distant day/dream   作:ナチュルの苗木

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チェーン13  最終兵器

 大陸支配に進行する蟲たちとの戦いは苛烈を極めた。

 

 長い戦いの中、多くを狩り、多くが息絶え。

 終わることのない戦いがこのままずっと続くようにも思えた。いや、無限に見える敵に対しこちらは有限。

 

 このままいけばどちらが尽きるかなど分かり切ったことであった。

 そして彼らは新たな力を得るため、彼ら──口無き機械を使用したのだった。

 口の無い機械はいくつも上の性能を持っており、この状況を打破するには彼らを利用(・・)するしかなかったのだ。

 

 そうして犠牲の元開発されたのは、これまでの性能と規模を遙かに越えた巨大撃滅兵器たちである。

 

 特に浮遊砲台は──蟲との戦いに終止符を打ったA・O・Jが誇る最終兵器である。

 

 

   *

 

 

 ツカサ LP4000 手札×5

場 無し

  無し

 

 エース LP4000 手札×3

場 A・O・J カタストル

  伏せ×1

 

 場に君臨するは無情なる殺戮兵器。

 闇属性以外を全て効果破壊してしまう凶悪なモンスターを場に出し。黒いコートと金色の髪を靡かせ言った。

 

 ──お前に何ができる?

 

 明らかな挑発。安過ぎるその挑発を──ツカサは買った。

 

「僕のターン、ドロー」

 

 引いたカードを合わせて手札は6枚。

 残念ながらあまり芳しくない。意識が決闘でなく、別のところに向いている証拠だ。

 

 デッキを信じていれば必要なカードは自ずと来るもの。デッキに想いを込めなければ、勝利に誇りを賭け、真摯でなければカードは応えない。

 

 ツカサは切り替える。濁った感情でなく、決闘に対する真っ直ぐな感情へ。

 

 芳しくないとはいえ、ツカサのデッキの潤滑剤、デッキを回す上で必要不可欠なキーカードはすでに引いている。

 

 ──そして、殺戮兵器に対抗するためのカードも。

 

「僕は手札から、増援を発動! デッキからゴブリンドバーグを手札に加える」

 

《増援》

通常魔法

(1):デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。

 

「そのままゴブリンドバーグを召喚。効果で幻妖種ミトラを特殊召喚。幻妖種ミトラの効果発動、ミトラの星を1つ下げる」

 

《ゴブリンドバーグ》

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1400/守 0

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

この効果を発動した場合、このカードは守備表示になる。

 

《幻妖種ミトラ》

チューナー 効果モンスター

星3/地属性/植物族/攻 500/守1000

このカードをシンクロ素材とする場合、

地属性モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

自分のメインフェイズ時、フィールド上の地属性モンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターのレベルを1つ下げる。

「幻妖種ミトラ」の効果は1ターンに2度まで使用できる。

 

 

幻妖種ミトラ ☆ 3 → 2

 

 幻妖種ミトラはレベル変動チューナー。制限はあるものの、ナチュルシンクロモンスターならば関係なく召喚できるモンスターだ。レベルを1つ下げ、場には合計6。これでナチュル・パルキオンの召喚が可能となる。

 ゴブリンドバーグからの幻妖種ミトラ。ナチュルシンクロモンスター3種類を召喚可能にするツカサの常套手段だ。

 

 

「星4 ゴブリンドバーグに、星2 幻妖種ミトラを……」

 

 

「罠発動! DNA移植手術!」

 

 

 召喚する寸前、1枚の罠カードが発動される。

 

「属性は──『光』だ!」

 

《DNA移植手術》

永続罠

発動時に1種類の属性を宣言する。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上の全ての表側表示モンスターは自分が宣言した属性になる。

 

 エースは光属性を宣言すると、試すようにツカサを見た。

 

 ツカサはそちらを睨み、そして嗤って返す。

 

「なんでこんなタイミングで……?」

 

 動きが止まったツカサを見かね、ノドカが問う。

 

「……僕の使う『ナチュル』シンクロモンスターは地属性のモンスターでしか召喚できない──出来るな、あんた」

 

 ナチュルのシンクロモンスター達は獅子を除き、相手のカードの発動を無効化できる強力なものだ。だが強力なものに枷はつきもので、それなりの制約が存在する。ナチュルのシンクロモンスター達はどれも素材が地属性でなくてはないのだ。

 

 そして今、場のモンスターは全て光属性。狙ってやったかは定かではないが、これはツカサを封じるには有効なカードだ。

 

「どうした罠使い。続けろ」

 

 男はツカサを鋭く見据えたまま、言う。

 

 ──この男は、僕に対策を立ててきている。

 

 ツカサは笑う。

 対策を立てるということは、それなりの実力者だと認めてこその事だ。使用カードを知っているかのような口振り、それつまり多少の下調べがあってのものだ。

 コートの彼は自分を軽視するでなく、向き合い、試すように決闘に望んで来ている。

 

 それは決闘者として嬉しくもあった。

 

 だから──。

 

 期待には応えなくてはいけない。

 

「星4 ゴブリンドバーグに、星2 幻妖種ミトラをチューニング!」

 

「何……!?」

 

 エースの表情が崩れる。

 お前はシンクロ召喚は出来ないはず。そんな驚きを含んだ表情だ。

 

☆4 + ☆2 = ☆6

 

「暗黒の騎士よ。新たな力とともに大地を駆け、その双槍で打ち抜き進め! シンクロ召喚、大地の騎士ガイアナイト!」

 

《大地の騎士ガイアナイト》

シンクロモンスター

星6/地属性/戦士族/攻2600/守 800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

 

 蒼い甲冑の騎士、その愛馬が地面を力強く叩く。

 甲冑は傷こそあれど、その品格は損なわれる事なく威厳を放つ。むしろ誇るべき歴戦の証がそこには刻まれていた。

 それはデュエルモンスター最初期から存在する最上級モンスター、暗黒騎士ガイアが新たな力を得た姿。効果こそないが、レベル6で攻撃力2600は中々の数値である。

 

「大地の騎士ガイアナイト……。そんなカードもデッキにあったのか」

 

「僕はデッキのカードをよく入れ替える。それこそ決闘ごとにね。いつの僕を調べたのかしらないが、そのときと同じデッキだと思うなよ?」

 

 ツカサは言葉通り、頻繁にカードを入れ替える。それは実戦を通してカードを探求しているためでもあり、また、対策を立てられないようにするためでもある。──もっと言ってしまえば、使ってみたいカードが多すぎるから入れ替えているというのもあるのだが、それは余談だ。

 

「停滞は衰退を意味する──。ふっ、わかってるじゃないか」

 

 驚きから、楽しむ表情へと。エースは口角を上げた。

 

「それで? A・O・J カタストルの効果はどうする。DNA移植手術がある今、全てのモンスターは光属性になる。お前が何を召喚しようと全くの無意味だ。──まあもっとも、大地の騎士ガイアナイトも元は地属性だがな」

 

 痛いところを突く。

 

 実際、大地の騎士ガイアナイトではA・O・J カタストルを突破できない。身も蓋もない事を言えば流れで召喚しただけである。

 

「……カードを3枚伏せてターン終了」

 

 ツカサの場に3枚のカードが現れる。

 このとき、ツカサは不敵に嗤いつつも内心穏やかではなかった。

 

 ツカサが初手に握ることのできたデッキの潤滑剤、それはツカサのデッキの中核でもある、『ナチュル』と『蟲惑魔』を結ぶカード、ナチュルの神星樹。

 

 3枚の内1枚。伏せたものの、この状況では使用はできない。場に植物族も昆虫族もいないのも理由であるが、それ以前に、DNA移植手術の存在が大きかった。

 

 ナチュルの神星樹。それは場の植物族をデッキの昆虫族に、場の昆虫族を植物族に、それぞれ変える効果である。そしてそこにはもう1つの制限──そう、どれも地属性のモンスターでなくてはならないのだ。

 

 場のモンスターが全て光属性になる、それはすなわちこのカードが効果を失うに等しいのだ。

 

 DNA移植手術、これが存外ツカサのデッキに刺さる。

 

「俺のターン、ドロー。伏せカード、か。俺は手札からサイクロンを発動」

 

 サイクロンは場の魔法罠を1枚破壊する汎用カード。選択されたのは、ツカサが伏せた3枚の内、左。

 

 そのカードは──ミラクルシンクロフュージョン。

 

「ブラフだったか」

 

 竜巻がカードを散らす中、エースはやや落胆したように呟いた。

 

 意味の無い魔法のセット、それは相手への牽制、つまりブラフであるが、このカードはただ破壊されるだけではない。

 

「ミラクルシンクロフュージョンの効果発動! セットされたこのカードが破壊された時、1枚カードをドローする」

 

《ミラクルシンクロフュージョン》

通常魔法

(1):自分のフィールド・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、

Sモンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

(2):セットされたこのカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動する。

自分はデッキから1枚ドローする。

 

「ふん……」

 

 ミラクルシンクロフュージョンは素材の重い融合モンスターに対して使われる融合魔法。正直素材もそろっておらず、墓地も肥えていないときに引いても事故でしかないのだが、融合以外の効果も持ち合わせている。

 とは言え、相手が破壊してくれる保証なんてなく、実際のところ事故である。

 

 それっぽい状況であるが、結局はブラフである。

 

 そして更に、ツカサに追い打ちをかけるように、効果で引いたそのカードは2枚目のナチュルの神星樹。

 

 ミラクルシンクロフュージョンと2枚のナチュルの神星樹。ここまでで計3枚の死に札である。

 

「まあ、いいだろう。俺は永続魔法、機甲部隊の最前線を発動。バトルフェイズ、A・O・J カタストルで大地の騎士ガイアナイトを攻撃」

 

「罠発動、ブレイクスルー・スキル」

 

《ブレイクスルー・スキル》

通常罠

(1):相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。

その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

(2):自分ターンに墓地のこのカードを除外し、

相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。

その相手の効果モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

 ツカサが発動したのは、相手モンスターの効果を無効にするA・O・J カタストルへの対抗手段。ツカサがこの手のモンスターに用意した、いくつかの策の中で最も容易なものである。

 これでA・O・J カタストルは無効化できるが、バトルの寸前でエースが発動したカードに対しツカサは僅かに顔を歪めた。

 

 効果を失った機械兵は騎士によって打ち砕かれる。唯一の武器を失った殺戮兵器は簡単に戦闘破壊されてしまう。

 

エース LP 4000 → 3600

 

 だが、強力なモンスターが破壊されてもエースに動揺はない。

 

「この瞬間、機甲部隊の最前線の効果発動」

 

 

《機甲部隊の最前線》

永続魔法

機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、

そのモンスターより攻撃力の低い、

同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「俺はデッキからA・O・J コアデストロイを召喚」

 

《A・O・J コアデストロイ》

効果モンスター

星3/闇属性/機械族/攻1200/守 200

このカードが光属性モンスターと戦闘を行う場合、

ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

 

 大した攻撃力も持たぬ下級モンスターであるが、その見た目はさながら、小さなA・O・J カタストル。そしてその効果もまた殺戮兵器の下位互換である。攻守ともに1000ずつ劣り、その効果破壊は光属性に限定される、下位互換。

 

 しかし場のモンスターが光属性であるこの状況、その下級モンスターは猛威を振るう。

 

 僅か1200のレベル3モンスター。それが全てのモンスターを破壊すると言うのだ。

 

 やられた、ツカサは内心で舌を打つ。

 

「俺のバトルフェイズは終わっていない。A・O・J コアデストロイで大地の騎士ガイアナイトを攻撃」

 

 攻撃力2600の騎士は、攻撃力1200の機械兵に一方的に破壊されてしまう。

 

「……わざわざ(デコイ)まで使って罠を残したんだ、そこへ無策で踏み込むわけないだろう。俺はターンエンド」

 

「ドロー」

 

 ツカサが引いたのはティオの蟲惑魔。今ツカサの手札ではそれが一番攻撃力の高いモンスターであった。

 このターンでA・O・J コアデストロイは戦闘破壊できるのだが、ティオの蟲惑魔を召喚しても墓地には蟲惑魔がいない故効果が使えず、些か惜しい。

 

 ティオの蟲惑魔を使う必要性もないので、ここは温存しておくことにする。

 

「僕は手札からトリオンの蟲惑魔を召喚。効果で山から奈落の落とし穴を手札に加える」

 

《トリオンの蟲惑魔》

効果モンスター

星4/地属性/昆虫族/攻1600/守1200

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

デッキから「ホール」通常罠カードまたは「落とし穴」通常罠カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが特殊召喚に成功した場合、

相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動する。

その相手のカードを破壊する。

(3):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、

「ホール」通常罠及び「落とし穴」通常罠カードの効果を受けない。

 

 地面より浮き出たのは白髪の少女の姿をした人型モンスター。

 ツカサ愛用の蟲惑魔が内、その1体だ。

 

「バトルフェイズ! ──トリオンの蟲惑魔でA・O・J コアデストロイを攻撃」

 

 A・O・J コアデストロイの効果を知っていながらの攻撃。普通ならば無駄な行為、不利益さえ産む愚かな行いである。

 

 だがツカサにはそう──罠がある。

 

「墓地から罠カード発動、ブレイクスルー・スキル」

 

 ブレイクスルー・スキルは墓地からも発動できる罠カード。フィールド外から罠を発動するのはツカサの常套手段である。

 常套手段。つまりそれは、ツカサの決闘を少しでも知っていれば予想はできるものである。

 

 伏せずに発動された罠カードに対し、エースは身動ぎもしない。

 デッキから直接墓地に送ったならまだしも、1度は伏せて発動したものだ。これはエースも折り込みずみの展開。

 

エース LP 3600 → 3200

 

 トリオンの蟲惑魔が本体である、蟻地獄が地面よりその牙を突き立てる。

 ブレイクスルー・スキルによって効果を失った小さな機械兵は簡単に打ち砕かれる。

 

 だがその破壊は新たな機械を産み出す。

 

「機甲部隊の最前線の効果だ。デッキからA・ボムを召喚する」

 

 それもまた小さな機械。レベルは2の最下級モンスター。攻撃力もまた400と、微々たるものだ。

 

 だがツカサは顔を顰める。(アーリー)。つまりはそれもA・O・Jの一部であり、その効果も近いものとなる。

 

《A・ボム》

効果モンスター

星2/闇属性/機械族/攻 400/守 300

このカードが光属性モンスターとの戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

フィールド上のカード2枚を選択して破壊する。

 

 破壊されれば、こちらの2枚を巻き込んでいく。

 それがその機械兵、文字通りの爆弾である。

 

 ツカサの罠に対し、あちらもまた思考を、試行を重ねていた。

 場を開けず、その上でこちらを圧する。厄介な相手だ。

 

 ツカサは先ほど手札に加えた奈落の落とし穴を伏せてターン終了を告げる。

 手札に加える際に公開しているのだ、このカードが何であるかはもう知られているであろう。だが、だからこそ、これは牽制にもなる。

 

 だがその牽制はすぐに無駄となる。

 

「エンドフェイズ時、罠発動。心鎮壷」

 

「ちっ」

 

《心鎮壷》

永続罠

フィールド上にセットされた魔法・罠カードを2枚選択して発動する。

このカードがフィールド上に存在する限り、

選択された魔法・罠カードは発動できない。

 

 ツカサは舌を打つ。

 

 心鎮壷は対象のカード次第では無駄になってしまう、使うタイミングの難しいトリッキーなカード。一度指定した対象は変えられない上、対象が速攻魔法や発動できる罠だった場合にチェーンを許してしまう、つまり対象がなくなる場合もあるのだ。それも使用者の場に残り圧迫するというデメリットを持ち、やや使い勝手の悪い罠カードである。

 罠を多用するツカサに対して罠を封じるカードは効果的だ。対策カードとしてまず上げられるのはメジャーな罠封じ罠、王宮のお触れであろう。王宮のお触れは場の罠全てを無効にするカード。罠使いの天敵とも言えるカードだが、しかしツカサはそのカード下でも罠を使う術をいくらか持っている。

 

 けれども。王宮のお触れを越えられるツカサだが、使い勝手の悪いその心鎮壷に関してはツカサに抜ける術はない。

 

 効果を無効にされるならばやりようがあった。場の罠を無効にされるなら場で発動しなければよかった。だが──

 

 ──発動自体を無効にされるのはどうしようもなかった。

 

「心鎮壷にチェーンして罠発動! ナチュルの神星樹!」

 

《ナチュルの神星樹》

永続罠

「ナチュルの神星樹」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):自分フィールドの昆虫族・地属性モンスター1体をリリースして発動できる。

デッキからレベル4以下の植物族・地属性モンスター1体を特殊召喚する。

(2):自分フィールドの植物族・地属性モンスター1体をリリースして発動できる。

デッキからレベル4以下の昆虫族・地属性モンスター1体を特殊召喚する。

(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。

デッキから「ナチュルの神星樹」以外の「ナチュル」カード1枚を手札に加える。

 

 場に聳え立つのは淡く光りを放つ星の樹。その発動はただの苦し紛れのもの。DNA移植手術のある今、そのカードは効果を発動できないのだ。

 

 これでツカサは今使える唯一の落とし穴を失う。

 前向きに考えれば、たった1枚に心鎮壷を使わせたことを喜ぶべきだろうか。

 

「俺のターン、ドロー。手札から機械複製術を発動!」

 

《機械複製術》

通常魔法

(1):自分フィールドの攻撃力500以下の機械族モンスター1体を対象として発動できる。

デッキからその表側表示モンスターの同名モンスターを2体まで特殊召喚する。

 

「対象はA・ボム。デッキからA・ボムを2体特殊召喚!」

 

 3つ並んだ爆弾。それは驚異でしかなく、次のターンには6枚もの破壊を可能にする極めて厄介な壁になる。

 だが、それをエースは別の用途に使った。

 

 ツカサの落とし穴を確実に封じたこの状況、それが意味するのは──モンスターを確実に召喚するためである。

 

「手札からスペア・ジェネクスを召喚」

 

《スペア・ジェネクス》

チューナー 効果モンスター

星3/闇属性/機械族/攻 800/守1200

1ターンに1度、自分フィールド上にこのカード以外の「ジェネクス」と名のついた

モンスターが存在する場合に発動できる。

このカードのカード名はエンドフェイズ時まで

「ジェネクス・コントローラー」として扱う。

 

「レベル2 A・ボム3体に、レベル3 スペア・ジェネクスをチューニング!」

 

☆2 + ☆2 + ☆2 + ☆3 = ☆9

 

「無情に造られし無情なる機械よ、その名に冠し、その場の敵を狩り尽くせ! シンクロ召喚、A・O・J フィールド・マーシャル!」

 

《A・O・J フィールド・マーシャル》

シンクロ 効果モンスター

星9/闇属性/機械族/攻2900/守2600

チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上

このカードはシンクロ召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃によって裏側守備表示のモンスターを破壊し墓地へ送った時、

デッキからカードを1枚ドローする。

 

 爆弾は、あくまで壁でしかなかった。手段、道具でしかなかった。だがそこには、巨大な機械兵器が聳え立っていた。

 

 それはかつて、多くの戦場で猛威を振るった大型兵器。中心部──コアには『A・O・J』でなく、口無き『ジェネクス』を埋め込んだ、駆逐兵器。敵を狩らんとする意志が産み出した、無情なる兵器。

 

 フィールドを蹂躙する機械兵器がそこにあった。

 

 その相貌は場を揺るがし、起動音を響かせる。

 

「ノドカ! イオ! 少し離れていてくれ。──そっちの2人もだ!」

 

 兵器を前にツカサは危機感を抱く。

 A・O・J フィールド・マーシャル。その名の通り、フィールドを蹂躙する駆逐兵器である。

 その規模は並大抵のモンスターとは異なり、モンスターの実体化している今、決闘外に被害が及ばない保証はない。

 

 街の中心でこんな決闘を行えば大問題。それこそテレビや創作、または伝承でしか聞いたことのない、決闘を用いるテロリストになってしまうだろう。ここが使われていない工業区画であったのは幸いなのか。

 

「バトルだ。A・O・J フィールド・マーシャルで、トリオンの蟲惑魔を攻撃」

 

 

 4体のモンスターを素材に呼び出された最上級モンスター。その攻撃力は2900。とても、トリオンの蟲惑魔で敵うものではない。

 

「お前も──蟲だったな」

 

 機械に応戦せんと姿を現した、蟻地獄を見てエースは言う。

 

 蟲惑魔は蟲を狩る植物と──そして蟲が元となっているモンスターだ。

 

 そしてA・O・Jは──蟲を狩るモンスターだった。

 

 奇しくも本来の用途と変わらない図。機械兵は蟲を容易く消し去る。

 

ツカサ LP 4000 → 2700

 

「……っ」

 

 ツカサは歯噛む。目の前で無惨にも破れる蟲惑魔に、愛用のモンスターに。

 それを無防備に置いたのは自分であって、これは自分の過失だ。

 

「ターンエンドだ」

 

 彼は冷たくこちらを見る。

 

 ワーム(本来狩るべき敵)と、ツカサ(蟲惑魔)を同列であるかのように。

 

「ドロー」

 

 それは歴戦の相棒である、蟲惑魔への侮辱である。

 

 また1つ、負けられない理由ができた。

 

「僕は手札から、ティオの蟲惑魔を召喚。効果で墓地からトリオンの蟲惑魔を特殊召喚」

 

《ティオの蟲惑魔》

効果モンスター

星4/地属性/植物族/攻1700/守1100

このカードは「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カードの効果を受けない。

このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地から「蟲惑魔」と名のついたモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚できる。

また、このカードが特殊召喚に成功した時、

自分の墓地の「ホール」または「落とし穴」と名のついた

通常罠カード1枚を選択して自分フィールド上にセットできる。

この効果でセットされたカードは、次の自分のターンのエンドフェイズ時に除外される。

「ティオの蟲惑魔」のこの効果は1ターンに1度しか発動できない。

 

 新たに現れた黒髪の少女。そして再度現れる、白髪の少女。どちらも蟲惑魔の名を持つ、蟲を喰らう蟲と植物の疑似餌である。

 

「トリオンの蟲惑魔の特殊召喚効果、あんた場ののDNA移植手術を破壊!」

 

 トリオンの蟲惑魔は特殊召喚時には別の効果を持っており、相手の魔法罠を1枚破壊できるのだ。

 DNA移植手術の破壊。これが何を意味するかと言えば──ツカサのデッキのキーカード、ナチュルの神星樹の復活である。

 

「ナチュルの神星樹の効果発動! 場のトリオンの蟲惑魔を墓地へ送り、デッキからグローアップ・バルブを召喚」

 

 白髪の少女は地に沈み、樹へと還る。そして入れ替わるように樹から現れるのは1つの眼が覗く不気味な球根。

 

「更に魔法カード、死者蘇生。墓地のトリオンの蟲惑魔を特殊召喚!」

 

 消えたかと思えばすぐに呼び出されるトリオンの蟲惑魔。

 人使いが荒い! そんな抗議か、白髪の少女はジト目をこちらへ向けた。

 

「……悪いな。さてトリオンの蟲惑魔の効果。──心鎮壷を破壊!」

 

 ツカサは一瞬迷ったが、心鎮壷を選択。

 だがこれは悪手であったかもしれない。心鎮壷の破壊で解放されるのは奈落の落とし穴のみ。対してもう1枚、機甲部隊の最前線は立ち回り次第で毎ターンはモンスターを召喚するカード。後者の方が明らかに可能性を秘めているのだ。

 ツカサのこだわり、もしくは罠への過信がこの選択をさせた。落とし穴への信頼が仇ともなる。

 

「星4 ティオの蟲惑魔、星4 トリオンの蟲惑魔に、星1 グローアップ・バルブをチューニング!」

 

☆4 + ☆4 + ☆1 = ☆9

 

「異界の森の、絶対王者。その爪と牙、その圧倒的力で聖域に君臨せよ! シンクロ召喚、ナチュル・ガオドレイク!」

 

《ナチュル・ガオドレイク》

シンクロモンスター

星9/地属性/獣族/攻3000/守1800

地属性チューナー+チューナー以外の地属性モンスター1体以上

 

 機械兵の前に座するは聖森の王者、能力と引き替えに、ただ力のみに特化した獅子である。

 

 どちらもレベル9の最上級モンスター。獅子は吼え、機械はそれを敵と定める。

 

「バトルフェイズ。ナチュル・ガオドレイクでA・O・J フィールド・マーシャルに攻撃!」

 

 フィールドを支配せんとするのは、人工と自然、相対するもの同士。機械兵はフィールドを蹂躙する者、獅子王はフィールドに君臨するもの。

 攻撃の一撃一撃が大きな機械兵器に対し、獅子はその身軽さで攻撃を避ける。

 

 実体化したモンスターによって激しい戦闘が行われようとも、結局は数値が全てを決める闘い。

 

 その差は、たったの100。僅かに勝った数値の獅子が、勝利を得る。

 

エース LP 3600 → 3500

 

 獅子の攻撃が積み重なり、やがて機械は爆散。爆風が周囲を包む。

 

 視界が晴れたその先、エースのフィールドには1台の機械が立ち尽くしていた。

 人型に分類されるであろうその機械は攻撃力わずか1000の低級モンスター。

 

「機甲部隊の最前線。A・ジェネクス・クラッシャーを特殊召喚。

 ──停滞は衰退だ。A・O・J フィールド・マーシャルが破壊されようと、俺は止まらない」

 

「……ターンエンド」

 

 召喚された低級モンスターにツカサは疑問を抱く。機甲部隊の最前線の効果は破壊されたモンスターの攻撃力以下、この場合は2900以下のモンスターが召喚できる。

 

(そうか、これか)

 

 ツカサは自分の場、伏せカードを見やる。この決闘にて一度も発動していない落とし穴、その奈落の落とし穴が伏せたままである。エースはツカサの落とし穴には徹底して注意を払っているらしい。……今回、落とし穴が手札にこないのは幸いなのだろうか。

 

 エースの場には低級モンスターが1体、そして機甲部隊の最前線のみ。手札はない。

 あきらかに相手の劣勢ではあるが、しかし。1枚のカードで戦況がひっくり返るのがこのゲームである。

 

 そして窮地において、ここ一番で逆転手を引き入れることができるのが、強者──本物の決闘者である。

 

「俺のターン! ふ……まだ決闘は終わらないらしい。貪欲な壺を発動。3枚のA・ボムとスペア・ジェネクス、A・O・J フィールド・マーシャルをデッキに戻す」

 

《貪欲な壺》

通常魔法

(1):自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。

そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。

その後、自分はデッキから2枚ドローする。

 

 2枚になった手札。彼の表情は死んでおらず、手札が芳しいことを表していた。

 

「俺は手札からジェネクス・コントローラーを召喚。そしてここでA・ジェネクス・クラッシャーの効果が発動する」

 

《ジェネクス・コントローラー》

チューナー 通常モンスター

星3/闇属性/機械族/攻1400/守1200

仲間達と心を通わせる事ができる、数少ないジェネクスのひとり。

様々なエレメントの力をコントロールできるぞ。

 

《A・ジェネクス・クラッシャー》

効果モンスター

星4/闇属性/機械族/攻1000/守2000

自分フィールド上のこのカードと同じ属性のモンスターが

自分フィールド上に召喚された時、

相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊できる。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 機械の召喚によって機械が起動する。黄色い機体はツカサの場の、奈落の落とし穴を打ち砕いた。これでツカサの発動できる罠はなくなった。

 一見無力なモンスター、だがやはり、その召喚は無意味ではない。

 

「手札からアイアンコールを発動、墓地からA・O・J コアデストロイを召喚」

 

《アイアンコール》

通常魔法

(1):自分フィールドに機械族モンスターが存在する場合、

自分の墓地のレベル4以下の機械族モンスター1体を対象として発動できる。

その機械族モンスターを特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに破壊される。

 

 再びまみえた機械兵。しかし今回はその効果も無効化されており、さしたる脅威ではない。そもそも効果があったとてDNA移植手術のない今、それは発揮されないわけだが。

 更にエンドフェイズに破壊されると言うのだ。ならば。

 

 ツカサはエースの場の右から左へと目を動かす。チューナーを含めた低級モンスターが、3体。

 

「レベル4 A・ジェネクス・クラッシャー、レベル3 A・O・J コアデストロイにレベル3 ジェネクス・コントローラーをチューニング!」

 

☆4 + ☆3 + ☆3 = ☆10

 

「A・O・Jが誇る最終兵器。全ての敵を滅せ。戦場を──終わらせろ。シンクロ召喚、A・O・J ディサイシブ・アームズ!」

 

 それは正にA・O・Jが誇る最終兵器。最終にして最強。コアに埋め込まれしジェネクス・コントローラーが可能とした、A・O・Jにおいて最も制圧力に、火力に優れた、超弩級の浮遊砲台。

 

《A・O・J ディサイシブ・アームズ》

シンクロ・効果モンスター

星10/闇属性/機械族/攻3300/守3300

チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上

相手フィールド上に光属性モンスターが存在する場合、

1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●相手フィールド上にセットされたカード1枚を選択して破壊する。

●手札を1枚墓地へ送る事で、

相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

●自分の手札を全て墓地へ送る事で、

相手の手札を確認してその中から光属性モンスターを全て墓地へ送る。

その後、この効果で墓地へ送ったモンスターの攻撃力の合計分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 ──遠い世界において、ワームとの戦いに終止符を打った(・・・・・・・・・・・・・・・)A・O・Jが誇る最終兵器である。

 

 




 あけましておめでとうございます。
 全国23人の読者の皆様は平穏なお正月を過ごせましたでしょうか。お久し振りです。

 まさかこの回でこんなにも尺を食うとは思いもしませんでした。謎の少女()の出番は16、7話くらいになってしまいますね……。

 そうそう、今回おまけがあります。こちらです。

【挿絵表示】

 誰得と言われれば私得でありますが。

 では今回も閲覧ありがとうございました。
 今年度も当作『遊戯王DDD』をどうぞ宜しくお願い致します。

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