる事はない、大事な戦友だ。

 

「ん……?」

 

 ツカサは自分に対して疑問を抱く。

 

(……今僕は何を思った?)

 

 ──なんでこんなにこいつの事を知っている(・・・・・・・・・・・)!?

 

「ははっ、驚いたか! ジェムナイト・パールは俺の自慢の相棒だからな! 融合の裏に潜む切り札だ!」

 

 自慢気はイオだが、ツカサの注意は別にあった。

 

「な、なあ。僕たち、どこかで会った事ないか?」

 

「ん? どうした急に」

 

 急なツカサの問いに疑問符を浮かべるイオ。

 

 ツカサは自分以外の事に少々疎い。だから、他人の事はあまり気にしない方だし、関わりの薄い人は覚えてもいない事がある。

 

「例えばどこかで決闘したこととかないか? カードショップとか。どこかで──」

 

 ──一緒に闘った事はないか?(・・・・・・・・・・・)

 

 ないな。イオは首を振る。

 

「俺の記憶にはねーな。お前みたいな強いやつ、一度闘ったら忘れるはずないぜ」

 

 それではいつの事だろう。

 

 随分と昔のような気がする。

 

 遊戯王を始めたばかりの事だろうか。それとも蟲惑魔主体の罠デッキに移行した頃だろうか。

 どちらもツカサ低迷期。慣れないデッキを上手く使えずに負けを重ねていた時期だ。

 それなら少年──イオの記憶に残っていないというのも無理もない。

 だって、当時のツカサは弱かったのだから。

 だとすればなんで自分だけがこんなにも引っかかっているのだろう。

 

 やはり、昔一度闘っているのだろうか。

 自分は印象に残らない程度に負け、彼はその場を去ったのか。有り得ない話ではない。というかそれが第一候補だ。

 それならば彼はツカサの因縁の相手という事になる。こんなにも印象的なのだ。彼に、彼のジェムナイト・パールに余程酷い負け方をしたのか。

 

 だが、一緒に闘ったような気もする。

 肩を並べて、対した相手を下したような。

 

(他人の空似か……?)

 

 印象はモンスターばかりで、イオ本人に対してはあまり記憶はない。

 まあ、それは人に興味の薄いツカサの記憶の基準がズレているが故か。

 

「とりあえず決闘に集中しようぜ。まだまだ楽しいのはこれからだろ?」

 

 イオの言葉に我に返る。

 

 そうだ、今はそんな事どうでもいい。考え事をするなら目の前の事に対してだ。

 

「バトル、ジェムナイト・パールで、ナチュル・パルキオンを攻撃!」

 

 白玉の戦士は古龍の咆哮に怯む事なく突き進み、その拳で古龍に挑みかかった。

 

 攻撃力の差はこれまた100。僅か、100。

 ただでやられるわけにはいかない。古龍にだってプライドがある。

 その身体をくねらせて第一打を交わす。そして波動が戦士へ向けられるが、戦士も憶することなく立ち向かう。

 やがて拳は古龍に決定的な一撃を入れ、古龍を沈めた。

 

ツカサ LP 1300 → 1200

 

 派手な攻防に観客が湧き上がる。

 

「ううん、強いな」

 

「だろう。俺の自慢のモンスターだぜ!」

 

 イオは拳を突き出し言う。

 

 それからターンエンドを告げ、ツカサのターン。

 

「ドロー」

 

 引いたは1枚の魔法カード。

 

 それは予定調和であったかのように自然とデッキから引き当てられた。

 

「融合かと思っていたら、エクシーズ。イオ、あんたには魅せてもらった」

 

「ああ、俺の武器は融合だけじゃない。融合とエクシーズの二刀流、それが俺だぜ!」

 

 ジェムナイト使い、イオ。

 融合使いの先入観を見事ぶち壊し、ツカサを驚かせた少年。

 

 ──ならばこちらも驚きを返そう。

 

 

「融合はあんただけの物じゃない」

 

 

「……何だと?」

 

「魔法カード、ミラクルシンクロフュージョン!」

 

《ミラクルシンクロフュージョン》

通常魔法

(1):自分のフィールド・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、

Sモンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

(2):セットされたこのカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動する。

自分はデッキから1枚ドローする。

 

「何!? 融合魔法カードだと!? お前も融合するのか!」

 

 驚愕に目を開くイオ。

 無理もない、これまでツカサは蟲惑魔と罠、ナチュルシンクロで闘ってきたのだから。

 今日このカードを見せるのは初めて。対策もなにもない。

 

「僕は墓地のナチュル・ビーストとナチュル・パルキオンを融合!

異界の森の魔の番人、異物裁く管轄者、2つを1つに、全てを統べる支配者とならん! 融合召喚、ナチュル・エクストリオ!」

 

 ナチュル・エクストリオ。ナチュルが誇るシンクロ融合モンスター。

 ナチュルシンクロモンスター2体を素材にして召喚される、レベル10、攻撃力2800の最上級モンスター。

 

 魔法を支配せし虎に、罠を支配せし龍が重なった姿。

 

「これが『理を従えし総ての支配者(エゴイスティック・ルーラー)』……!」

 

 シンクロモンスター同士の融合という滅多に見ないものを、墓地のモンスターだけで行ってしまう異常性。

 普通のルールに縛られず、特異なカードで決闘自体を支配する。

 

 そう、自分の都合のために規則をねじ曲げ、自分を邪魔せんものを排除する、勝利に飢えた者。

 自分の欲望に生き、全てを蹂躙する、そんな決闘者。

 

 ──だが少年は、決闘が欲望の為だけにあるものじゃないと、ちゃんと知っている。

 

 だから。

 支配者なんて名前は、少年には必要なかった。

 

「いいや、僕の名前はツカサだ。イオ」

 

 イオは一瞬迷うようにした後。

 

「お前も本当に強いな、ツカサ(・・・)!」

 

 思えば彼がツカサの名前を呼んだのは初めてだった。

 

 もうここには不名誉な渾名など無い、おちゃらけた雰囲気など入りこむ余地もない神聖な決闘。

 

 全ては互いの誇りと勝利のために、正々堂々と闘う。

 

「バトル! ナチュル・エクストリオでジェムナイト・パールを攻撃!」

 

 獣はまるで地を縮めたと言わんばかりの速度で戦士との距離を詰めた。感覚で察した戦士は、また距離を置く。だが、獣はその速度を超え、戦士に牙を剥いた。

 

 戦士は牙側面に防御を決める。だが牙の脅威から逃れようとも、勢い自体は無くならない。戦士はそのまま決闘場を飛ぶ。

 着地点を狙い、獣は爪を振り下ろす。

 戦士は身を転がしこれを回避。

 獣の一撃は決闘場にくっきりと爪跡を残した。

 

 戦士は攻撃の反動で僅かに硬直した獣の後ろへと周り込む。ここしかない、そう言わんばかりに戦士は拳を叩き込んだ。

 

 だが獣、獣故に背後には戦士に無いものがある。獣はその尾を持ってして一打をいなす。

 

 そして互いにはもう引く場はなかった。ほんの目の先に相手はいる。

 

 その一撃にあわせ少年達も声を荒げる。

 

 獣は爪を。戦士は拳を。二撃は正面から衝突した。

 

 

 ──戦士は光の粒子となって無惨した。

 

イオ LP 2450 → 2250

 

 静寂。2体の攻防が終わった時、決闘場には静けさが広まっていた。──いや。

 

 ──観客席を含め、会場全体が沈黙に包まれていた。

 

 数秒後、上がったのは悲鳴だった。

 

 2体の攻防が残した決闘場の無残な傷跡に対してものだ。

 

 それから、(どよめ)き。

 

 当のツカサ達も夢中になって疑問さえ持たずにいたのだが、ここで傷跡に気づく。

 

 通常、決闘に現れるモンスターはソリッドビジョンで投影されるイメージに過ぎない。

 だから、ここまで自由にモンスターが動くのはありえない事だ。それも現実の世界に影響を与えるなんて事が、あっていいはずがない。

 

『あ、ぁ──……観客の皆さん落ち着いてください。これはソリッドビジョンです。繰り返します、これはソリッドビジョンです。問題はありません』

 

 突如放送が入った。それは運営側のコールだった。

 

『本大会の決勝戦からソリッドビジョンの新たな境地、質量を持った『リアルソリッドビジョン』の実験導入を行っています。観客の皆様への通達ミスをお詫び致します──』

 

 イオもツカサも、呆気にとられたようにするしかなかった。

 

 会場全体が再度沈黙に包まれる。

 

『リアルソリッドビジョン』。そんなもの、参加者のツカサ達にも通達されていない物だった。

 

 困惑。観客、そして当の決闘者すらも取り巻く重い空気。

 だが──

 

 

 

「──ああ、そういうことか!」

 

 

 観客の誰かが呟いたのをきっかけに会場は爆発するような歓声に包まれた。

 

 海馬コーポレーションの最先端、超技術に観客は興奮を露わにした。

 

「なんだ、すごいサプライズだな」

 

 イオが言った。

 

 ツカサも、笑うしかない。

 

 言われてみれば、この決闘、モンスター達が心なしか生き生きしていたようにも思える。

 ツカサは決勝戦での感情の高ぶりで自分の見方が変わっているのかと思ったが──どうやらそういう事らしい。

 

 

「さあ、少し邪魔が入ったけど、続きだ、僕らの決闘の。僕はこのままターンエンド。あんたの番だ」

 

 ターンを譲る。互いのライフも僅か、手札も無し。それにこれまでの派手な展開でもう出し尽くした感もある。

 ツカサはこれが最後の相手ターンだと思う。

 

 

「──まだ、負けてないからな?」

 

 

 ぞくりと、背筋に何かが走った。

 

 純粋に闘いに対して言うイオの(さま)に何かを感じとる。

 

(まだだ、まだ終わらない!)

 

 ツカサは慄いた。

 

「ドロー!」

 

 勢いよく引かれたカード。

 

 そのカードは──レスキューラビット。

 

「ほら来たぜ! 逆転の一手! 真摯に決闘に向き合って、カードを信じれば最後には来るもんだ!

 俺はレスキューラビットを召喚!」

 

《レスキューラビット》

効果モンスター

星4/地属性/獣族/攻 300/守 100

「レスキューラビット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードはデッキから特殊召喚できない。

(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。

デッキからレベル4以下の同名の通常モンスター2体を特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。

 

 レスキューラビット。1枚から2枚のモンスターを生み出すカード。

 

 猫の先輩を持つ強力なモンスターだ。

 

「レスキューラビットの効果発動! 俺はデッキからジェムナイト・サフィア2体を召喚!」

 

《ジェムナイト・サフィア》

通常モンスター

星4/地属性/水族/攻 0/守2100

サファイアのパワーで水を自在に操り、

敵からの攻撃をやさしく包み込んでしまう。

その静かなる守りは仲間から信頼されているらしい。

 

 ジェムナイトモンスターが2体並ぶ。

 

「そして俺は墓地のジェムナイトレディ・ラピスラズリを除外してジェムナイト・フュージョンを手札に!」

 

 ツカサは察する。ジェムナイトモンスターがフィールドに2枚。そして、手札ジェムナイト・フュージョンの1枚。 

 ここでくるだろうと思われるのは攻撃力2900のジェムナイト・ジルコニア。

 

「魔法カード発動! ジェムナイト・フュージョン!」

 

 案の定、イオは融合カードを発動した。

 そこにツカサはしたり顔で言う。

 

「ナチュル・エクストリオの効果発動! 墓地1枚と山の上を1枚除外し、相手の魔法罠を無効にし破壊する!」

 

《ナチュル・エクストリオ》

融合・効果モンスター

星10/地属性/獣族/攻2800/守2400

「ナチュル・ビースト」+「ナチュル・パルキオン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):魔法・罠カードが発動した時、

自分の墓地のカード1枚を除外し、

デッキの一番上のカードを墓地へ送って発動できる。

このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、

その発動を無効にし破壊する。

 

 それは魔の番人であり、聖域の守護主でもある。

 魔法と罠、それらを支配せし獣。シンクロ融合モンスター、ナチュル・エクストリオ。

 

「魔法と罠、両方共無効だって!?」

 

 効果を知ったイオは驚愕した。

 だがすぐに冷静さを取り戻す。

 

「……そう簡単に融合させちゃくれないか。そうだよな、ツカサは魔法と罠のコントロールに重点を置いた決闘者。魔法罠絡みじゃ、みすみすモンスターの召喚を見逃したりしないか」

 

 ナチュル・ビーストとナチュル・パルキオン。魔法と罠を封じるモンスター。

 その2体のモンスターの融合体が、何かを妨害する効果であるのは想像に難くない。

 

 魔法カードを妨害されたイオだが、ジェムナイト・フュージョンはまた墓地から持ってこれるので実際の損失はない。

 むしろこれでツカサの隠し玉の効果を知れたのだから、大きなアドバンテージである。

 

「……ツカサのナチュル・エクストリオの効果で俺は魔法融合も罠融合もできない」

 

 でもさ。そうイオは続ける。

 

「俺は融合だけじゃない(・・・・・・・・)って、言ったよな。

 

 俺は2体で──オーバーレイ!!」

 

☆4 + ☆4 = ★4

 

「神風を受けし翠玉よ、命つかさどり墓地をも照らせ! エクシーズ召喚! ダイガスタ・エメラル!」

 

《ダイガスタ・エメラル》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/風属性/岩石族/攻1800/守 800

レベル4モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、

以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分の墓地のモンスター3体を選択して発動できる。

選択したモンスター3体をデッキに加えてシャッフルする。

その後、デッキからカードを1枚ドローする。

●効果モンスター以外の

自分の墓地のモンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

 風と共に現れたのは緑柱石の戦士。

 

 ツカサはそのモンスターを、知っていた。

 

 瞬時、頭の中に流れ込むように当時の映像が流れる。

 

 ──かつて僕はイオに──

 

「ダイガスタ・エメラルの効果、オーバーレイユニットを1つ取り除き、墓地から効果モンスター以外を特殊召喚する!」

 

 効果モンスター以外。それはつまり、効果を持たなければどんなモンスターでも出せるという事だ。

 

「俺は墓地から、ジェムナイト・ジルコニアを召喚!」

 

 加工しだいではダイヤに匹敵する程の輝きを持つジルコニウム。ジェムナイト・ジルコニアはそれを冠するモンスター。そしてダイヤモンドを冠するジェムナイトマスター・ダイヤとは後の彼の事である。

 

 このターン、イオがジェムナイト・ジルコニアを召喚するつもりだったと読んだツカサだったが、それは融合召喚で、だ。もちろんナチュル・エクストリオの効果でそれは不発。

 だが。

 ジェムナイト・ジルコニアは召喚された。しかもそれだけでない。ジェムナイト・ジルコニアと並んだダイガスタ・エメラルがいるではないか。

 これではエクストリオの破壊の後に新たにもう一撃来る事は確実。

 

「バトルだ! ジェムナイト・ジルコニアでナチュル・エクストリオを攻撃!」

 

 白石の戦士を下した獣。獣は支配者。獣の前では魔法も、罠も、無力と化す。

 そんな獣の弱点。それは、獣を超える武力である。

 

 獣は持ち前の素早さで翻弄するものの、戦士の巨体と甲冑になかなか決定打を入れられない。

 そして一瞬。理由も過程も微々たるもので、戦士の一撃が、獣に入った。

 少々の拮抗の後、獣は粒子に消える。

 

ツカサ LP 1200 → 1100

 

「……」

 

「これでラストアタックだ。俺の持つ2体のエクシーズ、その片割れだ。

 ダイガスタ・エメラルで、ダイレクトアタック!」

 

 命をつかさどる翠玉の戦士は、ツカサの命を具現化した数値(ライフポイント)を狩り尽くさんとその腕を上げ──なかった。

 

 翠玉の戦士の周りには、3振りの剣が舞っていた。

 

「罠カード、光の護封霊剣」

 

《光の護封霊剣》

永続罠

(1):相手モンスターの攻撃宣言時に1度、1000LPを払ってこの効果を発動できる。

その攻撃を無効にする。

(2):相手ターンに墓地のこのカードを除外して発動できる。

このターン、相手モンスターは直接攻撃できない。

 

「……!?」

 

 それは、ツカサがシルクハットに込めたカードだった。ジェムナイトレディ・ラピスラズリに打ち抜かれた1枚。

 

「僕の墓地のカードだよ」

 

 その効果は、直接攻撃を封じるもの。

 

「ジェムナイト・ジルコニアとナチュル・エクストリオの戦闘後に発動した。何かチェーンは?」

 

「……はは。ないよ」

 

 イオは笑った。

 

 ツカサも笑う。

 

 互いに、勝ったと思えば勝ってない。決闘はそんなものだ。慢心や確信はすぐに覆される。

 

 ──それが楽しい。

 

「お前のターンだ、ツカサ。このターンでジェムナイト・ジルコニアを倒さないと、もう次はないぜ」

 

 足掻いてみせろ、そんな誘いだ。

 

「ああ」

 

 ツカサは頷きデッキトップに手を。

 

「ドロー」

 

 ツカサのドローカードは、ティオの蟲惑魔。このデッキ3枚目のティオの蟲惑魔だ。

 このタイミングで残り1枚しかなかったティオの蟲惑魔を引けたのは幸運ゆえの偶然か。

 

 ──それとも、ツカサの運命力が起こした必然か。

 

「じゃあ、いくよ」

 

 ツカサは口元を笑わせてイオに言う。

 

「来いよ」

 

「僕は手札からティオの蟲惑魔を召喚。ティオの通常召喚時の効果は覚えているか? ──それは墓地の蟲惑魔を特殊召喚すること。墓地のトリオンの蟲惑魔を特殊召喚!」

 

 黒い長髪の蟲惑魔は、墓地より1体の蟲惑魔を呼び寄せた。

 白い短髪、赤を基調とした服装の少女型モンスターだ。それは蟲惑魔。つまりそれもまた擬似餌。本体は蟻地獄。地中に潜み獲物を喰らう幼虫だ。

 

 食虫植物と蟻地獄。並んだのは2体の捕食者。

 

 擬似餌。獲物を取るための、餌でしかないそれに、意志なんてものはない。それでも──一緒に戦おうと示すのは、本体の意向か。

 捕食者の誘い。なんて頼もしい事だろう。

 

「トリオンの蟲惑魔の効果。特殊召喚時、相手の伏せカードを1枚破壊する」

 

 

 ティオの蟲惑魔とトリオンの蟲惑魔はこの決闘の序盤でも登場している。だが2体共、その効果は不発に終わっていた。

 そしてこのターン、2体の真価がようやく発揮された。

 

 それはずっとあったカード。おそらくはナチュル・パルキオンとナチュル・エクストリオでずっと封じ続けてきたカード。

 

 1枚のブラックボックス。

 

 イオはそのカードを提示し、墓地へ送った。

 

 ──聖なるバリア-ミラーフォース-。

 

 大きな地雷を、取り除いた。

 

 不安要素は、もうない。

 

「僕は墓地のグローアップ・バルブの効果発動、山札の一番上のカードを墓地へ送り特殊召喚!」

 

《グローアップ・バルブ》

チューナー・効果モンスター

星1/地属性/植物族/攻 100/守 100

「グローアップ・バルブ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地に存在する場合に発動できる。

自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、

このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 それはナチュル・エクストリオが墓地へ送ったカード。

 墓地へ、残したカード。

 

「レベル1チューナー! 合計は……9! まさか!」

 

 

「そうだ。お魅せしよう、王者の凱旋を!」

 

 

 ツカサは片手を掲げ言う。

 

「星4 トリオンの蟲惑魔、星4 トリオンの蟲惑魔に、星1 グローアップ・バルブをチューニング!」

 

☆4 + ☆4 + ☆1 = ☆9

 

「異界の森に君臨せし王者よ、その力翳し全てを蹂躙せよ! シンクロ召喚! ナチュル・ガオドレイク!」

 

《ナチュル・ガオドレイク》

シンクロモンスター

星9/地属性/獣族/攻3000/守1800

地属性チューナー+チューナー以外の地属性モンスター1体以上

 

 獅子王。百獣の王。

 虎は龍、または亀とは違い、何かを縛る力は持たない。

 それゆえに、誰も縛らず。

 それゆえに、誰にも縛られず。

 獅子が持つのは、力。

 魔法も、罠もない、最後を決める、力。

 

 圧倒的な強者の条件、力。

 

 異界の森を象徴する力、それが獅子だ。

 

「バトルだ。ナチュル・ガオドレイクでダイガスタ・エメラルを攻撃」

 

 また蘇生されても厄介だからね。ツカサは言う。

 

 聖域の王、聖域の力は、翠玉の戦士を踏み抜いた。造作もなかった。そして言うなれば、雑作もなかった。

 無駄なく獅子は最短で戦士を駆逐した。

 

 決闘場にめり込んだ戦士は光の粒子として消える。

 

 聖森の王者は悠々と場に居座った。

 

イオ LP 2250 → 1050

 

「削りきれないな」

 

 手札補充カードの少なさを嘆きながらツカサはターンを終了。

 

「はっはっは……3000か。ここで3000か」

 

 イオは自棄的に笑う。

 

 イオのフィールドにはジェムナイト・ジルコニア1体のみ。

 その攻撃力2900では3000にはどうしても足りない。

 

 勝算は薄い。

 そんな笑いをしながらも、目は諦めていなかった。

 

「ドロー!」

 

 ここでのイオの最善はジェムナイトマスター・ダイヤの召喚。だがそのモンスタージェムナイト3体の融合体だ。とてもではないが、それを実現させるにはいつかの少女クラスの豪運が必要だ。

 

「でも、第2案くらいなら、通る。俺は墓地のジェムナイト・フュージョンを手札に! そして発動! 融合素材は、フィールドのジェムナイト・ジルコニアと、手札のジェムナイト・ルマリン!」

 

 イオが引いたのはジェムナイト・ルマリン。

 トルマリンを冠する戦士。

 そのモンスター自体は効果無しの通常モンスター。攻撃力は1600。

 

 ここで重要なのは、そのモンスターが雷族だということだ。

 

「他の力得し水晶石よ、その輝きで敵を消し去れ! 融合召喚! ジェムナイト・プリズムオーラ!」

 

《ジェムナイト・プリズムオーラ》

融合・効果モンスター

星7/地属性/雷族/攻2450/守1400

「ジェムナイト」モンスター+雷族モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

(1):1ターンに1度、手札から「ジェムナイト」カード1枚を墓地へ送り、

フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。

その表側表示のカードを破壊する。

 

 それは水晶石に他の金属を付与した加工金属。

 正義の機械より授けられた力を取り入れた宝玉の戦士。

 戦士は雷を纏い、敵へ向けるのだ。

 

 攻撃力は素材にしたジェムナイト・ジルコニアより低い2450。ジェムナイトレディ・ラピスラズリと同様にして、その真価は効果にある。

 

「俺は墓地のジェムナイト・フュージョンを手札へ! ……もうわかるな?」

 

「……ああ」

 

 頷いて返す。

 攻撃力で超えられない。なら、効果で破壊してしまえばいい。

 

 ジェムナイト・プリズムオーラは手札のジェムナイトカードと引き換えにカードを1枚破壊できる。

 獅子王の仲間にモンスター効果を封じる者もいるが──獅子自体に一切の耐性はない。

 

「俺はジェムナイト・プリズムオーラの効果発動! 手札のジェムナイト・フュージョンを墓地へ送り、ナチュル・ガオドレイクを破壊!」

 

 ジェムナイト・プリズムオーラの放った電撃は轟音と共にナチュル・ガオドレイクを飲み込んだ。

 

 閃光の後、獅子のいた場所には──そこには変わりなく、ただ獅子が座しているのみだった。

 

「スキル・プリズナー」

 

 ツカサは墓地から1枚の罠カードを取り出した。

 

「墓地……マジカルシルクハットの時のだな! 効果は……」

 

《スキル・プリズナー》

通常罠

自分フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。

このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。

また、墓地のこのカードをゲームから除外し、

自分フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。

このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。

この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「対象はナチュル・ガオドレイク。これで王者は、誰に侵されない」

 

 獅子王に放たれた電撃は、その身体に浴びせられるも、傷1つ付ける事はなかった。

 

「……ターンエンド」

 

「僕のターン、ドロー。僕はナチュル・チェリーを召喚。ナチュルの神星樹の効果で墓地へ、山札からアトラの蟲惑魔を召喚」

 

 ツカサが頷くと、アトラの蟲惑魔も頷いた。

 

「バトルフェイズ。ナチュル・ガオドレイクでジェムナイト・プリズムオーラを攻撃」

 

 獅子の一撃はたやすく戦士を破壊する。

 

イオ LP 1050 → 500

 

「アトラの蟲惑魔で直接攻撃!」

 

 アトラの蟲惑魔本体、大蜘蛛。

 擬似餌の攻撃を示唆する動きに合わせて、本体の牙が決闘場を襲った。

 

 


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